著者
横山 泉
出版者
The Volcanological Society of Japan
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.77-90, 2013-03-29 (Released:2017-03-20)
参考文献数
34

桜島火山は歴史時代において,数度にわたり大噴火が起こり,溶岩流出と地盤の変動が記録されている.それらの中で,1914年噴火は当時の水準で種々の定量的観測がなされている.ここでは特にこの噴火によって生じた沈降の回復を詳論した.水準測量の結果は1916年の発表以来,しばしば議論されているが,姶良カルデラ周辺の沈降の中心は,海域のためもあり,その位置の決定には任意性がある.今回,噴火直後の三角測量の結果をも参考にして,従来より広範囲の沈降について,その中心の位置を桜島の北岸辺に決めた.そして,1914年噴火に伴った大規模の沈降の回復をB.M.2474を例にとり解析した.その際,活動的なこの地域で変動の基準を決めることは極めて難しい.本来は歪みなしの状態(No-strain level)を基準とすべきであるが,ここでは全く便宜上,1914年噴火に先立つ1892年(水準測量の開始)を基準(Reference level)にした.従来,観測を重ねることにより,漸近的に,歪みなしの状態を決められるであろう.結論として,その永年変化は地盤の粘弾性的回復と桜島直下の圧力源の増強との2要素で説明される.1914年噴火直後から粘弾性的回復が進行した(遅延時間は約16.6年).平行して,次第に圧力源へマグマが蓄積するに従って,約20年を経て,その効果が沈降回復へ寄与している.2000年現在は,沈降歪みは既に1892年の基準まで回復して,それにマグマ圧の効果が蓄積している状態である.この議論に付随して,姶良カルデラ地域の地殻上部の粘性を求めた.このような火山地域における粘弾性的地殻変動の他の例として,1983年三宅火山噴火後の沈降を論じ,上記と同じ桁の粘性値を得た.
著者
Sri HIDAYATI 石原 和弘 井口 正人
出版者
The Volcanological Society of Japan
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.289-309, 2007-12-28 (Released:2017-03-20)
参考文献数
41
被引用文献数
11

山頂噴火活動が低下し,姶良カルデラの地盤が膨張に転じた1993年以降,桜島とその周辺では火山構造性地震の発生頻度が漸次高まった.2003年11月からは桜島南西沖の6〜9kmの深さで地震が多発し,従来ほとんど発生が認められなかった姶良カルデラ北東部でも地震が発生した.翌年末にはGPSによりカルデラの地盤の膨張が観測されたが桜島の噴火活動に顕著な変化はこれまでのところ認められていない.1998~2005年に発生した火山構造性地震の震源と発震機構を求め,火山活動およびマグマ供給系との関係を検討した.(1)桜島およびその周辺の火山構造性地震の震源は姶良カルデラから桜島を通ってその南西側にかけて分布し,これらは,桜島南岳直下の深さ0〜4km,南西沖深さ6〜9kmおよび姶良カルデラ内深さ4〜14kmの3つの領域に分けられる.南岳下の深さ2kmまでの発震機構は逆断層型が卓越するが,2kmより深い部分では横ずれ型が卓越する.(2)桜島南西沖の火山構造性地震は張力軸が西北西-東南東方向の正断層型であり,(3)姶良カルデラ内の火山構造性地震の節面の方向は構造線の方向に〜致しており,いずれもこの地域のテクトニクス場と調和的である.(4)桜島南西沖の地震活動が姶良カルデラから桜島を横切るマグマの貫入イベントに関連しているのではないかという仮説にたって,地殻変動データを吟味してその可能性を検討するとともに,新たなマグマ供給系モデルを提示した.
著者
野上 健治 吉田 稔 小坂 丈予
出版者
The Volcanological Society of Japan
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.71-77, 1993-08-15 (Released:2017-03-20)
参考文献数
10
被引用文献数
3

薩摩硫黄島東温泉沿岸では温泉水と海水とが様々な比率で混合した結果,極微細なSiO2-Al2O3-Fe2O3-H2O系の低結晶質沈殿物が生成しており,海面が様々な色調を呈している.これらの変色海水について,母液及び沈殿物のSi-Fe-Al_3成分の化学組成及び生成条件,特にpHとの関係について検討を行った.その結果,沈殿物の化学組成は温泉水と海水との混合溶液のpHに強く依存し,pHが2前後では沈殿物中のFeの割合は低いが,pHが3〜5の範囲ではFeの割合が相対的に高くなる.更にpHが上昇するとAlの割合が相対的に高くなる.また変色海水の色調はpHが2前後の時は透明から乳白色であるが,pHが3〜5の時には黄褐色である.更にpHが上昇すると色調は再び白色系になり,沈殿物中のFeの割合によって色調が変化する.これらに対して,各採取地点における沈殿物と母液との混合物の化学組成は東温泉から湧出している温泉水のそれと殆ど同じであり,見かけ上沈殿の生成過程においてSi,Fe,Alの3成分は分別していない.
著者
為栗 健 Sukir MARYANTO 井口 正人
出版者
The Volcanological Society of Japan
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.273-279, 2007-10-31 (Released:2017-03-20)
参考文献数
15
被引用文献数
1

桜島火山において発生するハーモニック微動のモーメントテンソル解析を行った.B型地震群発後に発生する微動(HTB)と爆発的噴火直後に発生する微動(HTE)のモーメントテンソル成分に大きな違いはなく,等方成分は50%以上,CLVD成分は20~30%,DC成分は20%以下であった.鉛直方向のダイポール成分が大きく,鉛直方向の力が優勢な震源が推定される.震源は火口直下の浅部であり,爆発的噴火発生前に火口底直下に形成されているガス溜まりが微動の発生に関与していると考えられる.
著者
三浦 大助
出版者
The Volcanological Society of Japan
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.273-294, 2022-09-30 (Released:2022-10-27)
参考文献数
44

火山災害の軽減において,破局的珪長質噴火の前兆期を認定し,その特徴を知ることは学術的に重要である.前兆現象が出現し,後に続く大規模噴火と関連する場合に,どのようなタイプの前兆現象が起こるのかは非常に興味深い.テフラ堆積物のシーケンスは,前兆期から大規模噴火までの貴重な記録と考えられることから,クッタラカルデラ火山のクッタラ-早来テフラ(Kt-Hy)を対象として,現地地質調査,粒度分析,XRF分析,EPMA分析により,その噴火推移を調べた.59-55 kaのKt-Hy噴火は,近傍相において初期のサブプリニー式噴火(LpfaおよびLpdc),その後のマグマ水蒸気噴火(MpdcおよびUpdc)までのシーケンスが記録されている.Lpdc-Mpdcユニットは,谷埋め型の火砕物密度流堆積物である.その後,発泡度の低い珪長質マグマが,希薄な火砕物密度流として広く拡がった(Updc).これらの噴火シーケンスの変化と堆積相の詳細な解釈に基づき,MpdcとUpdcの給源火口は,各々成層火山の南麓と現在の山頂カルデラ周辺と推定された.クッタラカルデラ火山では,成層火山体の形成時期について,議論があった.本研究による近傍-遠方堆積相と,移動する火口位置の証拠から,成層火山がKt-Hy期にも成長したことが示唆された.成層火山を含めたKt-Hy噴出物の推定総噴出量は,最大で7-8 km3 DREとなる.Kt-Hy噴火は,火口の移動とマグマ水蒸気噴火で特徴づけられ,円錐の成層火山体で,カルデラを伴うタイプにおける前兆期の特徴とよく一致している.Kt-Hy噴火に続く54 kaの大規模珪長質噴火(Kt-3)には,岩石学的な類似性がみられ,これらのことから,大規模珪長質マグマの早期貯留の可能性が示唆された.
著者
高田 亮 大島 治 荒牧 重雄 小野 晃司 吉田 克史 梶間 和彦
出版者
The Volcanological Society of Japan
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.233-250, 1992-11-15 (Released:2017-03-20)
参考文献数
34
被引用文献数
1

The subaerial history of Aogashima volcano (about 3 km3 in volume) was studied. The sequence of volcanic activity is summarized as follows: the growth of Kurosaki volcano (0.3 km3 in volume; basalt>andesite) in the northwestern area of Aogashima island; the construction of the main edifice of Main stratocone (basalt≫andesite) in the southeastern area; the fissure eruptions of Aphyric basalts (<0.1km3 in volume) on the northwestern flank; a surge activity (Ojiroike surge deposits) (basalt>ndesite) at about 3,000 y.B.P.; the eruptions of Kintagaura lavas (0.15 km3 in volume) filing the Southeasern basin, and airfalls (Yasundogo airfalls tephras) (0.4 km3 in volume; basalt>andesite) on the east and north flanks 3,000-2,400 y.B.P.; the occurrence of a debris avalanche (Nagashizaka debris avalanche deposits) associated with the formation of the Ikenosawa crater (1.7 km×1.5 km insize); the Tenmei (A.D. 1781-1785) eruption (0.08km3 in volume; andesite). Based on the historical records and the geological data obtained in this study, the sequence of the Tenmei eruption is restored as follows: according to historical records, a small ash eruption occurred in 1781; in 1783, the Tenmei eruption began with an explosive scoria effusion (Tenmei airfall tephras 1) associated with cone building (Maruyama pyroclastic cone); in 1785, ash fall continued intermittently for more than one month (Tenmei airfall tephras 2); finally, the Ikenosawa crater was filled with lava flows (Tenmei lavas 1 and 2). During the development of Aogashima volcano, magma paths were shifted over a distance of about 4 km. Some geological units derived from different magma paths have different, parallel trends of chemical composition in SiO2 vs. oxide diagrams. The chemical composition of magma changed with the shift in magma path. Each trend consists of a combination of plagioclase accumulation and crystallization. The magma-supply rate of Aogashima volcano was fluctuating in time and space with the growth of each geological unit, which may have led to the generation of andesite magma.
著者
宮城 磯治 圦本 尚義
出版者
The Volcanological Society of Japan
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.349-355, 1995-10-31 (Released:2017-03-20)
参考文献数
32
被引用文献数
4

日本を含む島弧の火山では,しばしば爆発的な噴火が見られる.マグマ中の揮発性成分(主に水)の飽和・発泡・膨張にともなうマグマの急激な放出が,それらの要因である.火山噴火の理解の為には,マグマ含水量,マグマヘの水の溶解度,そして噴火時の脱水過程を理解する必要がある.しかし,噴出時の脱水のため,噴出前の含水量を火山岩から読みとることはきわめて困難である.これまでのところ,斑晶中のガラス包有物の含水量を分析することが,マグマ含水量を見積もるための最も有効な手段であると考えられる.ただし,斑晶中のガラス包有物の大きさは通常直径100μm以下であるため,微小領域の正確な含水量測定法が必要である.そこで本研究では,二次イオン質量分析計を用いた含水量分析の手法を開発した.これまでの研究により,ガラスの組成が異なると水素の二次イオン生成率も変化することが知られており,この手法の問題点であった.しかし本研究では,ガラスのシリカ濃度を用いてその生成率が補正できることを示し,この問題点を克服した.これにより玄武岩質〜流紋岩質ガラスの微小部分(半径約5μm)の含水量を正確(約±0.5wt.%)に分析する手法が確立された.この手法の応用として姶良カルデラの約2万2千年前の噴出物から取り出した斑晶メルト包有物の分析を行ったところ,5~7wt.%の含水量が示された.これはAramaki(1971)の水熱合成実験により得られている水分圧と水の溶解度から推定される含水量と良く一致する.
著者
山本 圭吾 園田 忠臣 高山 鐵朗 市川 信夫 大倉 敬宏 吉川 慎 井上 寛之 松島 健 内田 和也 中元 真美
出版者
The Volcanological Society of Japan
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.137-151, 2013-03-29 (Released:2017-03-20)
参考文献数
14

桜島火山の活動に伴う最近の桜島および姶良カルデラ周辺域における地盤上下変動が,2007年10月-12月,2009年11月,2010年4月および11月と行われた精密水準測量の繰返し観測によって明らかとなった.姶良カルデラ周辺の地盤は,1996年から2010年までの期間において,それ以前の1991年から1996年までの期間に得られていた結果と同様に,カルデラ内部を中心として隆起したことが確認された.球状圧力源(茂木)モデルに基づく解析を行った結果,1996年-2010年の期間において,姶良カルデラ中央部地下の深さ8.8km-10.8kmに増圧源の存在が推定された.この期間,姶良カルデラ地下に推定されるマグマ溜りにおいてマグマの貯留が進行したものと考えられる.2007年-2009年の期間においては,桜島北部地下の深さ4.3kmに増圧源の存在が推定された.このことは,姶良カルデラの深さ10kmから桜島の浅部方向へのマグマの移動が生じた可能性を示唆するが,そのマグマの移動量は小さい.姶良カルデラ地下におけるマグマの貯留は,桜島火山の山頂噴火活動が静穏化した1991年頃から継続している.2009年以降,昭和火口における噴火活動が活発化する傾向にあるが,観測された地盤隆起の継続は,噴火活動が活発化しつつある2010年11月の時点においても姶良カルデラ地下においてマグマの供給量が放出量を上まっていることを示唆している.計算された増圧源において見積もられた容積増加量および観測降下火山灰量に基づき見積もられたマグマの放出量を考慮すると,1991年から2010年までの期間において姶良カルデラの地下に約1.2×108m3のマグマが新たに蓄積されたことが推定される.また,マグマの蓄積に伴う桜島北部付近の2010年11月の時点における地盤隆起量は,1970年代および1980年代の活発な山頂噴火活動が開始した1973年頃の状態を回復し更に隆起が継続した状態となっている.これらの結果は,桜島火山の次の大規模噴火活動についての潜在的なポテンシャルを示唆するものと考えられる.
著者
小林 哲夫 早川 由紀夫 荒牧 重雄
出版者
The Volcanological Society of Japan
雑誌
火山.第2集 (ISSN:24330590)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.129-139, 1983-07-01 (Released:2018-01-15)

大隅降下軽石堆積物は, 約22, 000年前に鹿児島湾最奥部で起こった一連の巨大噴火の最初期のプリニアン噴火の産物である.灰白色の軽石と遊離結晶および少量の石質岩片からなる本堆積物は, 全層にわたってほぼ均質な見かけを呈するが, 多くの場合, 上方に向かって粒径がやや大きくなる逆級化層理を示す.層厚分布図(Fig.3)と3種の粒径分布図(軽石の平均最大粒径・石質岩片の平均最大粒径・堆積物の中央粒径;Figs.5, 6, 7)は, いずれも本堆積物の噴出火口が姶良カルデラの南縁, 現在桜島火山の位置する地点付近にあったことを示している.分布軸は火口からN120°E方向に伸びるが, 分布軸から60 km以上離れた地点にも厚く堆積している.又, 堆積物は分布軸の逆方向すなわち風上側にも20 km以上追跡できる.分布軸上で火口から30 km離れた地点での層厚は10 mに達するが, 40 km地点より遠方は海域のため層厚値は得られない.そのため噴出量の見積もりには多くの困難が伴うが, すでに知られている他のプリニアン軽石堆積物の層厚-面積曲線(Fig.4)にあてはめて計算すると, 総体積98 km3(総重量7×1016g)が得られ, 本堆積物は支笏-1軽石堆積物(116 km3)に次ぐ最大規模のプリニアン軽石堆積物であることがわかる.3種の粒径分布図から得られる粒径-面積曲線(Fig.8)は, 噴出速度・噴煙柱の高さ・噴出率などで示される噴火の「強さ」を比較する上で有効である.それにより, 大隅降下軽石噴火の「強さ」はけっして例外的なものではなく, プリニアン噴火の平均あるいはそれをやや上回る程度であったことが判明した.
著者
後藤 芳彦
出版者
The Volcanological Society of Japan
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4-5, pp.137-145, 2011-09-30 (Released:2017-03-20)
参考文献数
22

北海道東部知床半島の天頂山は,安山岩質溶岩からなる小型の火山で,山頂部には北東-南西方向に配列する爆裂火口列がある.本論では,天頂山の爆裂火口列を形成した降下テフラ(Ten-a)の分布と年代を明らかにした.Ten-aテフラは天頂山の山頂部から知床半島の東海岸に分布し,東北東方向に伸長する分布主軸を示す.テフラは,新鮮~変質した安山岩質の石質岩片と新鮮な軽石からなり,マグマ水蒸気噴火の噴出物であると考えられる.テフラ直下の土壌層から得られた放射性炭素年代値は,1930±40 years BP(1960-1810 cal BP)である.天頂山は約1900年前に噴火し,山頂部に爆裂火口列を形成したと考えられる.