著者
馬渡 耕史 大野 朗 徳田 潔 春田 弘昭 中野 治
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.172-181, 2012

肺血栓塞栓症は, 診断手順の確立により日本においても広く認識されるようになり, 向精神薬服用者で静脈血栓や肺塞栓症の合併が多いことも報告されている. そのほとんどは急性肺血栓塞栓症といわれているが, 慢性の場合は長い経過と非特異的な症状のせいもあって多くは見逃されている可能性がある. 今回, われわれは, 向精神薬の長期にわたる服用歴を持ち, 肺血栓塞栓症を合併した症例5例を経験したので報告する. 男性2例, 女性3例, 年齢は39~67歳で, 向精神薬の内服期間は4~25年であった. 1例は急性発症で起立時に急にショック状態となり心肺停止にいたっている. 残り4例は数カ月から数年にわたる息切れや呼吸困難で慢性の反復性の病型であったが, 長期の臥床や悪性腫瘍などの誘因となるものはなかった. 胸部X線写真では, 全例肺動脈の拡大を認め, 心電図は4例で右室負荷所見を認めた. 心エコードプラ, または右心カテーテル検査による肺動脈圧は急性発症の1例を除いて収縮期圧が72~128mmHgで著しく高値であった. 下肢から下大静脈にかけての静脈エコーでは5例とも血栓を認めなかった. 全例下大静脈フィルターは使用せず, 抗凝固療法のみを行い, 肺動脈圧の低下をみた. 心肺停止後の蘇生例は歩いての退院となったが, 入院中の急変で1例を失った. 向精神薬内服中の患者が, 呼吸困難や息切れを訴えた場合は, 肺血栓塞栓症の鑑別が必要である.
著者
大和田 真玄 祐川 誉徳 伊藤 太平 佐々木 憲一 堀内 大輔 佐々木 真吾 奥村 謙
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.S4_190-S4_194, 2010

症例は37歳, 男性. 35歳時, 夜間入眠中に心室細動(VF)による心停止から蘇生されて当院に搬送された. 受診時の心電図は正常であったが, ピルジカイニド負荷にてtype 1のBrugada型心電図が検出され, Brugada症候群と診断し植込み型除細動器(ICD)植え込み術が行われた. 植え込み後1年半経過した後, 1回のICD適切作動と2回の不適切作動が確認された. 不適切作動は2回とも自転車に乗っている時で, ICDテレメトリーではT波oversensing(TOS)に起因するダブルカウントが確認された. 運動負荷試験では負荷終了後の回復期にtype 2のBrugada型心電図を来し, 同時にTOSが捉えられた. β遮断薬は投与しづらく, またICDの感度調整でもTOSを予防できず, 他社製ICDに変更し, 心室リードを追加した. その後は運動負荷でもTOSが発生しないことが確認された. Brugada症候群ではしばしばTOSによる不適切作動が問題となる. デバイスの選択やリード留置部位を決定する際には, 一層の注意が必要であると考えられた.
著者
牧元 久樹 池ノ内 浩 伊藤 敦彦 小栗 岳 藤田 大司 明城 正博 杉下 靖之 田部井 史子 野崎 彰 羽田 勝征 杉本 恒明
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.41, no.11, pp.1229-1236, 2009

症例は75歳,女性.高血圧症と高脂血症で内服加療中であった.早朝不慣れな満員電車に乗車中,胸部圧迫感を自覚し,近医を受診.ST上昇とトロポニンT陽性から心筋梗塞が疑われ,当院に救急搬送された.収縮期心雑音IV/VIが聴取された.当日行われた緊急冠動脈造影にて冠動脈に有意狭窄を認めず,左室造影で心尖部無収縮と心基部の過収縮を伴った心尖部バルーニングを認めたことからたこつぼ心筋症と診断.カテーテル引き抜き時に大動脈-左室間で80mmHgの圧較差を認めた.心臓超音波検査では心尖部無収縮にS字状中隔を伴い,左室流出路圧較差を認めた.保存的加療にて壁運動は第10病日には改善,流出路圧較差も消失した.退院1カ月後,S字状中隔と流出路圧較差の関連を調べる目的にて薬剤負荷試験を施行した.イソプロテレノール・ドブタミン・硝酸イソソルビドの投与で流出路圧較差が出現,急速輸液・ジソピラミド・プロプラノロール投与で流出路圧較差は軽快した.本例ではS字状中隔の存在がたこつぼ心筋症発症時の左室流出路圧較差出現の原因と考えられた.S字状中隔には病的意義は少ないとする意見もあるが,本例のごとくたこつぼ心筋症の発症を契機として,流出路圧較差を生じ血行動態に影響を与える可能性も考えられる.S字状中隔の病的意義を考慮するうえで示唆に富む症例と考えられたため,ここに報告する.
著者
堀越 哲 井尾 浩章 中田 純一郎 大澤 勲 濱田 千江子 富野 康日己
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.123-130, 2012

目的: レニン·アンジオテンシン(renin-angiotensin; RA)系阻害薬オルメサルタンの降圧度と腎保護効果の関係について検討した.<BR>方法: 2004年から2009年の間に順天堂大学医学部附属順天堂医院腎·高血圧内科外来通院加療中で, 12カ月以上, オルメサルタンが継続投与され, 降圧薬処方内容, 量の変更がなく, 診察時血圧, 推定糸球体濾過量(estimated glomerular filtration rate; eGFR)·蛋白尿測定が定期的に行われていた患者109名を対象とし, 投薬背景や原疾患別にカルテベースで分析した.<BR>結果: すべての群で有意な降圧効果を認めた. 新規にオルメサルタンの単独投与が開始されたA群では, 有意な蛋白尿減少効果を認めたが, eGFRは低下傾向を示した. RA系阻害薬以外の降圧薬投与中にオルメサルタンが追加されたB群では, eGFRの低下は認めなかったが, 蛋白尿減少効果もみられなかった. ほかのRA系阻害薬の単独投与からオルメサルタンに切り替えられたC群では, 切り替え時の血圧が比較的低く, 蛋白尿減少効果は軽度で有意差を認めなかった. RA系阻害薬を含む降圧薬の多剤併用中にアンジオテンシンII受容体遮断薬(angiotensin II receptor blocker; ARB)がオルメサルタンに切り替えられたD群では, オルメサルタン投与量が最も多く, 蛋白尿減少効果は軽度でeGFRが有意に低下していた. 原疾患別にみると, 本態性高血圧蛋白尿陽性群で降圧度とeGFRの間に有意な相関がみられた. 本態性高血圧蛋白尿陰性群では, 蛋白尿陽性群に比して投与開始前のeGFRが高く, 投与後の有意なeGFR低下はみられなかった. 一方, 慢性腎炎症候群では, 12カ月後の降圧度と蛋白尿減少率およびeGFRとの間に相関はみられなかった.<BR>考察: オルメサルタンには, より強力な降圧効果と降圧効果に依存しない蛋白尿減少効果が認められたが, 一方でeGFRは低下した. オルメサルタンがeGFR低下速度を促進あるいは減速したのかは不明である. 原疾患や病態の違いにより, RA系の関与の質や量が異なることが示唆され, RA系阻害薬の投与にもその質·量の使い分けが求められていると思われる.
著者
和田 匡史 渡邊 敦之 井原 弘貴 池田 昌絵 戸田 洋伸 山中 俊明 橋本 克史 寺坂 律子 中濱 一 山田 信行
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.S2_173-S2_179, 2010

症例は51歳, 女性. うつ病に対して抗精神薬を5剤内服し治療中であった. 2009年6月21日, 2階のベランダから転落後の状況を発見されて前医に救急搬送となった. 画像検索で骨盤・眼窩底・上顎骨骨折が判明し骨盤骨折に対して緊急手術の予定となったものの, 術前心電図で著明なST変化を認め当院紹介搬送された. 当院来院時はショック状態で, 心電図・心エコー所見から急性心筋梗塞の疑いで緊急冠動脈造影を施行した. 造影の結果, 左冠動脈主幹部で完全閉塞しており, 外傷後ではあったが救命目的に引き続きIABP挿入下にPCIを行った. 左冠動脈主幹部入口部から大量血栓を認め, 冠血流改善に難渋した. 主幹部入口部に残存する解離様陰影に対してBMSを留置し, PCI終了とした.<BR>文献上では胸部外傷後に急性心筋梗塞を発症することが報告されているが, 本症例のように多発外傷後に左冠動脈主幹部閉塞をきたした症例は非常に稀である. 外傷による冠損傷・血栓形成の機序についての考察を交えて報告する.
著者
竹内 和航 若林 靖史 山崎 恭平 堀込 実岐 黒河内 典夫
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.43, no.11, pp.1466-1471, 2011

症例は58歳, 女性. 2004年(52歳時)ころより, ときどき動悸発作があり, 数回, ホルター心電図などで精査されたが, 異常は認められなかった. 2010年4月(58歳時)に動悸が24時間継続するため受診したところ, 心電図で心拍数202/分の心室頻拍(ventricular tachycardia; VT)を認めた. 同期下電気的除細動にて洞調律復帰としたうえで, 精査加療目的に入院となった. 入院中に行った前斜角筋リンパ節生検で非乾酪性類上皮細胞肉芽腫と多核巨細胞の組織像を認めた. また, 心臓超音波では心室中隔基部の菲薄化と左室収縮不全, 心尖部心室瘤とその内部の血栓を認めた. 胸部X線では両側肺門部リンパ節腫脹を認めた. <sup>99m</sup>TCシンチグラフィでは心室瘤に一致して取込み欠損, ガドリニウム造影MRIでは心筋中層の遅延造影を認めた. 1臓器にサルコイドーシスに特徴的な組織像を認め, かつ心臓病変を強く示唆する臨床所見も満たし, 心サルコイドーシスの診断となった. アミオダロン内服中の心室頻拍誘発試験で非臨床的VTではあるものの, 約11秒間のVTが誘発された. 植込み型除細動器(implantable cardioverter defibrillator; ICD)植え込み術を施行し, プレドニゾロン内服も追加し, その後, 良好な経過を得ている.<BR>心サルコイドーシスでは, 心尖部に心室瘤を合併するのは稀である. また, 本例ではVTの起源は心室瘤周囲とは断定できず, 複数の起源であることも考えられた. よって, 治療としてカテーテルアブレーションではなく, ICD植え込み術による治療を選択した.