著者
西田 佐知子 高倉 耕一 西田 隆義
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.41-50, 2015-02-20 (Released:2017-03-25)

繁殖干渉とは,繁殖の過程で他種から悪影響を受けることで起こる適応度の低下を指す.在来種に対する外来種からの繁殖干渉が確認された例は年々増加しているが,繁殖干渉の強さと両種の分布との関係については検証が始まったばかりである.そこで私達は伊豆の在来タンポポについて,外来タンポポ群との分布の関係と,外来タンポポ群からの繁殖干渉を調査した.その結果,在来と外来タンポポ群の局所的な密度には有意な負の相関がみられた.また在来の結実率は,外来タンポポ群の頻度が8割近くになるまで外来の頻度に応じた低下は見られなかったが,8割以上に増加すると急に低下した.本研究の結果から,伊豆の在来タンポポは外来タンポポ群からの繁殖干渉に概ね強いが,大量に外来タンポポ群が入り込むと存続が難しくなると予想できる.
著者
野口 順子
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.25-36, 1988-06-25
被引用文献数
1

The differentiation and history of H. middendorfii complex in Japan is suggested in this paper based on the geographical and ecological variations of the karyology with the C-banding method. Each interstitial C-band occurs in only the specific regions, respectively. The interstitial C-band on the long arm of the fifth pair of chromosomes occurs only in Hokkaido, that on the long arm of the eighth pair of chromosomes occurs only in Mt. Hakusan (2300 m alt.) and Takayama (600 m alt.) of Chubu district, that on the long arm of the ninth pair of chromosomes occurs only in the Kanto and Tohoku districts. The distributional range which each interstitial C-band shows suggests the very important facts on the differentiation and history H. middendorfii complex in Japan. It is inferred that the chromosomes having the interstitial C-bands have been formed by adding the part of the interstitial C-band. The range which the chromosome having each interstitial C-band appears seem to show the area which that has dispersed, and also to be to show the dispersal and migration of H. middendorfii complex in the respective regions since that occurs. The migration from lower cool temperate zone to subalpine zone in H. middendorfii complex seems to be relatively new phenomenon in the history of this species complex in Japan, probably after ice age. Since the eighth pair of chromosomes with the interstitial C-band on the long arm which show the most narrow range occur both in the subalpine zone of Mt. Hakusan and cool temperate zone of Takayama in Gifu Prefecture. Furthermore, the distributional range of each interstitial C-band suggests that the migration from lower cool temperate zone to subalpine zone or the occupations to the various habitats of H. middendorfii complex in Japan seem to occur independently in the respective regions.
著者
荻沼 一男 高野 温子 角野 康郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.47-52, 1996-07-10 (Released:2017-09-25)
参考文献数
13

日本産ヒシ属(ヒシ科)4taxaについて, 若い葉の細胞を利用して調べた核形態を初めて報告する。ヒメビシ(Trapa incisa)及びオニビシ(T.natans var.japonica)は共に2n=48, ヒシ(T.japonica)は2n=96, コオニビシ(T.natans var.pumila)は2n=ca.96の染色体をもつことが明らかになった。間期核はいずれも単純染色中央粒型を示し, 中期染色体長は0.3-1.2μmと小さく, また, 染色体基本数はχ=24(或いはχ=12)であることが分かった。2n=96(或いは2n=ca.96)の染色体数をもつヒシ及びコオニビシは共に, 2n=48のヒメビシ及びオニビシとの雑種起源の複二倍体或いは複四倍体である可能性が示唆された。
著者
大井 次三郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.61-65, 1932

チャルメルサウ屬は亞細亞及北米の暖帶及至亞寒帶に分布する虎耳草科の多年生草本で世界に約二十數種を産し北米に最も多く分布してゐる。兩大陸に共通な種は唯マルバチャルメルサウ一種だけで他は北米及本邦の特産に屬する。本邦領内では北は北海道,朝鮮,から南は臺灣の高山まで産するが比較的南方に種類が多い。本邦産チャルメルサウ屬植物は餘り澤山の種類はなく總計八種に過ぎぬが閑却された傾きがあるので此所に檢索表をあげ檢定に便宜な様にした。§子房と花托は殆んど癒合せず,雄蕋は10個又は5個,5個の場合は蕚裂片と對生。*雄蕋は5個,花瓣は分裂せず,莖上に1-3個の葉あり。…1)エゾノチャルメルサウ *雄蕋は10個,花瓣は羽状に分裂す,莖には葉なきか又は唯一個小形のものあり。…2)マルバチャルメルサウ §子房は大部分花托と癒合す,雄蕋は5個花瓣と對生す。 *葉の幅は長さと殆んど等長,花序は花數少なく多くは10個以下,花糸は花托上に坐す,花柱は二個,全縁なり。…3)コチャルメルサウ *葉の幅は長さより短かし,花は通常數多し,花糸は花瓣の基脚に坐す,花托は二個短かく且肥厚し,先端2-4裂す。 1)葉柄及葉身の下面は平滑なり。…4)モミヂチャルメルサウ 2)葉柄及葉身には毛茸あり。 I) 蕚裂片は花時直立し卵状三角形。△)花糸は葯より三倍長し,葉は鋭頭。…5)アカゲチャルメルサウ △)花糸は葯より短かし,葉は多くは鈍頭…6)チャルメルサウ II) 蕚裂片は花時開張し偏平なる三角形をなす,花糸は葯より短かし,葉は鋭頭又は鈍尖頂。 △)托葉は多くは縁毛あり,葉柄には短毛あり,花柱は頂端四裂す,種子は表面稜起せる縱線あれども突起なし。…7)オホチャルメルサウ △)托葉は多くは全邊,葉柄には長き毛茸あり,花柱は頂端二裂す。種子は背部に乳頭状突起あり。…8)ツクシチャルメルサウ Mitella japonica の名はMAXIMOWICZ, MIQUEL, MAKINO 三氏の名前によつてチャルメルサウ,コチャルメルサウ,オホチャルメルサウ三種に用ひられたが,その根本のMitellopsis japonica SIEB. et ZUCC. なる植物及び最初に之をMitella屬に移したMAXIMOWICZ氏の標本の一部は私の云ふオホチャルメルサウに相違ないので此の學名はオホチャルメルサウに冠するのが當然である。尚Mitella triloba MIQ. も同じ植物を指したものであつてモミヂチャルメルサウではない。チャルメルサウの學名はMitella stylosa BOISS. よりもMitella longispica MAKINOの方が早いが残念ながら記載がないので後者は用ひる事が出來ぬ。尚詳細な分布や異名等は歐文欄を參照して頂きたい。
著者
田川 基二
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.132-148, 1935

86. ヒメムカゴシダ(荒木) 本種はムカゴシダ Monachosorum subdigitatum Kuhn とオホフジシダ M. flagellare Hayata との中間に位置するものである.オホフジシダより遙に大く,中軸上に無性芽のできる點が最も顯著な異點である.丹波國船井郡長老嶽で荒木英一氏の發見せられたもの.學名は同氏を記念して Monachosorum Arakii Tagawa といふ. 87. タイワンハシゴシダ(新稱) 琉球のオホハシゴシダ Dryopteris hirsutipes C. Chr. に似てゐるが,葉柄は栗色,其の基脚には長い軟毛の代りに鱗片があり,羽片の裂片は狹く全縁で側脈の数は約7-8對,包膜は小い,臺北の北方竹子湖や北投方面にある.學名は Dryopteris castanea Tagawa と云ふ. 88. タイワンハリガネワヲビ 一名 ウライチシダ Dryopteris uraiensis Rosenst. が發表せられたのは1915年7月28日,その type locality は臺北州文山郡の蕃地ウライである.又 Dryopteris hirsutisquama Hayata は同年11月25日に發表せられ,その type locality はウライから西南に3里とはなれてゐないトンロクとリモガンとの間である.兩種は全く同種であるから Dryopteris uraiensis Rosenst. が有効な學名である.ヤハラシダ Dryopteris laxa C. Chr. に似たもので臺灣の特産. 89. イタチベニシダ イタチベニシダはイタチシダ Dryopteris varia O. Ktze. の一種でキノデ屬 Polystichum に入れておくよりも廣義のヲシダ屬 Dryopteris に入れて置く方が適當であるから學名を Dryopteris hololepis (Hayata) Tagawa と改めた.イタチシダの類は分類上の位置の確定しないものであるが近年はヲシダ屬に入れる學者が多くなつてきた. 90. サカゴケシダ一名 ミンゲツシダ サカゴケシダとミンゲツシダとは同種である.多数の標本を比較した結果この兩種は區別の出來ぬものであることを知つた.學名は一年早く發表せられた Dryopteris reflexosquamata Hayata を採用すればよい. 91. タイトウベニシダ(新稱) ベニシダに比較すれば葉柄の鱗片は少く中軸及び羽片の中軸は平滑且つ羽片には著い柄があり,又ナガバノイタチシダに比べて葉柄基部の鱗片はその質薄く羽片や小羽片の形も異り包膜は小い.臺東から高雄州に出る知本越道路に沿ふ霧山と知本山との間で發見した新種である.學名は Dryopteris taitoensis Tagawa といふ.
著者
芹沢 俊介
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.31-37, 2007-02-20 (Released:2017-03-25)
参考文献数
12

標準的に使われる図鑑の写真は,多くの人がそれを頼りに同定するため,影響が大きい.最近になって改めて「日本の野生植物 シダ」(平凡社)を検討したところ,相当数の写真に何らかの問題があるように思われた.そこで,利用者の注意を喚起する目的で,気にかかる写真のリストを作成し,その理由を記述した.
著者
川窪 伸光
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.153-164, 1995-01-28 (Released:2017-09-25)
参考文献数
10

日本産アザミ属植物はすべてが両性花を咲かせる雌雄同株として取り扱われてきたが, 最近になってノマアザミCirsium chikushiense Koidz.がメス株を分化させた雌性雌雄異株(gynodioecy)であることが判明した。そこで日本産アザミ属全体に, メス株を分化させた分類群が, どの程度存在しているかを明らかにするために, 京都大学理学部所蔵の乾燥標本(KYO)を材料として雄ずいの形態と花粉の有無を観察した。その結果, 観察した97分類群のうち約40%の39分類群において, 花粉を生産しない退化的雄ずいをもつ雄性不稔株を確認した。これは種レベルで換算すると, 68種中の約43%の29種で雄性不稔が発生していることを意味した。発見された退化的雄ずいのほとんどは株内で形態的に安定しており, 雄性不稔の原因が低温障害などの一時的なものではないと考えられた。また22種類の推定雑種標本中, 5種類においても雄性不稔を確認したが, それらの雑種の推定両親分類群の少なくとも一方は, もともと雄性不稔株を生じていた分類群であった。雄性不稔株を確認したすべての分類群がメス株を分化させているとは言えないが, 雄性不稔株の発生頻度の高い分類群の多くは遺伝的にメス株を維持し, 雌性雌雄異株の状態にあるのかもしれない。
著者
福永 裕一 澤 進一郎 澤 完
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.141-147, 2008-08-20 (Released:2017-03-25)
参考文献数
5

四国は四季を通じて雨量が多く,豊かな森に覆われており,その林床には有機質に富んだ腐食土や適度な湿度が必要である地生ランが多く自生しており,菌寄生性無葉緑の地生ランであるオニノヤガラ(Gastrodia)属も比較的数多く自生している.その中でもヤツシロラン類は,開花期間が短く,朔果は受粉後約30-40日後に裂開し種子を飛散し腐敗するため,地上部に出現している期間が短く,更には結実個体標本では同定困難なものが多いため,その分布状況の詳細については十分に把握されていなかった.そこで我々は,四国で現地調査並びに大学や博物館での標本調査を行い,ヤツシロラン類の分布調査を行ってきた結果,ヤツシロラン類の新産地の発見や,過去にハルザキヤツシロラン(G. nipponica (Honda)Tuyama)やアキザキヤツシロラン(G. confusa Honda et Tuyama)であると思われていたものの中にクロヤツシロラン(G. pubilabiata Sawa)が含まれる等の事実が判明した.そこで,今回の調査により得られた知見をもとに,現在までに明らかとなった四国におけるヤツシロラン類の分布調査結果を報告する.
著者
清水 建美
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.51-52, 2002