著者
大東 忠保 前坂 剛 鈴木 真一 出世 ゆかり 櫻井 南海子 岩波 越
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.99, no.1, pp.101-112, 2021 (Released:2021-02-28)
参考文献数
50
被引用文献数
2

本研究では、非降水雲を検出することのできるKaバンド(波長8.6mm)偏波雲レーダーを用い、2016年5月21日に日本の首都圏に出現した晴天エコーの偏波パラメータを調べた。Kaバンド偏波雲レーダー観測において、晴天エコーと雲形成初期における雲・降水エコーを識別する可能性を確立することが目的である。対象とした日には晴天エコーは明瞭な日変化を示した。日の出前には晴天エコーは見られなかった。日の出以降、等価レーダー反射因子(Ze)は時間とともに増大し、現地時間の正午過ぎにはレーダー観測範囲内において水平方向に広範囲に広がったエコー(最大で>−15dBZ)が生じた。日没以降夜の早い時間帯に、Zeは急激に減少した。RHI(距離高度断面)観測によると晴天エコーは高度1.5kmより下層に限定されていた。晴天エコーのレーダー反射因子差(ZDR)は、現地時間18:00には大きな正の値(1.8dB)を示し標準偏差も大きかった。これは同時に観測された雲や弱い降水のエコーのZDR(0.4dB)と比較するとかなり大きい。雲・降水エコーと比べると偏波間相関係数(ρhv)は小さく(< 0.9)、合計の偏波間位相差(ΨDP)の距離方向の変動は大きかった。Zeの上限値、およびZDRとρhvの分布は、先行研究におけるSバンド(波長10cm)レーダーによって観測されたブラッグ散乱の特徴と矛盾していた。一方で、水平方向に広範囲に広がったエコー、大きなZDRと小さなρhvの値、ψDPの距離方向の大きな変動は昆虫エコーの特徴と一致する。ZDRとρhvを用いて定義される偏波抑圧比は、この種の晴天エコーと雲・降水エコーの識別に有効であると思われる。Kaバンド偏波雲レーダーによって取得される偏波パラメータは、晴天エコーと雲・降水エコーの識別に有用である。
著者
三隅 良平 真木 雅之 岩波 越
出版者
日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.58, no.8, pp.697-704, 2011-08-31
参考文献数
16
被引用文献数
1
著者
真木 雅之 前坂 剛 岩波 越 三隅 良平 清水 慎吾 加藤 敦 鈴木 真一 木枝 香織 Lee Dong-In Kim Dong-Soon 山田 正 平野 廣和 加藤 拓磨 小林 文明 守屋 岳 鈴木 靖 益田 有俊 高堀 章
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.21, pp.11, 2008

次世代の豪雨強風監視システムとして,防災科学技術研究所が複数の研究機関,大学と連携して進めているXバンドレーダネットワーク(X-NET)の概要について述べた.2007昨年度に準備を終了し,2008年と2009年の試験観測を通じて以下の項目に焦点を当てた研究をおこなう.•首都圏上空の雨と風の3次元分布(時間分解能6分,空間分解能は数100m~500m)の瞬時集約と配信.•上記の情報に基づく豪雨域,強風域の検出と監視.•外そう法による降水ナウキャスト,およびデータ同化した雲解像数値モデルによる降水短時間予測.•局地気象擾乱の構造,発生過程,発生機構の理解.•都市型災害の発生予測手法の高度化.•気象学,防災研究,気象教育,建築,都市,交通,電力,通信,情報,レジャー産業などの様々な分野における基礎的な気象データベース作成.
著者
高橋 暢宏 上田 博 菊地 勝弘 岩波 越
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.539-561, 1996-08-25
参考文献数
32
被引用文献数
5

1988年7月に梅雨末期集中豪雨の特別観測(浅井, 1990)が行われ, ドップラーレーダーや時間・空間的に密なサウンディングデータ(〜100km, 3〜6時間)が得られた. 本論文では, 主にドップラーレーダーのデータを用いて梅雨末期の豪雨現象のメソスケールと対流スケールの特徴を下層の風系に着目して解析した. 用いたデータは主に長崎県西海町に設置した北大理学部のドップラーレーダーのデータである. 解析した事例は, 1988年7月17, 18日に観測した梅雨前線に伴う降水イベント, 2例(ケース1, ケース2)である. これら2つのケースともクラウドクラスターに伴う降水イベントであった. 降水はメソスケール現象として現れ, 降水量はケース1, ケース2それぞれ局所的に100mmを超した(例えば, 諌早で3時間にそれぞれ165mm, 104mm). ドップラーレーダーの観測からそれぞれのケースをまとめると, ケース1では大雨をもたらすエコーの組織化の原因としては, 発達したエコーから発生したガストフロントによる梅雨前線帯の収束の強化, 及び梅雨前線上に発達したレインバンドと南西海上で発生した孤立したエコーとの合流によるエコーの発達の効果であった. その結果としてレインバンドは大きく発達した. ケース2では, ケース1の約4時間後にケース1で大雨がもたらされた領域とほぼ同じ所に, 弧状に組織化したエコーによって大雨がもたらされた. エコーの弧状に組織化するプロセスにはやはりガストフロントが重要な役割を果していた. さらに, エコーの組織化の直前に暖かく湿った南西風の流入があり, これもエコーの発達に大きく貢献していた. これらの事例解析から明らかになったメソスケールと対流スケールの特徴は, (1)ガストフロントによる梅雨前線帯の収束の強化, (2)エコー同士の合流によるエコーの発達, (3)メソスケールの場での気温, 降水量のコントラストであった.