- 著者
-
久保 健一郎
- 出版者
- 日本生物学的精神医学会
- 雑誌
- 日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
- 巻号頁・発行日
- vol.29, no.3, pp.98-102, 2018 (Released:2019-11-01)
- 参考文献数
- 16
近年,自閉スペクトラム症をはじめとする神経発達障害の発症リスクを高める要因として,遺伝要因のみならず環境要因が注目されている。例えば,在胎28週未満の超早産が自閉スペクトラム症の発症リスクを高めることが知られている。環境要因のなかでも,母体への感染とそれに対する母体の免疫反応は,自閉スペクトラム症のみならず統合失調症をはじめとするさまざまな精神・神経疾患の発症にかかわるメカニズムとして注目されている。最近,マウスモデルを用いた研究から,母体の免疫活性化によって,大脳皮質の組織構造に局所的な変化が生じることが報告された。この局所的な変化は,ヒトの自閉スペクトラム症の死後脳で観察された,大脳皮質の「cortical patches」と呼ばれる組織構造の変化に類似しているとされる。我々の作成した神経発達障害のマウスモデルにおいても,組織構造の局所的な変化が大脳皮質の一部に生じることで,離れた脳部位への影響が生じ,これが動物行動の変化に結びつく可能性が示唆された。ただし,大脳皮質の組織構造の局所的な変化がどのように神経発達障害の発症にかかわるのか,そのメカニズムについてはまだ不明な点が多く残っている。