著者
中谷 彰宏
出版者
社団法人溶接学会
雑誌
溶接学会誌 (ISSN:00214787)
巻号頁・発行日
vol.72, no.6, pp.489-494, 2003-09-05
被引用文献数
3

「構造解析」という用語は様々な分野で,様々な意味に用いられているが,ここでは,変形体の力学問題に対し,内部に適切な幾何学的構造を記述するモデルを導入して行なう解析方法の総称をこう呼ぶことにする.連続体力学に基礎をおくモデル化を行ない,有限要素法(Finite Element Method; FEM)に代表されるシミュレーションによって,変形体の力学問題にアプローチする構造解析手法は,今や固体力学分野のインフラストラクチャとして定着している.一方,分子動力学(Molecular Dynamics; MD)シミュレーションは,変形体の内部に原子構造モデルを仮定して実施される構造解析手法の一つと位置付けることができる(例えば,MD法の原子レベル構造解析への具体的応用の一例として最近の報告を参照願いたい).MD法は,統計力学の理論やモデルの検証を目的として始まり,今でも,それが基礎となっていることに変わりはないが,ミクロ構造を設計することによる新しいデバイスの開発が進んでいる昨今,ミクロ材料の強度・健全性評価,機能設計,製造プロセスの提案,実装方案の獲得を目指した構造解析手法として,従来のマクロ機械設計においてFEMが果たしているのと同様な役割を原子/分子レベルで担うことが期待されている.ここでは,材料力学分野,特に,構造健全性評価に関わる原子系シミュレーションについて展望する.なお,本稿は,既に報告した資料を再構成し,加筆したものである.
著者
北川 浩 中谷 彰宏 仲町 英治 渋谷 陽二
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1992

金属多結晶材料の破壊は,ミクロスケールでの原子結合形態の破綻が,様々なメゾスケールの不均一内部構造とダイナミックに作用し合って伝播・拡大し,マクロ的な破面を形成する過程である。本研究では,このような破壊現象に力学的な視点に立った実体論的検討を加えた。具体的には,分子動力学(MD)シミュレーションによる原子スケールでの動的構造解析からき裂の発生・伝播の最も基本的な素過程についての知見を獲得し,転位論および結晶塑性モデルをベースにした連続体力学解析結果と対比させることにより,ミクロ/メゾ/マクロにわたる結晶構造材料の強度特性の基本的検討を行った。得られた主な成果をまとめると,(1)MDシミュレーションにより,(1)転位や双晶構造の相互干渉により生じるき裂発生過程,(2)fcc-Cu,bcc-FeをモデルとしたモードI,II,III型荷重下のき裂先端原子の動的構造解析,とくに延性破壊の結晶方位,温度依存性,(3)粒界構造と格子欠陥の相互干渉作用,(4)粒界近傍での拡散特性の温度依存性などを明らかにした。(2)連続結晶塑法モデルを,転位運動の現象論的カイネテックスを組み込めるように精緻化し,有限要素法によりき裂先端の変形場の解析を行って,原子モデルシミュレーション解析結果をその実体的なデータとみなして,ミクロ的な応力の意味,せん断帯の形成のミクロメカニズムの検討を行った。(3)MDシミュレーションに用いた原子間ポテンシャルの妥当性とその限界を検討するため,超格子法に基づくバンド構造解析および分子軌道法をベースとするクラスタ構造に対する,いずれも第一原理計算を実施した。(4)走査型トンネル顕微鏡によるHOPG材表面に見られる原子レベル段差構造,き裂,格子欠陥の構造の大気下での観察を行って,結晶材料の強度を律している微視的基本構造の計測を行った。
著者
河村 能人 萩原 幸司 相澤 一也 木村 滋 古原 忠 東田 賢二 乾 晴行 奥田 浩司 中谷 彰宏 君塚 肇 中島 英治 大橋 鉄也
出版者
熊本大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

総括班の役割は、各計画研究と公募研究が緊密に連携して十分な研究成果が出せるように、本領域の組織的かつ効果的な運営と研究支援活動ならびに若手人材育成を図り、本領域の目的達成と次への展開に資することである。運営面での特徴は,①6つの部会と4つの事務局による効率的な運営、②量子線共同利用施設や共通試料提供等による研究支援、③若手人材育成への注力、④国際交流,異分野交流,産学官交流の推進である。総括班としての主な成果は、各種領域内会議による効果的な運営、研究支援による効率的な研究推進、領域内交流による連携推進、国内外シンポジウム等の開催による本領域のプレゼンス向上、若手研究者の活躍等である。
著者
北川 浩 比嘉 吉一 尾形 成信 中谷 彰宏
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

結晶粒をナノメートルオーダまで微細化したナノ多結晶材料は、結晶粒を構成する原子の数に対して粒界を構成する原子の割合が高く、その構造は不規則である上に十分に構造緩和しておらず準平衡な状態にある。本研究では、ナノ結晶材料の強度を律している一般的な動的組織要因を明らかにする目的で、原子モデルを用いた大規模コンピュータ・シミュレーションを実施して、つぎのような結果を得た。(1)材料強度が粒径の減少に伴って低下する、結晶粒微細化に伴う軟化現象(逆Hall-Petchの関係)が見出される.この関係は、強さと欠陥体積率の関係として整理することができ、ナノ多結晶材料の強度は粒界領域で生じる原子構造変化により律される。(2)結晶粒径が非常に小さいナノ多結晶材料では,粒内に転位が安定して存在することは出来ず,Frank-Read源のような転位源を粒内に持つことはできない。しかし,積層欠陥エネルギーが低い材料では、拡張転位の幅と結晶粒径が同じスケールとなり、結晶すべりは部分転位のみで生じて、粒内を貫く形で積層欠陥が形成される。(3)粒内の積層欠焔の形成による構造的異方性が、ひずみ硬化、繰り返し硬化、および力学異方性を引き起こす。また、積層欠陥は、粒界部での変形のアコモデーション機構と連動して結晶粒変形の可逆的な要素となることが見出される。(4)自由表面を有するナノ多結晶材料では、積層欠陥エネルギーが大きい場合,粒界すべりにより局所変形が進行し粒界部で破断するが,積層欠陥エネルギーの小さと部分、転位による結晶すべりが主となり、粒内に残存する積層欠陥により二次すべり系の活動が抑制されて,変形の局所化が抑制され材料全体の延性が向上する。(5)アモルファス金属に局在化した変形が生じると、局所的な温度上昇によりアシストされた変形誘起再結晶が生じ、ナノサイズの結晶粒が生成される。
著者
中谷 彰宏
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

近年、生物的な自己強化や恒常性維持機能をも持つ適応的材料構造の実現への要求が、安全性、省エネルギー性、さらには環境確保という科学技術とその工業化への時代的要請の増大とともに、次第に高まりをみせてきている。本課題では、形状記憶合金を用いた知的複合材料および知的構造体のマクロな力学特性・変形特性をミクロな構成要素の特性から評価し、さらには、外場の変化に適応して、能動的に振舞う機能を設計するための有効な方法論を提案することを目的としている。ここでは、その基礎研究として、Ni-Ti形状記憶合金線を組み合わせた構造体を対象とし、内部構造の違いによる巨視的応答の違いを調べるとともに、目的とする巨視的応答を得るための内部構造の設計についてモデル解析を行なった。得られた成果は以下の通りである。(1)実験的検討として、知的構造体のセンサー・アクチュエーターとしての役割を担う形状記憶合金線の単軸引張試験を行ない、弾性および超弾性域の力学特性、および、その再現性を検討した。さらに、ここで得られた荷重変位曲線に対して、簡便な表式を用いた関数近似を行なった。また、複数の部材を簡便に組み合わせて、全体として複雑な応答をする構造を組み立てるために必要なジョイント部分の基礎的検討を行なった。(2)解析的検討として、形状記憶線材を組み合わせた構造体の有限変形問題を解くことができる有限要素コードを開発し、(1)で得られた荷重変位近似曲線を用いて、外力が作用する様々な構造体に対して、構造全体の変形と局所構造の変化を調べた。超弾性域の材料非線形性と負荷除荷過程のヒステリシスを利用することにより、様々な全体挙動を実現できることを示した。(3)以上で得られた知見をもとに、形状記憶線を組み合わせた構造、および、それを内部構造として用いる知的複合材料の設計に対する方法論を提案した。(以上)
著者
北川 浩 尾方 成信 中谷 彰宏
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

原子レベル構造の動的変化の詳細を追跡できる分子動力学法を用いて、コンピュータ上で創製した長距離規則構造を持たないアモルファスにき裂を導入し、モードI型のき裂伝播の大規模シミュレーションを実施した.つぎの2つの解析モデル:(I)板厚方向に周期構造を仮定したモデルA(約109万原子),(II)厚さ方向に自由面を持つ薄膜状のモデルB(厚さ〜50nm,約224万原子)を対象として,き裂進展量とき裂先端開口変位,応力とひずみの分布,原子数密度の分布,動径分布関数などを評価することによりき裂進展のメカニズムに検討を加えた.(1)き裂先端の強変形域は、せん断帯と前縁部の等方引張り応力の高い部分よりなる。a)せん断帯内では、10^4(〜20原子(〜5nm)立方)原子集合程度の領域で、短い時間内に引張り方向に対して約±45゜方向を主軸とする局在化した単純せん断変形が頻繁に発生/消滅を繰り返し、巨視的なせん断帯が形成されていく。b)き裂前縁部では、顕著な密度低下を生じ、それが局所的な強度低下を引き起こす。(2)モデルAでは、き裂は先端の軟化域の原子流動により鈍化するのみで、ほとんど進展しない。き裂先端は高温(800K以上)となるが、再結晶することはない。全プロセスゾーンを通じて初期のアモルファス構造はほぼ保たれる。(3)モデルBのき裂伝播シミュレーションでは、き裂前縁は一旦V字形に尖った後、先端部にボイドを発生,その成長と共にき裂と合体して急激なき裂成長を引き起こすという変形サイクルを繰り返す.変形域はき裂の先端のごく狭い領域に限られる.