著者
松本 正俊 井上 和男 竹内 啓祐
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.103-112, 2012 (Released:2012-04-28)
参考文献数
54
被引用文献数
3 5

医師の都市部集中とへき地・地方での医師不足は積年の社会問題となっている。医師の地理的偏在是正のために政策の果たす役割は大きく,特に医学教育への政策介入について,過去に多くの実証研究が行われた。本稿では過去の研究成果をレビューし,効果的に地方やへき地で働く医師を増やすためのエビデンスに基づく方策を考察する。医師のへき地就労を促進する因子として,医師自身がへき地出身であること,プライマリ・ケアに関連する総合性の高い診療科を標榜していること,へき地医師養成プログラム出身であること,卒後早期のへき地診療経験などがある。その他,卒前の地域医療実習,へき地勤務を条件とした奨学金貸与,医学部キャンパスをへき地に設置することなども有効性が示唆されている。わが国における政策としては昭和47年設立の自治医科大学,および平成20年以降急速に拡大し入学定員が1,000名を超えた医学部地域枠がある。さらに近年,卒前医学教育における地域医療実習,卒後臨床研修における地域医療研修が必修化された。これら政策はある程度上記のエビデンスを踏まえたものになっている。しかしながら地域枠の制度設計は都道府県によってばらつきが大きく,また地域枠の入試制度,卒前の地域医療実習,卒後の地域医療研修にはまだ改善の余地が大きい。今後これらの政策が有効に働くために,科学的根拠に基づくさらなる改革が求められる。
著者
森山 葉子 豊川 智之 小林 廉毅 井上 和男 須山 靖男 杉本 七七子 三好 裕司
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.22, 2012 (Released:2012-03-05)
参考文献数
22
被引用文献数
3 4

単身赴任者と家族同居者における生活習慣,ストレス状況および健診結果の比較―MYヘルスアップ研究から―:森山葉子ほか.東京大学大学院医学系研究科公衆衛生学―目的:全国に支社を持つある金融保険系企業の男性従業員を対象に,生活習慣,ストレス状況および健診結果について,有配偶単身赴任者と有配偶同居者との比較を行うこととした.対象と方法:2004年の定期健康診断を受診しており,かつ同年に実施した質問票による調査に回答した男性のうち,有配偶であり40代および50代の事務職である3,026名を調査対象とした.質問票の配偶者はいるかとの問いに,「はい」と答えた者を同居群,「はい(単身赴任中)」と答えた者を単身赴任群とした.生活習慣については運動,飲酒,喫煙習慣など12項目を,ストレス状況については,質問票内の職業性ストレス簡易調査票の下位尺度から,活気の低下,イライラ感,疲労感,不安感,抑うつ感,身体愁訴の6項目について喫煙者と非喫煙者を層化してχ2検定で分析した.健診結果についてはBMI,収縮期血圧,拡張期血圧,空腹時血糖,GOT,GPT,γ-GTP,総コレステロール,中性脂肪,HDLコレステロール,赤血球,白血球を用いて,単身赴任との関連を年齢と喫煙を共変量として回帰分析で検討した.結果:単身赴任群は同居群と比較した結果,運動・喫煙・飲酒・食生活・休日日数などの生活習慣が好ましくない者が多く,ストレス状況では喫煙者においてイライラ感と不安感,抑うつ感が高く,健康状況を示す健診結果については,総コレステロール,中性脂肪,白血球数が高かった.結論:本研究は,有配偶単身赴任者において食生活などの生活習慣が好ましくない者が多く,ストレス状況のイライラ感と不安感,抑うつ感が高く,健診結果において脂質関連の数値が高いことを示した.
著者
井上 和男
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.23-29, 2021-03-20 (Released:2021-03-22)
参考文献数
9

筆者はへき地で医師としてのキャリアを始めた.その経験から,日々の臨床現場で湧き上がる疑問や仮説について取り組むPractice based researchを実践し,提唱している.今回,本学会編集委員会より投稿依頼をいただいた.熟慮した結果,プライマリ・ケアで研究をする意義,そしてその研究成果を出すために必要なことについて書くことにした.常日頃から,プライマリ・ケアでの研究について興味を持つ若手は多いものの,なかなか前に進めず経験を積めないということを感じていた.実際にそのような悩みを相談されたこともある.そこでまず,現場での研究をしていくことが楽しくかつ最も良い自己研鑽につながってきたという経験を述べた.次に,そのために大切だと思っている二つのことについて実際の経験を基に書き連ねた.その一つは,キャリアの早期から研究に取り組む意義であり,若手の方々に伝えたいことである.もう一つは,より重要であるが次世代が良い環境で研究を実践するには指導者はどうすれば良いのかである.若手を指導する立場にある,あるいは将来なるであろう中堅の方々に考えていただく,その一助になればと考えている.
著者
安藤 崇仁 鹿嶋 小緒里 松本 正俊 井上 和男
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

我が国における薬剤師の供給総量は、新しく薬剤師国家試験に合格する薬剤師数調節でなされている。現在、薬学部の新設とともに薬剤師供給は増加しているが、薬剤師の偏在は持続している。薬剤師は勤務場所や業種などの選択において自己決定権があることから、どのような属性(経験年数、性別、キャリア初期の勤務地など)の薬剤師が、将来の薬剤師不足地域での勤務をより多くするかという観察研究による質的情報が必要である。本疑問の解明のため、「薬剤師の属性は長期的な分布状況とどのように関わっているのか」、「薬学部新設は薬剤師偏在を是正したか」、「薬剤師不足地域に勤務する薬剤師の属性は何か」の研究疑問について解明する。
著者
小倉 英郎 井上 和男 武市 知己 原 昭恵
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.265, 2014

はじめにインフルエンザの感染様式は飛沫感染、接触感染、空気感染が考えられるが、空気感染に関しては、インフルエンザの感染拡大防止対策において重要であるとする意見とそれを疑問視する意見が対立している。今回、われわれは当院重症心身障害病棟において空気感染の可能性を示唆する事例に遭遇したので報告する。事例2014年3月24日〜26日、重症心身障害病棟、1個病棟(41名)において、A型インフルエンザの病棟内流行を認めた。予防接種は40名に行われていた(接種率97.6%)。診断は迅速診断で行ったが、24日9名、25日12名、26日5名が発症し、27日には患者の流行は終息した(罹患率63.4%、うち2名でH1N12009が分離された)。職員では、25日4名、26日5名、27日1名が発症した。3月19日〜21日に個別支援計画の説明が家族になされており、この後の面会がインフルエンザの侵入に関与した可能性が否定できなかった。急激な発症パターンであることとアウトブレイク初日の患者配置図の検討から、空気感染の可能性を強く疑い、現場を検証した。その結果、おむつ交換時に換気スイッチを押すことにより、病棟入り口の天井から急速に吸気され、病室内から外部に排気されることが判明した。このため、病棟廊下から病室への気流が発生し、感染拡大の原因となった可能性が示唆された。この臨時の換気システムは病棟全体の換気システムとは別になっており、応急措置として、おむつ交換時の換気はしないこととした。なお、予防投与を含め、タミフル®が37名、リレンザ®が16名、ラピアクタ®が1名に投与され、流行は終息した。重篤な合併症を呈した例はなかった。考察当院の重症心身障害病棟は3個病棟であるが、他2個病棟では当該病棟のような気流の流れを生じる構造になっていなかった。重症心身障害病棟ではインフルエンザやノロウイルス感染症の流行はしばしば経験される。空気感染対策を考慮した病棟の設計が望まれる。
著者
井上 和男
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

企業の吸収合併における従業員の心的・身体的健康度の変化を、実際の事例において吸収合併前後で調査した。合併後の従業員の減少は被吸収事業所の女性に多かった。勤務継続した従業員については、合併により被吸収側事業所男性よりむしろ、合併側事業所の男性従業員の生活への満足度が直後に低下していた。今回の事例では、同一市町村内であり僻遠地への異動を伴っていない。そのような場合は男性、特に管理業務を求められる合併側事業所の男性従業員にむしろ影響が出た可能性が示唆された。