著者
坪田 博美
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.15-27, 2008-02-20 (Released:2017-03-25)
参考文献数
81
被引用文献数
1

この総説は,日本植物分類学会奨励賞の受賞講演「コケ植物の分子系統学的研究の現状」(2007年3月16日,新潟大学)についてまとめたものである.受賞講演では,おもに私自身の研究の歴史と,予報的な内容ではあるが,現在のコケ植物の大きなレベルでの系統関係について触れた.また本稿では,時間の関係で講演の際に取り上げることのできなかったコケ植物の分子系統学的研究について,私がこれまで関わってきた研究を中心に,その概略を述べるとともに,コケ植物の分子系統学的研究の現状を紹介する.とくに,分子系統学的研究によって明らかになったことと,未だ明らかになっていないことを含めて紹介したい.
著者
中村 俊之 植田 邦彦
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.125-137, 1991 (Released:2017-09-25)

カンサイガタコモウセンゴケDorosera spathulata ssp, tokaiensisの分類学的再検討を行った結果,コモウセンゴケD. spathulataとモウセンゴケD. rotundifoliaの雑種起源の分類群であり,独立種として認識されるべきものであるとの結論に達した。従って,学名をDrossera tokaiensis (Komiya & C. Shibata) T. Nakamura & Uedaとし,通称名であったカンサイガタ(関西型)コモウセンゴケを改め,標準和名としてトウカイコモウセンゴケを提唱する。トウカイコモウセンゴケは種子の形態,大きさ,腺毛の発達する部分の葉長に対する比,托葉の形態,裂片数においてコモウセンゴケとモウセンゴケの中間型を示す。また核型は,トウカイコモウセンゴケが2n=60=20L+40Sであり,モウセンゴケの2n=20=20Lとコモウセンゴケの2n=40=40Sの双方のゲノムを有している。なお,これまで葉形についてコモウセンゴケはヘラ型,トウカイコモウセンゴケはスプーン型とされてきた。東海地方では通常確かにそうであるが,近畿地方の集団に顕著にみられるように後者にもヘラ型的な個体が多く,両者の識別点にはならない。形態上の識別点として有効なのは托葉の形態である(Fig. 10)。さらに,トウカイコモウセンゴケは核型と托葉の形態を除けば,東海地方と近畿地方の集団では形態上かなりの点で異なっていることが判明した。この差異がトウカイコモウセンゴケが分類群として成立してからの分化なのか,異なった起源によるのかは今後の課題である。トウカイコモウセンゴケがコモウセンゴケの関西型として認識されだしたのは1950年代後半ごろからのようであり,新分類群として記載されたのは1978年である。しかし,東海,近畿地方の植物誌などでは本種には言及されず,どちらもコモウセンゴケとして扱われてきた。現在の分布状況から判断すると,そのほとんどはトウカイコモウセンゴケであると思われるが,判断は不可能である。湿地が急速に失われていく現状では標本が保管されていない産地にどちらの種が生育していたのか調べようがなく,不明のままであることが多い。改めて,公的機関での永続性のある標本の蓄積の重要性を認識した次第である。
著者
黒沢 高秀
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.203-229, 2001-04-02 (Released:2017-09-25)
参考文献数
58

日本には雑草性のトウダイグサ科ニシキソウ属植物Chamaesyceが9種1品種生育している。これらの植物のいくつかは日本で使われている学名に混乱が見られる。また,いくつかは帰化植物(江戸時代末期以降に日本に入ってきたいわゆる新帰化植物)であるか在来植物であるか扱いが分かれている。これらの植物の学名の混乱を整理するとともに,それぞれの種の日本での出現年代や分布の変遷などを調べ,帰化植物として扱うのが適当かを議論した。その結果,コバノニシキソウC. makinoi (Hayata) H. Haraは戦後に関東以南の本州,四国,琉球に広がった帰化植物であること,帰化植物として扱われることがあるシマニシキソウC. hirta (L.) Millsp.,ミヤコジマニシキソウ,およびイリオモテニシキソウC. thymifolia (L.) Millsp.は帰化植物ではなく,自生植物か,かなり古くから定着していた植物と考えられること,ハイニシキソウは典型的なものが関東以南に帰化しているほか,アレチニシキソウと呼ばれる毛の多いタイプが関東以南の本州と九州に広がっていること,イリオモテニシキソウの分布は主に琉球と小笠原であり,九州以北からの分布報告の多くは誤同定と考えられることを示した。また,オオニシキソウ,コニシキソウ,およびハイニシキソウの正しい学名はそれぞれC. nutans (Lag.) Small, C. maculata (L.) Small, およびC. prostrata (Aiton) Smallであることを解説し,ミヤコジマニシキソウに対して新組合せC. bifida (Hook. & Arn.) T. Kuros., comb. nov.を提案した。
著者
持田 誠 片桐 浩司 高橋 英樹
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.41-48, 2004-02-29 (Released:2017-03-25)
参考文献数
30

Although all recent Japanese floras had recognized Potamogton cristatus Regel et Maack as a species distributed in Honshu and Kyushu but not in Hokkaido, we found this species in Kamihoromui, Iwamizawa city of central Hokkaido in 2000. A careful reexamination of early floristic reports and herbarium specimens clarified that P. cristatus was once collected at Sapporo city of central Hokkaido by Dr. K. Miyabe in 1901 and its presence in Hokkaido was reported by Miyabe and Kudo (1931). Thus, the present report is a rediscovery of P. cristatus in Hokkaido after about a century. Other previous floristic reports which admitted the presence of this species in Hokkaido, were not based on any reliable herbarium specimens.
著者
高倉 耕一 西田 佐知子 西田 隆義
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.151-162, 2010-08-27 (Released:2017-03-25)
参考文献数
26
被引用文献数
2

Reproductive interference (RI) refers to negative interspecific interactions in which the reproductive activities of one species directly reduce the reproductive success of another species. RI can be observed in various events in plant reproductive processes, such as stigma clogging and pollen allelopathy. The most conspicuous feature of RI is its positive frequency dependence and its self-reinforcing impact via positive feedback: when two species exert RI on one another, the more abundant species exerts a more intense adverse effect on the reproductive success of the other and then becomes more abundant. Therefore, two species that exert RI on each other essentially cannot co-exist, even if the interfering effect is subtle. Increasing numbers of studies have verified the effects of RI in plants, but the phenomenon is still misunderstood. Here, we present a theoretical outline of RI, discriminating it from hybridization or pollen competition, and address its pivotal importance in the relationships between invasive plants and native relatives, the exclusive distributions of closely related species, and character displacement between these species.
著者
田川 基二
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.250-262, 1936-12-15

143. コガネシダモドキ(新稱) Woodsia Saitoana TAGAWA はコガネシダ W. macrochlaena METT. によく似てゐるが,葉柄の關節は中部より少し上にあり,羽片は上部のものを除き無柄で中軸に沿着せず,嚢堆も少し小いから別種である.朝鮮咸鏡北道羅北(齋藤龍本)及び冠〓峰(大井次三郎)で發見せられた新種.學名は原標本の採集者齋藤氏を記念したものである. 144. イヌイハデンダ(新稱) Woodsia intermedia TAGAWA はイハデンダ W. polystichoides EAT. とコガネシダ W. macrochlaena METT. との中間に位するもので,どちらかといへばイハデンダに近い.葉柄には鱗片が少く,中軸及び羽片の下面には毛に混つて極めて疏に毛状の鱗片があり,上部の羽片は明に中軸に沿着してゐるからイハデンダとは異る別種である.原標本は小林勝氏が旅順の老鐵山で採集せられたもの.又内山富次郎氏は京城の南山で,吉野善介氏は備中國上房郡豊野村でも採集せられてゐる. 145. カウライミヤマイハデンダ(新稱) Woodsia pseudo-ilvensis TAGAWA はミヤマイハデンダ W. ilvensis R. BR. に頗るよく似てゐるが,葉柄には長軟毛がミヤマイハデンダに於けるよりも密に生じ,關節は葉柄の中部より上にあり,葉柄基部の鱗片は幅廣く,中軸及び羽片中肋の下面には毛状の鱗片が極めて疎に生じ,包膜は皿状で不規則に尖裂し長縁毛があるから別種にした.齋藤龍本氏が朝鮮咸鏡北道魚遊洞で發見せられたもの. 146. オホイハデンダ(新稱) Woodsia longifolia TAGAWA はヒメデンダ W. subcordata TURCZ. に近縁のものであるが,全體に強壮で葉柄も長く太く關節はその頂端にあり,葉身は線形で時に長さ30cm. 幅3.5cm. にも達し,羽片も長く,葉柄及び中軸に毛も多く,包膜の邊縁にある毛は長い.本種及びヒメデンダの葉柄は元來その頂端に關節があるが,最下の羽片は縮小し且つ脱落しやすいから,この羽片が脱落したときには關節は葉柄の途中にあることになる. 147. ホソバミヤマイハデンダ(新稱) Woodsia ilvensis R. BR. var. angustifolia TAGAWA はミヤマイハデンダの狹葉の變種で,葉身は線形又は狹披針形,長さ8-12cm. 幅1.5-2cm. 齋藤龍本氏が朝鮮咸鏡北道朱乙温で發見せられたもの. 148. ケンザンデンダ Woodsia tsurugisanensis MAKINO の切込みの少いものは北支那の W. Hancockii BAK. に一致し,切込みの深いものは同じく北支那の W. gracillima C. CHR. に一致する.畢竟この三種は同一種で,カラフトイハデンダ W. glabella R BR. の變種であらうと思ふが,今しばらく別種にして Woodsia Hancockii BAK. をその學名に採用しておかう.日本では阿波の劔山が唯一の産地である. 149. トガクシデンダ W. Yazawai MAK. はカラフトイハデンダ Woodsia glabella R. BR. と同種である.日本では樺太,北朝鮮,本州中部の高山(戸隱山,八ケ岳,横川岳,北岳等)にあるが,滿洲,支那(甘肅省),ダフリヤ,カムチヤツカ,ベーリング地方,西伯利亞,歐州中部及び北部,北亞米利加と分布の頗る廣いものである. 150. オホヤグルマシダ (土井氏新稱) Dryopteris Doiana TAGAWA は臺灣のマキヒレシダ D. cyrtolepis HAYATA によく似てゐるが,葉は大きく,羽片の先端は長く尾状に伸長し,裂片の邊縁には不規則に齒牙状の鋸齒がある.成熟した嚢堆の包膜は縱に二ツに裂けてゐるが,この特徴は近縁のヲシダ D. crassirhizoma NAKAI やミヤマクマワラビ D. polylepis C. CHR. には見ぬところである.川村純二氏が薩摩國櫻島の湯之で發見せられたもの.學名は九州南部の植物調査に多大の功献をせられ且つ和名の命名者たる土井美夫氏を記念したものである.
著者
堀田 満
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.153-162, 1967-05-31

前回はサトイモ科の雌雄同花の群とヤモノイモ科,ウツボカヅラ科及びスイレン科について,今回はサトイモ科の雌雄異花の群とヒナノシャクジョウ科について報告した.サトイモ科の Raphidophora, Scindapsus, Epipremnum の3属は胚珠の数により機械的に分類されているため,系統群としては再検討を要するが,一応慣例にしたがっておいた.また Homalomena geniculata はボルネオではサラワク西部に1カ所知られていただけのものである.ウツボカヅラ科の Nepenthes muluensis の所属する Motanae 群はスマトラ,マレ-半島の高地が分布の中心で,ボルネオ北部には知られていなかった.スイレン科の Barclaya 属も,ボルネオからは1種しか知られていなかった属である(アジア大陸に数種分布している).
著者
瀬戸口 浩彰 渡邊 かよ 高相 徳志郎 仲里 長浩 戸部 博
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.201-205, 2000-02-28

南西諸島西表島の船浦にあるニッパヤシ集団は1959年に天然記念物に指定されて以来,縮小の一途をたどっている。この集団の全ての個体(28個体)の遺伝的多様性をRAPDで解析した結果,27個体は全く同じRAPDバンドをもち,小型の1個体だけが僅かな多型を示した。従って,この27個体は遺伝的に同一なクローンである可能性がある。これは集団内で開花しても種子が全く形成されない事実にも関連していると思われる。ニッパヤシは根茎が水平方向に伸長して2分岐し,その各々の先端にシュートを形成しながら栄養繁殖をする性質があり,船浦においてもこの栄養繁殖によってのみ集団が維持されていると考えられる。集団サイズの急激な縮小,集団が栄養繁殖によるクローンであること,結実しないことなどを考えると,船浦のニッパヤシは絶滅の途をたどっていると言える。