著者
Ferdowsi Ali
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
中東レビュー (ISSN:21884595)
巻号頁・発行日
no.2, pp.122-137, 2015

ハッジ・サイヤーフ(1836-1925年)は広く19世紀中葉の欧米を見聞した旅行家であり、またイラン人として最初にアメリカ合衆国の市民権を得た人物である。彼がその生涯で訪れた国や地域は順にコーカサス地方、イスタンブール、ヨーロッパ諸国、米国、日本、中国、シンガポール、ビルマ、インドなどに及ぶ。またメッカは9度巡礼しており、エジプトも数度訪れている。だが彼の本領は単なる世界旅行者というよりも、彼が卓越した旅行記作家だったところにある。本論は前半においてサイヤーフの生涯を改めて簡潔に紹介し、後半部では彼の記録から典型的な事例を4つほど引用してその個性的な自己認識と自己形成を跡付ける。それは総じて非ヨーロッパ系のアジア出身者として西欧的な「市民」概念とどう対峙し、それを自らの属性として血肉化したかを具体的に物語っている。これを読むとハッジ・サイヤーフは欧米の一流の政治家・知識人と交流を持っていたことが理解される。またサイヤーフは当時の著名な汎イスラミスト、ジャマール・アッディーン・アフガーニー(1838/9-97年)とも親交があった。最後に筆者はサイヤーフが明治維新直後の1875年に日本(横浜)を半年ほど訪れ、ハッジ・アブドッラー・ブーシェフリーなる人物と邂逅したことを紹介している。上記4番目の事例はサイヤーフが日本を訪れる直前インタビュー記事だという。
著者
玉井 隆
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.28-41, 2021

<p>本稿は、ナイジェリアにおける新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が始まる2020年2月から、本稿執筆時である2020年10月を対象として、政府がどのようにCOVID-19に対応したのか、またそれが実施される現場において、人びとはなぜ、どのように暴力の被害を受けたのかを検討する。ナイジェリア政府はこれまでさまざまな感染症対策を経験しており、COVID-19の流行への対応にそれが十分に活かされていた。先行研究はそうした過去の経験の重要性を指摘し、政府がWHOの推奨する施策を適切に行なった結果、COVID-19の被害が当初の想定よりも少なかったことを肯定的に評価している。しかし本稿は、ナイジェリア政府がCOVID-19の感染拡大を抑止するためのロックダウンを実施したことで、国家の治安機関が暴力を行使する契機を増加させていると指摘する。社会的に脆弱な人びとの生活を考慮しないロックダウンは、COVID-19の世界的な感染拡大阻止という大義名分と正当化のもとで、ナイジェリア国家権力による暴力を拡大させている。</p>
著者
北野 浩一
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.16-31, 2020

<p>2019年10月中旬に中高生の地下鉄無賃乗車運動から始まったチリの大規模な反政府デモは、瞬く間に社会問題全般に対する改善要求へと変わっていった。特に、高齢者の貧困の問題と年金改革要求は広く国民が支持する要求となった。統計データから見ると、チリの貧困・所得格差の実態は近年改善がみられる。しかし、OECDへの加盟や左派勢力の躍進などにより、貧困・所得格差の問題に関する民衆の不満は急速に高まっている。これまで、チリは比較的安定した政治システムと堅実な経済政策を維持してきたが、躍進する左派勢力と力を増す民衆運動を前に、政策の大転換を迫られている。</p>