著者
城戸 佐登子 林谷 秀樹 岩崎 浩司 Alexandre Tomomitsu OKATANI 金子 賢一 小川 益男
出版者
The Japan Society of Veterinary Epidemiology
雑誌
獣医疫学雑誌 (ISSN:13432583)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.77-87, 2001-12-20 (Released:2010-05-31)
参考文献数
19
被引用文献数
2 1

1995年2月~1995年6月の5ヶ月間に, 関東地方1都6県の51動物病院で, ならびに1997年10月~1998年3月の6ケ月間に, 関西, 中国地方を中心にする1都2府10県の25動物病院で, カルテから選んだ15歳以上の犬および猫 (以下, 長寿犬または長寿猫とする) と, 1994年4月~1995年3月の1年間ならびに1997年12月~1998年10月の11ケ月間に, それぞれ上記の51と25動物病院に来院し, 5~9歳で死亡した犬および猫 (以下, 対照犬または対照猫) について, 性, 年齢などの宿主要因や食事や散歩などの飼育状況などについてアンケート調査を行い, 各項目についてオッズ比を算出し, 長寿に関連する要因の抽出を試み, 以下の成績を得た。1) 長寿群と対照群との間で, 犬では, 品種, 避妊の有無, 飼育の目的, 飼育場所, 散歩の頻度, 同居動物, 食事内容, 牛乳の給与および間食の項目で, 猫では, 性別, 避妊の有無, 飼育の目的, 飼育場所, 同居動物, 食事内容, 牛乳の給与および間食の項目で, 両群問に有意差が認められた。2) 各項目ごとに長寿に関与するオッズ比を算出すると, 犬では「雑種」, 「毎年予防接種をした」, 「毎日散歩をした」, 「同居動物がいた」, 「食事として手作り調理を与えた」および「牛乳を与えた」のオッズ比がそれぞれ3.36, 2.40, 3.21, 2.44, 2.46および3.75で有意に高く, 「室外で飼っていた」が0.25で有意に低かった。猫では「雌」, 「同居動物がいた」, 「食事として手作り調理を与えた」および「牛乳を与えた」のオッズ比がそれぞれ5.16, 2.32, 2.34および2.00で有意に高く, 「室内外で自由に飼っていた」が0.41で有意に低かった。3) 以上の結果より, 長寿に関与する項目として抽出されたものは, 犬猫ともに飼育者が飼育動物に対して行っている適切な健康管理や飼育管理の項目がほとんどであり, 長寿な動物は飼育者から飼育や健康管理に手をかけられたものであることが明らかとなった。得られた成績は, 今後のコンパニオンアニマルの飼育や健康管理を考える上で貴重な基礎知見になるものと考えられる。
著者
林谷 秀樹
出版者
The Japan Society of Veterinary Epidemiology
雑誌
獣医情報科学雑誌 (ISSN:09128913)
巻号頁・発行日
vol.1995, no.34, pp.9-13, 1995-06-25 (Released:2010-05-31)
参考文献数
5
著者
林谷 秀樹
出版者
The Japan Society of Veterinary Epidemiology
雑誌
獣医疫学雑誌 (ISSN:13432583)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.85-85, 2010

我が国における理想的な獣医学教育像を描くためには,(1) 学生の具体的な到達目標を明示すること,(2) 目標を達成するために必要なカリキュラムの内容(シラバス)を明らかにすること,(3) 教育手法を明示しておくことが不可欠であるとの認識のもと,文部科学省の先導的大学改革推進委託事業に「獣医学教育モデル・コア・カリキュラムに関する調査研究」が東京大学を代表者となって採択されたことを受けて,平成21年7月から獣医学教育のコア・カリキュラムの策定が開始された。本事業では獣医学の4分野(基礎,病態,応用ならびに臨床)の中から,取り上げるべき授業科目として50科目が選択され,それぞれの科目について学生が習得すべき基本的内容について検討されている。コア・カリキュラムとはそれぞれの分野で必ず学ぶべき必要最小限の共通カリキュラムであり,これまでに医学,薬学,歯学および法科大学院の4つの分野の教育で策定されている。獣医学教育でのコア・カリキュラムで策定される内容は,各科目で学ぶべき内容の2/3であり,残りの1/3については各大学が独自の理念や社会的要求に基づいた判断により実施することになっている。<BR>これまで,獣医学教育の中で,獣医疫学は公衆衛生学,獣医衛生学,獣医伝染病学などの科目の中で教育されていることが多く,近年,獣医疫学を独立した科目として教育する大学が増えつつあるものの,「獣医師国家試験ガイドライン」の中では独立した科目としては扱われていなかった。しかし,今回「獣医学教育モデル・コア・カリキュラムに関する調査研究」事業では,獣医疫学は応用獣医学の中の独立した一科目として選定され,そのコア・カリキュラムが検討されることとなった。獣医疫学のコア・カリキュラム策定に当たり,3名の委員(加藤行男,筒井俊之および林谷秀樹,いずれも獣医疫学会会員)が選出され,平成22年7月からそのコア・カリキュラムに関して検討を開始し,平成23年2月に案が完成した。獣医疫学に関するカリキュラムとして,獣医疫学会ではすでに2007年に獣医疫学に関するカリキュラムを学会から提言しているが,今回のコア・カリキュラム案もほぼそれに従った形になっている。コア・カリキュラムは,科目を通して全体で到達すべき目標と項目(20項目)ごとに一般目標と到達目標が設定されている。今回,委員で策定した獣医疫学のコア・カリキュラムについてその項目を下記に記した。このコア・カリキュラムは獣医学関係者や一般人からのパブリックコメントを得て修正し,平成23年3月に公表される予定となっている。<BR>いずれにしても,獣医疫学のコア・カリキュラムが策定されるということは,今後獣医系大学で獣医疫学が必須科目として講義されることになるということであり,獣医疫学の発展と普及を目指す本学会としては喜ばしい限りである。現在,獣医疫学会では,このコア・カリキュラムに準拠した形で獣医疫学の教科書の改訂を進めており,来春にはコア・カリキュラムに準拠した新しい獣医疫学の教科書が近代出版から発行される予定である。<BR><B>獣医疫学コア・カリキュラム(案)</B><BR>(1)疫学の概念 (16)スクリーニング<BR>(2)健康疾病事象の発生要因 (17)感染症の疫学<BR>(3)疫学で用いられる指標 (18)特定分野の疫学<BR>(4)疫学に必要な統計手法 (19)リスクアセスメント<BR>(5)標本抽出 (20)疾病の経済評価<BR>(6)疫学研究の信頼性と妥当性<BR>(7)疫学資料<BR>(8)記述疫学<BR>(9)生態学的研究<BR>(10)横断研究<BR>(11)症例対照研究<BR>(12)コホート研究<BR>(13)介入研究<BR>(14)因果関係<BR>(15)サーベイランス
著者
山本 茂貴 石渡 正樹
出版者
The Japan Society of Veterinary Epidemiology
雑誌
獣医疫学雑誌 (ISSN:13432583)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.51-62, 1998
被引用文献数
1

食中毒による被害はこれまで事件数, 患者数, 死者数という直接的な被害を表す数値によって表現されてきた。しかし, このような指標は原因の異なる食中毒の被害を十分に比較できず, 食中毒が社会的又は経済的に及ぼす影響について評価し難いという問題を持っている。<BR>細菌性食中毒による経済損失の推計方法及び推計に必要なデータを調べるために米国農務省のBuzbyらが行ったcost-of-illnessの推計方法を検討した。<BR>その結果, 現在の日本ではBuzbyらが使用したものと同様な疫学データがないために同じ方法で推計を行うことができないことが判明した。そのため, 現在入手可能なデータを使用して横浜市におけるサルモネラ食中毒のcost-of-illnessの推計を行なった結果, 1991~1995年に横浜市内でおきた食中毒事件のcost-of-illnessはおよそ850万円 (1993年の円に換算) (1年あたり平均約170万円, 患者1人あたりの費用は約44, 000円) , 横浜市民のなかで発生したサルモネラ食中毒の1年間のcost-of-illnessはおよそ7, 700万~5億3, 000万円) (患者1人あたりの費用は約23, 000円) と推計された。<BR>今後, 精度の高いcost-of-illnessの推計を行うためには, 使用する質の高いデータを得るための疫学研究の充実が必要であると考えられる。
著者
榎田 将司 纐纈 雄三
出版者
The Japan Society of Veterinary Epidemiology
雑誌
獣医疫学雑誌 (ISSN:13432583)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.32-37, 2011
被引用文献数
1

本研究の目的は間隙方向が雌豚に対して縦(PRL)または横(PPD)であるすのこ床で飼育されている妊娠豚の蹄損傷,行動,繁殖成績を比較することであった。2008年に繁殖一貫経営農場に3回訪問し,雌豚の後肢蹄と行動を観察した。全ての雌豚はPRLまたはPPDであるコンクリートすのこ床があるストールで飼育され,両床面は同じ豚舎に混在した。蹄損傷は5段階のスコアを用い,後肢8つの蹄,それぞれ6部位と蹄球肥大を記録した。4つの蹄損傷の測定値として,雌豚の合計スコア(TCLS),部位のTCLS,雌豚の最高スコア(HCLS),部位のHCLSを用いた。雌豚のTCLSは全部位のスコアの合計,部位のTCLSは部位毎のスコアの合計とした。雌豚のHCLSは全部位中最も高いスコア,部位のHCLSは各部位で最も高いスコアとした。比較のために統計分析として混合効果モデルを用いた。<br> 雌豚162頭の平均TCLS (±SEM)は9.5±0.44,雌豚のHCLS 0, 1,2, 3,4の割合はそれぞれ1.2%, 39.4%, 54.5%, 4.3%, 0.6%であった。PPDの床面で飼育された雌豚は,PRLよりも蹄球のTCLSが高かった(P<0.05)。すのこ床の間隙方向は,他の部位および雌豚のTCLSとは関連がなかった。PPDの床面で飼育された雌豚は,PRLよりも蹄壁と蹄球におけるHCLS1の割合が高かった(P<0.05)。すのこ床の間隙方向とHCLS2と3の割合は他の部位において関連はなかった。すのこ床の間隙方向と行動,繁殖成績は関連がなかった。結論として,PPDの床面は妊娠豚の表皮における蹄損傷に関連したが,行動と繁殖成績に関連がなかった。
著者
新城 明久 内村 正幸
出版者
The Japan Society of Veterinary Epidemiology
雑誌
獣医情報科学雑誌 (ISSN:09128913)
巻号頁・発行日
vol.1992, no.29, pp.13-15, 1992-12-25 (Released:2010-05-31)
参考文献数
12

牛の人工授精に用いられている凍結精液を溶解し, 8倍に薄め, 20℃で1, 600ガウスの静磁場を8時間にわたり経時的に照射した。精子の生存率は対照区に比較し, 7時間後はやや高くなり, 8時間後は有意に高くなった。このことから磁場が精子に延命効果を及ぼすことが示唆された。
著者
城戸 佐登子 林谷 秀樹 岩崎 浩司 OKATANI Alexandre Tomomitsu 金子 賢一 小川 益男
出版者
The Japan Society of Veterinary Epidemiology
雑誌
獣医疫学雑誌 (ISSN:13432583)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.77-87, 2001
被引用文献数
1

1995年2月~1995年6月の5ヶ月間に, 関東地方1都6県の51動物病院で, ならびに1997年10月~1998年3月の6ケ月間に, 関西, 中国地方を中心にする1都2府10県の25動物病院で, カルテから選んだ15歳以上の犬および猫 (以下, 長寿犬または長寿猫とする) と, 1994年4月~1995年3月の1年間ならびに1997年12月~1998年10月の11ケ月間に, それぞれ上記の51と25動物病院に来院し, 5~9歳で死亡した犬および猫 (以下, 対照犬または対照猫) について, 性, 年齢などの宿主要因や食事や散歩などの飼育状況などについてアンケート調査を行い, 各項目についてオッズ比を算出し, 長寿に関連する要因の抽出を試み, 以下の成績を得た。<BR>1) 長寿群と対照群との間で, 犬では, 品種, 避妊の有無, 飼育の目的, 飼育場所, 散歩の頻度, 同居動物, 食事内容, 牛乳の給与および間食の項目で, 猫では, 性別, 避妊の有無, 飼育の目的, 飼育場所, 同居動物, 食事内容, 牛乳の給与および間食の項目で, 両群問に有意差が認められた。<BR>2) 各項目ごとに長寿に関与するオッズ比を算出すると, 犬では「雑種」, 「毎年予防接種をした」, 「毎日散歩をした」, 「同居動物がいた」, 「食事として手作り調理を与えた」および「牛乳を与えた」のオッズ比がそれぞれ3.36, 2.40, 3.21, 2.44, 2.46および3.75で有意に高く, 「室外で飼っていた」が0.25で有意に低かった。猫では「雌」, 「同居動物がいた」, 「食事として手作り調理を与えた」および「牛乳を与えた」のオッズ比がそれぞれ5.16, 2.32, 2.34および2.00で有意に高く, 「室内外で自由に飼っていた」が0.41で有意に低かった。<BR>3) 以上の結果より, 長寿に関与する項目として抽出されたものは, 犬猫ともに飼育者が飼育動物に対して行っている適切な健康管理や飼育管理の項目がほとんどであり, 長寿な動物は飼育者から飼育や健康管理に手をかけられたものであることが明らかとなった。得られた成績は, 今後のコンパニオンアニマルの飼育や健康管理を考える上で貴重な基礎知見になるものと考えられる。
著者
島村 麻子
出版者
The Japan Society of Veterinary Epidemiology
雑誌
獣医疫学雑誌 (ISSN:13432583)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.67-73, 2011
被引用文献数
1

Anicom, the leading pet insurer in Japan started its operation 12 years ago, and currently holds almost 400,000 pet insurance policies in force. Insurance claim data could provide epidemiological information. We tried to investigate the prevalence of disease with analysis of the above data. All insurance claim data of 217,150 dogs (male 115,192 and female101,958) contracted with Anicom pet insurance from April 1 2008 to March 31 2009 were used for the research. The high incidence of insured dogs in Japan is 20.9% in Ear Diseases, 19.7% in Dermatologic Diseases, and 15.6%in Gastrointestinal Diseases. The incidence of foreign body ingestion was significantly different; 3.7% in puppies under one year of age, 2.2% in 1 year old, and under 1.4% in 3-10 years old. It is considered that the pet insurance data would provide the tendency of disease in dogs. Further, it will be required to develop effective sampling methods for more valuable data to research on the better treatments and prevention of animal diseases.
著者
高橋 正弘 村上 賢二 金子 精一
出版者
The Japan Society of Veterinary Epidemiology
雑誌
獣医情報科学雑誌 (ISSN:09128913)
巻号頁・発行日
vol.1991, no.27, pp.27-33, 1991
被引用文献数
2

神奈川県食品衛生課編「食中毒発生一覧表」に記載されている食中毒事件の発生日, 発生件数および患者数ならびに判別分析で求められた食中毒発生予測式から算出される予測値を供試し, 食中毒発生日の特異性を検討した。検討した期間は1979年から1988年の10年間で, 各年6月から10月の5ケ月間である。<BR>1) 食中毒発生の特異日は, 発生件数の平均値および変動係数によれば9月4日, 9月8日, 9月7日, 9月13日および8月26日であった。<BR>2) また, 患者数では9月4日, 9月13日, 8月5日, 8月25日および7月29日であった。<BR>3) 以上の結果から, 食中毒発生件数・患者数の特異日は9月上旬に集積性が認められた。<BR>4) 発生件数・患者数の曜日別発生頻度は, 統計的検定の結果, 日曜日, 金曜日, 火曜日に高く, 水曜日に有意に低いことがわかった。<BR>5) 予測値においては, 曜日間に有意差は認められなかった。<BR>6) 食中毒発生ありと予測された期間は, 予測値の日別平均値によれば, 7月14日から7月17日, 7月23日から9月17日の期間であって, そのうち, 特に予測値の高い期間は8月20日から23日の4日間であった。<BR>このように, 環境要因に基づく予測と実際の発生頻度にずれが生じているのは, 食習慣等の社会的要因や調理従事者等の人為的影響が食中毒発生に深く関与しているものと考えられる。そこで, 環境要因の他に発生件数・患者数の日別・曜日別平均値さらには日別平均予測値をダミー変数とし採用すれば, 食中毒発生予測式の精度の向上が可能と考えられる。また, 行政施策の用途によっては, 月ごとに食中毒発生予測式を構築する必要性も考えられる。
著者
岡部 信彦
出版者
The Japan Society of Veterinary Epidemiology
雑誌
獣医疫学雑誌 (ISSN:13432583)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.1-3, 2010

20世紀に3回,通常の流行を超える大規模なインフルエンザの発生があったが,1968年の香港型インフルエンザの登場以来40年間,人類は通常と異なるインフルエンザの来襲は受けてこなかった。そこで新たなインフルエンザの地球規模での流行(パンデミック)への備えが,ここ数年,大きな関心を持って世界中ですすめられてきた。パンデミック対策の基本は,出来るだけ新たなウイルスの発祥を遅くし,発祥した場合には疾病の拡大を遅らせ,また拡大した場合には健康被害と社会の混乱を出来るだけ少なくするところにある。その対策は,医学・医療の分野だけではなく,公衆衛生的対応,そして社会における理解と取り組み,そしてこれらの組み合わせが必要である。さらに,これらの対策は新型インフルエンザ対策だけのためだけではなく,その他の新たな感染症あるいは既存の感染症のアウトブレイクへの対応に応用が可能であり,感染症対策全体の底上げとなるものである。<BR>そのような中,今回メキシコにおいてこれまでに人類が経験したことがないインフルエンザウイルスが発生し,「新型インフルエンザ」とされた。このウイルスは北アメリカからヨーロッパ,アジア,そして南半球へと世界中に拡大した。わが国では,2009.5.9.に成田空港検疫で新型インフルエンザの患者が検知され,その後5.16.神戸市,ついで5.17.大阪府内での確定例の確認があり,兵庫県内,大阪府内の高校を中心にした集団感染が明らかとなった。地域での学校閉鎖や濃厚接触者に自宅待機を要請するなどの対策が行われ,そのために兵庫県内や大阪府内での一般社会への広がりはかなり抑えられた。しかし6月中旬頃から再び日本各地での発生が続き,8月頃に例年の12月のようなインフルエンザ様疾患の発生状況となり,10-11月に例年の冬のような様相となり,そして12月に入りようやく減少傾向となった。平成22年第4週における国内における累積患者数は推計約2000万人を超え,過去9シーズンのインフルエンザ(季節性インフルエンザ)の流行の最大であった2004/05シーズンの1800万人を超えたが,ピークの高さは季節性インフルエンザのそれを下回り過去9シーズンで第3位,流行期間も29週間と季節性インフルエンザより長引いた。<BR>新型インフルエンザ(パンデミック)の発生にあたって,その対策の主眼は「流行の侵入を出来るだけ遅くし,侵入した場合には流行が一気に広がることを防ぎピークが高くなることを抑える。その結果として流行が長引くことはあり得る」であったが,流行が沈静化してみると,結果としては当初目指したものに大分近づいているかのように思える。<BR>新型インフルエンザ患者の中には,重症肺炎や急性脳症発生例そして死亡例も発生している。しかし,わが国では推計される累計患者数2100万人(2010年13週)のなかで,厚生労働省に報告(2010.3.23まで)された死亡者数198人というのは,報告外の患者数が多数いるとは考えられるものの海外の多くの国に比して著しく少ない割合であり,人口10万対の死亡率は0.15であった。また,海外に比し妊婦の入院数,重症者が少ないのもわが国のユニークなところである。WHOからは妊婦の重症化などが警告され,わが国においても妊婦への新型インフルエンザワクチン接種は高い優先中と位置づけられたが,国内で妊婦の入院数は0.4%程度にすぎず,死亡例の報告もない。一方新型インフルエンザでも,わが国においては急性脳症がすくなからず発生しており,感染症法に基づいて届け出られたインフルエンザ脳症患者数は300例近くとなっている点は,重要視すべきところである。<BR>わが国における入院者や死亡者発生の状況,妊婦の入院率などは海外に比してかなり低くなっており,国際会議・国際学会などでも注目されているところである。これは決して自然にそうなったのではなく,臨床医・公衆衛生担当者など関係者の努力,そして一般の人々の新型インフルエンザに関する関心の高さは大きな影響を与えているのではないかと考えている。<BR>インフルエンザは,季節性インフルエンザであっても新型であっても,多くの人はほぼ自然に回復する。しかし膨大な人が毎シーズン発症している。罹患者が多くなれば,たとえその頻度は低くても重症者,合併症併発者,死亡者の数は増加する。殺到する軽~中等症患者の外来治療と,重症者を如何に速やかに救うかが,医療における大きな命題である。学校などにおいては,個人の回復・重症化予防と同時に,集団での感染拡大予防策もあわせて考慮しなくてはならない。(View PDF for the rest of the abstract.)
著者
山本 茂貴
出版者
The Japan Society of Veterinary Epidemiology
雑誌
獣医疫学雑誌 (ISSN:13432583)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.133-133, 2009

第15回カンピロバクター,ヘリコバクターおよび関連微生物に関する国際ワークショップ(CHRO2009)が平成21年9月2日から5日まで新潟県新潟市の朱鷺メッセで開催された。このワークショップは2年に1度開催され,世界各国から約600名のカンピロバクターおよびヘリコバクターの研究者が参加した。<BR>9月2日の夕方から学術総会長の山本達男新潟大学医学部教授の開会挨拶に続き,ヘリコバクターの発がん誘導における遺伝学的研究に関する基調講演が国立がんセンターの牛島俊和博士により行われた。つづいて,<I>cag</I>A遺伝子発見20年,CagA腫瘍誘導タンパク,カンピロバクターとギランバレー症候群に関する3題の特別講演が行われた。<BR>9月3日からは午前中に非定型CHROの命名に関する早朝講義,続いて,自然宿主におけるカンピロバクターとヘリコバクターの保菌状態,疫学と耐性菌,ヘリコバクターのワクチンに関して全体講演があった。午後からは,8つのセクションに分かれて口頭発表が行われた。それぞれのセクションは1.カンピロバクターの疫学,2と6.カンピロバクター病原性と遺伝学的研究(1)および(2),3.カンピロバクターの動物感染モデルと治療,4.ヘリコバクターの疫学,5.カンピロバクターの遺伝子型と薬剤耐性,7.カンピロバクターの予防,8.ヘリコバクターの病原性と遺伝学的研究があり,若手の研究者を含めて発表があった。夜は学会主催のディナーに先立ち,能を鑑賞した。<BR>9月4日はCHROの薬剤治療と薬剤耐性について早朝講義があり,続いて,カンピロバクターとヘリコバクターに分かれてシンポジウムが開催された。カンピロバクターシンポジウムの第1部はギランバレー症候群,第2部は病理発生,ヘリコバクターシンポジウムの第1部は感染メカニズム,第2部は臨床的話題に関してであった。午後は4つのセクションに分かれて口頭発表があり,テーマは9.カンピロバクターの予防(2),10.アーコバクター,11. CHROの病原性と薬剤耐性,12. CHROの動物感染モデルであった。<BR>そのあと,ノーベル賞受賞者のバリーマーシャル博士よる「ヘリコバクター・ピロリと胃癌」について特別講演が行われた。<BR>9月5日の最終日はCHROの遺伝子解析について早朝講義があり,続いて,ヘリコバクターと胃癌について2つのシンポジウムとカンピロバクターのリスクアセスメントおよび農場でのコントロールに関するシンポジウムが行われた。<BR>次回は2011年にカナダのバンクーバーで開催されることが決まった。
著者
鈴木 邦昭 Caballero Juan Alvarez Fredi FACCIOLI Maria GORETI Maria HERRERO Miguel PETRUCCELLI Miguel
出版者
The Japan Society of Veterinary Epidemiology
雑誌
獣医疫学雑誌 (ISSN:13432583)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.46-52, 2009

パラグアイ国における伝染性ファブリキウス嚢病ウイルス対策に係るワクチン投与プログラムは,海外のワクチン製造業者により提供されたものをそのまま使用するのが一般的である。しかしながら,こうした投与プログラムは当該国における生産現場の実情ないし雛集団における母鶏由来の移行抗体保有状況に必ずしも即していない。本研究では,パラグアイ国のブロイラー鶏群に対する伝染性ファブリキウス嚢病ワクチンの至適投与時期を推定するために,当該移行抗体価の線形混合モデルへの適合を試みること,及び複数置かれた研究対象群ごとのワクチン至適投与時期の相違を比較検討することを目的とした。当該移行抗体価は,全14群,20羽ずつの雛を対象とし,それぞれ1,8,15及び30日齢時に採取した血清を用いて,ELISA法により測定した。移行抗体価の対数値を目的変数とする線形混合モデルの適合には,マルコフ連鎖モンテカルロ法を利用した確率論的推定を行った。これにより,参照群に対するワクチン至適投与時期及び他の群との当該時期(日数)の相違がそれぞれ推定された。孵化時における移行抗体価の対数値は平均12.35(95%ベイズ信用区間 : 12.16-12.53),移行抗体価の対数値についての半減期は3.7日(95%ベイズ信用区間 : 3.5-3.9)であった。調査地域で採用されている,ワクチンメーカーが推奨する抗体価125のワクチン至適投与日(8日令)よりも,本研究による推定至適投与日の方が最短でも約7日遅く,8日令での投与では残存する移行抗体によりワクチンが中和されてしまい十分な予防効果が得られない可能性が示唆された。本研究の結果は,研究対象地域における既存の伝染性ファブリキウス嚢病ワクチン投与プログラムの改善に資すると考えられる一方,各群間の当該時期の相違(最大でおよそ9日間の開き)を考慮すると,可能な限り雛の導入に際し移行抗体価を測定し,その都度ワクチン至適投与時期を推定することがより望ましいと考えられた。