著者
安冨 歩 若林 正丈 金 早雪 松重 充浩 深尾 葉子 長崎 暢子 長崎 暢子 福井 康太 若林 正丈 金 早雪 鄭 雅英 三谷 博 北田 暁大 深尾 葉子 久末 亮一 本條 晴一郎 與那覇 潤 千葉 泉
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

「魂」という学問で取り扱うことを忌避されてきた概念に、正当な地位を与えることができた。それは人間の創発を支える暗黙の次元に属する身体の作動であり、本来的に解明しえぬ(する必要のない) ものである。学問はそれを喜びをもって受け入れ、尊重し、その作動を抑圧するものを解明し、除去する役割を果たせばよい。そのような学問は、抽象的空間で展開する論理や実証ではなく、「私」自身を含む具体的な歴史的時空のなかで展開される合理的思考である。このような生きるための思考を通じた「私」の成長のみが、学問的客観性を保証する。この観点に立つことで我々は、日本とその周辺諸国におけるポスト・コロニアル状況の打破のためには、人々の魂の叫び声に耳を傾け、それを苦しませている「悪魔」を如何に打破するか、という方向で考えるべきであることを理解した。謝罪も反論も、魂に響くものでなければ、意味がなく、逆に魂に響くものであれば、戦争と直接の関係がなくても構わない。たとえば四川大地震において日本の救助隊が「老百姓」の母子の遺体に捧げた黙祷や、「なでしこジャパン」がブーイングを繰り返す観衆に対して掲げた「ARIGATO 謝謝 CHINA」という横断幕などが、その例である。我々の協力者の大野のり子氏は、山西省の三光作戦の村に三年にわたって住み込み、老人のお葬式用の写真を撮ってあげる代わりに、当時の話の聞き取りをさせてもらうという活動を行い、それをまとめて『記憶にであう--中国黄土高原 紅棗(なつめ) がみのる村から』(未来社) という書物を出版したが、このような研究こそが、真に意味のある歴史学であるということになる。
著者
久末 亮一
出版者
京都大学東南アジア地域研究研究所
雑誌
東南アジア研究 (ISSN:05638682)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.204-222, 2006-09-30 (Released:2017-10-31)

Overseas Chinese have been an important factor in the modern Asia-Pacific economy. Since the middle of the nineteenth century, remittances by overseas Chinese have gradually influenced the economy of the region; they have been important not only in amount but also in the effect of their multiple uses for trade and investment. In the latter sense, remittances by overseas Chinese have had a huge impact. Geographically, remittance funds flowed from throughout the Asia-Pacific to South China via Hong Kong. For example, Cantonese remittance houses in South East Asia, the Americas, and Oceania remitted funds to Hong Kong, from where they were retransferred to the Pearl River Delta. Such funds were used for purchase or investment in Canton or in other Chinese cities through the Cantonese networks. This is just one example. Each Chinese group had different routes and means of remittance but all funds, with different objectives, crossed paths in Hong Kong. This paper focuses mainly on the connection mechanisms of Cantonese Chinese remittances from Singapore to the Pearl River Delta via Hong Kong.
著者
久末 亮一
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.37-67, 2019-03-15 (Released:2019-03-27)
参考文献数
53

本稿は1920年に台北で創設され,おもに東南アジアで展開した日系倉庫会社「南洋倉庫」の経営を考察する。同社は,経済や国際関係の趨勢変化に翻弄されつつも,現地で一貫して倉庫業を営む一方,大正から昭和の南進の潮流と変容を投影した多様な主体が経営に介在し,その影響を受けた。本稿は,こうした背景をもつ南洋倉庫の経営を分析し,時代環境の変化のなかで考察しながら,当時の南洋にかかわった経済・企業活動の態様を明らかにする。