著者
成瀬 敏郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.47-51, 2010 (Released:2010-04-06)
参考文献数
4
被引用文献数
2 2

2009 年8 月8 日に島根県出雲市多伎町に発達する海洋酸素同位体ステージ(MIS)5e の海成段丘堆積層を覆う古土壌3(VIb)から玉髄製の剥片1点を発見した.さらに同年8 月22 日から3 日間の予備調査において露頭面に表れた同層中から5 点の人工的に打ち欠いた石片が確認されたのを受けて,同年9 月16 日~29 日にトレンチ掘削による本調査が実施された.この結果,約12 万年前のMIS 5e に形成された古土壌層中から流紋岩や石英製の石器,石核,砕片,破砕礫など15 点が出土した.これらは日本で最も古い石器である可能性がある.今後,出土遺物の年代や古環境復元など,さらなる調査・分析が急務である.
著者
豊田 新 成瀬 敏郎
出版者
日本地形学連合
雑誌
地形 (ISSN:03891755)
巻号頁・発行日
vol.23, no.5, pp.811-820, 2002-12-25
参考文献数
23
被引用文献数
15

風成塵の主要鉱物である微細石英の電子スピン共鳴(ESR)分析によって最終氷期最盛期MIS 2と完新世MIS 1における日本列島および東アジア各地の堆積物を分析し,東アジアのジェット気流と北西季節風の挙動を復元した.MIS 2には韓国や瀬戸内海以北は酸素空格子信号強度が高く,シベリア高気圧から吹き出した北西季節風によって北部アジア大陸に広がった砂漠から風成塵が多量に運ばれた.瀬戸内海〜関東を結ぶ線から沖縄本島までは中国内陸砂漠から夏季亜熱帯ジェット気流によって風成塵が運ばれ,宮古島以南は中国南部あるいはチベット高原から冬季亜熱帯ジェット気流によって風成塵が運ばれた.台湾は第三紀が広く分布する台湾山脈から海岸にもたらされた酸素空格子信号強度の低い細粒物質が混入するために風成塵堆積物の信号強度が低い.当時はポーラーフロントの北限が瀬戸内海から関東を結ぶ地域にあった.MIS 1にはポーラーフロントが北海道まで北上したために,風成塵(黄砂)は中国内陸砂漠から韓国をはじめ,北海道にまで運ばれるようになった.
著者
成瀬 敏郎 小野 有五 平川 一臣 岡下 松生 池谷 元伺
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.15-27, 1997
参考文献数
30
被引用文献数
14

MIS 2における東アジアの風成塵供給源と卓越風を復元する目的で,中国,韓国,日本の計26地域から黄土,土壌,古土壌,泥炭を採取し,これらの堆積層中の微細石英 (〓20μm) の酸素空格子信号強度を測定した.タクラマカンの砂漠レスやツアイダムのワジ堆積物は6.2~8.2, 黄土は5.8~8.3, 韓国の土壌は6.0~7.7であり,黄土や韓国土壌が中国の乾燥地域やチベット高原起源の風成塵の影響を強く受けたことを示している.日本各地の土壌・泥炭の微細石英はMIS 2で4.5~12.7であり,そのうち5.8~12,7の値を示す微細石英が遠隔地から飛来した広域風成塵起源,数値の低いものは大陸棚などから吹き上げられた風成塵と推測された.日本列島のうち北部日本地域は>10で東アジア北部から北西季節風によって,中央-西南日本地域は黄土と同じ5.8~8.7で中国の乾燥地域やチベット高原から偏西風によって,与那国島は9.7で中国南部などからそれぞれ飛来した可能性が指摘された.
著者
鈴木 康弘 岡田 篤正 竹村 恵二 慶 在福 金 幸隆 廣内 大助 伊藤 愛 大石 超 中村 洋介 成瀬 敏郎 北川 浩之 渡辺 満久
出版者
日本活断層学会
雑誌
活断層研究 (ISSN:09181024)
巻号頁・発行日
vol.2005, no.25, pp.147-152, 2005

The Ulsan fault extends for 50 km along the NNW-SSE direction in the southeastern part of the Korean Peninsula; this is one of the most important active faults in Korea. Its paleoseismicity has recently attracted considerable attention. With the support of KOSEF (Korean Science and Engineering Foundation), excavation studies of this fault were conducted in 1999 as a part of the Korea-Japan cooperative research at Kalgok-ri in Kyongju city. The results obtained are summarized as follows. (1) The Ulsan fault plane has an eastward dip of approximately 30 degrees and exhibits typical reverse faulting. (2) It was reactivated three times in the past 30,000 years, in particular, twice after the age of AT tephra (approximately 25,000 years BP). (3) A vertical displacement of approximately 0.8 m occurred during the fault event, and the amount of net slip along the fault plane is calculated to be 1.6 m.
著者
成瀬 敏郎
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.75-93, 2014-04-01 (Released:2014-10-24)
参考文献数
86
被引用文献数
1

これまで著者は,乾燥地域や氷河末端から風で運ばれる風成塵とその堆積物であるレスについて,日本列島をはじめ,中国,韓国,ヨーロッパ,イスラエル,アメリカ合衆国,ニュージーランドなどのレス地帯を調査し,レスの分布,研究史,堆積時期,気候変動とのかかわりを研究してきた.本論では,レスの研究史,レスの分布と堆積時期,風成塵の同定に ESR 酸素空孔量(以下,酸素空孔量とする)分析が有効であること,風成塵・レスの堆積量や粒径などが過去の風の強さを復元するのに有効であること,完新世土壌の母材に占める風成塵の役割の重要性について述べた.さらに中国と韓国の旧石器編年・対比にレス-古土壌による編年法が有用であること,日本列島において MIS 6 のレス層に前期旧石器が包含されていることを述べた.
著者
成瀬 敏郎
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.75-93, 2014
被引用文献数
1

これまで著者は,乾燥地域や氷河末端から風で運ばれる風成塵とその堆積物であるレスについて,日本列島をはじめ,中国,韓国,ヨーロッパ,イスラエル,アメリカ合衆国,ニュージーランドなどのレス地帯を調査し,レスの分布,研究史,堆積時期,気候変動とのかかわりを研究してきた.本論では,レスの研究史,レスの分布と堆積時期,風成塵の同定に ESR 酸素空孔量(以下,酸素空孔量とする)分析が有効であること,風成塵・レスの堆積量や粒径などが過去の風の強さを復元するのに有効であること,完新世土壌の母材に占める風成塵の役割の重要性について述べた.さらに中国と韓国の旧石器編年・対比にレス-古土壌による編年法が有用であること,日本列島において MIS 6 のレス層に前期旧石器が包含されていることを述べた.
著者
井上 克弘 張 一飛 成瀬 敏郎
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.619-628, 1994-12-05
被引用文献数
4

1990年6月から3年間,兵庫県加東群社町において,50点の雨水を採取し,pH,雨水中の風成塵降下量および雨水の化学成分の変動について観測した.採取した雨水のうち,80%が酸性雨であった.雨水中に含まれる降雨風成塵のうち粒径<20μmの画分は41%であり,春期に多い傾向がある.海水の Na^+ 濃度に対する富化率から,SO_4^<2->, NO_3^- , NH_4^+ は大気汚染物質起源,Ca^<2+>,K^+ は広域風成塵起源,Na^+, Mg^<2+>, Cl^- は風送海降塩起源と推定した.雨水の nssSO_4^<2-> ,NO_3^- の年平均降下量はそれぞれ 1.57, 1.69 meq m^<-2gt;であり, Ca^<2+>の年平均 降下量は 1.49 meq m^<-2> であった.雨水中の Ca^<2+> 降下量と<20 μm の風成塵の降下量の間には高い相関が認められた.これは雨水中の Ca^<2+> が,風成塵中のカルサイトと酸性物質の硫酸との反応の結果生成した硫酸カルシウムの雨水への溶解に由来するためと考えた.東アジアにおける雨水は,中国の長江以南地域にくらべ長江以北地域や韓国で pH 値が高く,SO_4^<2-> + NO_3^- 濃度および Ca^<2+> 濃度がいずれも高い.しかし,長江以北地域とほぼ同緯度に位置するわが国の雨水は酸性が強く, SO_4^<2-> + NO_3^- 濃度から推定される程には Ca^<2+> 濃度が高くなかった.この原因は,中国内陸部乾燥地域からわが国に輸送される広域風塵中のカルサイトが,輸送の過程で中国長江以北地域や朝鮮半島上空の酸性物質の中和に消費されてしまい,近年わが国にはカルサイト含量の少ないすなわち酸性雨中和能の低い広域風成塵が輸送されているためであると解釈した.
著者
井上 克弘 成瀬 敏郎
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.209-222, 1990-08-20 (Released:2009-08-21)
参考文献数
53
被引用文献数
10 14

A long-range, tropospheric eolian dust transported from the Saharan desert and the Asian continent has been deposited on the terrestrial and aquatic environments in the northern hemisphere. Soil loss due to wind erosion in the arid and semiarid source areas is more significant than previously assumed. Global emission of desert dust and mineral aerosol material is estimated to amount to more than 1.0×106ton yr-1. Long-range eolian dust is an important factor in soil formation and nutrient input in many deposition areas. Physical, chemical, and mineralogical characteristics of long-range eolian dust derived from the Takla Makan and Gobi deserts and the Loess Plateau in China and their influence and significance to the soil and paleosol formations in Japan and Korea are reviewed in this paper.The long-range eolian dust in East-Asia was characterized by a predominance of soil particles 3 to 30μm in diameter. Their dominant minerals were 2:1 layer silicates, kaolinite, quartz, and feldspar. Nonallophanic andosols, red-yellow soils developed on limestones, basalts, and other diverse parent materials, and paleosols buried in paleodunes in the area along the coast of Japan Sea, were strongly influenced by the long-range eolian dust derived from China. Oxygen isotope abundance of the fine-grained quartz (1 to 10μm) isolated from soils revealed that fine quartz and 2:1 layer silicates in diverse soils and paleosols in Japan and Korea and pelagic sediments in the Japan Sea were of eolian dust origin. The eolian dust flux from the atmosphere to terrestrial environments in Japan is significant in the heavy snowfall area along the coast of Japan Sea and was more prominent in the last Glacial age than in the Holocene. Dust flux from East China Sea, Yellow Sea, and Japan Sea pelagic sediments dried during the marine regression period in the last Glacial age to soils and paleosols was also significant in Japan. Thus the desert dust phenomenon is of relevance to geophysical science in general, e. g. geography, geochemistry, climatology, soil science, ocean sedimentology, and Quaternary studies. Desert dust emission and long-range transport are useful indicators for dynamic change in the tonal circulation system, influencing the discussion of future climatic change.
著者
成瀬 敏郎 柳 精司 河野 日出夫 池谷 元伺
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.25-34, 1996-02-29 (Released:2009-08-21)
参考文献数
38
被引用文献数
5 4

風成塵の給源地を明らかにするために,電子スピン共鳴(Electron Spin Resonance, ESR)による微細石英(≤20μm)の酸素空格子信号量を測定した.分析試料は中国黄土高原~北京の馬蘭黄土,韓国の低位段丘上の土壌,山地斜面土壌,USAのPeoriaレス,日本の福井県黒田のボーリングコア,網野・鳥取両砂丘地の古土壌で,いずれも最終氷期の風成塵堆積層と完新世土壌から採取したものである.分析結果は,馬蘭黄土の酸素空格子信号量(任意単位)が5.8~8.3であり,韓国の最終氷期・完新世両土壌が6.0~7.7であった.両国の先カンブリア紀基盤岩の赤色風化土壌は11.2~12.4であり,カナダの先カンブリア紀岩石分布地域に由来するisotope stage2のPeoriaレスの分析値も11.0~14.0であった.黒田低地では,最終氷期に古生層山地から流水によって運ばれて堆積した>63μm石英は3.6~4.0であり,同じく20~63μm石英,≤20μm石英も3.3~4.7であった.いっぽう,広域風成塵起源の微細石英(≤20μm)は5.8~8.5であり,中国黄土および韓国土壌の数値と一致した.網野・鳥取両砂丘地の古土壌中の微細石英は3.7~4.8と低く,アジア大陸起源だけではなく,最終氷期に陸化した海底からの風成塵が多くを占めるためと考えられた.鳥取砂丘地のisotope stage 4に相当する層準の微細石英には,中国黄土の数値域に属する5.8を示すものや,AT上の古土壌層のように1.9と低い数値を示すものがある.それはisotope stage 4が風成塵堆積量の多い時期にあたっており,同層準中に大陸起源の広域風成塵が多く混入したためであり,逆に数値が低いのは大山新期火山灰起源の石英が多量に混入したためと考えた.
著者
成瀬 敏郎 酒井 均 井上 克弘
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.295-300, 1986
被引用文献数
12 13

我が国に分布する土壌のうち, 火山灰土 (クロボク土), 古砂丘下に埋没する古土壌, 玄武岩台地や海成段丘上にのる土壌, 南西諸島の赤黄色土など, 北海道から与那国島にかけての地域で20試料を採取した.<br>試料土壌中に含まれる微細石英 (1~10μm) は, 10~30%と多く, この微細石英の起源を明らかにするために石英の酸素同位体比 (<sup>18</sup>O/<sup>16</sup>O) を求めた.<br>その結果, 完新世に生成された火山灰土や黄色土中に含まれる微細石英の<sup>18</sup>Oは15.4~15.9‰であり, これまで行われた研究の結果とほぼ一致した. 最終氷期に生成された土壌についても, ほぼ同様の値が得られ(δ<sup>18</sup>O=14.1~15.5‰), これも, 従来の研究の結果とほぼ一致した.<br>以上のことから, 我が国には最終氷期, 後氷期を通じて頻繁に風成塵が飛来し, また雨水や雪にともなって降下堆積し, 土壌の母材になったことが明らかとなった.