著者
田中 章浩
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.416-427, 2011 (Released:2012-03-09)
参考文献数
56
被引用文献数
3

Information from face and voice plays an important role in social communication. As shown in the study of speech perception, facial and vocal signals are integrated even in the perception of emotion. This paper reviews the studies on multisensory perception of emotion by faces and voices. This paper then introduces recent studies on the cultural differences in the multisensory perception of emotion. It is emphasized that the combination of faces and voices can yield the richness in the expressions of emotions.
著者
田中 章浩 板口 典弘
出版者
東京女子大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2017-06-30

多様な文化的背景をもつ人々のグローバルな交流がますます加速する現代社会において、円滑なコミュニケーションを実現するためには、自身の感情の表出、そして他者の感情の知覚を媒介する顔と身体表現の普遍性と文化特異性を知ることが不可欠である。感情の知覚には顔や身体表現(視覚情報)のみならず、声(聴覚情報)も利用され、感覚間統合が本質的な役割を果たしている。申請者らのこれまでの研究の結果、他者の感情を知覚するとき、欧米人は顔への依存性が高いのに対し、日本人は声への依存性が高いことがわかっている。本計画班では顔・身体・声の認識様式の文化的多様性の根源として、感覚間統合を含む「情報統合」に着目する。そして、幼児期から成人にかけて感情知覚における複数情報統合の様式がどのように変化するのかを比較文化的に検討し、これらの知見を統一的に説明する理論的枠組みの提唱をめざす。2018年度は、日本人の声優位性はどのように獲得され、誘発されるのかを検討し、以下の点が明らかとなった。①母親と子どもの間で声優位性に正の相関が見られ、母親が声優位であるほど、その子どもも声優位で感情を知覚するというように、知覚パターンの発達には身近な大人の影響を受けることが明らかとなった。②日本人では、外集団よりも内集団の話者に対して声優位で感情を捉える傾向が見られた。話者の見た目と言語を操作した感情知覚実験の結果、話者の見た目が日本人でなくとも、日本語を話していれば声優位で感情を知覚することが明らかとなった。トランスカルチャー状況における「異質な他者」とは何かを考察するうえで重要な知見である。③感情表出をする話者に対する注視パターンの発達文化間比較を行ったところ、相手の目領域に視線を向けることが声優位の知覚を形成する可能性が示唆された。
著者
高橋 麻衣子 田中 章浩
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.595-603, 2011 (Released:2013-04-09)
参考文献数
38
被引用文献数
3

This study investigated cognitive processing during silent and oral reading. We focused on the allocation of cognitive resources required for reading comprehension and phonological representation. We examined the utilization of cognitive resources by observing the effect of concurrent tapping on the comprehension of visually presented sentences. We also analyzed the impact of the presentation of irrelevant speech on reading comprehension. Thirty-two participants read sentences both silently and orally. Each reading task was performed under four multiple-task conditions: no-tap⁄no-speech, no-tap⁄speech, tap⁄no-speech, and tap⁄speech. The results indicated that for silent reading, tapping interfered with reading comprehension. Irrelevant speech also interfered with reading comprehension when the readers did not perform the tapping. However, when the readers performed the tapping during the silent reading task, there was no additional disruptive effect of the irrelevant speech. In contrast, for oral reading, neither tapping nor irrelevant speech interfered with reading comprehension. Moreover, there was no interaction between the effects of tapping and irrelevant speech when the participants read the sentences orally. These findings suggest that more cognitive resources are used for silent reading comprehension than for oral reading comprehension. Also, more cognitive resources during silent reading are required to use the phonological representations constructed internally and to support reading comprehension.
著者
宮澤 史穂 田中 章浩 西本 武彦
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.122-130, 2012 (Released:2013-12-27)
参考文献数
25
被引用文献数
1

The purpose of this study was to examine the relationship between pitch rehearsal and phonological rehearsal with regard to working memory. We conducted a dual-task experiment using musical tones and speech sounds. A standard-comparison task was the primary task and a suppression task was the secondary task. The participants were asked to engage in articulatory or musical suppression while they maintain speech sounds (phonological information) or musical tones (pitch information). Under articulatory suppression, the participants were asked to say “a, i, u” repeatedly; under musical suppression, they were asked to hum in three pitches (e.g., do, re, mi) repeatedly. The results revealed that articulatory suppression decreased the performance of recognition of phonological information but not of pitch information. Moreover, musical suppression decreased the performance of recognition of pitch information but not of phonological information. This implies that ariticulatory suppression selectively interfered with the rehearsals of speech sounds, and musical supersession selectively interfered with the rehearsals of musical tones. Consequently, the results suggest that pitch rehearsal is independent from phonological rehearsal.
著者
佐藤 裕 森 浩一 小泉 敏三 皆川 泰代 田中 章浩 小澤 恵美
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.181-186, 2004-07-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
24
被引用文献数
3 2

吃音者の聴覚言語処理における大脳左右機能の分化異常について, 多チャネル近赤外分光法を用いて測定した.音刺激には音韻もしくは抑揚の異なる対立を用い, 左右それぞれの聴覚野付近にて得られた総ヘモグロビン量の反応ピーク値を基に側化指数を算出し左右差を検討した.その結果, 吃音者群では音韻・抑揚対比セッション間で側化指数に有意差がなく, 言語処理の半球優位性が見られないことが確認された.また, 個人内の検定では, 健常右利き成人の85%で音韻処理が左優位と判定できるのに対し, 右利き成人吃音者の80%は左優位を示さず, 逆に右優位となる被験者も存在した.これらのことから, 吃音と言語処理の大脳半球優位性の異常との関連が示唆され, この手法により吃音者の聴覚性言語処理の機能異常を個人ごとに捉えられることが判明した.
著者
新村 知里 草野 萌 田中 章浩
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

他者の顔を魅力的だと判断するとき、笑顔などの表情の魅力と、顔の形態的魅力のどちらが主要因となっているのだろうか。本研究では、モデルと実験参加者が女性同士の場合に、顔の形態と表情が魅力および印象の評価に及ぼす影響について検討した。笑顔の表出強度は2種類設定した。実験の結果、中立と微笑み表情では美人顔と中間顔の間に魅力に差が生じるが、喜び表情では魅力に差が見られなかった。ただし、微笑み表情のように表出強度が低いときは顔の形態の影響が強いことが示された。また、喜び表情と中立表情の魅力の違いと、中立表情時の顔の形態(美人顔と中間顔)による魅力の違いの効果量を比較した結果、喜び表情による魅力変化のほうが、顔の形態による魅力変化より大きいことが明らかとなった。本研究の結果は、女性同士の場合には顔の形態より表情の方が魅力評価に大きな影響を及ぼすことを示唆している。
著者
新村 知里 草野 萌 田中 章浩
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第12回大会
巻号頁・発行日
pp.111, 2014 (Released:2014-10-05)

他者の顔を魅力的だと判断するとき、笑顔などの表情の魅力と、顔の形態的魅力のどちらが主要因となっているのだろうか。本研究では、モデルと実験参加者が女性同士の場合に、顔の形態と表情が魅力および印象の評価に及ぼす影響について検討した。笑顔の表出強度は2種類設定した。実験の結果、中立と微笑み表情では美人顔と中間顔の間に魅力に差が生じるが、喜び表情では魅力に差が見られなかった。ただし、微笑み表情のように表出強度が低いときは顔の形態の影響が強いことが示された。また、喜び表情と中立表情の魅力の違いと、中立表情時の顔の形態(美人顔と中間顔)による魅力の違いの効果量を比較した結果、喜び表情による魅力変化のほうが、顔の形態による魅力変化より大きいことが明らかとなった。本研究の結果は、女性同士の場合には顔の形態より表情の方が魅力評価に大きな影響を及ぼすことを示唆している。
著者
井口 望 鈴木 奈津子 田中 章浩
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第13回大会
巻号頁・発行日
pp.82, 2015 (Released:2015-10-21)

本研究では心理学的にどのような警告音が人々の適切な判断や行動を促進するのかを検証するために、音によって知覚される緊急性を操作し、難しい認知課題の遂行に与える影響を明らかにする実験を行った。実験では「音刺激によって同じ刺激に対する反応を切り替える」という場面を想定し、ストループ様サイモン課題を用いた。課題遂行中に提示される音刺激(緊急性高/低)を合図に課題の難易度(難/易)を切り替えるように教示した。その結果、緊急性が高い音の呈示後3試行において、課題の難度が高いとき、反応時間及びエラー率が増加した。このことから、音の緊急性知覚の処理と課題遂行に必要な注意資源が共有されている可能性を指摘することができた。緊急性の高い音の近く処理に多くの資源を消費されてしまうと、難しい課題遂行に必要な注意資源が枯渇し、課題遂行に干渉すると考えらえる。
著者
西村 竜一 末永 司 鈴木 陽一 田中 章浩
出版者
一般社団法人 日本音響学会
雑誌
日本音響学会誌 (ISSN:03694232)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.63-72, 2008-02-01 (Released:2017-06-02)
参考文献数
19
被引用文献数
1

近年,一定の音質劣化を許容した符号化法が多く開発されている。これらの技術にはマスキングなど比較的末梢系に由来する聴覚特性が用いられている。しかし,人間は音の知覚の際にこれらの技術に用いられている聴覚特性以外にも多くのものを利用していると考えられる。そのような高次機能も含めた聴覚処理機構によって音質劣化がどのように知覚されるのかを,音質劣化を直接評価する評定実験とSD法による印象評定実験によって解明することを試みた。その結果,音質劣化が大きくなると共に美的・叙情的因子,明るさ因子が低下することが分かった。また,一部の刺激では,直接的な評価によっては知覚されなかった音質劣化が,印象の差として知覚されている様子が観察された。
著者
髙橋 麻衣子 片岡 史絵 田中 章浩
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第14回大会
巻号頁・発行日
pp.124, 2016 (Released:2016-10-17)

音楽を聴きながら,電車に乗りながら等,我々は背景に無関連な音が提示されている中で読書をする場合がある。本研究は,このような背景音の種類によって小説の読解成績がどのように異なるのかを検討することを目的としたものである。24名の参加者に,歌詞あり音楽,歌詞なし音楽,歌詞朗読,無音の4条件の背景音提示下で小説から抜粋した300字程度の文章を読ませ,主観的な理解度の評定と内容の要約,登場人物についての記述の作成を求めた。その結果,歌詞朗読条件の主観的理解度や文章要約の質が,他の3条件のものより低いことが明らかとなった。登場人物の記述の成績は条件間で差がなかった。さらに,読解活動中の参加者の視線を計測して分析したところ,歌詞朗読条件の読解中の注視時間と注視回数が他の3条件よりも多いことが示された。以上の結果から,小説の読解時には音楽にのせていない意味のある音声の提示が読解を妨害することが考えられた。
著者
横森 文哉 二宮 大和 森勢 将雅 田中 章浩 小澤 賢司
出版者
Japan Society of Kansei Engineering
雑誌
日本感性工学会論文誌 (ISSN:18845258)
巻号頁・発行日
pp.TJSKE-D-16-00075, (Released:2016-12-14)
参考文献数
24
被引用文献数
1 1

In this paper, we carried out a subjective evaluation on the perceptual difference in female speech to show the gender difference in its likability and analyzed a relationship between the acoustic features and subjective scores. This subjective evaluation used female speech uttered by 21 speakers as the stimuli, and 127 subjects (47 males and 80 females) attended it. The results suggested that there was the speech preferred without the gender difference and preferred by one gender. We then analyzed the correlation between subjective scores and five acoustic features: fundamental frequency, formant frequency, amplitude difference, spectral centroid and spectral tilt. In female subjects, statistically significant correlations were observed in all features. In male subjects, significant correlation was observed only in spectral tilt. In particular, correlation in spectral tilt showed the inverse trend between male and female subjects. These results suggest that the spectral tilt is effective in the gender difference.
著者
佐藤 裕 森 浩一 小泉 敏三 皆川 泰代 田中 章浩 小澤 恵美 若葉 陽子
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.384-389, 2006-10-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
31
被引用文献数
4 2

幼児・学童吃音者の音声言語に対する左右聴覚野機能の分化異常について, 多チャネル近赤外分光法を用いて測定した.音刺激には音素の配列もしくは韻律句の異なる対立を用い, 左右それぞれの聴覚野付近にて得られた総ヘモグロビン量の反応ピーク値を基に側化指数を算出し左右差を検討した.その結果, 幼児・学童吃音者群ともに, 最小対語・韻律句対比セッション間で側化指数に有意差がなく, 音素・韻律に対する側性化が見られないことが確認された.個人内の検定では, 音素の処理が左優位と判定できる吃音児は存在せず, 同年齢対照群と有意に異なった.この結果は成人吃音者と同様であり, 吃音と聴覚野の機能異常との関連が示唆され, この異常が3-5歳の吃音児ですでに見られることがわかった.
著者
田中 章浩 吉田 誠克 諫山 玲名 藤原 康弘 笠井 高士 中川 正法
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.219-222, 2011 (Released:2011-03-24)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

症例は78歳の男性である.左前頭部痛,鼻痛,左眼瞼下垂,左視力低下,左眼球運動障害のため当科に入院した.頭部MRIにて左眼窩先端部と左中頭蓋窩硬膜に異常造影効果をみとめた.左蝶形骨洞開放術にてアスペルギルス様糸状菌をみとめ,髄液アスペルギルス抗原陽性より,副鼻腔アスペルギルス症による眼窩先端症候群と診断した.早期の副鼻腔ドレナージと抗真菌薬投与により感染症の沈静化がはかられた.本例の副鼻腔アスペルギルス症は,副鼻腔と眼窩の隔壁の破壊をみとめない"非浸潤型"であったが,眼窩先端症候群や肥厚性硬膜炎などの頭蓋内病変を呈していた.本例では髄液アスペルギルス抗原陽性が診断の参考となり,早期の抗真菌薬の投与が有効と考えられた.
著者
大寺 輝 田中 章浩
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第17回大会
巻号頁・発行日
pp.83, 2019 (Released:2019-10-28)

感覚刺激から思い出される出来事に関して、聴覚刺激よりも嗅覚刺激の方が出来事当時に戻った感覚を強く生じさせ、より昔の出来事を思い出させることが知られている。そこで自伝的記憶と関連があると考えられる懐かしさについて、聴覚刺激と嗅覚刺激の間で差がみられるのかを検討した。刺激として音楽、音(環境音等)、においの3種類を用い、刺激に対してどれくらい懐かしさを感じるかを7件法で回答させた。その結果、音楽の方がにおいよりも懐かしさ評価が有意に高く、音の方がにおいよりも懐かしさ評価が高い傾向 がみられた。また、懐かしさ評価について思い出す出来事があった場合となかった場合で比較を行うと、音やにおいによる懐かしさ評価は思い出す出来事がなかった場合に低くなったが、音楽による懐かしさ評価では両者で差がみられないという特徴的な結果が得られた。この結果は、これらが異なる種類の懐かしさであることを示唆している。
著者
横森 文哉 二宮 大和 森勢 将雅 田中 章浩 小澤 賢司
出版者
Japan Society of Kansei Engineering
雑誌
日本感性工学会論文誌 (ISSN:18845258)
巻号頁・発行日
vol.15, no.7, pp.721-729, 2016 (Released:2016-12-26)
参考文献数
24
被引用文献数
1 1

In this paper, we carried out a subjective evaluation on the perceptual difference in female speech to show the gender difference in its likability and analyzed a relationship between the acoustic features and subjective scores. This subjective evaluation used female speech uttered by 21 speakers as the stimuli, and 127 subjects (47 males and 80 females) attended it. The results suggested that there was the speech preferred without the gender difference and preferred by one gender. We then analyzed the correlation between subjective scores and five acoustic features: fundamental frequency, formant frequency, amplitude difference, spectral centroid and spectral tilt. In female subjects, statistically significant correlations were observed in all features. In male subjects, significant correlation was observed only in spectral tilt. In particular, correlation in spectral tilt showed the inverse trend between male and female subjects. These results suggest that the spectral tilt is effective in the gender difference.
著者
小田中 章浩
出版者
大阪市立大学
雑誌
人文研究 (ISSN:04913329)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.196-211, 2007

サミュエル・ベケット(1906~1989)の戯曲が興味深いのは、それらが優れた作品であると見なされているだけでなく、上演を前提として書かれる「戯曲」と、文学的(あるいは芸術的)に完成された「作品」との間の埋めがたい溝に、「作者」がどの程度まで介入できるかという問題を提起しているからでもある。ここでは文学「作品」と「テクスト」の関係をめぐる、ポスト構造主義以降のさまざまな議論を検討する余裕はないが、少なくとも文学「作品」と、演劇における「作品」の違いとして言えることは、前者が物質的なレベルにおいて紙に書かれた(印刷された)インクの染み、あるいは電子的な記号の配列として存在するのに対して、後者は一定の時間の流れの中にしか存在せず、「作品」を同定することは本質的に不可能だと言うことである。その意味において、演劇における戯曲は、上演を実現するための他のさまざまな媒体(俳優の身体表現、舞台美術、演出プラン等)と同様に、まさにロラン・バルトのいう「テクスト」(さまざまな解釈に向かって開かれた表現)を構成すると言ってよい。ところがベケットは、そのいくつかの作品の上演において、自らの戯曲がこの種の「テクスト」として自由に解釈されることに強い抵抗を示した、その典型的な例が『勝負の終わり』である。ではわれわれはこの戯曲を、彼が構想した通りにしか解釈できないのであろうか。この小論では、ベケットが自らの作品において見落としていた要素に注目し、この「テクスト」の拡大解釈を試みてみたい。
著者
髙木 幸子 平松 沙織 田中 章浩
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.344-362, 2014-09-01 (Released:2015-05-12)
参考文献数
45
被引用文献数
1

This study aims to further examine the cross-cultural differences in multisensory emo-tion perception between Western and East Asian people. In this study, we recorded the audiovisual stimulus video of Japanese actors saying neutral phrase with one of the basic emotions. Then we conducted a validation experiment of the stimuli. In the first part (facial expression), participants watched a silent video of actors and judged what kind of emotion the actor is expressing by choosing among 6 options (i.e., happiness,anger, disgust, sadness, surprise, and fear). In the second part (vocal expression), they listened to the audio part of the same videos without video images while the task was the same. We analyzed their categorization responses based on accuracy and confusion matrix, and discussed the tendency of emotion perception by Japanese.
著者
田中 章浩
出版者
東京女子大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

内容が理解され,記憶に残りやすいのはどのような音声であろうか.常識的には,魅力的で感情豊かな声は理解や記憶を促進し,笑顔でしゃべれば話の内容の理解や記憶も促されると考えるだろう.しかし,本研究ではそうした話し方はむしろ逆効果である可能性に着目する.具体的には,(1)音声の感情情報処理が音声言語の理解・記憶に及ぼす影響,(2)音声の魅力情報処理が音声言語の理解・記憶に及ぼす影響,(3)視覚情報処理が音声言語の理解・記憶に及ぼす影響,以上3点の検討を通して,記憶に残りやすい音声の要件を明らかにすることを目的とする.3年目である平成29年度は,上記項目(3)に関する検討を進めた.項目(1)および項目(2)では,聴覚呈示される音声に含まれる言語情報と非言語情報の関係という切り口から検討した.項目(3)では,視覚呈示される非言語情報と聴覚呈示される言語情報の関係に着目し,顔の表情と魅力が音声言語理解に及ぼす影響について検討した.実験では視線計測も併用し,表情の種類によって顔の注視部位がどのように変化し,それがどのように課題成績に影響を及ぼすのかを分析した.実験の結果,発話者が喜び顔であり,かつ観察者が発話者の口元を注視している場合に文章理解が促進された.音声の感情情報処理が音声言語の理解・記憶に及ぼす影響(項目1),および音声の魅力情報処理が音声言語の理解・記憶に及ぼす影響(項目2)は妨害的なものであった.これに対して本年度の結果からは,顔の表情の視覚情報処理が音声言語の理解・記憶に及ぼす影響は促進的であることが示された.