- 著者
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井上 克弘
横田 紀雄
村井 宏
熊谷 直敏
望月 純
- 出版者
- 一般社団法人日本土壌肥料学会
- 雑誌
- 日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
- 巻号頁・発行日
- vol.64, no.3, pp.265-274, 1993-06-05
- 被引用文献数
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富士山麓森林水文試験地のブナ林とヒノキ幼齢および壮齢林において,林外雨,林内雨,樹幹流および土壌浸透水を採取し,水質分析を行った.また,林外雨量,林内雨量,樹幹流下量と各雨水の化学成分の濃度から,ブナ林およびヒノキ林の林相部分の養分収支について考察した.その結果,次の点が明らかになった.1)富士山麓の雨水中にはかなりのレベルの大気汚染物質(SO_4^<2->, NO_3^-, NO_2^-, NH_4^+)が含まれていた.各無機イオン海水中の Na^+ に対する富化率から,Mg^<2+>, Na^+, Cl^- は風送塩起源,SO_4^<2->, NO_3^-, NH_4^+ は工場や自動車など排気ガス起源であるということが判明した.雨水中の SO_4^<2->, NO_3^- 濃度が高い場合は雨水の酸性が強かった.このうち,NO_3^- (NH_4^+ も部分的に硝化作用を受け NO_3^- に変化する)の一部は樹木の養分として吸収利用されていると考えられる.ブナは樹体が塩基類に富,酸性雨に対して高い中和機能を示した.2)ブナからは多量の塩基成分とくに K^+, Ca^<2+> が降雨に伴って,雨水中に溶出した.雨水によるブナの樹体からの K^+ の浸出は落葉機にとくに顕著であった.Ca^<2+> の一部は樹体に付着している風成塵などの乾性沈着物から溶出したものであると推定した.雨水の H^+ はブナの樹間,樹幹を通過・流下する過程でかなり中和され,林内雨および樹幹流の RpH 値が高くなった.一方,ヒノキからの塩基成分の雨水中への溶出はブナに比べるとかなり小さかった.また,林外雨の RpH 値はヒノキの林内,樹幹を通過・流下する過程で低下した.これはブナに比べ樹体からの塩基類の溶出が小さいこと,またヒノキの樹体から水溶性有機酸の浸出があったためだと考えられる.3)土壌浸透水の水質は,調査地域の土壌母材である富士山起源の玄武岩質火山灰やスコリアの岩石学的性質の影響を強く受け,Ca^<2+>, Na^+ 濃度が高かった.土壌浸透水中の Ca^<2+>, Na^+, SO_4^<2-> 濃度は下層ほど高く,下層への浸透が容易に進行していることがうかがわれる.一方,土壌浸水中の NO_3^- 濃度は土壌全体で低く,樹根により植物養分として吸収利用されていると考えられた.また,塩基類に富む玄武岩質火山灰土壌のもつ高い緩衝能のため,土壌浸透水のpH はほぼ中性で,樹種や土壌層位による水質の違いは余り認められなかった.