著者
佐野 淳也 中根 綾子 高島 真穂 戸原 玄 武藤 徳男 小野 武也 栢下 淳
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.58-65, 2016-06-30 (Released:2016-07-23)
参考文献数
35
被引用文献数
1

目的:要介護高齢者は摂食嚥下障害を有する人が多く,摂取可能な形状が限られるため低栄養に陥りやすい。嚥下調整食の調理では,食品に水を多く含有させて軟らかく仕上げるため栄養が希釈されてしまう。そこでたんぱく質含有量が多いが高齢者が摂取しにくい肉や魚に対し,効率的なエネルギー源である油脂を添加してテクスチャーを調整した嚥下調整食品の咀嚼特性に関して,物性測定,官能評価,筋電図測定を用いて検証した。 方法:肉と魚より鶏肉とかまぼこを選び,それぞれ油脂を添加した試料(油脂あり),添加しない試料(油脂なし)を調製した。物性は硬さ,凝集性,付着性を,官能評価は食べやすさに関する6項目を評価し,筋電図測定より咀嚼回数,咀嚼時間,咀嚼周期,嚥下回数を求め,油脂の有無による差を解析した。 結果:物性測定では,鶏肉,かまぼこともに油脂ありが油脂なしより有意に軟らかくなった(p<0.05)。官能評価では,鶏肉,かまぼこともに,油脂ありが油脂なしより有意に軟らかく,なめらかで,まとまりやすく,飲み込みやすいという評価を得た(p<0.05)。筋電図測定では,鶏肉の油脂ありが油脂なしに比べて,咀嚼回数,咀嚼時間,咀嚼周期が有意に減少した(p<0.05)。 結論:本研究結果より,食品に油脂を添加することで咀嚼への負担が軽減されることが示唆された。今後,咀嚼困難者を対象とした嚥下調整食の調製方法として油脂の応用が期待される。
著者
若杉 葉子 戸原 玄 中根 綾子 後藤 志乃 大内 ゆかり 三串 伸哉 竹内 周平 高島 真穂 都島 千明 千葉 由美 植松 宏
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.109-117, 2008-08-31 (Released:2021-01-22)
参考文献数
64

現在行われている多くのスクリーニングテストは誤嚥のスクリーニングテストであり,不顕性誤嚥(SA)をスクリーニングすることは難しいとされている.今回,我々はクエン酸の吸入による咳テストを用いたSAのスクリーニングの有用性について検討を行った.対象は何らかの摂食・嚥下障害が疑われた18歳から100歳までの患者204名 (男性131名,女性73名,平均年齢69.90±11.70歳).超音波ネブライザより1.0重量%クエン酸生理食塩水溶液を経口より吸入させ,1分間での咳の回数を数える.5回以上であれば陰性 (正常),4回以下であれば陽性 (SA疑い)と判定し,VFもしくはVEの結果を基準とし,SAのスクリーニングの感度,特異度,有効度,陽性反応的中度,陰性反応的中度を計算した.咳テストによるSAのスクリーニングの結果は,感度0.87,特異度0.89,有効度0.89,陽性反応的中度0.74,陰性反応的中度0.95であった.次いで主要な原疾患別に咳テストの有用性を検討した.脳血管障害患者におけるSAのスクリーニングの結果は,感度0.76,特異度0.82,有効度0.79,陽性反応的中度0.73,陰性反応的中度0.84であった.頭頚部腫瘍患者におけるSAのスクリーニングの結果は,感度1.00,特異度0.97,有効度0.98,陽性反応的中度0.93,陰性反応的中度1.00であった.神経筋疾患患者におけるSAのスクリーニングの結果は,感度0.83,特異度0.84,有効度0.84,陽性反応的中度0.56,陰性反応的中度0.95であった.呼吸器疾患患者におけるSAのスクリーニングの結果は,感度0.67,特異度0.81,有効度0.76,陽性反応的中度0.67,陰性反応的中度0.81であった.気管切開のある患者におけるSAのスクリーニングの結果は,感度0.71,特異度1.00,有効度0.78,陽性反応的中度1.00,陰性反応的中度0.50であった.認知症患者におけるSAのスクリーニングの結果は,感度1.00,特異度1.00,有効度1.00,陽性反応的中度1.00,陰性反応的中度1.00であった.以上より,クエン酸吸入による咳テストはSAのスクリーニングに疾患によらず有用であると考えられた.
著者
宮上 光祐 星 達也 福岡 宏之 戸原 玄 阿部 仁子
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.8-18, 2019-04-30 (Released:2019-08-31)
参考文献数
28

【目的】脳血管障害はしばしば嚥下障害を合併し誤嚥性肺炎を発生するが,その頻度については脳卒中の急性期に多く,回復期リハビリテーション病院入院中の経管栄養例の報告は少ない.誤嚥性肺炎の発症要因についても,いまだ十分解明されていない.今回,これらの発生率と発生要因を明らかにすることを目的とした.【方法】発症後1~2 カ月後に回復期リハビリテーション病院に入院した経管栄養を行っている脳血管障害患者158 例を対象として,誤嚥性肺炎の発生率と発症要因を検討した.誤嚥性肺炎発症群と非発症群の2群について,発生要因として年齢,性別,発生部位,嚥下障害の重症度,栄養状態のalbumin (Alb),total protein (TP),body mass index (BMI),入院時のFIM, VF・VE 施行との関連性について検討した.【結果】経管栄養を行っている脳血管障害患者158 例中22 例(13.9%)に誤嚥性肺炎を認めた.肺炎発症群と非発症群の群間比較では,重症の嚥下障害,発生部位 (脳幹・小脳),男性,認知FIM 利得で有意差を認めた (p<0.05).栄養状態 (BMI, TP, Alb),意識障害,回復期入院前の肺炎や合併症,入院時FIM では両群間に有意差を認めなかった.肺炎発症の有無を目的変数,各発生要因を説明変数としてロジスティック回帰分析を行った結果では,肺炎発症の要因として,重症の嚥下障害のdysphagia severity scale (DSS) 1 (OR [odds ratio] 8.747, p=0.001),発生部位の脳幹・小脳 (OR 4.859, p=0.01),男性 (OR 5.681,p=0.006),年齢 (OR 0.941, p=0.043) が要因として抽出された.【結論】回復期脳血管障害経管栄養例の13.9%に誤嚥性肺炎を発症した.肺炎発症の要因として,脳幹・小脳病変,重症の嚥下障害,男性,高齢者が重要であった.
著者
戸原 玄 才藤 栄一 馬場 尊 小野木 啓子 植松 宏
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.196-206, 2002-12-30 (Released:2020-08-20)
参考文献数
38
被引用文献数
1

現在,摂食・嚥下障害の評価法では嚥下ビデオレントゲン造影(Videofluorography;以後VF)が gold standardとして広く認知されている.VFは誤嚥の有無のみならず嚥下関連器官の形態・機能異常すなわち静的および動的異常を観察でき,信頼性の高い摂食・嚥下障害の診断を可能とする有用な検査法であり,設備を持つ施設においては摂食・嚥下障害が疑われる患者に対しほぼルーチンに行われている.しかし実際にはVFに必要な設備を持たない施設は多く,問題があれば経管栄養を選択せざるを得ず,摂食・嚥下障害の評価,対応が適切になされているとは言い難い.このため,医療,福祉の現場からはVFを用いない簡便な臨床的検査法を求める声が高かった.平成11年度厚生省長寿科学研究「摂食・嚥下障害の治療・対応に関する統合的研究(主任研究者:才藤栄一)」において,改訂水飲みテスト,食物テスト,および嚥下前・後レントゲン撮影といった臨床検査の規格化とそれらを組み合わせたフローチャート,および摂食・嚥下障害の重症度分類が作成された.何らかの摂食・嚥下障害を訴えた63名の患者に対し,VFと各臨床検査を行い,食物を用いた直接訓練開始レベルの判定が本フローチャートにより可能であるかについて,実際のVF結果との比較検討を行った.各臨床的検査のカットオフ値は妥当であり,フローチャートの感度,特異度,陰性反応的中度,一致率は極めて高かった.よって直接訓練開始可能レベルの判定において,フローチャートは有用であると考えられた.また安全性も高く特にVFを持たない施設において有用であると結論できた.
著者
長澤 祐季 中川 量晴 吉見 佳那子 玉井 斗萌 吉澤 彰 山口 浩平 原 豪志 中根 綾子 戸原 玄
雑誌
一般社団法人日本老年歯科医学会 第31回学術大会
巻号頁・発行日
2020-09-30

【目的】加齢や嚥下障害により,医薬品の服用や食事にとろみ調整食品(以下とろみ剤)を用いることは少なくない。先行研究により,とろみ剤が薬効を減弱させる可能性や,キサンタンガムを含有する濃厚流動食品が,含有しないものと比較して血糖値の上昇を抑制する可能性が報告されている。しかしながら,とろみ剤が栄養の吸収にどのような影響を及ぼすかについては,不明な点が多い。そこで今回,ラットの発育と飼料形態の関連性を検証するために,基礎的研究を実施した。【方法】4週齢雄性SDラットを4〜5匹ずつ4群に分け,液体飼料(C社製),0.5,1,1.5%とろみ調整飼料(液体飼料にとろみ剤・N社製を添加)を用いて,3週間飼育した(A群:液体飼料,B群:0.5%とろみ飼料,C群:1%とろみ飼料,D群:1.5%とろみ飼料)。餌は100kcal/日に揃えすべて経口摂取させ,水は自由摂取とした。液体飼料ととろみ調整飼料の摂取開始翌日をx日として体重を経時的に測定し,体重増加割合(%)を用いて飼育期間中の発育状況の変化を評価した。実験終了時に解剖し肝,腎,精巣上体脂肪重量の測定と血液生化学的検査を行い,体重増加割合(%)とともに各群間で相違があるか統計学的に検討した。【結果と考察】x+7,x+14,x+21日目における体重増加率はA群と比較してD群で低値な傾向を示した。また腎臓重量はA群と比較してD群で有意に低値となり,肝臓,精巣上体脂肪重量は各群間で相異を認めなかった。血液生化学検査では,TG(mg/dL)がA群と比較してC,D群で有意に低値を示した。本研究結果より,液体飼料と比較してとろみ剤を添加した飼料は体重増加および腎臓重量の増加を制限する可能性があり,脂質代謝の状態を反映している血中TG濃度を有意に低下させることが明らかとなった。これはショ糖食投与ラットに対するグアガム-キサンタンガム混合物の血中脂質低下効果の報告と同様の結果である。とろみ剤が含有するキサンタンガムは高粘性の難消化性多糖類であり,腸管上粘質性糖タンパク質と混ざり合い被拡散水層の厚さを増すことが吸収阻害の要因の一つと考えられる。また今回与えた液体飼料は25kcalが脂質であり脂質の吸収抑制により総カロリー数が減少し体重増加率の減少が起こったと示唆される。(COI開示:なし)(東京医科歯科大学動物実験委員会承認 A2019-270A)
著者
戸原 玄 Jeffrey B. Palmer Kelly Reynolds Keith V. Kuhlemeier Sara Palmer
出版者
口腔病学会
雑誌
口腔病学会雑誌 (ISSN:03009149)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.242-248, 2003-12-30 (Released:2010-10-08)
参考文献数
23
被引用文献数
5 12

A simple, broadly applicable, standardized dysphagia severity scale would be useful to standardize dysphagia evaluations, to monitor recovery and efficacy of treatment and to study the consequences of dysphagia. We developed a global Dysphagia Severity Scale (DSS) from videofluorographic swallowing studies which included subjective clinical ratings of functional swallowing. We rated laryngeal penetration/aspiration (P/A) and pharyngeal retention (PR), and then assessed methods for scoring severity of P/A and PR and for combining them in a global scale. Each method was tested by correlation with overall clinical severity ratings. The highest correlations were found by : 1) scoring P/A based on which foods were aspirated (no aspiration or penetration ; penetration only ; thin liquid aspiration ; thick liquid, pudding, or chewed solid food aspiration ; 2) scoring PR based on how much food was retained (none ; minimal ; moderate ; severe) ; and 3) combining P/A and PR by taking the higher of the two scores as the final DSS rating. The final global DSS score and the clinical severity rating correlated well (r=0.71) . This proposed scale shows promise for rating global dysphagia severity.
著者
中澤 正博 森 宏樹 半田 潤 佐藤 輝重 小島 武文 大木 志朗 浜 洋平 戸原 玄
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.63-69, 2018-09-30 (Released:2018-10-27)
参考文献数
26

目的:本研究は,健常な後期高齢者を対象に,咀嚼能力の維持・向上を期待した簡便なトレーニング方法を検討することを目的とした。 方法:千葉県八千代市とその周辺地域在住の健常な後期高齢者30名(男性:9名,75~89歳,女性:21名,75~89歳)を対象とした。簡便なトレーニング方法としてガム嚙みトレーニングを1日3回30日間実施した。咀嚼能力は,グミ嚥下閾(ストローク),グミ嚥下閾(時間),咀嚼チェックガムで,嚥下能力は,反復唾液嚥下テスト(Repetitive saliva swallowing test:RSST)で,身体機能は,開眼片足上げで評価した。 結果:咀嚼能力はグミ嚥下閾(ストローク),グミ嚥下閾(時間),咀嚼チェックガムともに有意に向上した。嚥下能力に変化はなかった。身体機能は有意に向上した。 結論:ガム嚙みトレーニングを30日間実施することによって咀嚼能力や身体機能が向上したことは,ガム嚙みトレーニングが優れた機能訓練方法であることを示した。
著者
戸原 玄 稲次 基希 片桐 さやか
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

ヒトの腸管には多様な腸内細菌が生息し、これらの細菌は複雑な微生物生態系を形成しており、これを腸内細菌叢とよぶ。腸内細菌叢のバランスが崩れると、個体の免疫機構の異常、糖尿病など様々な疾患の発症および進展に影響することが報告されている。禁食となった患者に嚥下訓練を行うと、口腔と大腸が腸管を通じてつながっているため、経口摂取の再獲得が腸内細菌叢に影響を及ぼす可能性がある。本研究では、脳卒中によって経管栄養となった被験者に摂食嚥下訓練を行い、経口摂取と腸内細菌叢との関連を細菌学的に検討する。
著者
原 豪志 戸原 玄 和田 聡子 熊倉 彩乃 大野 慎也 若狭 宏嗣 合羅 佳奈子 石山 寿子 平井 皓之 植田 耕一郎 安細 敏弘
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.289-295, 2014-01-14 (Released:2014-01-24)
参考文献数
35

過去に,喉頭挙上筋が開口筋であるため嚥下機能の評価を目的として開口力測定器を開発し,健常者の開口力を測定した。本研究では開口力が嚥下障害のどのような要素を反映しているかを調べるために,開口力と誤嚥,咽頭残留の有無との関係を調べた。 対象者は慢性期嚥下障害の患者95名 (男性49 名,女性46 名) で平均年齢は男性75.4±9.7 歳,女性 79.3±9.6 歳である。 誤嚥あり群 (男性:4.1±2.8 kg,女性:3.4±1.7 kg) と誤嚥なし群 (男性:5.6±2.9 kg,女性:4.4±1.8 kg) では,男女別で開口力に有意差を認めた。喉頭蓋谷に残留あり群 (男性:4.2±2.3 kg,女性:3.6±1.4 kg) となし群 (男性:8.5±3.4 kg,女性:5.0±2.0 kg) では,男女別でともに有意差を認めた。梨状窩に残留あり群 (男性:4.1±2.1 kg,女性:3.5±1.5 kg) となし群 (男性:6.7±3.6 kg,女性:4.7± 1.9 kg) においても,男女別でともに有意差を認めた。 誤嚥は口腔期の問題でも生じるが不十分な咽頭収縮や喉頭挙上により起こり,咽頭残留は不十分な喉頭蓋の翻転や咽頭短縮が主な成因である。これらはいずれも不十分な舌骨,喉頭の挙上に起因する。以上より開口力は,嚥下時の機能評価において誤嚥と咽頭残留の有無を反映していることが示唆された。
著者
長澤 祐季 原 豪志 中川 量晴 豊島 瑞枝 奥村 拓真 戸原 玄
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.142-149, 2020-09-30 (Released:2020-10-25)
参考文献数
22

2020年3月以降,本邦において新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は増加しており,歯科医療においても感染対策の指針が多方面から出されている。そのなかにオンライン診療の推進が含まれる。歯科医療において感染防止を目的としたオンライン診療の報告はまだない。今回われわれは,感染症拡大期に直接対面での診療の代替手段としてオンライン診療を実施し,高齢口腔癌術後患者の食事支援を行ったので報告する。 患者は86歳女性,左上下顎歯肉癌術後,右頸部リンパ節転移のため当院に入院していた。退院後も嚥下障害が遷延し,嚥下障害に対する外来での指導を継続していたところ,COVID-19感染拡大が深刻化し通院が困難になったことから,オンライン診療による代替を行った。歯科医師側に管理栄養士が同席し,患者側にオンライン支援者として義娘が同席した。オンライン診療では,支援者に実際の昼食をリアルタイムで撮影してもらい,それに基づいて,食事量,形態,摂取方法などを助言した。また,歯科医師側の管理栄養士が患者からの栄養摂取に関する相談に対応した。 オンライン診療は,患者の感染リスクや通院時間などの身体的負担を軽減することが利点であった一方,情報通信機器の導入などの課題が挙げられた。 感染症流行期の特措的手段として情報通信機器を用いた代替法が実施可能であり,摂食嚥下リハビリテーションを含む食事支援においてオンライン診療は実用可能であることが示唆された。
著者
並木 千鶴 原 豪志 中川 量晴 山口 浩平 Chantaramanee Ariya 小西 恵巳 吉見 佳那子 中根 綾子 戸原 玄
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.41-51, 2020-06-30 (Released:2020-07-23)
参考文献数
32

目的:在宅などでの摂食嚥下リハビリテーション(嚥下リハ)は,多職種で連携することが効果を高めると認識されてきている。しかし,生活期における多職種連携による嚥下リハの効果を縦断的に検証した報告は少ない。本研究では,生活期の高齢摂食嚥下障害患者を対象とし,嚥下リハ前後のリハ効果の検証と,訪問歯科単独と多職種連携した場合との間に嚥下リハ効果に相違があるかを検討した。 方法:2017年4月から2018年3月までの期間で,当科に嚥下リハの依頼があった患者のうち,3カ月間のフォローアップが可能であった37名(男性16名,女性21名,平均年齢82.2±9.5歳)を対象とした。毎月1回訪問し,食形態や食事時の姿勢調整を行い,間接訓練を指導した。対象者の機能評価は,KT(口から食べる)バランスチャート(以下,KTBC)を用いた。対象者のKTBCの変化を初診時と3カ月後で比較し,さらに訪問歯科診療のみの群と多職種が携わった群に分けて3カ月後のKTBCを比較,検討した。 結果:3カ月の管理で対象者のKTBCの各項目が改善した。さらに訪問歯科診療単独群と比較して,多職種が携わった群においてKTBCの栄養状態の項目が有意に改善していた(p<0.05)。 結論:生活期における高齢の摂食嚥下障害患者の嚥下リハは,摂食嚥下機能だけでなく,栄養状態や身体機能の向上において重要であり,3カ月という短期間においてもそれらの向上を認めた。また多職種との連携によって,より効率的な効果が得られることが示唆された。
著者
戸原 玄 阿部 仁子 中山 渕利 植田 耕一郎
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.265-271, 2013 (Released:2013-11-06)
参考文献数
27
被引用文献数
1

日本では要介護高齢者が増加しているため,誤嚥性肺炎の予防が重要である.誤嚥性肺炎は摂食・嚥下障害により引き起こされるため,患者の食べる機能を正しく評価した対応が重要である.訪問診療で利用可能な評価法にはスクリーニングテストと嚥下内視鏡検査があり,嚥下内視鏡検査は近年小型化が図られている.咀嚼中には食塊が咽頭に送り込まれるため相対的に嚥下反射が遅延するが,症例によっては噛み方を工夫することで嚥下反射遅延を防ぐことができる可能性がある.歯科的な対応のうち特殊な補綴物には舌接触補助床および軟口蓋挙上装置がある.また,新しい訓練方法として開口訓練により舌骨上筋群を鍛えて嚥下機能を改善する方法がある.