著者
新井 康平 加登 豊 坂口 順也 田中 政旭
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.49-69, 2009

本論文の目的は,工場や事業所の製品原価計算について,その実態を明らかにすることである.管理会計教育における製品原価計算の割合は依然として大きいにもかかわらず,近年,この領域が研究者によって研究されることは少なくなってしまった.そこで本論文は,規範的な議論ではなく,実証的かつ経験的な方法によって製品原価計算の利用目的と設計原理を探求する.探索的因子分析の結果,製品原価計算の5つの利用目的が明らかとなった.また,これらの利用目的と技術変数などが,製品原価の範囲,総合/個別原価計算の選択,原価情報の報告相手,といった設計要素に影響を与えることが明らかとなった.
著者
谷 和久 三重野 浩
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : 日本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.81-94, 1992

当社の業績は,市場の急激な変化への対応が遅れる中で1987~1989年に急激に悪化した.こうした中で当社は経営組織風土の抜本的な改革のために事業部制の導入,販売体制の強化,人事制度の改定等の施策を講じたが,MRSもこうした経営風土変革のための施策の一環として導入したビール事業本部の利益管理システムである.(1990年に導入)従来の「中央集権的な本社中心のマネジメント」から,権限を支社に委譲した「分権的なマネジメント」に変革することを目指している.費用をタイムリーに管理区分ごとに把握する「発生ベース費用管理システム」や「販売情報システム」等のコンピューターシステムをベースに,従来の損益計算の仕組みを「支社だけをプロフィットセンターとする直接原価計算による損益計算」(限界利益概念の導入)に変更することにより,販売の第一線である支社の真実の利益貢献度が把握できるシステムを構築した.また,利益を販売数量,シェアとともに支社マネジメントの目標として明確に位置づけるとともに,支社のマーケティング費用等の支出についての権限の強化をはかった.
著者
佐山 展生 長島 輝幸 Nobuo Sayama Teruyuki Nagashima ユニゾン・キャピタル(株) 東京工業大学社会理工学研究科修士課程 Unison Capital Inc. Division of Decision Science and Technology Tokyo Institute of Technology
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : 日本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 = The journal of management accounting, Japan : JAMA (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.75-91, 1998-03-31
被引用文献数
1

新規公開時に企業は,公募増資で資本市場から設備資金など必要な資金を調達し,業容拡大等企業の成長のための資金を使っているはずである.また企業が店頭公開し知名度や社会的信用が向上すれば,資金調達手段や顧客層が多様化し,優秀な人材も採用しやすくなる.このため,店頭公開によって企業は,豊富な資金や優秀な人材を獲得し,店頭公開前よりも収益性を向上させ更に企業を成長させていくことができるはずである.しかし,高成長を遂げた企業が店頭公開すると推測できようが,公開後にも高度な成長を続け,高収益性を維持するとは限らない.店頭公開すること自体が企業の収益性にどのような影響をもたらすかは,店頭公開を目指す企業および店頭公開した企業の将来の業績を予測する上で極めて重要なことである.そこで本研究では,わが国企業の店頭公開前後の収益性を,各種財務データを用いて分析し,店頭公開と企業の業績との関係を示す.そのため,1986年から1991年の間に店頭公開した321社について店頭公開前後の各5年間の財務データを調べ,店頭公開後の企業の収益性が公開前とどのように変化するかを比較する.その結果を分析し,店頭公開し資本市場から資金調達した後,企業の収益性はむしろ低下する傾向にあることを示す.また,この収益性の低下の理由は,主に有形固定資産への投資が増大し,多大な減価償却費にあること,この店頭公開後の収益性の低下傾向は,製造業の方が非製造業よりも著しいこと,しかしながら,キャッシュフローは,非製造業の方の低下の方が著しいことを財務比率の変化等によって説明する.Through Tentou-koukai, companies have access to significant liquidity from the capital market, which can be used for the company's growth. Because companies'-names will be more familiar in the market and their credibility will grow after Tentou-koukai, such companies should be able to enhance their growth and hire good human resources after Tentou-koukai. Therefore, such companies should be more profitable and grow after Tentou-koukai by taking advantage of increased liquidity from the capital market and good human resources. In fact, companies usually have been growing before Tentou-koukai. However, do companies continue the growth trend and sustain high profitability after Tentou-koukai? It is important to know the effects of Tentou-koukai with respect to companies considering Tentou-koukai and to analyze the results after Tentou-koukai. In this article, we will show the effect of Tentou-koukai towards companies'profitability by analyzing various financial data before and after Tentou-koukai. We investigated 321 companies that conducted Tentou-koukai from 1986 to 1991. We analyzed their financial data 5 years before and after Tentou-koukai and examined the difference in profitability. The data shows that profitability decreases after Tentou-koukai. The reason for the decrease in profitability is primarily high depreciation resulting from high post-Tentou-koukai investments in fixed assets. This tendency of decreasing profitability after Tentou-koukai is more significant for manufacturers compared with than non-manufacturers. However, decreasing cash flow is more significant for non-manufacturers.
著者
西澤 脩
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : 日本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.51-66, 1996-03-25

筆者は,1994年秋に主要会社1,000社に対して,管理会計の全領域に亘り227項目のアンケート調査を実施した.当調査に回答した229社の回答を集計・分析した結果を『日本企業の管理会計-主要229社の実態分析』と題して出版した.当調査を解析した結果,管理会計理論と実務の間に相当の乖離を発見した.中には理論と実務が一見正反対の傾向を示している回答結果さえ存する.なぜ管理会計理論と実務は乖離するのか,両者を融合させるにはどうすべきか.この課題に挑んだのが,本論文である.本論文では,対象とする理論と実務を定義・類別したうえ,理論と実務のうち応用理論と実態理論について両者の関連性を検討している.この場合には,乖離説や一体説は容認し難いので,融合説に立ち,いかに両者を融合すべきかを論及する.まず管理会計理論と実務の乖離・融合問題を解明するため,有用性-特に目的適合性の立場に立ち,目的適合性を単一目的適合性,複合目的適合性(経営機能別・管理階層別に細分)及び環境適応型目的適合性に分類する.これらの目的適合性別に乖離の要因と融合の方策を,内外の文献を基に史的に考察し,理論的検討の基盤とする.またこれらの立前論とは別に本音論についても言及する.本論としては,以上の検討に基づき4つの仮説(単一目的適合性,経営機能別目的適合性,管理階層別目的適合性及び環境対応型目的適合性の各仮説)を立て,これを上記の実態調査結果により例証する.最後に管理会計理論と実務の融合を図るには,日本管理会計学会に期待するところが極めて大きいことを主張し,本論文の結論とする.なお,本論文は,1995年11月10日に立命館大学で開催された日本管理会計学会第5回全国大会の統一論題において研究報告した草稿を加筆したものである.
著者
丹生谷 晋
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : 日本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.39-55, 2009-02-28

本稿は,業績評価システムの情報システムとしての側面に着目し,事業部門の状況についてグループ本社(G本社)の理解を促し,適切な資源配分に資するような業績評価システムの設計・運用と事業部門の財務的なパフォーマンスの関連性を実証的に明らかにすることを目的としている.研究に当たって,「グループ経営における事業部門の業績評価システムに関するアンケート調査」を実施し,東証1部上場製造業のうち分権的組織形態を採用している企業の事業部門責任者あるいは事業部門スタッフに質問調査票を送付した.218社307部門から回答を回収し,有効回答とみなされる273部門を対象に分析を行った.従来の管理会計研究においては,財務・非財務業績評価指標による業績情報を中心に検討されてきたが,人対人に代表される非公式的な情報伝達で補完することによってはじめてG本社は事業部門の状況に対する理解が進み,それがG本社による適切な支援や資源配分に繋がり,さらに事業部門の財務パフォーマンスの向上をもたらすという因果関係をモデルによって示した.
著者
山田 方敏 蜂谷 豊彦
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : 日本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.43-61, 2012-05-01

資金制約と投資水準の理論および内部資本市場の理論に基づいて,個別事業部門および多角化企業全体の投資決定に関して理論的な考察を行い,財務的視点からその妥当性を実証的に検証した.多角化企業における資金供給曲線は部門内調達,部門間調達(内部資本市場)および外部調達から構成される.部門内調達による投資水準は部門自身が創出する内部資金と固定的投資支出に依存する.これに対し部門間調達による投資水準は内部資本市場の効率性に依存する.内部資本市場の効率性は内部資金として各事業部門から供給される資金の大きさと,部門間あるいは経営者と部門との情報の非対称性に依存して決定される.妥当性を検証した結果,内部で創出する資金が多い時および内部資本市場の効率性が高い時に投資水準は高くなること,内部資金の創出が豊富あるいは固定的投資支出が少なく内部資本市場に供出される資金が多い時に内部資本市場の効率性が高いこと,資金供給の多様性が高い時に内部資本市場の効率性が高いことが明らかになった.
著者
福嶋 誠宣 米満 洋己 新井 康平 梶原 武久
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : 日本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.3-21, 2013-03-31

本論文の目的は,経営計画の有用性について検討することにある.現在では,経営計画はマネジメント・コントロール・システムの基礎的な構成要素として理解されるようになっている.実際,我々が行ったレビューの結果でも,多くの管理会計の教科書が経営計画に言及していた.しかし,マネジメント・コントロール・システムとしての経営計画の有用性に関する経験的な知見の蓄積は十分とはいえない.そのためか,経営計画に関して,教科書間で異なる説明がなされている点も存在するというのが現状である.そこで本論文では,経営計画の諸要素が,企業業績に与える影響を探索的に検証した.その結果,経営計画の策定目的や更新方法が,適切な資源配分の評価尺度といえる総資産利益率(ROA)に有意な影響を与えていることが明らかとなった.
著者
安酸 建二
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.19-39, 2008

<p>企業の価値創造を明示的な企業目標とする考え方が,広く普及しつつある.これに伴い,企業価値の創造を導く経営活動・経営努力に対して測定可能な目標を与えると同時に,価値創造のプロセスをモニターし,評価するための期間業績指標の開発に大きな関心が向けられている.特に,注目されている期間業績指標は,資本コストを控除した後の経済的利益である.経済的利益の有用性は,しばしば企業価値の理論モデルであるフリー・キャッシュフロー割引モデルとの整合性から説明されるが,経済的利益そのものが何を測定し,どのような情報を生み出しているのかについては十分に明らかにされていない.そこで,本稿では,経済的利益によって生み出される情報を明確にし,経営管理上の経済的利益の有用性を明らかにする.</p>
著者
安酸 建二
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.19-38, 2006
被引用文献数
1

<p>企業価値の創造(value creation)を企業目標とするvalue-based managementの考え方の普及に伴い,会計上の利益や利益率だけでなく,価値創造の観点から定義される指標に注目が集まるようになっている.本稿では,企業価値の向上を導く経営活動に対して測定可能な目標を与えると同時に,価値創造のプロセスをモニターし,評価するために,全社的な業績指標としてどのような指標が適切かという観点から,キャッシュフロー,資本コスト控除後の利益,会計上の利益が持つ有用性を,これに関係する実証研究のレビューを通じて検討する.</p>
著者
山下 裕企
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : 日本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.45-56, 2002-03-31

投資案の評価を行う際には、キャッシュフローの一部として投資によって生じる法人所得税キャッシュフローを測定する必要がある。この法人所得税キャッシュフローの測定には実効税率が用いられるが、日本の多国籍企業が外国子会社を通じて投資を行う場合には、国際的な二重課税を排除するために外国税額控除方式が用いられているので、これを考慮した実効税率が必要となる。そこで本研究では、まず外国税額控除方式を考慮した実効税率を提案し、投資による法人所得税キャッシュフローを測定する方法を示す。また提案する実効税率は源泉地国の法人所得税率、法人税と住民税の合算税率、事業税率、外国源泉税率、および割引率によって影響を受けるので、次にこれら各要素の変動が実効税率に対して与える影響を検討する。その結果、特に、源泉地国の法人所得税率や外国源泉税率の増加に対して、実効税率は、一定の範囲内で減少し、それ以外では増加するといった特徴的な変化をすることが明らかになる。
著者
古賀 健太郎
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : 日本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.65-78, 2009-03-31

無形資産が経済価値を生む原理には,「個別資産の経済価値の増大」と「資産の組合せによる経済価値の増大」とがある.人的資産に焦点を当てれば,前者は「従業員の能力を引出す」こと,後者は「従業員の協働を促す」ことに置き換えることができる.さらに,前者は,会計情報の意思決定誘導機能,後者は意思決定支援機能と密接に関係している.米国の管理会計研究は,「従業員の能力を引出す」ために,会計情報を用いて意思決定を誘導する機能について多くの成果を上げてきた.その一方,「従業員の協働を促す」ために,会計情報を用いて意思決定を支援する機能については十分に理解されていない.むしろ,日本において,意思決定の支援機能を研究する可能性が大きい.日本の実務が「従業員の協働を促す」ことを重視するからである.さらに,意思決定の支援機能と誘導機能との相互作用についても,研究の可能性が大きい.
著者
樫尾 博 小倉 昇
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : 日本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.3-22, 1999-03-31

本論文で扱う電力,ガス等の公益事業の利益管理は,他の産業といくつかの点で異なる特徴を持つ.1)サービスの価格(コスト)と設備利用率との関係需要の平準化による設備利用率の向上がコストの低減,利益の増大,サービス価格の低下に結びつく.2)公共サービスに対する利用者選択の硬直性規制料金のため,柔軟な料金設定ができない.また,利用者側でもサービスを利用するために初期投資が必要で,一旦選択すると簡単には代替サービスに移行できない.3)利用者のサービス購入価格とサービスの社会コストのコンフリクト関係一般的に既存サービスの利用機器の価格は,新サービスの利用機器の価格を下回る.一方,サービスの利用量が増加し,設備能力の上限に達すると,サービス提供に機会原価が生じるが,公共料金では機会原価を反映した価格設定は難しい.本論文では2つの代替的な公益サービス(電力とガス)の設備利用率のアンバランスに着目し,需要を平準化させるためのコントロールの手段として,利用者の機器導入時における補助金政策を提案する.電力会社とガス会社をそれぞれプレーヤーとみなし,ビル空調需要家の獲得を非協力ゲームとして定式化し,以下の2ケースについて定量的に分析し,負荷平準化による利益管理の提案を行う.1)現状の規制を前提として,電力会社は電気蓄熱式に,ガス会社はガス空調に対し補助金を出す.2)規制緩和を前提として,電力会社がガス会社のガス空調に対しても補助金を出す.東京電力と東京ガスについて数値例に適用してみたところ,現実には両者が熾烈な競争をしている事実に反し,規制緩和されると電力会社がライバルのガス空調に対しても機器導入時に利用者に補助金を出せば,より利益を上げることが可能なことを定量的に示すことができた.