- 著者
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三隅 良平
- 出版者
- 社団法人日本気象学会
- 雑誌
- Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
- 巻号頁・発行日
- vol.74, no.1, pp.101-113, 1996-02-25
1993年8月9日の夜, 台風9307が日本の南部に接近し, 大隅半島に多数の土砂災害を伴う豪雨を発生させた. この豪雨の興味深い特徴は, 降水量が山脈の風下側で著しく多かったことである. 山脈風上側の観測地点では9時間雨量が80mmであったのに対して, 風下側では大部分の観測地点で150mmを超えた. また, すべての土砂災害は山脈の風下側に発生した. この豪雨は, 主として台風の眼の壁雲とレインバンドの間の領域でおこった. 豪雨の期間中, 山脈の上層に強いレーダーエコーが頻繁に出現した. 山脈の風下側で降水量が増加する過程を, 2次元モデルによる数値シミュレーションで調べた. シミュレーションの結果は, 降雨が主としてシーダ・フィーダ機構によって強められていたことを示した. すなわち, 上層の雲から落ちてきた降水粒子が, 地形性上昇流によって形成された雲粒を捕捉することによって成長し, 山脈上で成長した粒子が, 台風に伴う強い風によって風下側に運ばれたと考えられる. また別の機構として, 山岳波に伴う下降流が, 局所的に多量の雪粒子を下層に運ぶことも, 風下側の降雨量の増加に寄与していたと考えられる.