- 著者
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中井 精一
- 出版者
- 社会言語科学会
- 雑誌
- 社会言語科学 (ISSN:13443909)
- 巻号頁・発行日
- vol.5, no.1, pp.42-55, 2002-10-31 (Released:2017-04-29)
- 被引用文献数
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畿内型待遇表現法には,これまでの研究から,話題とする第三者の社会的上下に対応して「ハル系(上)→アル系→オル系(下)」を用いるという運用ルールが存在することがわかっている.本論では,そういった運用のルールに加えて,これらの形式の使用に際しては,話題の第三者に対する話し手の認識や評価,感情などが関与していることを明らかにした.とともに,この運用ルールは,人間のみならず,雨などの非情物にも適用されることにも言及した.筆者は,畿内という限定された地域で運用される待遇表現法の考察に際しては,東日本方言型の待遇表現観とは別に,考察の基準を立てる必要があると考える.本論では西日本の中でも特に畿内に認められる特質は,近世以降の資本主義経済発達の中で,上下軸を形成する身分制度と並行して,経済力の多寡がものをいった都市社会を背景として生まれ,歴史的に畿内先進地域と呼びならわされてきた都市と都市周辺地域で認められる,都市言語の特徴であることを示唆するものである.