著者
大墻 敦 田中 孝宜
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, pp.2-23, 2018

放送と通信がすでに融合した欧米では、放送局が主体的にインターネット上の様々なプラットフォームを用いてニュースや映像コンテンツ配信に取組んでいる。CNNデジタルワールドワイド上席副社長兼編集長メレディス・アートリー氏とアメリカ公共放送(PBS)テクノロジー戦略担当副社長エリック・ウォルフ氏を招きシンポジウムを開催した。アートリー氏は「あらゆるデジタルサービスに対応できるモダン・ジャーナリストが必要。」と述べ、さらに「コントロール出来ることと出来ないことを意識すること」などの5つの教訓などについて報告があった。ウォルフ氏からは、公共メディアへの進化を目指すPBSがデジタルサービスだけでなく、全米放送サービスの充実も改めて目指していることについて、子ども向けサービスPBSKIDSを例に報告があった。また、BBCの戦略と2016年に放送サービスを停止しインターネットのみで配信を始めた若者向けチャンネルBBCThreeの成果と課題について、筆者(田中)から、報告を行った。
著者
吉田 功 広谷 鏡子 広谷 鏡子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.68, no.12, pp.2-19, 2019

「放送のオーラル・ヒストリー」では、オーラル・ヒストリーの研究方法を用いて、放送関係者の証言から放送史をひもとくことを目的にインタビューを実施してきた。今回は、戦後沖縄放送史を取り上げる。戦後、沖縄は、米軍の直接統治下におかれ、日本本土から政治、経済、法制度において完全に切り離され、それは、社会、文化の面にも及んだ。放送史も同様で、成立経緯、様相ともに全く異なっている。放送機能も失われた廃墟の中、米軍によるラジオ放送がゼロから立ち上がり、日米政府や社会の情勢に翻弄されながら確立されていく過程で、その重要な局面に深く関わってきた人がいる。元沖縄放送協会会長・川平朝清(91)である。彼は戦後の沖縄において、放送の立ち上げから本土復帰まで、一貫して放送に関わった稀有の存在である。各局面において放送の当事者のひとりである川平朝清がどう考え、どう行動したのか、そして、行動の背景になにがあったのか、に焦点をあて、沖縄の放送史が立体的に浮かび上がることを目指す。
著者
村田 ひろ子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, pp.78-94, 2018

NHK放送文化研究所が加盟する国際比較調査グループISSPが、2017年に実施した調査「社会的ネットワークと社会的資源」の日本の結果から、他者との接触や友人づきあい、人間関係と生活満足度との関連について報告する。SNSの利用頻度と他者との接触の関係をみると、SNSを頻繁に利用している人のほうが、親しい友人との接触も多い。高齢層についても、SNSの利用者で18歳以上の子との接触が多い。50代以上の中高年男性では、友人づきあいが希薄な傾向がみられる。例えば、「悩みごとを相談できるような友人がいない」という人は、全体で2割なのに対し、男性50・60代でいずれも3割台、70歳以上では半数を超える。また、「落ち込んだときの話し相手」や「家庭の問題についてアドバイスをもらう相手」として「親しい友人」を挙げるのは、全体で4割なのに対し、男性50代以上の各年層で2割から3割程度にとどまる。生活満足度との関連では、他者との接触や友人数が多いほど、生活に満足している割合が高い。特に40、50代の中年男性では、悩みごとの相談相手の人数によって、生活満足度が大きく異なる。
著者
村上 圭子 黛 岳郎 平田 明裕 星 暁子 有江 幸司
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.68, no.7, pp.2-27, 2018

NHK放送文化研究所では2016年に引き続き,2017年11月から12月にかけて「メディア利用動向調査」を配付回収法で実施し,2,340人から有効回答を得た。今回は主に次の4つのテーマで結果をまとめた。①4K・8K・・・4Kの認知率は全体で前年から増加(72%→76%)し,8Kの認知率も全体で前年から増加(47%→55%)した。4Kへの興味は「とても興味がある」が前年から増加(4%→5%)し、「まあ興味がある」も前年から増加(24%→31%)した。②放送のインターネット同時配信・・・認知率は35%にとどまるものの,利用意向は41%だった。利用意向を男女年層別にみると,男16~29歳・女30代では5割を超えるなど,若・中年層で一定の需要がある。③有料動画配信サービス・・・加入者は全体で前年から増加(4%→7%)した一方で,加入意向がある人は前年から減少(20%→13%)し,今後,新たな関心層をどうやって増やしていくかという課題が浮き彫りになった。④ニュースのサイトやアプリ・・・全体でもっとも利用されているのは「Yahoo!ニュース」(44%)だった。次いで多いのが「LINE NEWS」(22%)で,男女年層別にみると,女16~29歳では「LINE NEWS」(60%)が「Yahoo!ニュース」(50%)を上回った。使う理由としては「使いやすいから」が多く挙げられた。
著者
小林 利行
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.44-56, 2018

本稿では、1930年前後に大人気となった松内則三アナウンサーの「講談調」の野球実況について、これまでにないアプローチでその人気の背景の再分析を試みた。本稿ではまず、「報道」「教養」「娯楽」などの放送番組の種目割合の時系列変化に注目した。そして、「娯楽」の割合が減少している時期とこの実況の全盛期が重なることを示したうえで、これをベースとして以下の3つの視点から人気の背景を探った。【①聴取者】聴取者は「娯楽」を求めていたが、実際の放送では十分に供給されておらず、「娯楽」の少なさに不満を持っていた。【②松内則三】アナウンスのあり方において常に聴取者の意向を重視していた松内が、野球実況を「講談調」にした理由の一つに①が関係した可能性が高い。【③日本放送協会】聴取者加入が外国に比べて進まない要因の一つは「娯楽」の少なさだと認識していたと思われるが、「社会の公器」という建前上、いたずらに「娯楽」を増やすわけにもいかなかった。そこに登場したのがこの実況であり、客観性に疑問符がつくアナウンスながらも容認する姿勢をとったと推察される。先行研究で指摘されているように、この実況の人気の背景には、「講談調」という日本人になじみのある口調が広く受け入れられたことがあるのは間違いない。これに上記の3つの視点を加えることで、この実況の誕生と継続の解釈に厚みが増し、従来の野球ファン以外を取り込んで大人気となった背景をより明確にできるのではないだろうか。
著者
滝島 雅子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.26-45, 2018 (Released:2018-02-28)

放送における美化語の適切な使用の方向性を探るため、今回は情報番組の『あさイチ』を対象に、放送場面の美化語の使用を観察し、それぞれの具体的な美化語について、実際の発話者であるアナウンサーとそれを受け止める視聴者双方の意識を質的に探るインタビュー調査を実施した。本稿では、インタビューの具体的な声を交えながら、アナウンサーの美化語の使用意識とそれを受け止めたときの視聴者の印象を分析する。▽アナウンサーは、番組の場面ごとに人間関係や場にさまざまな配慮をし、自己や対象事物の効果的な見せ方を考える中で、美化語を使用したり控えたりしている。▽美化語を使うかどうかの判断には、アナウンサー自身の使用傾向や社会の慣用が影響している。▽視聴者はアナウンサーによる美化語をおおむね好意的に受け止めている一方、「お」の付け過ぎや、逆に語によっては「お」を付けないことへの違和感を持つことがあり、その意識は性差と強く結びついている。▽全体的に視聴者が放送に美化語を期待する気持ちは強く、アナウンサーもそれに応えようと、情報番組では美化語を多用する傾向にある。一方で、過剰敬語は避けるべきだという規範意識から美化語の乱用を避け、全体として適切な使用を保っているといえる。