著者
新澤 祥恵 中村 喜代美
出版者
一般社団法人日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.89-98, 2001-02-20
被引用文献数
7

伝統的年中行事のなかで,位置づけの大きい正月の食生活の動向を探るため,石川県を中心とした地域に居住する女子短大生の正月3が日の食生活より,雑煮と和風おせち料理の喫食について約20年間の変化を検討した。1) 雑煮では,正月3が日をとおしての喫食率は若干減少傾向にあるものの,ほとんどのものが食べていた。しかし,日別にみると,調査当初の1978年では,大部分が元日に食べているが,1984年以降は元日に必ず食べるといった傾向は少なくなり,また3が日間の平均喫食回数も徐々に減少していた。2) 従来よりも一般的におせち料理としてよく取り上げられるものや,当地の正月に準備されるもののなかで,出現頻度の高いもの18品目を検討した。回答者のほとんどがこれらのうち,なんらかの料理を喫食していたが,個々にみるとほとんどの料理の喫食率が減少しており,料理の種類が少なくなっていることが推察された。また,日別に分析すると,元日は食べても2日,3日と減少しており,特に当初よりも最近の調査においてその傾向が顕著になっていた。3) 回答者の居住地域(金沢地区,加賀地区,能登地区,石川県外)による喫食状況を比較したところ,有意差のある料理は少なかった。特に調査当初は有意差の認められる料理もあったが,1991年以降は全くなくなり,伝統的な行事食も画一化されていることが推察された。また,回答者の家庭の家族形態による喫食状況の比較では,高齢の家族との同居が予想される拡大家族世帯での喫食率が高いことを期待したが,有意差のある料理は少なく,あっても,核家族世帯のものの喫食率の高いものが多かった。4) 正月3が日に喫食した料理を,和風,洋風,中華風等に分類して検討したところ,喫食料理は減少しており,特に和風料理の減少が著しかった。これに関連し,主食類の動向を分析したところ,軽食類の増加が大きかった。また,洋風・中華風料理は若干増加しているが,特に種類が多様化する傾向がみられた。5) 以上の調査結果より,正月行事は大きな節目として依然として生活の中に根づいており,その中で雑煮や従来より継承されたおせち料理を食べる習慣も続けられていくものと考えられる。しかし,従来のように正月中続けて食べることはなく,元日のみ儀礼的に食べるといったかたちとなり,おせち料理の形式も徐々にではあるが変容していくことが推察された。
著者
川村 昭子 中村 喜代美 新澤 祥恵
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.26, 2014

<b>【目的】</b>日本調理科学会特別研究「次世代に伝え継ぐ日本の家庭料理」の基礎調査として、地域的差違等を把握するため、文献に掲載されている料理・食品について検討した。<b>【方法】</b>『聞き書石川の食事』における地域区分(金沢、白山麓、加賀、河北、能登)を参考に、『金沢・加賀・能登四季のふるさと料理』等により、地域、季節により分類した。<b>【結果】</b>1)春には、金沢で押しずし、ごり料理、白山麓ではいわな料理、加賀でからしな、河北ではたにし料理、能登ではいさざ、ぼら料理があり、県全域で出現するものとしてはえびす、いわしの団子汁、いわしのぬた、山菜料理などがあげられた。 2)夏には、金沢でどじょうのかば焼き、いかの鉄砲焼き、きゅうりのあんかけが、白山麓であゆ料理、河北であずき貝、能登でとびうお(あご)料理、海ぞうめん、あじべっとの馴ずし、からもんがあり、県全域ではこぞくら、たくあんのふるさと煮、てんばな、巻きぶり、いなだがあげられた。 3)秋には、金沢でれんこん料理、さつまいも料理が、白山麓でこけ料理、堅豆腐料理ねんぐわじ、加賀では柿の葉ずし、鴨料理、しいな、きしずが、能登ではいしり料理、ふぶきだおれ、すいぜんが、県全域では大根菜めし、いとこ汁、甘えびの具足煮があげられた。 4)冬では、金沢であまさぎの昆布巻き、かわぎすが、金沢・河北で寒ぶな料理、加賀ではたはたの味噌和え、にしんなすび、干しあゆの昆布巻き、能登であいまぜ、がんず和え、さざえべし、べか鍋が、県全域ではかぶら・大根ずし、こんかいわし、ぶり・たら・かに料理があげられた。 5)車麩の卵とじ、さわらのじぶ煮などは季節を問わず食されていた。
著者
新澤 祥惠 川村 昭子 中村 喜代美
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.32, 2021

<p>【目的】石川県における行事食の特徴あるものを検討した。</p><p>【方法】平成25〜27年に実施した「次世代に伝え継ぐ日本の家庭料理」の聞き書き調査(穴水町、金沢市、野々市町、白山市、小松市、白峰村)及び文献等により検討した。</p><p>【結果】1)「あえのこと」は田の神様に感謝をするものとして能登一帯で今も行われている行事で地域の季節の食材で調理された料理が用意され、田の神様をもてなした後、家族の直会が行われる。 2)「報恩講」は浄土真宗の行事であり、多くは小豆汁が用意されるが、白峰村ではなめこ汁が作られ、これに、大盛りのごはんと厚揚げ、堅豆腐や山菜などを使った精進料理が用意されている。 3)「祭り」の料理としてえびすがあり、金沢、加賀では塩魚を使った押しずしが作られた。 4)「婚礼」の料理として鯛に炒りおからを詰めて蒸した唐蒸しがある。特に婚礼では大鯛を一対腹合わせに盛り付けて供される。また、五色生菓子が準備される。これは、日・月・山・海・里にみたてた5種の菓子を近所や親戚に配るものであるが、徳川家より玉姫が輿入れした題に献上されたものといわれる。 5)「氷室」は江戸時代、冬に雪を氷室に貯蔵し、旧六月朔日に氷室を開きこれを江戸の将軍家に届け、庶民はこの時期収穫される麦で饅頭を作ったという故事にちなみ、現在は7月1日に白、赤、緑の饅頭やはぜ、ちくわを食べている。 6)正月の雑煮は能登、金沢、加賀で差異がみられる。おせち料理で地域性のあるものとしては、棒だらの煮付け、ぶりなます、鮒の甘露煮があり、能登ではあいまぜも準備される。正月菓子としては前田家の家紋梅鉢にかたどった紅白の最中に砂糖をまぶした福梅(ふくんめ)や福徳がある。 以上、石川県では、信仰にちなんだ行事と武家文化に影響された行事食がみられた。</p>
著者
新澤 祥惠 中村 喜代美 川村 昭子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.27, 2015

【目的】日本調理科学会特別研究「次世代に伝え継ぐ日本の家庭料理」の石川県における調査として実施したもののうち、穴水町、金沢市、白峰村のものを報告する。<br>【方法】平成25~27年、穴水町は80歳女性、金沢市は85歳男性、70歳女性、白峰村では74歳、69歳、67歳女性より、特別研究ガイドラインに沿って聞き取り調査を行った。<br>【結果】1)穴水町は能登内浦海岸に位置し、新鮮な魚介類が入手できる地域であり、魚介類が多様に利用されていた。特にイワシは漁獲に時期には釜でゆで、酢醤油で一人8~9尾も食べ、冬は糠漬けにしたコンカイワシに大根を加えて鍋物にしている。この他特産のぼらやいさざの料理、トビウオから作られたアゴだしが使われた。さらに、もずくやかじめ、テングサからところてんを作るなど海草の利用も多かった。 2)金沢市は地物や遠所物など多様な食材が得られる所である。主食は白飯であるが、冷やごはんを利用した大根飯や夏主食の残ったソーメンとなすを合わせた煮物が夕食に供された。夏はドジョウのかば焼きや、色つけ、いかの鉄砲焼きを購入した。じぶ煮は鴨肉や鶏肉ばかりではなく魚も使った。刺身では昆布締めや鱈の子つけにした。漬け物では蕪ずしのほか大根ずしがよく作られていた。 3)白峰村は白山麓地域のひとつで、山間部としての食文化が育まれているところである。昭和30年代以降は米を作るようになったが、それ以前は雑穀、おからなどを入れたおかゆや麦飯が主食であった。米粉に雑穀を入れた団子やかまし粉を番茶で掻いたものも食べていた。藁縄で括っても崩れない堅豆腐があり、狩猟で得た肉を熊鍋、熊汁、うさぎ汁にしていた。 4)以上、海岸部、都市部、山間部の地域差が示唆された。
著者
川村 昭子 請田 芳恵 粟津原 理恵 新澤 祥恵 中村 喜代美 嶋田 靖子 張江 和子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.19, pp.133, 2007

<BR><B>【目的】</B><BR> 2003~4年にかけて、石川県を金沢を中心に南部の加賀、北部の能登の三地域に区分して、調査を行った特別研究「調理文化の地域性と調理科学-魚介類の調理-」より、各地域の調理文化と魚介類の調理の地域性については既に報告した。今回は、三地域において出現している魚介類がどのような行事に食されているかの比較検討を行った。<BR><B>【方法】</B><BR> 三地域において、自記式留置法により調査し集計した143世帯(能登:78 金沢:42 加賀:23)の結果から、今回は行事に用いられる魚介類をとりあげ検討した。<BR><B>【結果】</B><BR> 三地域で出現率の高かった行事は、正月、春・夏・秋の祭り、祝い事、ひな祭り、土用丑の日、誕生日などであり、三地域間では、能登は金沢・加賀に比べ行事は少なかった。しかし、能登では、他の二地域ではみられない「あえのこと(田の神)」という行事が出現していた。行事で食されている魚介類の料理については、金沢では、正月にはタラやサワラ(カジキマグロ)の昆布じめ(刺身)、甘露煮、棒ダラの煮物、かぶらずしなど、祭りや祝い事にはタイの唐蒸し、タイの塩焼き、鉄砲イカなどがあった。加賀では、祭りにシイラやサバを使った柿の葉ずし、押しずしなどであり、能登では、正月や祭りにはイモダコ、なます、麹漬け、昆布巻き(身欠きニシン)などであった。また、能登の「あえのこと」では、メバルの塩焼きをお供えし、家族も同様の料理を食する。今回の調査で出現している魚介類のほとんどは日常で食され、行事又は日常と行事の両方で食するとした割合は少なかった。また、行事に食するとしても行事名が記載されていない魚介類も多くみられた。しかし、三地域間には、魚介類の調理と行事におけるそれぞれの特徴がみられた。
著者
川村 昭子 請田 芳恵 粟津原 理恵 新澤 祥恵 中村 喜代美 嶋田 靖子 張江 和子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.20, pp.146, 2008

<BR> 【目的】<BR> 2003~4年にかけて、石川県を金沢を中心に南部の加賀、北部の能登の三地域に区分して、調査を行った特別研究「調理文化の地域性と調理科学-魚介類の調理-」より、今回は、調理法で最も一般的な「生・煮る・焼く」をとりあげ、三地域において出現している魚介類との比較検討を行った。<BR>【方法】<BR> 出現料理7389件(金沢2598件、加賀846件、能登3945件)を調理法別に分類し、「なま物・煮物・焼き物」の調理法に用いられている魚介類をとりあげ検討した。<BR>【結果】<BR> 「なま物・煮物・焼き物」の三調理法で全調理法の77.0%を占めていた。地域別にみると、金沢、加賀、能登の順に高くなり、金沢はこの三調理法以外の調理法が多かった。出現率は煮物、なま物、焼き物の順に高かった。地域別にみると、金沢・加賀は同様の結果であったが能登は、煮物、焼き物、なま物の順であった。年齢別では、なま物は40~70代、特に60代が多く20・30代は少なかった。煮物は各年齢にあまり差がみられないが50・60代が多く、焼き物は20・30代に多く出現していた。三調理法に出現していた魚介類は85種で、なま物は63種、煮物は67種、焼き物は67種であり、そのうち46種が三調理法すべてに出現していた。なま物では、金沢のタラ、ホタルイカ、マグロ、加賀のホッケ、キス、能登のトビウオ、スズキ、煮物では、金沢のサワラ(カジキマグロ)、フグ、加賀のエイ、カワハギ、能登のタコ、焼き物では、金沢のドジョウ、ホッケ、マス、ムツ、加賀のカマス、カレイ、サケ、サンマ、能登のイワシ、タチウオ、タラ、ニギス、メバルなどに出現率に差がみられ、出現料理にも行事に用いられるものもあり差異がみられた。
著者
新澤 祥惠 川村 昭子 中村 喜代美
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成29年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.226, 2017 (Released:2017-08-31)

【目的】石川県におけるおやつの特徴を検討した。【方法】平成25~27年に実施した「次世代に伝え継ぐ日本の家庭料理」の聞き書き調査(穴水町、金沢市、野々市町、白山市、小松市、白峰村)及び文献等により検討した。【結果】1)石川県全域で出現するものは「かき餅(欠餅とも書く)」がある。1月下旬に寒の餅をつき、赤、青の色をつけたり、黒豆、切り昆布、胡麻など混ぜてトボ型に入れ、薄く切ったものを縄で結んで屋内で乾燥するものである。これを1年中焼いて食したが、細かく切って煎り、砂糖や黒砂糖をまぶした「はぜ」としても利用した。「かき餅」は農山村では自家製であるが、都市部では菓子屋で搗いたもちを切ってもらい、自宅で干した。 2)「かき餅」以外にも餅類は多く、正月の終わりには、お鏡をおろして「善哉」とし、春と秋の彼岸、報恩講にはご飯を半殺し(半分だけつぶす)にした「おはぎ」を作った。また、春にはよもぎ団子、初夏になるとササゲを塩味にゆでてもちにまぶした「ささげ餅」が、また、笹のあるところでは笹の葉に包んだ笹餅が作られた。この他、春や秋に訪れるパクーン業者(パクーンとは米を煎り砂糖をまぶしたもの)に煎り米を作ってもらった。 3)夏は、スイカ、まくわ瓜、みの瓜を、秋は柿、ぐみ、栗、イチジクなどの果実がよく食べられた。渋柿は干してさわし柿とした。 4)以上の他に、大麦粉に砂糖を入れて水で掻いた「おちらし」、さつまいもを蒸して細く切り乾燥させた「干しいも」、さつまいもやじゃが芋(砂糖を加える)をつぶした「茶きん絞り」やテングサから作ったところてん、ザラメから作ったカラメル焼きなどが出現した。 5)白峰村では炒り豆や豆板、びやゆり・じゃが芋のデンプンに砂糖を入れ湯でかいた葛湯、かまし粉を番茶で掻いて砂糖を入れたおちらしや、栃の実の粉で作ったとち餅などこの地域独特のものがみられた。
著者
川村 昭子 新澤 祥恵 中村 喜代美
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.64, 2012

<b>目的</b> 石川県独自の行事で、奥能登地区に伝わる農耕儀礼「あえのこと」は、だんだんとこの行事を行う地区・農家が減少しつつある。時代と社会の変化に合わせて現代どのように意識され、伝承されているかを調査した。<br><b>方法 </b>1)日本調理科学会特別研究「調理文化の地域性と調理科学-行事食-」に「あえのこと」を加えて、2010年4月に石川県内19市町村の食生活改善推進員461名を対象とし、認知・実施状況、この行事で食する食べ物・料理について調査した。2)2011~2012年に石川県能登町(旧柳田村)で行われた行事について調査した。<br><b>結果</b>&nbsp; 「あえのこと」は、田の神様をもてなし、感謝をささげる奥能登の伝承行事で、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録され、国の重要無形民族文化財にも指定されている。毎年12月5日に田の神様を迎え、翌年の2月9日に田の神様を送り出す行事で、現在は輪島市、能登町、珠洲市などで行われている。1)この行事の認知率は40.6%であったが、実施(経験)率は6.1%と低く、奥能登の輪島市、能登町、珠洲市などで行われていた。2)12月5日の「田の神様お迎えの儀」、2月9日「田の神様送り出しの儀」両儀式後、必ず「直会の儀」として、甘酒、小豆飯、汁物、刺し身、煮しめ、焼き物、酢の物、漬け物、ぼた餅などの「ご馳走」でもてなし、神様のおさがりとして家族全員で食事をする。調査では喫食経験のある料理として、煮しめ(13)、尾頭付き焼き魚(10)、小豆飯(7)、酢の物(6)、ぼた餅(4)、甘酒(3)などが出現していた。だんだんと簡略化され、家庭で「ご馳走」を作らないのか、行事は行ってもあまり食されていない傾向であった。
著者
中村 喜代美 新澤 祥恵
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成14年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.49, 2002 (Released:2003-04-02)

今日の食生活の変化のなかでの郷土食の位置づけを考えるため、アンケート調査により石川県の郷土料理の調理実態を検討した。調理状況では調理しているが多いのは、なすのオランダ煮、なすのそうめんかけで、少ないものは鯛の唐蒸し、鮒の甘露煮であった。また、以前は調理していたが、今は作らないというものが多いのは押しずし、えびすが、調理したことはないが、食べたことがあるでは蕪ずしがあげられた。調理法の情報源では、どの料理も母親が上位を占めているが、一部、家庭外からの情報によるものが過半数を超えるものもあった。調理しない理由として、家族が好まないからが多い料理には太きゅうりのあんかけやつる豆の煮つけがあげられ、市販調理品の利用が多い料理には蕪ずしなどがあげられた。