著者
荒川 規矩男 代田 浩之
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.41, no.7, pp.831-841, 2009

荒川規矩男先生は世界で初めてヒトアンジオテンシンの単離に成功し, 構造決定を行いました. その後もヒトアンジオテンシン-II生成バイパス, キニン・テンシン系などを発見されました. また, 活躍の場所を福岡大学に移されると運動療法による降圧効果の研究, 食塩と血圧の研究をされてきました. 国際高血圧学会や高血圧治療ガイドラインにも関わられるなど国際的にも高血圧分野において多大なる功績を残されました.<BR>今回のMeet the Historyは, その荒川規矩男先生をゲストに, 本誌編集委員の代田浩之先生をホストとして, 逆境のなかで研究に邁進された荒川先生の半生をお伺いしました.
著者
高階 經和 山科 章
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.691-697, 2012

いまやプロ野球界では世界的に有名になったマリナーズのイチロー選手ですが,循環器教育領域でイチローといえば,誰もが知っている,すぐれた心臓病患者シミュレータ「イチロー」のことです.それはまだ野球のイチロー選手がデビューする前に,制作者である高階經和先生によってこのシミュレータに名付けられたものでした.<BR> 今回は,臨床だけでなく循環器医学教育にも大きな影響を及ぼした高階先生をゲストに,医師であった父のことやアメリカでの恩師との出会い,イチローの誕生と医学教育について,さまざまなお話をおうかがいしました.
著者
近藤 秀和 高橋 尚彦 脇坂 収 岡田 憲広 油布 邦夫 中川 幹子 原 政英 犀川 哲典 谷口 弥生 大家 辰彦
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.S3_74-S3_74, 2011

[目的] ATP感受性心房頻拍(Iesaka AT)の電気生理学的特性について検討した.<BR>[方法] EPSでATP感受性心房頻拍と診断した10症例(年齢69±21歳, 男性5名, 女性5名). ATP(5mg)急速静注によるAT停止直前のAT-CL延長の程度と, AT中の最早期興奮部位の電位のfragmentationの有無を検討した.<BR>[結果] (1)最早期興奮部位での心房電位が明らかなfragmentationを示した症例は5例〔frag(+)群〕, そうでなかった症例は5例〔frag(−)群〕であった. (2)すべての症例で, ATP静注後, AT-CLが延長して頻拍を呈したが, 停止直前のAT-CL延長の程度は, frag(+)群の方が, frag(−)群に比し軽度であった(11.2±12.8 vs 38.6±16.1ms, p<0.01). (3)頻拍中の3D-Electro Anatomical Mappingを5例で行った〔3例がfrag(+)群, 2例がfrag(−)群〕. frag(+)群では, 最早期興奮部位近傍にlow voltage zoneが認められ, これに一致して伝導遅延が認められた. 一方, frag(−)群ではこれらの所見を認めなかった.<BR>[結語] ATP感受性ATは, 最早期興奮部位でのfragmentationの有無によりATPによる停止様式が異なり, 2つのカテゴリーに分類できる可能性が示唆された.
著者
小川 晋平 名取 俊介 野村 智昭 芳賀 智顕 羽根田 俊 長谷部 直幸
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.S2_157-S2_157, 2010

症例は63歳, 男性. 高血圧, 高尿酸血症にて近医通院中だったが, 内服中のCa拮抗薬を数日間自己中断していた. 2009年3月上旬, 12時30分頃から前胸部痛が出現し近医を受診. 13時頃, 心電図を記録中に心肺停止状態となり, そばに付き添っていた元看護師の妻が心臓マッサージを開始, 救急隊到着時の意識状態はJCS III-300, 自発呼吸は認めず. 自動体外除細動器で心室細動と診断され, DC 360J×1回で心拍再開後, 前医に搬送された. 13時20分, 前医到着時の意識は清明, 自発呼吸も認められており, 心電図も近医で認められたST上昇は回復していた. 冠攣縮性狭心症, 致死性不整脈の疑いで当院に再搬送となった. 硝酸薬の点滴, Ca拮抗薬の再開で入院後は胸痛発作は認めず, 不整脈も出現しなかった. 内服継続下でのAch負荷試験, 心室頻拍誘発試験はいずれも陰性であり, 今回は植込み型除細動器の使用は見送った. 冠攣縮自然発作の心電図が記録されている稀な心室細動からの救命例であり報告する.
著者
斧田 尚樹 野並 有紗 高橋 重信 矢部 敏和 土居 義典
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.485-490, 2012

症例は50歳, 女性. 長距離バス(京都—高知) 下車直後に突然, 意識消失, 皮膚蒼白となり当院に救急搬送された. 搬送時, ショック状態(血圧84/50mmHg)および低酸素血症(SpO<sub>2</sub> 80%: 酸素10L投与下)であった. 心エコーにて右心負荷所見がみられ, 胸部造影CTにて両側肺動脈に血栓像を認め急性広範型肺血栓塞栓症と診断した. 一時, 心肺停止となったがモンテプラーゼが著効し, 後遺症なく独歩にて自宅退院した.
著者
浜本 肇 木之下 正彦 天本 健司 坂口 知子 石本 直子 蔦本 尚慶 山下 敬司
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.34, no.6, pp.491-497, 2002

症例,71歳,男性.平成10年1月26日,胸部圧迫感を訴えて当院を受診.120/分の頻脈と心尖部から第2肋間胸骨左縁にかけて,第3肋間に最強点を有するLevineIV度の収縮期駆出性雑音を聴取.これは,吸気時に減弱,呼気時に増強した.心エコー図では左室径は小さく,大動脈弁の開放時の離開距離は正常で,弁の肥厚を示唆する所見も見られなかった.また,血漿中の脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP),心房性ナトリウムペプチド(ANP)が上昇していた.平成10年5月22日,ダブルマスター負荷後,V4~6,II,III,aVFで中等度のST低下を認めたため虚血性心疾患を疑い,滋賀医科大学第1内科へ精査の目的で入院した.<BR>入院後の検査では,カラードプラ法にて,肺動脈内にモザイク状のパターンを認め,右心系の疾患が疑われ,MRIにて右室流出路の狭窄を認めた.心臓カテーテル検査では,右室心尖部と流出路の間に31mmHgの圧較差を検出した.また,血漿ANP濃度が大心静脈と冠状静脈洞との間に大きなstep upを示し,当院外来で見られた血漿ANP濃度の上昇は右心負荷によるものと考えられた.<BR>この狭窄の原因として,心雑音の呼吸性変動の態度等から,胸郭形成術による心臓の偏位,および右室前壁の胸壁への癒着の影響が考えられた.
著者
堺 勝之 中村 彰 田村 雄助
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.91-94, 2008

症例は50歳,男性.ファンコニー症候群のため透析中であった.右肩鍵盤断裂のため当院の整形外科で関節鏡手術を受けた.術後16日目の透析中に心室細動(VF)を発症し自動体外式除細動器で徐細動した後ICUに収容した.ICU入室時は不穏状態であったため鎮静し,透析後でKが2.9mEq/Lと低値であったためKとMgを補充したが,エレクトリカルストームとなった.人工呼吸管理として約96分間心臓マッサージを行いながら,除細動を頻回に繰り返したがVFが持続した.ニフェカラント持続静注を行いさらに,右内頸静脈よりHR=150/分で高頻度ペーシングを行うことによりVFは抑制された.後に植込み型除細動器(ICD)の植え込み目的で転院となった.<br>透析患者に発生したエレクトリカルストームに対してニフェカラント静注と高頻度ペーシングの併用が有効であった症例を報告する.
著者
内藤 政人 茅野 真男 堀川 宗之 名越 秀樹 中村 芳郎 小野 泰志 宇田川 宏之
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.7, no.10, pp.1159-1164, 1975

狭心症や発作性不整脈の診断には,発作中およびその前後の心電図記録が必要である.<br>Holterらの装置は長時間連続記録であり,しかも高価である.また発作と同時に患者にスイッチを押させて心電図を記録する装置もあるが,発作前からの連続記録がぜひ必要と思われる.<br>われわれはエンドレスカセットテープを用いて,発作と同時に患老に押させたスイッチによるトリッガー信号で発作前後の制御を行ない,発作中およびその前後の心電図記録が連続して得られる装置を開発した.<br>電源は乾電池を使用し,約12時間の連続使用が可能で発作前後3分間ずつ計6分間,2回の発作まで記録ができる.<br>この装置により,狭心症のある例では自覚症状発現前よりST-T部分の変化が始まっていることがわかり,また狭心症と思われた例が,単なる頻脈発作であることがわかるなど,非常に有用と思われたので,装置の概略と使用成績を報告する.
著者
小西 克尚 玉田 浩也 北村 哲也 本康 宗信 沖中 務 伊藤 正明 井坂 直樹 中野 赳
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.197-201, 2004

症例は49歳男性.42歳時に僧帽弁狭窄症を指摘され,45歳時に人工弁置換術および左心耳縫縮術を施行された.以後外来にてアスピリン,ワーファリンを投与されていた(INR 1.32,TT38%であった).冠危険因子なし.平成13年1月1日午前1時,冷汗を伴う前胸部痛が出現し,2時間持続した後軽快.以降症状なく経過した.1月9日外来受診時に心電図上V3-5のST上昇,R波の減高を認め,心筋梗塞の診断にて同日入院となった.1月10日冠動脈造影を施行したところ左前下行枝#8に血栓を疑わせる透亮像を認めた.平成9年の冠動脈造影では同部位に動脈硬化性病変を認めず,冠動脈塞栓による心筋梗塞と判断.TIMI3の血流が保たれており,保存的に経過観察,抗凝固療法継続の方針となった.無症状にて外来経過観察を行い,6カ月後の確認造影で前回と同様の透亮像を認めた.血栓であれば透亮像は消失していると考えられ,IVUSにて観察した結果,冠動脈解離であることが判明した.末梢病変であり,運動負荷心筋シンチで虚血性変化を認めなかったことから,保存的治療を選択し,外来経過観察となった.このように,冠動脈造影のみでは限局性の冠動脈解離と血栓は鑑別が困難であり,その鑑別にIVUSが有用であると考えられた.
著者
戸嶋 裕徳 小柳 仁 藤田 毅 橋本 隆一 矢崎 義雄 河合 忠一 安田 寿一 高尾 篤良 杉本 恒明 河村 慧四郎 関口 守衛 川島 康生
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.27, no.12, pp.1033-1043, 1995

1994年9月までに提出された日本循環器学会心臓移植適応検討会の適応判定申請例は50症例に達した.うち2例は取り下げとなったが,判定を行った48症例につき調査し以下の結果を得た.<BR>1)5例は公式の検討会開催を待たずに死亡した.<BR>2)資料の不備や現時点での適応なしなどの理由により6例は保留と判定された.また1例は肺血管抵抗増大のため適応なしと判定された.<BR>3)適応ありと判定された36例中14例が2年以内に心不全または突然死により死亡した.7例は米国において移植手術を受けた.<BR>4)内科的治療によって3例は改善して当面は移植の必要性がなくなった.1994年末現在の待機中患者は13例である.<BR>5)心臓移植適応ありと判定後最長余命1年を予測しうる指標を求めるために,判定後1年以内に死亡した12例に対し2年以上生存した7例および臨床像の改善を認めた3例の計10例を対照群として,多変量解析数量化理論第II類を応用して生死の判別を試み,両群をよく判別しうる予後指数を求めることができた.<BR>6)今回の解析結果から得られた1年以内の予後不良因子は,心機能NYHA IV度,3回以上のIV度心不全の既往の他,従来用いられてきた血行動態的指標よりは低電位差(肢誘導<5mm),異常Q波>2誘導,QRS間隔の延長といった心電図に関する情報が心筋自体の高度の病変を反映する所見として予後不良を示唆し,心臓移植の適応を考える上で重要な意義をもつと思われた.ただし統計処理に用いた症例数が少ないので,今後も引き続き症例を増すと共に今回は検討できなかった血中ノルアドレナリン,ANPおよびBNPなどの神経体液性因子その他の予後予測因子をも含め再検討することが望まれる.
著者
江波 戸美緒 中山 雅裕 真島 三郎
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.27, no.7, pp.37-41, 1995

加算平均心電図(SAE)の重症心室性不整脈,突然死予知に対する有用性は欧米の数々のprospectivestudyにより証明されてきた.しかし,本邦におけるprospective studyは少ない.本研究の目的は本邦において心筋梗塞後の致死性心室性不整脈予知に対するSAEの有用性は欧米と差違があるか,また長期予後予測に対しどの程度有用かを検討することである.<BR>対象は1986年2月より90年1月に急性心筋梗塞にて本院に入院した連続186例のうち,急性期の死亡,CABG例およびブロック,心房細動を除く145例である.全例において発症3-4週にSimsonらによるTime-domain法1)を用いてSAEを記録,解析した.Noise leve≦0.7μVにて記録が得られた130例を定期的に外来および電話問診にて追跡調査した.平均4.7±2.4年の観察期間中に不整脈事故(持続性心室頻拍,心室細動または突然死)は正常SAE群(104例)に2例(2%),異常SAE群(26例)に6例(23%),計8例に観察された.初回事故の63%は発症後2カ月以内に,87%が2年以内,全例が3年以内に起こっていた.また初回事故の75%が持続性心室頻拍(sustainedVT)であった.Kaplan-Maier法によるevent free rateは異常SAE群が正常SAE群に比し有意に低値であった.また異常SAEは左室駆出分画とともに不整脈事故の独立して有意な予知因子であった.突然死は3例(異常SAE群2例,正常SAE群1例)と少なく,その予知に対するSAEの価値を決定するのは困難であった.<BR>SAEは心筋梗塞後の致死性不整脈予知に有用であることは欧米のデータと一致した.しかしながら不整脈事故の頻度そのものが6.2%と同時期の欧米の報告に比し非常に低く,突然死も少数であった.また事故の発生状況からみてSAEの初回不整脈事故予知因子としての価値は長期的にも発症後の時間経過に影響を受けるものと思われた.
著者
橋本 賢一 笠巻 祐二 芦野 園子 奥村 恭男 久保 公恵 杉村 秀三 中井 俊子 渡辺 一郎 斎藤 穎
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.16-21, 2006

背景: 両心室ペーシング( B V ) 療法は薬剤抵抗性心不全患者に有効な治療法であるが,必ずしも心臓突然死を減少させるとは限らない.一方μVレベル T-wave alternans(TWA)は心臓突然死の予知に対する有用性が示されているが,BV療法がTWAに及ぼす影響に関する検討は少ない.目的: 今回われわれは, 両室 pacing(BiP) , 右室 pacing(RVP),左室 pacing(LVP)を施行し, TWAに及ぼす影響について検討した.対象と方法: 連続7 例( 男性5 ) , 陳旧性心筋梗塞1 例, 拡張型心筋症6 例( EF31±7% ) を対象として行い, TWAの検出は,各ペーシングモードにおいて HR70~120bpmまでペーシングレートを漸増させTWAの測定を行った.結果: 平均 Valt は BVP,RVP および LVP で 193±0.6, 0.92±0.5および 1.45±0.8(p<0.01vs RV). alternanas ratioはBVP, RVPおよびLVPで 11.9±4.83, 4.83±2.9および 6.5±2.2. TWA陽性率は BVP,RVPおよびLVPで 71%(5/7), 67%(4/6)および 50%(2/4)であった.結語:BVPによる高いTWA陽性率は再分極の不均一性の増大をもたらす可能性が示唆された.
著者
山村 真由美 宮保 進 山村 至 多々見 良三 石瀬 昌三 大槻 典男 小田 恵夫
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.321-327, 1986

Pseudoxanthoma elasticum(PXE)は皮膚,眼,心血管系の弾力線維の変性を特徴とする遺伝的疾患と考えられている.今回著者らは,皮膚,皮膚組織所見,眼底に典型的なPXEの変化を有し,sicksinus syndrome (SSS) を伴った1例の心血管病変について文献的検討を加えて考察した.症例は59歳,女性.眼前暗黒感で入院,7年前に高血圧を指摘されたことがあるが入院時は正常血圧であった.臍周囲,頸部,腋窩,肘窩,鼠径部に対称性の黄色皮疹を認め,組織学的に変性弾力線維の増殖,カルシウムの沈着を認め,眼底に色素線条がみられた.心電図24時間連続記録にて,房室解離を伴うHR30以下の洞性徐脈,接合部補充調律を,電気生理学的検査により洞結節回復時間の著明な延長を認め,SSSを合併したPXEと診断したが眼前暗黒感が頻発するために恒久的ペースメーカーの植え込みを行った.冠動脈造影にて右冠動脈に狭窄を,心臓カテーテル検査で右心系,左室拡張末期圧の上昇を,左室造影にて左室壁の肥厚を認めた.左室肥大および左室拡張末期圧の上昇は過去に合併した高血圧症によるものと解釈された.本例におけるSSS,冠動脈狭窄および高血圧の既往の合併は一元的にPXEによるlarge,medium およびsmall arteryの壁の変化の可能性が示唆され,本症例を通じて,PXEの心血管病変は冠動脈,心ポンプ機能の検討の他,刺激伝導系も含めた詳細な検索と,十分な経過観察が必要であると思われた.
著者
藤岡 達雄 関口 守衛 高橋 早苗 広沢 弘七郎 溝口 秀昭 梶田 昭
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.20, no.9, pp.1062-1071, 1988

重症心疾患で右心不全を呈している症例の中に脾機能充進による汎血球減少をきたし,このために出血,感染など生命予後に重大な影響を受ける例がある.そこで我々は,右房平均圧(RAm)15mmHg以上の高値を呈した重症心疾患患者69例について,その臨床像を検討するとともに,このうち14例の剖検例において,その肝,脾,骨髄の病理所見を観察し,肝のうっ血性線維化の程度と脾機能充進との関係についても検討を加えた.結果,対象例69例中13例(18.8%)に脾機能充進による汎血球減少を認め,全例右心不全の経過が長く,RAmは平均19.4±3.2mmHgと高値を呈した.4例に心臓手術後高度の出血傾向ならびに術後感染を認め,1例に心臓手術前に脾摘を行った.<BR>14例の剖検例の検討では,脾重量と血小板数との間に負の相関(r=-0.63)を認め,汎血球減少例は全例2009以上の脾腫を認めた.また肝のうっ血性線維化の程度と脾機能充進の有無との間には明らかな相関は認めず,右心不全による脾機能充進は必ずしもうっ血性肝硬変に続発して生じるとは限らないと考えられた.<BR>血球減少は出血傾向,感染の引き金となり生命予後に重大な影響を及ぼすため,重症心疾患の経過観察をする上で脾機能充進の有無に十分注意を向ける必要があり,また汎血球減少例の場合心臓手術前の脾摘も考慮する必要があると考えられる.
著者
鈴木 聡 竹石 恭知 佐々木 敏樹 加藤 重彦 北原 辰郎 小山 容 新関 武史 久保田 功 相良 三奈
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.365-372, 2008

背景:Pentraxin 3(PTX3)は新しい炎症マーカーであり,血管内皮細胞や血管平滑筋,マクロファージなどから産生される. 心不全患者においては全身の炎症反応が亢進しており炎症マーカーやサイトカインの血中濃度が上昇している.本研究の目的は心不全患者における血漿中のPTX3濃度の臨床的,意義を調べることである.<br>方法:血漿中PTX3濃度を心不全患者134名および正常対照者25名で測定した.心臓死または心不全増悪による再入院をエンドポイントとして追跡調査を行った(中央値546日).<br>結果:血漿中PTX3濃度は正常対照者に比べて心不全患者において有意に上昇していた(P<0.0001).正常対照者の平均値+2標準偏差から正常上限値を決定した(4.4ng/mL)ところ,PTX3異常高値の患者数はNYHAクラスが上がるごとに増加していった(P<0.0001).追跡期間中合計42人の患者において心イベントが発生したが,心イベント発生率はPTX3正常群に比べて異常高値群において有意に高かった(p=0.0003).単変量Cox比例ハザード解析では,変数データの中で左室拡張末期径,左室収縮率,血漿PTX3濃度,BNP,クレアチニン,尿酸が心血管イベントの有意な予測因子であった.これらの項目すべてに対し多変量解析を行ったところ,PTX3のみが心イベント発生の独立した予測因子であった(ハザード比1.29,95%信頼区間1.07-1.58,P=0.0074).さらに,心不全患者をPTX3濃度で4群に分けて解析を行ったところ,PTX3濃度が最も高い第4群において,心血管イベント発生の危険率が第1群の6.58倍高値であった.<br>結語: 血漿PTX3濃度は心不全患者において重要な予後予測因子となり得ることが示唆された.
著者
中沢 潔 岸 良示 戸兵 雄子 高木 明彦 長田 圭三 桜井 庸晴 新井 まり子 龍 祥之助 三宅 良彦
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.151-154, 2001

Brugada症候群は,SCN5A遺伝子異常の家族性突然死症候群である.Brugada症候群の家族の検査は必須と考えており,Brugada症候群の家族の心電図を中心に報告する.当科でBrugada症候群が疑われた患者のうち,12人の協力が得られたので,その家族30人との計42人を対象とした.心電図異常は3家族(3/12家族:25%)に,それぞれ1人ずつ(3/30人:10%)認められた.Brugada症候群のみならず,Lenegre症候群やQT延長症候群を疑う家族員があった.また,Ic群抗不整脈薬負荷を行うことにより,Brugada症候群発見の頻度はさらに増加する可能性があると考えられた.
著者
坂部 茂俊 笠井 篤信 仲田 智之 坂井 正孝 西山 敦 説田 守道 保田 憲基 角田 裕
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.73-78, 2006

心室細動出現前後,ピルジカイニド負荷でcoved型の顕著なST上昇を示さないBrugada症候群の1例を報告する.<BR>【症例】39歳,男性.〈主訴〉痙攣.〈家族歴〉特記事項なし.〈既往歴〉(1)小児SLEのため20歳までプレドニゾロン内服(2)健診で心電図上完全右脚ブロックを指摘.〈現病歴〉2004年3月19日午前3時頃,就寝中に痙攣,失禁が蹴現した.約5分間で消失したが朝までに同様の症状が数回あり,1病院に搬送された.到着時には意識清明であったが心電図モニター装着後心房細動から心室細動へ移行し,痙攣が出現したため除細動を行った.停止直後の心電図で右脚ブロックを認めたが前胸部誘導はV2でわずかなsaddle-back型のST上昇を認めるのみであった.〈来院後経過〉心電図洞調律,64回/分,軸正,完全右脚ブロック,V<SUB>2</SUB>で0.15mVのST上昇,QT延長なし.心臓電気生理学的検査(EPS)ではAH,HV時問正常.右室心尖部からの2連刺激で5連の非持続性心室頻拍が誘発された.ピルジカイニド負荷で著明なST上昇は認められなかった.