著者
邑田 仁
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.185-208, 1995-01-28
被引用文献数
7

マムシグサ群は長い偽茎と, 葉軸の発達する鳥足状小葉により特徴づけられるテンナンショウ属マムシグサ節sect.Pedatisectaの一群である。形態的に多型であり, 多くの分類群が記載されてきたが, 遺伝的には分化がきわめて小さいことが明らかになっている。また, 群内で認められた形態群間に低頻度ではあるが中間型がある, 自然雑種がある, F_1雑種の花粉稔性が低下しない, など雑種形成を通じて遺伝的な交流があることを示唆する状況証拠もある。しかし一方では, 多くの場所で, 異なる形態群が形態上の差異を保ちつつ同所的に分布しているのも事実である。本稿では, 低頻度の中間型を除いた場合, マムシグサ群内にどのような形態群が認められ, どのような分布を示すかについて現在までの知見をまとめることを試みた。また, 認めた形態群に関して発表されている学名との対応を試みた。マムシグサ群を, 花期が遅く, 仏炎苞が葉よりも遅く展開し, 舷部内面に細かい縦皺がある第1亜群(カントウマムシグサ亜群), 花期が早く, 仏炎苞が葉よりも早く展開し, 舷部内面が平滑な第2亜群(マムシグサ亜群), 花期や仏炎苞展開のタイミングがそれらの中間的で, 舷部内面や辺縁にしばしば微細な突起を生ずる第3亜群(ホソバテンナンショウ亜群)に大別する。第1群にはカントウマムシグサ(トウゴクマムシグサ), ミクニテンナンショウ, コウライテンナンショウ, ハチジョウテンナンショウ, オオマムシグサ(イズテンナンショウ, ヤマグチテンナンショウ), ヤマトテンナンショウ, ヤマザトマムシグサ, ヤマジノテンナンショウ, スズカマムシグサ, 第2群には, マムシグサ(ヤクシマテンナンショウ), ヒトヨシテンナンショウ, タケシママムシグサ, 第3群にはホソバテンナンショウ, ミャママムシグサ, ウメガシマテンナンショウ, "中国地方型のホソバテンナンショウ", などが認められる。しかし, 現地調査はまだ不十分なものであり, フェノロジーやポリネーターに関することも含め, より詳細な検討が必要である。
著者
秋山 弘之
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.121-138, 2011-08-29 (Released:2017-03-25)
参考文献数
71
被引用文献数
1
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.165-170, 1978-11-30
被引用文献数
1

キク属はこれまでは大きくまとめて,Chrysanthemum L. に包含していた.すなわち L_<INNE> はシュンギク,モクシュンギク,フランスギク,アキノコハマギク,シマカンキクなどをこの属に含めている.その後, B_<ENTHAM> と H_<OFFMANN> などもこの大きな見解をとり,私もこの見解を採用していた.今度は従来のキク属があまり大き過ぎるので,この属を分ける見解を採用した.リンネの Chrysanthemum L. (1753) はトールヌフォールの J. P. T_<OURNEFORT> の「植物分類原論」(1719) にある Chrysanthemum と Leucanthemum とを合一して,それに Chrysanthemum の名を用いたものである.トールヌフォールの Chrysanthemum はシュンギク C. coronorium L. やアラゲシュンギク C. segetum L. を含んでいる.これはディオスコリーデスが一世紀に書いた「薬物について」にある Chrysanthemon から引いたものである.この Chrysanthemon はシュンギクであるから Chrysanthemum の type はシュンギクである.シュンギクは雌花の花冠が黄色で,その痩果が3角柱有翼で,両性花の痩果は円柱形である.この特徴をもつものをシュンギク属 Chrysanthemum L. とする.リンネの Tanacetum L. (1753) はエゾヨモギギク T. vulgare L. が type である.エゾヨモギギクは頭花が小さくて多数あり,密散房状につく.雌花の花冠は筒状で先は3裂し,痩花は両性花のものと同様,5肋があり,先に短い冠がつく.痩花は粘質の細胞や樹脂道がなく,水にひたしても粘らない.Pyrethrum Z_<INN> (1757) では痩花に粘質の細胞と樹脂道があり,水につけると粘るので,T_<ZVELEV> は Tanacetum から区別している.Leucanthemum M_<ILLER> (1754) はフランスギク L. vulgare L_<AM> が Type である.痩花は雌花でも両性花でも冠がない.T_<ZVELEV> はこの点で Tanacetum から区別している.また,ミコシギクは Leucanthemella lineare (M_<ATSUM>.) T_<ZVELEV> とした.モクシュンギク属 Argyranthemum W_<EBB> ex S_<CH>.-B_<IP>. はモクシュンギク A. frutescens (L.) S_<CHULTS> B_<IPONTINUS> が Type である.モクシュンギクは多年生で低木状となる.雌花は広い3翼があり,膜質の冠がある.両性花の果実はやや扁平で狭翼が一つあり,膜質の裂けた冠がある.これはシュンギクとは多年生であること,舌状花冠が白いのでちがうが,近縁であって,交配すると雑種ができ,舌状花冠の黄色のものが広く栽培されている.キク属 Dendranthema (DC.) D_<ES> M_<OUL>. (1855) はキク D. grandiflorum (R_<AMAT>.) K_<ITAMURA> を type として設けられた属である.はじめデカンドールは Pyrethrum の sect. Dendranthema とし,シマカンギクとキクとを入れている.舌状花が多列となり,その間に膜質の苞が入ることを特徴としているから,キクが type である.茎が木質だとするがキクは草である.Dendranthema は木の花の意である.節だから Dendranthemum の複数形にしたのだから,属では Dendranthemum とした方がよかった.この属の性については,Des M_<OULINS> は D. indicum (中性) と D. sinensis (女性または男性) として混乱しているが,T_<ZVELEV> は中性とした.キクの学名は Dendranthema grandiflorum (R_<AMAT>.) K_<ITAMURA> となる.Anthemis grandiflorum R_<AMATUELLE> が1792年に発表され,これが最も古い種名である.R_<AMATUELLE> はもし Chrysanthemum に入れるなら Chrysanthemum morifolium R_<AMAT>. とすべきであるとしているから,これは nom. prov. で採用できない.キク属は多年草で,痩花は横断面が円柱形で下端は狭まり,上端は切形で冠はない.舌状花が発達するものと発達しないものとがあり,この間きわめて近縁で,よく交配する.多くは葉裏にT字状毛がある.痩花は水にひたすと粘る.ハマギク属は多年生で低木.雌花の痩花は鈍三角柱で少し扁平でやや曲り,両性花の痩花より小さく短い冠をもつ.両性花の痩花は細い円柱形で10肋があり,先に切れこんだ冠をもつ.
著者
堀田 満
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.57-66, 1998
参考文献数
9
被引用文献数
2

九州南部に分布する「ヤマラッキョウ」とされていたものは,葉が中実で雌しべの基部の蜜腺に帽子状の覆い構造が発達しないことでヤマラッキョウから区別できるので,ナンゴクヤマラッキョウAllium austrokiushuenseとして新種記載した。初島住彦によってヤクシマヤマラッキョウと呼ばれていたものはイトラッキョウに所属することが確かめられたので,新しくヤクシマイトラッキョウAllium virgunculae var. yakushimenseとした。また,アマミラッキョウA. amamianumは夕マムラサキA. pseudojaponicumと同種で,しばしばヤマラッキョウと混同されてきたこのタマムラサキは形態的にも,染色体数でも異なる明確な種であることを明らかにした。
著者
根来 健一郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.90-104, 1981
被引用文献数
1

琵琶湖ができたのは,今から450-500万年前の第三紀鮮新世のころであると言われている。最初の琵琶湖は伊賀上野盆地に存在したが,それが現在の琵琶湖がある位置,すなわち近江盆地に移動するまでに,琵琶湖は絶えずその湖底に堆積物,いわゆる湖底泥を形成し,それを夫々の時代に応じて湖が在った位置に残し続けてきた。この湖底堆積物は,琵琶湖固有の貝類化石を含み,粘土・砂・礫などから成るものであるが,その全体の厚さは1500-1800mに及び,伊賀上野附近から近江堅田附近まで,現在の琵琶湖の主として南部の丘陵に拡がっている。この堆積物を地質学では古琵琶湖層群と呼ぶ。古琵琶湖層群は数十枚の火山灰層を含んでいる。火山灰層は,数cmの薄いものから,1m以上の厚いものまで,さまざまであるが,これらの中で厚くて,しかも広く分布しているものは,地層の対比に役立つので,鍵層と呼ばれている。この鍵層を主たる拠りどころとし,更に埋蔵化石の種類などを考慮して,古琵琶湖層群は6つの累層に分類される。それらは古いものから,新しいものへの順に,島ケ原累層,伊賀油日累層,佐山累層,蒲生累層,八日市累層,堅田累層と称せられる。著者は1978年11月に,国立科学博物館の友田叔郎博士から古琵琶湖層群の比較的古い部分の資料を貰い,その中に含まれている化石珪藻について研究したところ,約11種類のものを見出すことができた。主なものとしては,約350万年前の伊賀油日累層からはMelosira islandica群とStephanodiscus carconensisが,約250万年前の佐山累層からはMelosira islandica群とStephanodiscus carconensisとStephanodiscus carconensis fo. maximaが,また約170万年前の蒲生累層からはMelosira undulataが認められた。Melosira islandica群と称するものは,現生のMelosira islandica O. MULLERとは形態的に可成り異るものであって,殻套上を大きい点紋の列が細胞の上下軸に平行して,10μm間に7-8本の割合に走るものがあるが,現生の琵琶湖の準固有種(semi-endemic species)のMelosira solida EULENSTEINは,この化石種群から由来したものと思われる。群として示し,主として同定しなかったのは,現在までに記載されているものの中で,M. canadensis HUST., M. pensacolae A. SCHMIDT, M. Goetzeana O. MULL., M. nyassensis O. MULL.などが,古琵琶湖層群のMelosiraの夫々1部に相当するのだが,古琵琶湖層群のものは細胞の大きさと形に相当の差異があるものであって,決して数種の混合したものとは認められないからである。従って,ここで群として示したのは暫定的な取扱いであって,将来1つの独立した種として同定することになる可能性のあるものと思って頂きたい。古琵琶湖層群のMelosira islandica群と全く同じものと思われるものが,北米のMontana州やOregon州の鮮新世の堆積物中から見出されている。しかしこれを研究したS. L. VAN-LANDINGHAM(1964-1972)は,Melosira granulataと同定しているが,これは誤りであって,北米のものもM. islandica系統のものであることに間違いないと思われる。古琵琶湖層群のStephanodiscus carconensisは,現生の琵琶湖の準固定種のそれとは多少異る。化石種はStephanodiscus niagarae var. intermediaに近いものであるが,現生種はこの化石種から由来したものと思われる。Stephanodiscus carconensis fo. maximaは,Stephanodiscus 属中の恐らく最大種であろうが,化石としてのみ存在し,現在生き残っているものはないであろう。Melosira undulataは,Melosira属中の巨大種で,現在は熱帯に生育しているだけであるが,第三紀には北半球全域に広く分布していたものと考えられている。
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.178-185, 1950-11-30
被引用文献数
5
著者
梅本 信也 藤井 伸二
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.47-51, 2003-02-28 (Released:2017-03-25)
参考文献数
7
被引用文献数
1

We proposed a life strategy concept as "autumn paddy ephemeral" which is unique in paddy fields after rice reaping. For the adaptation to this strategy, short life cycle for completing reproduction until the beginning of winter or plasticity of growing period for both long summer and short autumn, may be important Paddy weeds are supposed to be now adapting to the open marshy habitat in autumn paddies which has been widely spread for only several decades.
著者
北川 尚史
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.179-189, 1982-04-20 (Released:2017-09-25)

1) Conocephalum supradecompositum, annual species restricted to the northern part of East Asia, is considered to be derived from C. conicum, perennial species widely distributed throughout temperate regions of the Northern Hemisphere. 2) C. supradecompositum produces in autumn numerous gemmae endowed with a strong resistance to cold and dryness. The gemmae are modified branches of the thallus ; prior to formation of gemmae, the thallus performs frequent dichotomous branching, and the terminal dichotomy itself is transformed into a gemma. Thus, each gemma has two growing points covered with scales, and it exhibits a strong, inborn dorsiventrality in germination. 3) C. supradecompositum is unique among bryophytes in cylindrical, sausage-shaped spore mother cells, linear spore tetrads, and dimorphic spores. 4) The genus Conocephalum is very characteristic in elaters ; elaters in a capsule are 2-3 times as many as spores (in other genera of the Hepaticae, the number of elaters is far smaller than that of spores) ; and they show an extremely wide range of variation in size, shape, and number and orientation of spiral thickenings-and there occur rarely elaters with dextrorse spiral thickenings (so far as examined by the writer, the spiral thickenings of elaters are universally sinistrorse in other genera of the Hepaticae). The exceptional dextrorse elaters are assumed to be induced from the originally sinistrorse ones through conversion of the axis as shown in Fig. 3, x-z'.

1 0 0 0 OA 分類学私考

著者
大橋 広好
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.65-73, 2002-08-31 (Released:2017-03-25)
参考文献数
29
著者
村田 源
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.147-153, 1992-12-30 (Released:2017-09-25)

Four species of eastern Asian plants are studied. Three new taxa are described; Melampyrum macrantha as new species, Galium pseudoasprellum var. bingoense as new variety and Benthamidia capitata f.grandis as new form. Chloris truncata is newly found in Japan as naturalized plant.