著者
松尾 浩一郎 谷口 裕重 中川 量晴 金澤 学 古屋 純一 津賀 一弘 池邉 一典 上田 貴之 田村 文誉 永尾 寛 山本 健 櫻井 薫 水口 俊介
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.123-133, 2016-09-30 (Released:2016-10-22)
参考文献数
40
被引用文献数
1

目的:高齢者では,加齢だけでなく,疾患や障害などさまざまな要因によって,口腔機能が低下する。経口栄養摂取のためには,口腔機能の維持は重要な因子と考えられるが,口腔機能低下と栄養状態との関連性についてはまだ不明な点が多い。そこで,本研究では,全身疾患を有する入院高齢患者における口腔機能低下と低栄養との関連性を明らかにすることを目的とした。 方法:対象は,2015年10月から2016年2月までに藤田保健衛生大学病院歯科を受診した入院中の患者とした。対象者の口腔機能,口腔衛生に関する項目および栄養と全身状態に関する項目を調査した。Mini Nutritional Assessment-Short Form(MNA-SF)を用いて,栄養状態を正常群と低栄養群の2群に分類し,口腔と全身の評価項目が栄養状態と年齢で相違があるか検討した。 結果:口腔衛生,多くの口腔機能の項目で,低栄養群で有意な低値を示した。特に筋力系の項目で顕著であった。一方,高齢群においても,若年群と比して多くの口腔機能の項目が低値を示した。また,QOLやADLは,低栄養者および後期高齢群において有意な低下を認めた。 結論:入院高齢患者の低栄養は,多くの口腔機能の低下と関連していた。本結果から,栄養を指標として口腔機能低下を評価することの意義が示唆された。また,入院患者の良好な栄養状態を維持するためには,入院前からの適切な口腔管理により口腔機能が維持されることが重要であると考える。
著者
長澤 祐季 中川 量晴 吉見 佳那子 玉井 斗萌 吉澤 彰 山口 浩平 原 豪志 中根 綾子 戸原 玄
雑誌
一般社団法人日本老年歯科医学会 第31回学術大会
巻号頁・発行日
2020-09-30

【目的】加齢や嚥下障害により,医薬品の服用や食事にとろみ調整食品(以下とろみ剤)を用いることは少なくない。先行研究により,とろみ剤が薬効を減弱させる可能性や,キサンタンガムを含有する濃厚流動食品が,含有しないものと比較して血糖値の上昇を抑制する可能性が報告されている。しかしながら,とろみ剤が栄養の吸収にどのような影響を及ぼすかについては,不明な点が多い。そこで今回,ラットの発育と飼料形態の関連性を検証するために,基礎的研究を実施した。【方法】4週齢雄性SDラットを4〜5匹ずつ4群に分け,液体飼料(C社製),0.5,1,1.5%とろみ調整飼料(液体飼料にとろみ剤・N社製を添加)を用いて,3週間飼育した(A群:液体飼料,B群:0.5%とろみ飼料,C群:1%とろみ飼料,D群:1.5%とろみ飼料)。餌は100kcal/日に揃えすべて経口摂取させ,水は自由摂取とした。液体飼料ととろみ調整飼料の摂取開始翌日をx日として体重を経時的に測定し,体重増加割合(%)を用いて飼育期間中の発育状況の変化を評価した。実験終了時に解剖し肝,腎,精巣上体脂肪重量の測定と血液生化学的検査を行い,体重増加割合(%)とともに各群間で相違があるか統計学的に検討した。【結果と考察】x+7,x+14,x+21日目における体重増加率はA群と比較してD群で低値な傾向を示した。また腎臓重量はA群と比較してD群で有意に低値となり,肝臓,精巣上体脂肪重量は各群間で相異を認めなかった。血液生化学検査では,TG(mg/dL)がA群と比較してC,D群で有意に低値を示した。本研究結果より,液体飼料と比較してとろみ剤を添加した飼料は体重増加および腎臓重量の増加を制限する可能性があり,脂質代謝の状態を反映している血中TG濃度を有意に低下させることが明らかとなった。これはショ糖食投与ラットに対するグアガム-キサンタンガム混合物の血中脂質低下効果の報告と同様の結果である。とろみ剤が含有するキサンタンガムは高粘性の難消化性多糖類であり,腸管上粘質性糖タンパク質と混ざり合い被拡散水層の厚さを増すことが吸収阻害の要因の一つと考えられる。また今回与えた液体飼料は25kcalが脂質であり脂質の吸収抑制により総カロリー数が減少し体重増加率の減少が起こったと示唆される。(COI開示:なし)(東京医科歯科大学動物実験委員会承認 A2019-270A)
著者
松尾 浩一郎 中川 量晴
出版者
一般社団法人 日本障害者歯科学会
雑誌
日本障害者歯科学会雑誌 (ISSN:09131663)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.1-7, 2016 (Released:2016-06-30)
参考文献数
12
被引用文献数
1

目的:Chalmersらによって開発されたOral Health Assessment Tool (OHAT)は,看護,介護スタッフが障害者や要介護者の口腔問題を簡便に評価するための口腔スクリーニングツールである.評価項目は,口唇,舌,歯肉・粘膜,唾液,残存歯,義歯,口腔清掃,歯痛の8項目が,健全から病的までの3段階に分類される.今回われわれは,口腔スクリーニングツールとして再現性と妥当性が示されているOHATの日本語版(OHAT-J)を作成し,その信頼性と妥当性を検討した.方法:介護福祉施設入居者30名(平均年齢83.0±8.5歳)および某大学病院神経内科入院中の患者30名(平均年齢69.4±13.3歳)を対象とした.両施設で,歯科衛生士(DH)と看護,介護スタッフがOHAT-Jを用いて対象者の口腔内を評価した.信頼性評価のために,DHによる評価を基準とし,各評価者とDHの評価点数との一致率とκ係数を求めた.また,外的妥当性を評価するために,他の口腔評価尺度との相関をSpearmanの順位相関係数を用いて検討した.結果:信頼性の検討では,唾液や軟組織では平均75%以上の一致率を認めたが,介護福祉施設では口腔清掃の項目が平均50%程度の一致率であった.他の口腔評価指標との相関は0.39~0.97と,すべての項目で中等度以上の有意な相関を認めた(p<0.05).結論:本結果よりOHAT-Jは,信頼性と妥当性を有することが示され,施設や病院などでの要介護者や障害者への口腔スクリーニングツールとして使用できることが示唆された.
著者
長澤 祐季 原 豪志 中川 量晴 豊島 瑞枝 奥村 拓真 戸原 玄
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.142-149, 2020-09-30 (Released:2020-10-25)
参考文献数
22

2020年3月以降,本邦において新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は増加しており,歯科医療においても感染対策の指針が多方面から出されている。そのなかにオンライン診療の推進が含まれる。歯科医療において感染防止を目的としたオンライン診療の報告はまだない。今回われわれは,感染症拡大期に直接対面での診療の代替手段としてオンライン診療を実施し,高齢口腔癌術後患者の食事支援を行ったので報告する。 患者は86歳女性,左上下顎歯肉癌術後,右頸部リンパ節転移のため当院に入院していた。退院後も嚥下障害が遷延し,嚥下障害に対する外来での指導を継続していたところ,COVID-19感染拡大が深刻化し通院が困難になったことから,オンライン診療による代替を行った。歯科医師側に管理栄養士が同席し,患者側にオンライン支援者として義娘が同席した。オンライン診療では,支援者に実際の昼食をリアルタイムで撮影してもらい,それに基づいて,食事量,形態,摂取方法などを助言した。また,歯科医師側の管理栄養士が患者からの栄養摂取に関する相談に対応した。 オンライン診療は,患者の感染リスクや通院時間などの身体的負担を軽減することが利点であった一方,情報通信機器の導入などの課題が挙げられた。 感染症流行期の特措的手段として情報通信機器を用いた代替法が実施可能であり,摂食嚥下リハビリテーションを含む食事支援においてオンライン診療は実用可能であることが示唆された。
著者
並木 千鶴 原 豪志 中川 量晴 山口 浩平 Chantaramanee Ariya 小西 恵巳 吉見 佳那子 中根 綾子 戸原 玄
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.41-51, 2020-06-30 (Released:2020-07-23)
参考文献数
32

目的:在宅などでの摂食嚥下リハビリテーション(嚥下リハ)は,多職種で連携することが効果を高めると認識されてきている。しかし,生活期における多職種連携による嚥下リハの効果を縦断的に検証した報告は少ない。本研究では,生活期の高齢摂食嚥下障害患者を対象とし,嚥下リハ前後のリハ効果の検証と,訪問歯科単独と多職種連携した場合との間に嚥下リハ効果に相違があるかを検討した。 方法:2017年4月から2018年3月までの期間で,当科に嚥下リハの依頼があった患者のうち,3カ月間のフォローアップが可能であった37名(男性16名,女性21名,平均年齢82.2±9.5歳)を対象とした。毎月1回訪問し,食形態や食事時の姿勢調整を行い,間接訓練を指導した。対象者の機能評価は,KT(口から食べる)バランスチャート(以下,KTBC)を用いた。対象者のKTBCの変化を初診時と3カ月後で比較し,さらに訪問歯科診療のみの群と多職種が携わった群に分けて3カ月後のKTBCを比較,検討した。 結果:3カ月の管理で対象者のKTBCの各項目が改善した。さらに訪問歯科診療単独群と比較して,多職種が携わった群においてKTBCの栄養状態の項目が有意に改善していた(p<0.05)。 結論:生活期における高齢の摂食嚥下障害患者の嚥下リハは,摂食嚥下機能だけでなく,栄養状態や身体機能の向上において重要であり,3カ月という短期間においてもそれらの向上を認めた。また多職種との連携によって,より効率的な効果が得られることが示唆された。