著者
宮崎 弘安
出版者
日本電信電話株式会社NTTコミュニケーション科学基礎研究所
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2021-04-01

数論幾何では、整数や素数の性質を、代数多様体と呼ばれる図形(幾何学的対象)の性質に置き換えて研究する。多くの場合、代数多様体の構造は非常に複雑で、そのままでは調べるのが難しい。そこでコホモロジー理論を用いた「線形近似」を行うのが現代数学の常套手段である。数論幾何には様々な種類のコホモロジーが現れるが、それらは全てモチーフという理論によって結びつくと考えられている。これまでの研究では、モチーフ理論全体を一般化することにより、従来の理論が抱えていた原理的な制約を克服することに成功した。本研究ではこの新しいモチーフ理論を駆使し、従来の理論では捉えられなかった数論的現象を探求することを目指す。
著者
加藤 正晴
出版者
日本電信電話株式会社NTTコミュニケーション科学基礎研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では,画像注視時の乳児の視線パタンに着目し,顔認知の発達過程を検討した.視線パタンの類似度を定量化する手法を開発し,生後6ヵ月から13.5ヵ月までの乳児を対象として視線パタンを分析したところ (1)顔画像に対する視線パタンは発達と被験者間で共に互いに類似してくること,(2)家画像に対してはその変化がみられなかったことが示された.このことは,顔特有の認知的処理が発達と共に習熟化・効率化してくる様を捉えたと考えられる.また健常な成人及び自閉症スペクトラム障害者(ASD)に複数の顔画像を見せたところ,(3) ASDは顔特有の認知的処理が健常者ほど習熟化・効率化していないことが示唆された.
著者
松下 光範
出版者
日本電信電話株式会社NTTコミュニケーション科学基礎研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、ユーザが多量のデータから有益な情報を見出すために行う探索的な分析行為を支援する技術の実現を目的としている。このような分析行為の支援の枠組みとして、ユーザが自然言語でシステムに質問し、システムが可視化表現(統計グラフ)でユーザに応答するインタラクションモデルを提案している。本年度は、(1)昨年度に試作したシステムを用い、被験者実験を行ってユーザの自己内省行為がシステムの操作にどのように現れるかにっいての分析、(2)テキスト情報と数値情報を併用した探索支援システムのモデル化と実装、を行った。(1)では、5人の被験者を対象として、10年分の売上高データの分析結果から今後の販売指針を立案するタスクを課し、その様子を観察した。その結果、被験者らは、探索過程で生じた疑問や得られた知見を振り返る際の手掛かりとして、付箋機能を用いてテキスト形式で外在化した表現だけでなく、オブジェクトの位置やサイズ変更といった操作で生じた視覚情報を用いられている様子が観察された。この結果から、外在化表現と内的資源(記憶)とを適切に対応させる枠組みが、探索的データ分析支援にとって重要であることが示唆される。また(2)に関しては、動向情報を対象とし、それに対するユーザの関心(e.g.,最近数ヶ月のガソリン価格の変化、ここ数年の携帯電話加入者数の推移)に応じて時系列数値情報を統計グラフ(折線グラフ)として描画し、その上に関連する言語情報をその内容に応じたアイコンの形式で協調的に提示する方法を提案した。このアイコンは言語情報へのポインタの役割も兼ねる。これにより、ユーザは描画されたグラフ自体を自分の知りたい情報の概観(要約)として利用できるだけでなく、興味を持った箇所についてどのようなことが述べられているかを背景となっている文書群にアクセスすることで参照できるようになっている。
著者
松田 昌史
出版者
日本電信電話株式会社NTTコミュニケーション科学基礎研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

ビデオ通信環境における利用者間の位置関係の共有が,対人印象形成に与える影響を調べることを目標とする.一般的なビデオチャット・システムでは,利用者間の物理的な位置関係が抽象化されるため,自然な身振りや視線といった非言語行動で会話の調整を行うことが難しい.ゆえに,非言語行動を発話による言語行動で補償する.そのような不自然な発話行動は利用者本人の印象を悪化させることになることを実験によって実証した.
著者
菅原 俊治 横尾 真 松原 繁夫 岩崎 敦
出版者
日本電信電話株式会社NTTコミュニケーション科学基礎研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では,ネットワーク上の各リソースを市場原理に基づいて公平かつ効率的に割り当てるプロトコルを,その実装に向けて評価することを目的とする.P2Pや分散センサネットワークなどのアドホックなネットワークにおけるデータ転送では,個々のノードの所有者や規格が異なる.この場合,各ノードにデータを適切に転送するための誘因(報酬)を考慮しなければならない.この報酬の決定にはしばしばオークションプロトコルが用いられる.しかし従来のプロトコルでは,あるノードが架空のノードを用いるか他ノードと共謀することで,不正に報酬を獲得できることを示した.この場合、理論的にもっとも優れているVickrey-Clarke-Grovesプロトコル(VCG)でも、不正行為は防げない。本研究では、さらに、選択されうる経路を所有しているエージェントの数に応じたペナルティをVCGに適用し、Reserve-Costプロトコル(RC)を提案し、このプロトコルが架空名義を用いた操作の影響を受けないことを理論的に明らかにした。計算機上に再現した小世界ネットワークに対して、提案プロトコルを評価し、VCGに対して約60〜80%の効率性を達成することも示した。また実際のネットワークでは,各ノードでオークションなど取得可能な情報に基づいてどこからデータを受ける(送る)べきかを決定する必要がある.これは,入札可能な対象(サーバなど)が複数あるときに,適切な入札箇所をある程度推定することに相当する.しかし、ネットワークの資源割当てのように非常にたくさんの要求が同時に起こり、かつ多くの地点から独立に処理をする必要がある.このような状況で資源割り当てプロトコルで見られる現象の解析も行った。それぞれが合理的に判断をすると全体の効率が落ちる現象があり、このために揺らぎや学習を導入することが一定の効果を上げることを示した。