著者
網中 昭世
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:21883238)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.62-73, 2017

本稿の目的は、近年モザンビークで発生している野党第一党モザンビーク民族抵抗(RENAMO)の武装勢力と国軍・警察の衝突のメカニズムを明らかにすることである。考察の際の着目点は、当事者であるRENAMOの除隊兵士の処遇の変化と、RENAMOの弱体化の関係である。モザンビークでは1992年に内戦を国際社会の仲介によって終結させ、紛争当事者を政党として複数政党制を導入して以来、モザンビーク解放戦線(FRELIMO)が政権与党を担っている。しかし、FRELIMOは選挙において必ずしも圧倒的な勝利を収めてきたわけではない。だからこそFRELIMOは一方で支持基盤を固めるために自らの陣営の退役軍人・除隊兵士を厚遇し、他方でRENAMOの弱体化を図り、結果的にRENAMO側の除隊兵士は排除されてきた。近年のRENAMOの再武装化は、紛争当事者の処遇に格差をつけた当然の結果であり、それを国軍・警察が鎮圧する構図となっている。
著者
足立 徹 阿部 真人
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 = Quarterly journal of Institute of Developing Economies Japan External Trade Organization (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.2-46, 2018-03

企業の発展・成長過程において,輸出による国外展開は地理的な売上範囲の自国内から国外への拡大と言える。一方,地理的な売上範囲の拡大という概念を考える際,輸出はあくまでその一部であり,企業が国外展開する以前の段階としては,所在郡内から州内他郡への展開,所在州内から他州への展開も含まれる。このことに関し,国外への展開に係る研究は多く存在するが,国内の地理的な売上範囲の拡大過程及びその中での売上額の増大とそれらの要因についての実証面からの研究はあまり見られない。本研究は,欧米諸国の経済制裁緩和により,ここ数年でビジネス環境が大幅に変動しているミャンマーの国内企業を対象に,ESCAP,OECD 及び UMFCCI が 2014 年に共同実施したアンケート調査を用いて実証的分析を行ったものである。そしてその結果,企業の生産性,企業規模,資金調達の多様性等が,輸出のみならず,企業の国内における売上範囲の拡大及び売上額の増大に対しても影響を与えることを明らかにし,これら諸要素を促進することが企業の国内レベルでの成長についても有効であることを示したものである。
著者
福田 安志 Fukuda Sadashi
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
中東レビュー
巻号頁・発行日
vol.2, pp.65-79, 2015

The Basic Law of Governance in Saudi Arabia stipulates that the king of Saudi Arabia has absolute power in the government of Saudi Arabia. However, after King Abdullah's accession to the throne in 2005, his political powers were limited because of the presence of the so-called Sudeiri Seven, the powerful royal group that consists of the seven sons of King Abdel-Aziz's purported favorite wife, Sheikha Hussa bin Ahmad Sudeiri. The death of the crown prince Sultan in 2011 followed by the death of the next crown prince Naif in 2012, both members of the Sudeiri Seven, weakened the power of the Sudeiri Seven. As a result, King Abdullah's power had increased greatly compared to that of the Sudeiri Seven. Also, the sons of King Abdullah, who occupied prominent governmental posts, were acquiring strong influence in the regime. The death of King Abdullah in January 2015 and Salman's accession to the throne caused changes to the ruling regime in Saudi Arabia. King Salman appointed Prince Muqrin as crown prince and deputy premier, and Prince Muhammad b. Naif as deputy crown prince. King Salman also appointed his son Muhammad b. Salman as defence minister and head of the royal court. Finally, King Salman issued a royal order on January 29 to reshuffle his cabinet and dismiss the governors of the Riyadh and Makka.
著者
福田 安志
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
中東レビュー (ISSN:21884595)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.65-79, 2015

<p>The Basic Law of Governance in Saudi Arabia stipulates that the king of Saudi Arabia has absolute power in the government of Saudi Arabia. However, after King Abdullah's accession to the throne in 2005, his political powers were limited because of the presence of the so-called Sudeiri Seven, the powerful royal group that consists of the seven sons of King Abdel-Aziz's purported favorite wife, Sheikha Hussa bin Ahmad Sudeiri.</p><p>The death of the crown prince Sultan in 2011 followed by the death of the next crown prince Naif in 2012, both members of the Sudeiri Seven, weakened the power of the Sudeiri Seven. As a result, King Abdullah's power had increased greatly compared to that of the Sudeiri Seven. Also, the sons of King Abdullah, who occupied prominent governmental posts, were acquiring strong influence in the regime.</p><p>The death of King Abdullah in January 2015 and Salman's accession to the throne caused changes to the ruling regime in Saudi Arabia. King Salman appointed Prince Muqrin as crown prince and deputy premier, and Prince Muhammad b. Naif as deputy crown prince. King Salman also appointed his son Muhammad b. Salman as defence minister and head of the royal court. Finally, King Salman issued a royal order on January 29 to reshuffle his cabinet and dismiss the governors of the Riyadh and Makka.</p>
著者
丁 可 Ding Ke
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 = Quarterly journal of Institute of Developing Economies Japan External Trade Organization (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.10-33, 2015-03

本稿では,日本的生産システムの海外展開の視点から,日系中小サプライヤーの中国市場開拓の現状を検討した。現時点で,中小サプライヤーの大多数は依然として日系企業を中心に取引を展開している。しかし,非日系向けの販売に成功した中小企業も出現するようになり,日本的生産システムと他国の生産システムが徐々に融合し始めている。非日系企業と取引を展開する中小サプライヤーは「国際派」と「現状維持派」に分類されるが,「国際派」のほうは経営の現地化を積極的に進めているだけでなく,日本的取引慣行の強みも発揮している。その過程でさまざまな技術情報が顧客のほうへ流れるようになり,その成長に寄与している。
著者
Daher Massoud
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
中東レビュー (ISSN:21884595)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.62-75, 2014

<p>2011年に発生したアラブ世界での民衆蜂起は、市民としてのアラブ人が近代的で民主的な国家を建設しようとする努力であった。その意味でアラブ民衆蜂起が発生した主な原因はもっぱら国内要因であり、そこに地域的、国際的な介入が加わったのである。</p><p>アラブ民衆蜂起はシリアでは内戦に発展し、その影響は現在周辺国にも及んでいる。シリアが内戦に至った要因を理解するためには、シリアとそれを取り巻く現状を理解するだけでなく,シリアという国家が持つ歴史、なかでもフランス委任統治期の分断統治政策の失敗、ハーフィズ・アサドによる独裁体制の構築と継続、イスラエルによる干渉といったシリア現代史の影響を検討することが重要である。</p><p>シリア内戦はレバノン、ヨルダン、トルコなどの周辺国にも少なからぬ影響を与えている。シリア難民の流出は、レバノンとヨルダンにとって社会と経済の負荷となっている。またシリア国内の分断と混乱は、レバノンの国内宗派対立をも先鋭化させた。他方でシリア内戦が長期化するにともない、イスラエルによるシリアとレバノンへの干渉が懸念されるようになっている。</p><p>シリア内戦およびそれに対するイスラエルの対応は、結果的にレバノンへの大きな圧力となった。今後レバノンが主権国家としての安定的な地位を維持するためには、シリア内戦への政治的な関与を避け,国内各勢力の融和および各勢力の協調による国家運営を進めることがこれまで以上に必要である。</p>
著者
Daher Massoud
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
中東レビュー
巻号頁・発行日
vol.1, pp.62-75, 2014

2011年に発生したアラブ世界での民衆蜂起は、市民としてのアラブ人が近代的で民主的な国家を建設しようとする努力であった。その意味でアラブ民衆蜂起が発生した主な原因はもっぱら国内要因であり、そこに地域的、国際的な介入が加わったのである。アラブ民衆蜂起はシリアでは内戦に発展し、その影響は現在周辺国にも及んでいる。シリアが内戦に至った要因を理解するためには、シリアとそれを取り巻く現状を理解するだけでなく,シリアという国家が持つ歴史、なかでもフランス委任統治期の分断統治政策の失敗、ハーフィズ・アサドによる独裁体制の構築と継続、イスラエルによる干渉といったシリア現代史の影響を検討することが重要である。シリア内戦はレバノン、ヨルダン、トルコなどの周辺国にも少なからぬ影響を与えている。シリア難民の流出は、レバノンとヨルダンにとって社会と経済の負荷となっている。またシリア国内の分断と混乱は、レバノンの国内宗派対立をも先鋭化させた。他方でシリア内戦が長期化するにともない、イスラエルによるシリアとレバノンへの干渉が懸念されるようになっている。シリア内戦およびそれに対するイスラエルの対応は、結果的にレバノンへの大きな圧力となった。今後レバノンが主権国家としての安定的な地位を維持するためには、シリア内戦への政治的な関与を避け,国内各勢力の融和および各勢力の協調による国家運営を進めることがこれまで以上に必要である。