著者
吉武 久美子
出版者
長崎純心大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

子どもにおける、皆と同じでという自己の同調性の大きさや、自己と違う相手を認めるという異質性の受容力の少なさなど、現在の少子の問題について、本年度は主に、家庭という場面を取り上げて検討を行った。対象は保育所、幼稚園に通っている3才から5才の子どもとその親であった。方法は質問紙調査と対面調査を用いた。まず、「自分と違う」相手の気持ちを推し量るという共感性の発達について、少子時代の現代、兄弟の有無や親の関わり方によって違いがあるかを検討した。一人っ子、年下の兄弟のいない末っ子、年下の兄弟のいる子などで共感性の高さに違いはなかった。しかし、親が子供に絵本の読み聞かせや会話を通してコミュニケーションをしている場合には、自分の感情とは異なる他人の感情の類推という共感性能力が高かった。次に、他者と同じでありたいという同調行動について調べたところ、すでに、3才から5才の子どもたちにすでにその同調行動が生じていることがわかった。特に、実際に他者(保育所では他の幼児)が存在して行動する場合に同じ行動をとろうとするだけでなく、実際に他者がいなくても、「お友達は……していたよ」という口頭での情報を与えられるのみで、子どもは自分の行動を他者と同じ方向へ変えることが大変多く見られることから、低年齢の幼児における同調性の強さがわかった。さらに、親の影響の中でも、現代の少子家庭は、祖父母等、親に代わる人間の存在も少ないため、父親の育児参加の影響力は大きく、父親が育児に参加してないと認知する母親は、育児に対する認知もネガティブであり、それが、さらに少子の社会心理的発達に影響を及ぼすことが示唆された。
著者
宮崎 賢太郎
出版者
長崎純心大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は日本人のキリスト教(主としてカトリック)理解と受容に関する調査研究の一部をなすものである。日本人とキリスト教のかかわりは、キリシタン時代(1549-1644)、潜伏時代(1644-1873)、明治6年の実質的なキリスト教解禁以後の復活キリシタン(現在のカトリック)と、キリスト教解禁後も復活しなかったカクレキリシタンという4つのステージに分けて捉えることが適切と思われる。調査者は従来カクレキリシタンの実証的調査研究に20年あまり従事し、またキリシタン時代および潜伏時代に関する文献による考察もある程度進めてきた。本研究は明治6年以降復活したキリシタン伝統を受け継ぐ比較的郡部・離島地域に住む信徒と、都市部において新しくカトリックに改宗した比較的インテリ層に属するカトリック信徒の間に相違が認められるのか、認められるとすればどのような相違かという問題意識を持って取り組んだ。カクレキリシタンがあれほどまでに土着信仰と習合していることからして、キリシタン伝統を受け継ぐ信徒の信仰はかなりの程度日本的に変容しているであろうとの仮想の下に研究を進めたが、意外にも都市部のいわゆる新信者との間に大きな差異は認められなかった。その原因はカトリックというグローバルな普遍宗教の持つ一枚岩的な性格にもよるであろうが、明治初期からのフランス人パリミッション会の司祭団の日本における徹底した厳格な保守的カトリック司牧の影響が今にいたるまで強く残存していることである。日本人信徒たちも神への信仰というよりはむしろはるばる渡日し献身的に尽くしてくれた外国人宣教師たちの御恩に報いるために、いかなる厳格な教えであっても従順に従って見せようとした。それゆえ日常の信仰生活からは信仰の喜びは感じられず、司祭から与えられた義務を忠実に果たすだけの「お勤め信仰」となっている。新たなカトリック改宗者が少ない原因もここにあるといえよう。
著者
荒木 慎一郎
出版者
長崎純心大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は教育基本法の教育目的観を、その立案者である田中耕太郎の人格概念に遡って明らかにすることを目的とした。本研究の結果として、先行研究に加えられた知見は次の三点である。第一は田中の教育目的観の出発点が、東京帝国大学法学部長として新入生歓迎講話で述べた人間・政治の究極目的としての「道徳的人格の完成」にあることを明らかにしたことである。第二に、田中の「道徳的人格の完成」に至るまでの思想の変遷を、とくに田中の青年期から出発して、跡づけたことである。田中の青年期の思想をこれまで一般に知られてこなかった二資料、大学時代に友人と翻訳出版した『生ひ立ちの記』、および無教会主義時代に内村鑑三のもとで行った講演「律法の成就」を用いて明らかにしたことはその成果の一端である。第三に、研究の最大の成果は、田中の人格概念がフランスのトマス主義哲学者、ジャック・マリタンの人格理論に大きく依拠していることを実証的かつ論理的に明らかにすることができた点にある。第二次大戦以前から戦後文部大臣を辞任するまで、田中は公に一度もマリタンの名前に言及したことがなく、これまで、教育基本法制定以前の田中とマリタンの関係を主張するには、戦後に書かれた田中の回想、状況証拠および両者の思想の内的関連に基づくよりほかなかった。本研究の結果、フランス・コルプスハイムにあるマリタンの研究センターに、1931年に田中からマリタンに宛てられた手紙が保存されていることが判明した。この手紙には田中がマリタンを知るに至った経緯、マリタンに対する評価、カトリシズムの思想家田中の抱負などが記されており、マリタンの人格理論が田中に与えた影響を実証的に明らかにする上で最大の根拠となった。
著者
石井 望
出版者
長崎純心大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

元曲・崑曲は近世チャイナ文藝の中で高い地位を享受し、諸名作を産み出して來た。その作品は歌唱するために作られたものである。本研究は元曲・崑曲のメロディーを中心とする音樂・韻律を明らかにするため、古歌譜(樂譜)・音階・字音の三方面から研究した。歌譜は特に最古の元曲譜「北西廂訂律」にもとづくメロディーの復元を中心とした。「北西廂訂律」はこれまで代表者が部分的に研究を進めて來たものである。音階は崑曲の均孔笛を機器吹奏し、CTスキャン撮影を行なふなど測定面から探究し、唐の音階を簡便化したものであることを明らかにした。また明朝の「中州全韻」を研究することにより、崑曲字音の體系を明らかにすることを目指した。
著者
中村 真樹
出版者
長崎純心大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、自閉スペクトラム症(研究開始時は広汎性発達障害、以下ASD)の児童と成人を対象とし、自己理解に関する調査研究及び心理劇の実践を通して、情動機能と自己の発達について検討した。その結果、ASDの情動機能と自己の発達について、(1)臨床実践及び質問紙調査等の多様なアプローチの有効性(2)定型発達との比較検討によるASDにおける自己理解の特性(3)生涯発達的観点による支援の重要性(4)心理劇による支援の有効性が示された。
著者
片岡 瑠美子 下川 達彌 片岡 千鶴子 五野井 隆史
出版者
長崎純心大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

片岡弥吉の論文「長崎県下キリシタン墓碑総覧」(1942年)と「キリシタン墓碑の源流と墓碑型式分類」(1976年)を基礎として国内及び海外の調査を行った。国内115か所の墓地・墓碑調査、海外では18か所の博物館及び墓地での調査を行うことが出来た。その結果、国内の墓碑について、キリシタン墓碑の概念、その特徴と定義、意義、型式をまとめることができた。海外調査では、ローマ、スペイン、ポルトガルでの調査から、エトルスキの墓地や墓碑を源流とするローマ式墓碑がポルトガルに伝えられ、キリスト教宣教師の世界布教の過程で日本を含む世界の各地に広がったことを確認できた。