著者
やまだ ようこ 木戸 彩恵
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.7-24, 2017 (Released:2020-07-10)

「かわいい」という感性は,現在では日本だけではなく国際的に注目されるようになったが,直感で感じるものなので概念で説明することは難しい。本研究では日常生活の実感から出発してボトムアップにモデル化し,学問的に説明するメディアミックスの質的研究方法論として,「異種むすび法」をデザインした。この方法は,「ビジュアル・ナラティヴ」「異種雑居」「両行」「異種むすび」という4つのコンセプトと,それらを実践する「はなれ」「かさね」「うつし」「ずらし」「むすび」5つのアクションからなる。「異種むすび法」を用いて,「かわいい」と集められた92個の同一画像データを,3人の分析者が両行(併行)して「ビジュアル」と「言語」を往還して3つの図解をつくった。3つの図解を「ずれのあるかさね」によって,「かわいい」画像の共通特徴をとりだした。「顔と表情」「丸く柔らかい」「しぐさと動作」「雰囲気と空間配置」などの共通性をまとめて「超かわいい」シミュレーション画像モデルを作成した。さらに分析者の観点の多様性やずれに着目して,「似たものが並ぶ」「つつまれた入れ子」など,今後の理論的問いへと発展する新しい視点を見いだした。
著者
川喜田 二郎 松沢 哲郎 やまだ ようこ
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.6-28, 2003 (Released:2020-07-05)

フィールド科学と質的方法論の開拓者であるKJ 法創始者の川喜田二郎さん(1920- )にインタビューをし,現場の語り口を生かして要点をまとめた。KJ 法の発想の原点には,今西学派の特徴である未知への冒険精神と,生きた世界に実践的に関与しながら認識するという根本姿勢があった。方法論の基本的特徴には,次の6 点があげられた。1)現場取材と創造的総合の二つからなるフィールド科学。2)ありのままのデータからボトムアップで認識する方法論。3)フィールドノートではなくカード記述によって自由で多様な組み合せの可能性。4)意味を重視した文章見出しの多段階使用。5)雑多なデータを図解化によって統合。6)図解化と言語化による提示と衆目評価による合意形成。
著者
菅野 幸恵 北上田 源 実川 悠太 伊藤 哲司 やまだ ようこ
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.6-24, 2009 (Released:2020-07-07)

本論文は,奈良女子大学で行われた日本質的心理学会第 4 回大会におけるシンポジウムの内容を収録したものである。北上田氏は,沖縄での平和ガイドの実践経験から,非体験者が過去の出来事とどのように出会うのかという体験の創出を重視した,伝えながら共に学ぶガイドのあり方について述べた。実川氏は,水俣展を開催した経験から,自由に足を運びやすい展覧会という場の可能性,聞く側の準備の必要性について述べた。ふたりの話題提供に対して,質的心理学の立場から,伊藤哲司氏,やまだようこ氏がコメントを行った。伊藤氏はベトナムやタイでのフィールドワークの経験から,あえて語らないことの意味についてコメントした。やまだ氏はナラティヴの立場から,2 氏の実践のあり方と語り手と聞き手の関係をむすぶメディエーターの役割を重視した協働の学びのトライアングルモデルとの関連について述べた。最後に,“語り継ぐ”ことについて,双方向性,メディエーターを通した個別の体験のむすび,語らないことの意味から考察した。
著者
木戸 彩恵 やまだ ようこ
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.244-253, 2013-03-30 (Released:2013-05-24)
参考文献数
24
被引用文献数
1

本研究では,ナラティヴ・アプローチを用いて化粧をする行為者にとっての場所性と化粧行為の対話性について検討する試みを行った。4名の美容職従事者(23~61歳)を対象に,複数回のライフ・ストーリー・インタビューを行い,各々の場所性と化粧行為の連関をモデル化した。第一段階では,調査協力者の語りから,宛先となる場所と化粧プロセスの相違をモデル化し,次に,宛先となる場所を人生の年輪モデル(やまだ・山田,2009)を用いてモデル化した。結果として,1)化粧行為のプロセスと宛先となる場所のあり方は他者との複合的な関係において多重に構成されること,2)化粧行為の意味は個別の経験に基づき組織化され、行為者のあり方とともに変容していくことを明らかにした。これらの結果から,化粧行為の重要な役割は行為者のあり方に変容をもたらすことであるという新たな化粧研究への示唆が得られた。
著者
やまだ ようこ
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.93-114, 2005 (Released:2020-07-05)

本研究では,イギリスの墓地で観察した墓碑銘の事例を基に,「家族ライフストーリーが語られる場所としての墓地」という新しい見方を提示する。第1 には,家族ライフストーリーが語られる「記憶の場所」としての墓地という観点から,死者が亡くなって100 年以上たつ古い墓碑を観察し,ハワーズ,ヨーク,オックスフォードの19世紀末の家族墓碑銘を分析した。第2 には,生者と死者のコミュニケーションが生々しく進行している「喪の場所」としての墓地という観点から,現代ヨークの市営共同墓地を観察し,特に親や子が死者に語りかける言語的・非言語的メッセージに注目して分析した。本研究の新しい視点は,従来のライフストーリー研究や生涯発達研究の視点とは異なり,「個人の人生」中心の視点から解き放ち,家族関係,世代間連関,生者と死者の関係などの関係性に焦点をあてて「家族ライフストーリー」を見ること,また人生や生の物語(ライフストーリー)を「死の物語」の側から見ることである。墓地の家族ライフストーリーには,少なくとも3 つの心理学的機能があると考えられた。1)個人の人生が逆方向に死を基点として「死」の側から凝縮して語られる,2)愛する親子という家族物語が繰り返し連鎖的に親近性のある世代によって語られる,3)生者から死者へ,そして過去世代から未来世代へ,世代や生死を超えた長い時間軸のコミュニケーションが行われる。
著者
やまだ ようこ
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.174-194, 2007 (Released:2020-07-06)

質的研究の新たな方法論として「質的研究の対話的モデル構成法(MDMC)」を提案し,その前提となる理論的枠組モデルを構成し,次の 3 つの観点から考察した。1)多重の現実世界と対話的モデル構成:現実世界は一つではなく,多重の複数世界からなり,研究目的によってどのような世界にアプローチするかが異なる。対話的モデル構成がアプローチする世界は,「可能的経験世界」と位置づけられる。他の「実在的経験世界」「可能的超越論世界」「現実的超越論世界」との対話的相互作用が必要である。2)多重のナラティヴのあいだを往還する対話:ナラティヴ研究者がアプローチする現 場 フィールドとナラティヴの質の差異も多重化すべきである。そこでナラティヴの現場を「実在レベル:当事者の人生の現場」「相互行為レベル:当事者と研究者の相互行為の現場」「テクスト・レベル:研究者によるテクスト行為の現場」「モデル・レベル:研究者によるモデル構成の現場」に分けて,それらを対話的に往還する図式モデルを構成した。3)「ナラティヴ・テクスト」と「対話的省察性」概念:対話的モデル構成において根幹となる二つの概念について,研究者がテクストと対話的に「語る」「読む」「書く」「省察する」行為と関連づけて考察した。テクストは,文脈のなかに埋め込まれていながら,相対的に文脈から「はなれる」(脱文脈化・距離化)ことによって,新しい「むすび」をつくり,物語の生成を可能にする。
著者
やまだ ようこ 山田 千積
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.25-42, 2009 (Released:2020-07-07)

質的研究の課題は,ローカルで一回的という「現場」の特徴を重視しながら,複数の「現場」に共通する一般化可能な「知」をどのように生成するかにある。本論では,「場所」モデルを基本にして,ナラティヴと多声的対話概念を関連づけた多様なモデル構成によって,その課題に応えようとする。「場所」モデルは,自己や他者を「個人」という独立概念ではなく,「場所」に埋め込まれた文脈依存的概念で考えるところに特徴がある。「ナラティヴ場所」対話モデルは,場所に含まれる人間の相互行為に着目するもので,1)入れ子モデル,2)二者対話モデル,3)三者対話モデル,4)多声対話モデルの 4 種類を提示する。「異場所と異時間」対話モデルは,文化的文脈と歴史的・時間的変化の両方を視野に入れるもので,5)場所間対話モデル,6)人生の年輪モデル,7)クロノトポス・モデルの 3 種類を提示する。これらのモデルは次のような特徴をもつ。理論枠組を単純化することによって,ローカルな現場の多様な現実にあわせて具象化しやすくできる。複数のモデルを使うことで,研究目的に応じて多種のモデルを組み合わせることができる。モデル間を有機的に関係づけることによって,モデルの生成的変形を発展させることができる。
著者
やまだ ようこ
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.146-161, 2000
被引用文献数
7

この論文では, 最近のライフストーリー研究を展望し, 特に生涯発達心理学の観点から, 理論的・方法的問題を論じる。第1に, 「物語」は「2つ以上の出来事をむすびつけて筋立てる行為」と定義される。人生の物語とは, 意味づける行為であり, 人生経験の組織化である。第2に, 人生の物語は, 静態的構造ではなく, 物語の語り手と聴き手によって共同生成されるダイナミックなプロセスとしてとらえられる。特に, 物語の「語り直し」は, 人生に新しい意味を生成する行為として重要だと考えられる。私たちは, 過去の出来事を変えることはできないが, 物語を語り直すことによって, 過去の出来事を再構成することが可能になるからである。第3に, 「物語としての自己」の概念は, アイデンティティやジェネラティヴィティ(生成世代性)の概念と関連づけられる。人生の物語を語ることは, 現世代から, 次の世代や未来世代へのコミュニケーションの重要な道具となる。
著者
やまだ ようこ
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.21-42, 2008 (Released:2020-07-06)
被引用文献数
1

質的研究における「対話的モデル生成法(DMPM)」の基礎作業の一環として,次の観点から理論的検討を行った。(1) バフチンの対話原理から 4 つの革新的概念を整理し,特に「対話と差異」「多声性とテクスト」概念と関連させて検討した。(2) バフチンの対話原理をさらに発展させ,筆者の「多声テクスト間の生成的対話」概念を提示した。特に現代思想における「差異」を「生成」に変換する議論をもとに,ドゥルーズの「生成」概念と筆者の「両行 りょうこう」概念,デリダの「差延」概念と筆者の「はなれる」概念を関連づけて考察した。さらに,「多声テクスト間の対話」に関して,クリステヴァの「間テクスト性」「ポリローグ」概念とコンピュータ科学の「ハイパーテクスト」概念をむすびつけた。(3) 全体の議論のもとになる世界観と方法論を 3 つのモデル「ツリーモデル」「リニアモデル」「ネットワークモデル」によって提示し,「多声テクスト間の生成的対話」概念を,ネットワークモデルに位置づけた。
著者
大橋 英寿 やまだ ようこ
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.6-15, 2005 (Released:2020-07-05)

質的心理学を開拓してきた,世代,専門,性を異にする二人の研究者が,自分自身の長年の研究の「来し方」をふまえて,今後の質的心理学の「行方」,研究の方向性や問題点について対談した。おもな対談内容は,以下のようであった。 1)複雑多岐の要因が連関するフィールドワークと質的研究との深い関係性。2)質的心理学の理論的・方法的位置づけ を明確にし,発表の場をつくっていく必要性。3)研究者だけではなく相手にとっても重要なテーマを研究することと相手の琴線にふれるインタビューを行うための事例の積重ね。4)イーミックな視点の重要性と,他の視点との交差の必要性。5)対象者の主体性と事例の匿名性への疑問。6)旅日記的な事例記述に終わらず,一般化できる研究へ向かう方略。
著者
やまだ ようこ
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.146-161, 2000-03-30 (Released:2012-12-11)
参考文献数
90
被引用文献数
9 7

この論文では, 最近のライフストーリー研究を展望し, 特に生涯発達心理学の観点から, 理論的・方法的問題を論じる。第1に, 「物語」は「2つ以上の出来事をむすびつけて筋立てる行為」と定義される。人生の物語とは, 意味づける行為であり, 人生経験の組織化である。第2に, 人生の物語は, 静態的構造ではなく, 物語の語り手と聴き手によって共同生成されるダイナミックなプロセスとしてとらえられる。特に, 物語の「語り直し」は, 人生に新しい意味を生成する行為として重要だと考えられる。私たちは, 過去の出来事を変えることはできないが, 物語を語り直すことによって, 過去の出来事を再構成することが可能になるからである。第3に, 「物語としての自己」の概念は, アイデンティティやジェネラティヴィティ (生成世代性) の概念と関連づけられる。人生の物語を語ることは, 現世代から, 次の世代や未来世代へのコミュニケーションの重要な道具となる。