著者
山崎 仲道 中塚 勝人 小田 幸人 後藤 芳彦 橋田 俊之 土屋 範芳
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

水および二酸化炭素を金属鉄あるいはニッケルとともに水熱条件にさらすと水と二酸化炭素の両者から酸素が金属に引き抜かれ、結果として水から活性に富んだ水素が発生すると同時に二酸化炭素も活性化する。この両者が反応して有機化合物が生成する。この原理を確認し、平成14年度では反応条件と生成物の解析から中性条件では、一酸化炭素を経由するフィッシャートロプシュ反応を主反応とし、メタンからヘキサンまでのアルカン類の生成を確認した。また酸性条件では酢酸を中心としたカルボン酸の生成を、また金属のかわりにマグネタイトを還元剤として使えば、エタノールの生成をそれぞれ確認した。工業化を考えた場合、メタンおよびカルボン酸を高収量で得られることを見出した。工業化では焼却炉あるいは発電所からの廃ガスを直接利用することになる。14年度では反応のプロセスを探求すると同時に工業化のための大量処理を仮定した流通系の連続処理プロセスの小型テストプラントを作成し、非平衡下での反応を調べた。バッチ式オートクレーブを使った平衡系の反応、いいかえれば理想系での実験に比べて流通型オートクレーブは、自然界での現実の反応に近く、また大量処理のための工業化プロセスの主体をなすものであるが、科学的には未踏領域ともいわれる複雑反応系である。ここでは加熱パイプの内部に旋盤による屑状態の鉄を置き、これに塩酸と二酸化炭素を200℃加熱下で流通させ、生成有機物の気体・液体を相互に分離し、それぞれを分析する方法をとった。マイルドな水熱条件下で水起源の活性水素をつくり、二酸化炭素を同時に活性化せしめ、炭化水素を合成、反応条件による反応選択性の可能性を見出し、ついで収量・収率から流通式の非平衡反応で工業化の可能性を提示するという一連の計画を遂行し、流通式非平衡装置の設計・製作および装置の特性試験を行い、それを使って流通系による工業化の可能性を得ることができた。
著者
東宮 昭彦 後藤 芳彦 檀原 徹 デ・シルヴァ シャナカ
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

[背景・手法] 大規模火砕流を伴うカルデラ形成噴火は,大災害を引き起こすため,的確な事前予測が求められる.それには噴火の準備過程やトリガーの理解が必要であり,適切な対象における詳細な岩石学的分析とマグマ過程推定はその有力手段である.洞爺カルデラ噴火は,新鮮な試料が得られるなど対象として適切であり,さらに火砕流影響範囲内に都市や重要インフラ等が存在することから,その理解は社会的意義も大きい.また,後カルデラ火山として中島と有珠を持ち,後者は日本有数の活火山でもある. 洞爺カルデラには多数の研究例があり(e.g., 鈴木・他, 1970; 池田・勝井, 1986; Machida et al., 1987; Feebrey, 1995; Lee, 1996; 町田・山縣, 1996),大規模火砕流と広域火山灰を150km3以上放出する破局的噴火を約11万年前に起こしたこと,マグマは高シリカ流紋岩マグマであること,などが判明している.しかし,噴出物のユニット区分や対比は研究者ごとに見解が分かれるほか,岩石学的解釈には不適切な点があった.そこで,新たな地質調査に基づき,ユニット区分や対比の見直し,ユニットごとの分布範囲と噴出量推定などを行なった.さらに,全岩化学組成(XRF),火山ガラスおよび鉱物化学組成(EPMA, LA-ICP-MS)の分析,および種々の解析を行ない,噴火推移やマグマ過程を見直した.[結果] 洞爺カルデラ噴出物は下位からunit 1〜6に分けられ,噴出量合計は広域火山灰や海没部分を除き36.8km3以上であった [詳細はGoto et al. (2018)を参照].unit 1は細粒の火山ガラス片からなる降下火山灰層,unit 2, 4, 5, 6は火砕サージ・火砕流堆積物,unit 3はベースサージと降下火砕物の互層である.このうちunit 4やunit 5下部, 6下部は岩塊に富む.本質軽石の大半は白色で,unit 6を除き全岩組成は均質である(SiO2≒77%・K2O≒2.8-3.2%; Feebrey(1995)のopx-HSRに相当).unit 6の本質軽石の一部は灰色や縞状で,全岩組成に2種のバリエーションがある.1つは中島の安山岩組成へと向かうもの(同hb-LSR),もう1つは有珠の流紋岩組成まで伸びるもの(同cum-HSR)である. ガラスおよび鉱物組成も,unit 6でバリエーションが大きい.たとえば斜長石は,An組成の違いからtype-A, -B,-Cに大別できる.このうちtype-A (An≒12)が圧倒的に多い.type-Bは基本的にAn≧90であるが,An≒80のサブグループ(type-B')もみられる.type-Cは,type-C1(An≒20),-C2(≒35),-C3(≒55)に細分され,C2, C3には部分溶融組織がある.直方輝石や磁鉄鉱もほぼ同様のバリエーションを持つ.石英はtype-A,単斜輝石はB',ホルンブレンドとイルメナイトはC2とC3のみにみられた.マグマA(type-A斑晶を持つマグマ;以下同様)は主マグマ溜まりの珪長質端成分マグマ,マグマBは高温苦鉄質マグマ,それ以外は両者の中間的マグマと考えられる.輝石温度計(Putirka, 2008),鉄チタン酸化物温度計(Andersen & Lindsley, 1985),などから見積もった各マグマ温度は,Aが≦800℃,C1, C2, C3, B'が800〜890℃,Bが≧900℃,となった.斑晶の微量元素濃度や累帯構造から,C2, C3, B'は近縁で噴火直前までA, C1と物質的やりとりがない,B'はBを元々の起源とする,C1のみ噴火前にAと相互作用した,といったことが推定できた. type-A斑晶には逆累帯が発達せず,元素拡散の速い磁鉄鉱でも拡散時間は数日以下と短い.一方,type-Bの斜長石や輝石の多くはMgなどが顕著に拡散し,高温マグマ注入から噴火まで数百年程度あった.[推定されるマグマ過程] 洞爺カルデラ噴火は,水蒸気プリニー式噴火(unit 1)で始まり,大量の火砕サージ(unit 2)の放出が続いたが,その後噴出レートが一旦低下して小規模マグマ水蒸気噴火(unit 3)に移行した.しかしほどなくカルデラ陥没が始まり(unit 4),大規模火砕流放出(unit 5, 6)に至った.unit 2放出によるマグマ溜まり圧力低下が,噴出レートの一旦低下とその後のカルデラ陥没を引き起こしたと考えられる. 噴火直前には,主マグマ溜まりにマグマA(高シリカ流紋岩)が大量に蓄積していたほか,C1, C2, C3, B', Bのマグマが存在した.マグマAはマッシュ状マグマ溜まりから珪長質メルトが分離・蓄積したものであろう(e.g., Wolff et al., 2015).高温マグマ(B)は数百年以上前に貫入し,上記マッシュとの相互作用によってマグマC2, C3, B'を生じさせた.マグマAには,噴火直前まで高温マグマの影響が全くなく,マグマ混合は噴火直前〜最中に受動的に生じたと考えられる.噴火のトリガーは高温マグマ注入ではなく,断層運動など外的トリガー(e.g., Gregg et al., 2015)の可能性が高い.噴火末期にみられるマグマ組成のバリエーションは,中島や有珠との関連を想起させ,更なる再検討が必要である.
著者
後藤 芳彦
出版者
The Volcanological Society of Japan
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4-5, pp.137-145, 2011-09-30 (Released:2017-03-20)
参考文献数
22

北海道東部知床半島の天頂山は,安山岩質溶岩からなる小型の火山で,山頂部には北東-南西方向に配列する爆裂火口列がある.本論では,天頂山の爆裂火口列を形成した降下テフラ(Ten-a)の分布と年代を明らかにした.Ten-aテフラは天頂山の山頂部から知床半島の東海岸に分布し,東北東方向に伸長する分布主軸を示す.テフラは,新鮮~変質した安山岩質の石質岩片と新鮮な軽石からなり,マグマ水蒸気噴火の噴出物であると考えられる.テフラ直下の土壌層から得られた放射性炭素年代値は,1930±40 years BP(1960-1810 cal BP)である.天頂山は約1900年前に噴火し,山頂部に爆裂火口列を形成したと考えられる.
著者
後藤 芳彦 佐々木 央岳 鳥口 能誠 畠山 信
出版者
特定非営利活動法人日本火山学会
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.461-472, 2013-09-30 (Released:2017-03-20)

北海道クッタラ火山登別地熱地域,大湯沼の北東200m地点において,トレンチ調査(深さ6.3m)を行い,登別地熱地域の噴火史を解明した。トレンチ断面の層序は,12層の水蒸気噴火堆積物(厚さ3-100cm)と,それらに挟在するB-Tmテフラ,Us-bテフラからなる。12層の水蒸気噴火堆積物は,変質したデイサイト質石質岩片(最大粒径80cm)と粘土質のマトリクスから構成され,サグ構造を示すことから,登別地熱地域から噴出したと考えられる。各々の水蒸気噴火堆積物は土壌層を挟在し,12回の噴火が休止期を挟んで繰り返し起きたことを示す。水蒸気噴火堆積物の直下土壌層の放射性炭素年代測定値,および広域テフラとの対比により,水蒸気噴火は,約BC6450年,BC5370年,BC3980年,BC3440年,BC1990年,BC1710年,BC1280年,BC900年,BC200年,AD980年,AD1480年,およびAD1663年以降に起きたと推定される。登別地熱地域では,過去8500年間に12回以上の水蒸気噴火が起こり,噴火の頻度は700年に1回程度であると考えられる。
著者
後藤 芳彦 松塚 悟 亀山 聖二 檀原 徹
出版者
特定非営利活動法人日本火山学会
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.17-33, 2015-03-31

我々は,北海道洞爺カルデラ中島火山の火山地質を明らかにするため,ヘリコプター搭載型の高分解能レーザースキャナを用いたレーザーマッピングと,地表地質調査を行った.レーザーマッピングは中島の全域を含む3×3kmで行い,計測データから3次元のデジタル地形図を作成した.地表地質調査は3次元デジタル地形図を用いて中島の全域で行い,詳細な産状記載と岩石記載を行った.デジタル地形図と地表地質調査から,中島の詳細な火山地質と形成史が明らかになった.中島は,デイサイトおよび安山岩質マグマが噴出して形成した8個の溶岩ドーム(東山ドーム,西山ドーム,北西ドーム,北山ドーム,南西ドーム,観音島ドーム,弁天島ドーム,饅頭島ドーム),デイサイトマグマが湖底堆積物を押し上げて形成した潜在ドーム(北東岬ドーム),およびデイサイト質のマグマ水蒸気噴火により形成したタフコーン(東山火砕丘)からなる.中島の北東部と南西部には,泥岩と砂岩からなる湖底堆積物が分布しており,中島の火山活動がカルデラ底の隆起を伴ったことを示す.中島は,洞爺カルデラ中央部のリサージェントドームの形成と,それに伴うデイサイト〜安山岩質マグマの噴出により形成されたと考えられる.高分解能レーザースキャナによる地形計測と3次元デジタル地形図を用いた地質調査は,火山地質の解明に極めて有効である.
著者
後藤 芳彦
出版者
特定非営利活動法人日本火山学会
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.137-145, 2011-09-30

北海道東部知床半島の天頂山は,安山岩質溶岩からなる小型の火山で,山頂部には北東-南西方向に配列する爆裂火口列がある.本論では,天頂山の爆裂火口列を形成した降下テフラ(Ten-a)の分布と年代を明らかにした.Ten-aテフラは天頂山の山頂部から知床半島の東海岸に分布し,東北東方向に伸長する分布主軸を示す.テフラは,新鮮〜変質した安山岩質の石質岩片と新鮮な軽石からなり,マグマ水蒸気噴火の噴出物であると考えられる.テフラ直下の土壌層から得られた放射性炭素年代値は,1930±40 years BP(1960-1810 cal BP)である.天頂山は約1900年前に噴火し,山頂部に爆裂火口列を形成したと考えられる.
著者
後藤 芳彦 合地 信生
出版者
特定非営利活動法人日本火山学会
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.37-50, 1991-04-15
被引用文献数
2

Quaternary subaqueous volcanic rocks are widely distributed in the Shiretoko Peninsula, Northeast Hokkaido, Japan. They are composed of andesitic to basaltic hyaloclastites, which are associated with comagmatic dykes and epiclastic volcanic breccias. The geology, petrography and major element compositions of these volcanic rocks from the Cape Shiretoko area were examined to reconstruct the submarine volcanoes in the area. The volcanic rocks in the area are composed of hyaloclastites and epiclastic volcanic breccias. Hyaloclastites are divided into two types. One is composed of pillows with concentric fractures and angular fragments in a cogenetic matrix, and the other is composed of angular fragments in a cogenetic matrix. Epiclastic volcanic breccias are composed of subrounded to rounded volcanic fragments in a fine matrix. These volcaniclastic rocks are overlapped one another, and form two dome structures which are intruded by radial swarms of comagmatic dykes. One of the radial dyke swarm has a volcanic neck in the center. These facts are suggestive of two submarine volcanic cones with radial dyke swarms. The authors revealed two submarine polygenetic volcanoes which have been formed by island arc volcanism with a wide range of composition (SiO_2 = 48 - 65 wt%) during the early to middle Pleistocene.