著者
中島 早苗 分部 利紘 今井 久登
出版者
The Japanese Society for Cognitive Psychology
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.105-109, 2012

本研究では匂いの同定しやすさ(同定率),快・不快(感情価),日頃嗅ぐ頻度(接触頻度)が匂いからの無意図的想起の生起要因となるかを検討した.74名の参加者にさまざまな匂いを提示して,<i>SD</i>評定を求めた.その後,評定中に自伝的記憶を意図せずに想起したかを尋ねた.その結果,接触頻度の高い匂いほど無意図的想起が生じやすかった.しかし同定率や感情価は無意図的想起の有無と関連がなかった.この結果は,匂いからの無意図的想起では言語表象を介した活性化が生じないこと,無意図的想起は手がかりの種類によって想起過程が異なることを示唆する.
著者
今井 久登
出版者
東京女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

これまでの展望記憶研究では,事象ベースの展望記憶において手がかりが呈示されることを自明の前提としてきた。このため,日常場面では,あてにしていた想起手がかりがないことをしばしば経験するにも関わらず,その際の不随意的な想起については研究されてこなかった。そこで本研究では,事象ベースの展望記憶において,予想していた外的想起手がかりが呈示されなかった場合の不随意的想起の性質を解明することを目指した。そのためにまず,記憶日誌法を用いて日常場面における「し忘れ」経験を集め,その特徴を分析した。その結果,このような想起の頻度は全体の約10%であり,注意拡散やリラックス状態で生じやすいということが明らかになった。これらの特徴は自伝的記憶の不随意的想起と同様であることから,手がかりなしでの不随意的想起のメカニズムは,展望記憶と自伝的記憶とで共通であろうと推測された。次に,事象ベースの展望記憶課題において想起手がかりを呈示しないという,これまで行われてこなかった新たな条件を設定した実験研究を行ったところ,展望記憶課題の遂行特徴が,時間ベースの展望記憶における時計チェック曲線と類似したJ字型になることが分かった。この結果は,事象ベースの展望記憶と時間ベースの展望記憶は別個のシステムではなく,手がかりなしで展望記憶課題を自発的に想起するというプロセスを共有していることを示している。また,展望記憶課題の遂行成績とワーキング・メモリ容量の個人差の間に相関がなかったことから,展望記憶の想起には必ずしもワーキング・メモリを必要としないということも明らかになった。これらの成果を踏まえ,処理コンポーネントの枠組を援用して時間ベースの展望記憶と事象ベースの展望記憶との関係について整理するとともに,既存のモデルを拡張して,手がかりなしでの展望記憶の不随意的想起をも含んだ動的で一般性の高い展望記憶モデルを提示した。
著者
今井 久登 石井 幸子
出版者
東京女子大学
雑誌
東京女子大学紀要論集 (ISSN:04934350)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.139-160, 2007-09

In this article, we report on an experimental investigation of the spontaneous, uncued recall of prospective memories (memories for activities to be performed at a later time). Einstein & McDaniel (1990) developed an experimental paradigm for investigating prospective memory, in which participants were required to perform both an ongoing task (e.g., remembering words presented on the PC screen) and a prospective memory task (e.g., pressing a designated key whenever they saw a particular word, such as rake). They also claimed that there are two types of prospective memory: one is event-based prospective memory recall, which is triggered by another event ("I will give a message to John when I meet him"), and the other is time-based prospective memory recall, which is to be done after a particular period of time has elapsed (I will call Mary in 30 minutes") or at a certain time ("I will watch TV at 7:00 PM"). We examine the nature of the Einstein and McDaniel's paradigm and show that several important aspects of prospective memory have been left unstudied; specifically, spontaneous, uncued recall. We consider that it is caused by the cue-oriented nature of the paradigm. Furthermore, considering the prospective memory function in our everyday life, we cast doubt of the validity of the dissociation between time-based and event-based prospective memory. To investigate these two issues, we conducted a task-content oriented experiment which was a refined version of Einstein and McDaniel's paradigm. Thirteen undergraduates (9 male and 4 female) were presented 4 photographs on the PC screen simultaneously, and were required to judge which one of these four belonged to a different category (ongoing task). They were also required to stop the ongoing task when a photograph of envelopes was presented during the ongoing task and to call the experimenter in order to answer a questionnaire in an envelope before the experiment finished. Six participants were randomly assigned to an uncued condition, in which the photograph of envelopes was not actually presented (a photograph of a compass was presented instead) and 7 participants to a cued condition. The result showed that, although the expected recall cue was not presented, all the participants in uncued condition spontaneously remembered the prospective memory task. Furthermore, it was revealed that spontaneous recall did not occur randomly; instead, it frequently occurred near the end of the ongoing task, which is similar to the U-shaped clock-checking curve in the time-based prospective memory research (Ceci et al., 1988). These results suggest that participants in the uncued condition performed their event-based prospective memory task as a time-based one, and support our claim that prospective memory has both a time-based and event-based nature.
著者
田中 章浩 小泉 愛 今井 久登 平本 絵里子 平松 沙織 de Gelder Beatrice
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.42-42, 2010

情動認知の文化差に関しては、顔の表情を用いた研究を中心に検討が進められてきた。しかし、現実場面での情動認知は、視覚・聴覚などから得られる多感覚情報に基づいておこなわれている。そこで本研究では、顔と声による多感覚情動認知の文化差について検討した。実験では日本人およびオランダ人の学生を対象に、情動を表出した顔と声のペア動画を提示した。顔と声が表す情動が一致している条件と不一致の条件を設けた。声を無視して顔から情動を判断する顔課題と、顔を無視して声から情動を判断する声課題の2種類を実施した。実験の結果、オランダ人と比べて日本人被験者では、顔課題における不一致声の影響が大きく、声課題における不一致顔の影響が小さかった。この結果は、日本人は多感覚情報に基づいて情動を認知する際に、声にウェイトを置いた判断を自動的におこなっていることを示唆している。
著者
今井 久登
出版者
学習院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

記憶の想起意識を俯瞰的に検討し,次の成果を得た。① 研究史:想起意識は当初,記憶システムの定義として位置づけられた。研究の進展と共に,想起意識から手続き的定義へと精緻化されたが,このような想起意識の位置づけの変化は明確に議論されず,結果として想起意識が研究の焦点から外れていった。② 実証研究:匂い手がかりによる自伝的記憶の無意図的想起と, 外的想起手がかりがない場合の展望記憶の自発的想起の研究を行い,それぞれの想起意識の性質を明らかにした。③ 5種類の想起意識(想起意図/想起努力/想起の自覚/回想・親近性/想起意識のない再認)を連続的に関係づけ,想起意識を全体的に捉える図式を提案した。