- 著者
-
田中 章浩
- 出版者
- 東京女子大学
- 雑誌
- 挑戦的萌芽研究
- 巻号頁・発行日
- 2015-04-01
内容が理解され,記憶に残りやすいのはどのような音声であろうか.常識的には,魅力的で感情豊かな声は理解や記憶を促進し,笑顔でしゃべれば話の内容の理解や記憶も促されると考えるだろう.しかし,本研究ではそうした話し方はむしろ逆効果である可能性に着目する.具体的には,(1)音声の感情情報処理が音声言語の理解・記憶に及ぼす影響,(2)音声の魅力情報処理が音声言語の理解・記憶に及ぼす影響,(3)視覚情報処理が音声言語の理解・記憶に及ぼす影響,以上3点の検討を通して,記憶に残りやすい音声の要件を明らかにすることを目的とする.3年目である平成29年度は,上記項目(3)に関する検討を進めた.項目(1)および項目(2)では,聴覚呈示される音声に含まれる言語情報と非言語情報の関係という切り口から検討した.項目(3)では,視覚呈示される非言語情報と聴覚呈示される言語情報の関係に着目し,顔の表情と魅力が音声言語理解に及ぼす影響について検討した.実験では視線計測も併用し,表情の種類によって顔の注視部位がどのように変化し,それがどのように課題成績に影響を及ぼすのかを分析した.実験の結果,発話者が喜び顔であり,かつ観察者が発話者の口元を注視している場合に文章理解が促進された.音声の感情情報処理が音声言語の理解・記憶に及ぼす影響(項目1),および音声の魅力情報処理が音声言語の理解・記憶に及ぼす影響(項目2)は妨害的なものであった.これに対して本年度の結果からは,顔の表情の視覚情報処理が音声言語の理解・記憶に及ぼす影響は促進的であることが示された.