- 著者
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野原 幹司
- 出版者
- 一般社団法人 日本老年医学会
- 雑誌
- 日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
- 巻号頁・発行日
- vol.60, no.1, pp.1-10, 2023-01-25 (Released:2023-03-08)
- 参考文献数
- 17
- 被引用文献数
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これまでの摂食嚥下リハビリテーション(嚥下リハ)は,主に脳卒中回復期を対象に機能回復を目指した嚥下訓練が行われてきた.しかし,認知症は進行性疾患であるため機能回復を目指すのは難しく,指示が通らないため訓練の適応も困難である.したがって,認知症高齢者の嚥下リハは,今ある機能を生かした食支援の考え方が重要となる.認知症高齢者の食支援を行っていくにあたりポイントとなるのは認知症を一括りにせず,原因疾患に基づいたケアを心がけることである.アルツハイマー型認知症は食行動の障害が主であり,食べない,食事を途中でやめてしまう,といった症状がみられる.肺炎の原因となるような誤嚥がみられるようになるのは重度に進行してからである.レビー小体型認知症は,他の認知症と比べて比較的早期から身体機能の障害がみられ,誤嚥も早期からみられる.誤嚥したものを喀出する力も弱く誤嚥性肺炎のリスクが高い認知症である.抗精神病薬による薬剤性嚥下障害が多いのも大きな特徴である.血管性認知症は多彩な症状を示すが,最も多いとされる皮質下血管性認知症においては,大脳基底核が障害されるため錐体外路症状を呈し,レビー小体型認知症と似た嚥下障害を示す.麻痺などの身体症状が軽度であっても誤嚥がみられるため臨床経過に注意を要する.前頭側頭型認知症は前頭葉症状のため,嗜好の変化,過食といった症状が目立つが,その症状改善のために介入を試みてもうまくいかないことが多い.窒息や重度誤嚥がないのであれば介入せずに症状を受け入れた方がよい.認知症の原因疾患に基づいた食支援を提供するには,医師による認知症の原因疾患の診断が重要である.加えて,医師が他職種や患者家族に原因疾患ごとの特徴や食支援のポイントを説明できるようになるとケアの質は格段に上がる.認知症高齢者の嚥下障害臨床において医師の果たす役割は大きい.