著者
木村 真三 三浦 善憲 クマール サフー・サラタ 遠藤 暁
出版者
獨協医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、経済的・政治的理由からチェルノブイリ汚染地域に取り残された住民の健康影響を調査するため環境放射能調査、食事調査、罹患率調査を行った。その結果、事故当時、土壌汚染レベルから空間線量率は350μSv/h~5μSv/hと推定された。内部被ばくの汚染ルートは、牛乳、キノコ、ベリー類であり、僅かではあるがパンも汚染源のひとつであった。また、これらの地域では汚染度の違いにより、汚染が高いほど妊婦の貧血が有意に上昇していることが確認された。
著者
白石 久二雄 サフー サラタ・クマール 幸 進 木村 真三
出版者
独立行政法人放射線医学総合研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

1986年のチェルノブイリ事故は世界に与えた環境汚染程度ならびにその後の放射線被ばくによる健康影響についても大きなインパクトをのこした。多くの研究が実施され結果も報告されているが、本研究では汚染地域を含むウクライナ国民の健康維持の観点から、放射性核種ならびに非放射性核種の摂取量について研究し、他の要因との関連性を、特に"住民の元素摂取量"に関連した健康影響因子に関して調査・解明を現地研究者と共同で行った。食事試料は陰膳方式で約300試料をウクライナ全国(25洲)から収集した。牛乳等の主要食品試料も収集した。試料は化学処理後、微量元素(I, U, Th, Co, Cs, Sr, Rb, Ba, Tl, Bi等)並びに主要、中間元素(Na, K, Ca, Mg, P, Fe, Mn, Cu, Zn等)をICP-MS(誘導結合プラズマ・質量分析法)ないしICP-AES(誘導結合プラズマ・発光分光法)にて定量した。灰化した試料については放射性核種(^<134>Cs, ^<137>Cs, ^<40>K等)の分析をγ-スペクトロメータで測定した。ウクライナ人の一日摂取量はBa O.51mg, Bi O.37μg, Br 3.Omg, Ca O.70g, Cd 8.0μg, Co 9.7μg, Cr 113μg, Cs 3.8μg, Cu O.70mg, Fe 7.9mg, 145μg, K 2.9g, Mg O.25g, Mn 2.3mg, Na 4.1g, P 0.99g, Pb 33μg, Rb 2.2mg, Sr 1.9mg, Tl 0.37μg, Zn 6.6mg, ^<60>Co ND-0.28 Bq, ^<134>Cs N.D.-0.59Bq, ^<137>Cs 0.5-570 Bq, ^<40>K 89 Bq, ^<226>Ra N.D.-11mBq, ^<232>Th 2.1mBq, ^<238>U 12mBqであった。日本人や世界の報告値と比較すると、Br, Cu, I, Mn, Znの摂取量が低い。元素間の相関を調べた所、高い相関を示す物もあり、環境汚染時を含めた食物連鎖における元素挙動の観点から重要である。興味が持てる。ウクライナには克山病やモリブデン毒等の著名な風土病はみあたらないが、特に、ヨウ素摂取量は栄養所要量、100μg以下であり、平素からの欠乏状況とチェルノブイリ事故の甲状腺異常との因果関係があると推察された。これらの精度の高い莫大なデータはウクライナの研究者から重要なデータとして賞賛を受けた。今後の事故対策、栄養・医学研究に役立つ基礎データを本研究で提供することができた。
著者
神馬 征峰 木村 真三
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

原子力災害後、被災者はどのような心理社会的健康影響を受けるのか。日本でも世界でも学術的研究は少なく、その影響要因はほとんど明らかになっていない。本研究では、2011年3月に発生した福島第一原発事故の現場で、質的・量的調査の両手法を用いて、その要因を特定する。「放射線による健康不安」に着目し、一人ひとりの被災者や避難者が抱える不安を具体的かつ系統的に把握できる尺度(質問票)の開発を行うのが最初の目的である。次に、開発された尺度によって、精神健康指標をはじめとする健康状態と健康不安との関連を探索する。今後、原子力事故を含む同様の複合災害が発生した場合にも起こりうる心理社会的影響の予防や長期化した時のあり方について具体的に提言することを目指す。本研究は、三段階で構成される。1) 「放射線による健康不安」を把握するための尺度開発にあたり、質的手法を用いて被災者のインタビュー調査を行い、情報収集を行う。2) インタビュー調査で得られた内容に基づき、福島版「放射線による健康不安」尺度の開発を行う。3) 更に、開発された尺度を用いて、精神健康指標をはじめとする健康状態との関連を探索する。研究初年の26年度においては、避難生活を続ける高齢者を主な対象として、インタビュー調査を実施した。27年度においては、別の対象(母親、子供等)にインタビューを実施しながら、入手した情報の整理を行い、尺度開発を進めている。28年度においては、インタビューで得られた内容を、チェルノブイリ原発事故被災地のウクライナで開発され、使用されている「放射線被ばくによるPTSD尺度」及び、その他関連のある尺度等を参考に福島避難者用の尺度の作成を行った。29年度においては、国内での調査の一部を実施。また、尺度が長期的に使用可能かを調査するため、チェルノブイリ原発事故被災地における聞き取り調査を実施した。
著者
今中 哲二 川野 徳幸 竹峰 誠一郎 進藤 眞人 鈴木 真奈美 真下 俊樹 平林 今日子 高橋 博子 振津 かつみ 木村 真三 七沢 潔 玉山 ともよ
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

代表者の今中は以前よりチェルノブイリ原発事故の調査を行ってきた。福島原発事故の長期的問題を考えるため、広島・長崎原爆被害やセミパラチンスク核実験被害の調査を行っている川野徳幸、マーシャル諸島での核実験被害調査を行っている竹峰誠一郎らとともに、原子力開発がはじまって以来世界中で発生した様々な核災害の後始末について調査を行った。核災害は、放射線被曝や放射能汚染といった問題にとどまらず、社会的に幅広い被害をもたらしており、その多くは災害が起きてから50年以上たっても解決されないことが示された。得られた成果は2017年11月12日に東京で開催した報告会で発表し、12編の報告を含むレポートにまとめた。
著者
木村 真三
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第40回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.1104, 2013 (Released:2013-08-14)

放射線影響とは,放射線により物質が電離される際に電子軌道より飛び出した自由電子によって細胞やDNAを傷つけることで生じる様々な障害を総称する言葉である。放射線被ばくを考えた場合,外部から放射線にさらされた場合と放射性物質が生体内部に取込まれた場合では,影響が異なるのか否か,まだまだ不明な点が多いのも放射線の難しさのひとつと言える。チェルノブイリでは事故から27年が過ぎた現在でも,汚染地域では汚染食品による内部被ばくが続いている。我々の調査では,高濃度の汚染食品を食べて生活している30歳代男性で58,000ベクレル,預託実効線量に換算して5.2ミリシーベルトだった。近年ウクライナの報告では,心疾患や閉経後の女性の甲状腺がんの増加などが報告されている。科研費番号22406019 H22年度~H24年度「チェルノブイリ被災地をモデルとした原発解体作業に伴う被ばく影響の基礎的研究」(研究代表者 木村真三)でも,成人を対象とした調査結果から,国際疾病分類表ICD-10のカテゴリーより,妊娠,分娩および産褥(単胎自然分娩を除く)等において土地の汚染度と上記疾病に関して有意な値が示された。一方,東京電力福島第一原発事故では,事故発生より3日目には福島県内に入り環境調査を進めながら,高線量地域と知らされずに避難していた浪江町住民を再避難させるなど,事故当初から福島県内の実態を明らかにしてきた。今回は,演者が健康アドバイザーを務める二本松市の外部被ばく,内部被ばくについて報告する。現在の二本松市では,明らかに内部被ばくをしている市民は0.5%程度であり,食事コントロールが成功しているが,事故から2年が過ぎ,市民の危機意識も薄らいで来たために,僅かながら内部被ばくを呈する市民が増え始めている。また,外部被ばくは,H23年度とH24年度の推定年間被ばく線量に変化がなかった。
著者
中野 正博 松浦 弘幸 魚住 裕介 巨 東英 木村 真三 牧野 健一 金 政浩 野田 信雄 小井手 一晴 辺 培 今村 稔
出版者
バイオメディカル・ファジィ・システム学会
雑誌
バイオメディカル・ファジィ・システム学会誌 (ISSN:13451537)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.115-121, 2006-10-20
被引用文献数
5

ナノ磁石の生体内中での振る舞いは全く分かっておらず、直接的な観測を行ってその相互作用の情報を得る必要がある。そこで大型放射光施設SPring8を用いて、色々な媒質中に置かれたナノ磁石の集合体に対して外部磁場を印加し、その条件下でのナノ磁石密度分布の時間変化をSPring8の放射光で観察し追跡することを目的として、本実験を行った。ナノ磁性体は、今回のビームラインでは、約30〜50μm程度の小さな凝集体まで観測できたこと、さらに、ナノ磁性体の凝集体を、外部磁場で誘導できることが結論できる。さらに、キャノーラ油液中で0.5mmの磁性クラスタの外部磁場による移動の観測から、それにかかる力と速度、さらには磁価の推定までを行い、実際の使用時の大きさの条件を明らかにした。
著者
小正 裕佳子 木村 真三
出版者
獨協医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-07-19

原子力災害による被災者への最も大きな影響として、放射性物質による長期の汚染が予測される地域への居住制限が挙げられる。特に帰還困難区域、居住制限区域の高齢者を中心に、心身のストレスによる苦悩や体調悪化(難聴、認知症等)が報告されており、本研究では、こうした高齢者が今後の人生を再構築していくかに必要なエビデンスを構築することを目指している。方法としては、初めに、原発事故被災高齢者が希望と尊厳のある暮らしを取り戻すことができるよう、質的手法により(1)終の住処として安住できる環境に必要な条件、(2)条件が達成される見込みと時期、(3)現在に至るまでの健康状態、について網羅し系統的に分類すること、を目標としている。平成28年度は、対象者の選定が適切かどうかの検討を行うのに時間を要し、同意を得られた人に対して予備的に聞き取りなどを行った。また、背景情報として必要な文献の収集などを同時並行で実施した。平成29年度は、対象となる65歳以上の高齢者のうちの一部で、避難指示が解除された地域に帰還した人への質的調査を開始した。その中で、現在に至るまでの健康状態については、震災・原発事故発生後に、これまでにかかったことがなかったような病気になったと回答した人が複数みられ、その他にも様々な自覚症状があった。一方、避難指示区域の再編や住宅の整備、家族の事情などにより対象となる高齢者が転居しているケースも多いことから、追跡可能な対象者を再度設定して調査を順次行っていく。
著者
木村 真三 三浦 善憲 高辻 俊宏 三宅 晋司 佐藤 斉 遠藤 暁 中野 正博
出版者
獨協医科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

チェルノブイリ原発事故発生から30年後の被災地域において、一年間にわたってホールボディカウンタによる住民の内部被ばく調査、陰膳法による食事調査を行い、関連を分析。内部被ばく調査では、予備調査で最大23,788Bq/body, 本調査で最大7,437Bq/bodyの放射能が確認され、冬季は高く、夏季は低い傾向がみられた。食事調査では、年間合計で1,446サンプルを分析。森林由来のキノコ、ベリー類や牛乳で高い放射能が確認され、最大は乾燥キノコで24,257Bq/kgであった。30年経過時点でも食事から放射性物質を取り込んでいる実態が明らかになり、食生活の観点から被ばく予防を行う必要性が確認された。
著者
今中 哲二 川野 徳幸 木村 真三 七澤 潔 鈴木 真奈美 MALKO Mikhail TYKHYY Volodymyr SHINKAREV Sergey STRELTSOV Dmitri
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

旧ソ連での原子力開発にともなって生じたさまざまな放射能災害について、現地フィールド調査、関係者面談調査、文献調査、関連コンファレンス参加といった方法で実態解明に取り組んだ。具体的には、セミパラチンスク核実験場の放射能汚染、チェルノブイリ原発事故による放射能汚染、マヤック原爆コンビナートからの放射能汚染、原子力潜水艦事故にともなう乗組員被曝といった放射能災害について調査し、その結果を論文にまとめ学術誌に投稿するとともにホームページに掲載した。