- 著者
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黒木 俊郎
宇根 有美
- 出版者
- 獣医疫学会
- 雑誌
- 獣医疫学雑誌 = The journal of veterinary epidemiology (ISSN:09128913)
- 巻号頁・発行日
- vol.11, no.1, pp.63-65, 2007-07-20
両生類,特に無尾類(カエル)の個体数の減少や種の絶滅が世界各地で報告され,ある調査によれば全世界の5,743種の両生類のうち少なくとも2,469種(43%)の個体数が減少し,1,856種(32%)が絶滅の危機に瀕している。劇的な減少が顕著となった1980年以降,9種が絶滅し,113種が絶滅した恐れがあるとされている。この両生類の悲劇の主たる原因のひとつにはツボカビ症(chytridiomycosis)と呼ばれる両生類の新興感染症が挙げられ,<I>Batrachochytrium dendrobatidis</I>が原因微生物である。この真菌は1998年にオーストラリア,カナダ,米国および英国の研究チームによって初めて発見され,パナマやオーストラリアの手付かずの自然環境における大規模な両生類の個体数の減少に関与していることが明らかになり,それ以来世界各地で調査されている。<BR><I>Batrachochytrium dendrobatidis</I>は1999年に1属1種の新属,新種として記載された,ツボカビ門,ツボカビ目に属する真菌である。属名"<I>Batrachochytrium</I>"の"Batracho"はギリシャ語でカエルを意味し,ツボカビを意味する"chytrium"の"chytr"はギリシャ語の"chytridion"または"chutridion" : 陶器製の小型のツボに由来する。したがって,属名をそのまま訳せば,カエルツボカビ属になる。種名の"<I>dendrobatidis</I>"はヤドクガエル属(<I>Dendrobates</I>)の1種(blue poison dart frog)から分離したツボカビ株を用いて種の記載を行ったことによる。しかし,<I>B. dendrobatidis</I>の宿主はヤドクガエルに限られているわけではなく,宿主域は非常に広い。<BR><I>B. dendrobatidis</I>は,ツボカビ類では脊椎動物に寄生する唯一の種である。生きたあるいは死んだ両生類の皮膚の角質層や顆粒層に寄生し,そこに含まれているケラチンを利用して発育する。しかし,ケラチンを含まないトリプトン(タンパク質を加水分解したもの)寒天培地でも培養することができる。<I>B. dendrobatidis</I>の生活環は非常に単純で,遊走子(zoospore)と遊走子嚢(zoosporangium)の2形態からなっている。<I>B. dendrobatidis</I>の遊走子嚢は表面が平滑で,球形から長球形であり,乳頭状の放出管(discharge tube)がある。遊走子嚢は角質層の表面から放出管を突出させ,突起の蓋が取れると遊走子を放出する。遊走子は後方に伸びる鞭毛があり,水中を遊走する。遊走子嚢から泳ぎ出た遊走子が宿主に到達することで伝播する。感染は100個程度の遊走子により成立し,時に致死的となる。両生類の皮膚の表面に達すると,角質層を貫通し,徐々に径が大きくなり,遊走子嚢を形成する。<BR><I>B. dendrobatidis</I>の遊走子は鞭毛で遊泳して宿主に到達することから,発育や感染には水が必須である。遊走子は滅菌水道水では3週間,滅菌精製水では4週間,滅菌湖水ではさらに長く,7週間生存するとされている。遊走子は乾燥により死滅してしまう。発育の至適温度は17~25℃で,23℃が最も適しているとされている。高温には弱く,28°Cで発育が止まり,30℃以上になると死滅する。<BR>ツボカビ症に対する感受性は両生類の種により異なり,アフリカツメガエル(<I>Xenopus laevis</I>)やウシガエル(<I>Rana catesbeiana</I>)は感染しても発症しないことが知られている。しかし,多くのカエル種は発症して,致死率も90%を超える場合がある。<BR>(View PDF for the rest of the abstract.)