著者
小森 政嗣 長岡 千賀
出版者
The Japanese Society for Cognitive Psychology
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.1-9, 2010
被引用文献数
1 4

本研究では,初回の心理臨床面接におけるクライエントとカウンセラーの対話の映像を解析し,2者の身体動作の関係を分析した.心理面接として高く評価された二つの事例(高評価群)と,高い評価が得られなかった二つの事例(低評価群)を含む,50分間のカウンセリング対話4事例の映像を分析した.加えて,高校教諭と高評価群のクライエントの間の,50分間の日常的な悩み相談2事例を分析した.すべての対話はロールプレイであった.各実験参加者の身体動作の大きさの時系列的変化を映像解析によって測定し,クライエントとカウンセラー/教諭の身体動作の時間的関係を移動相互相関分析により検討した.結果から,(1)カウンセラーの身体動作はクライエントの身体動作の約0.5秒後に起こる傾向があり,かつその傾向は50分間一貫していること,(2)この傾向は高評価群において特に顕著であること,(3)この傾向は悩み相談の2事例では確認されず,高校教師による悩み相談2事例の間で共通した傾向は認められないことが示された.
著者
山本 晃輔
出版者
The Japanese Society for Cognitive Psychology
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.65-73, 2008
被引用文献数
2

本研究では日誌法を用い,"プルースト現象"——におい手がかりによって自伝的記憶が無意図的に想起される現象——の調査を行った.30名の参加者は1カ月間,プルースト現象が生起したときに記憶の内容およびその想起状況について記録するように求められた.その結果,ほとんどの記憶が古く,快でかつ情動性が高く,特定的で追体験感覚を伴った出来事であることが示された.加えて,手がかりとなったにおいは快でかつ感情喚起度が高く,命名が容易であった.また,想起状況の分析から,想起時の活動が副次的な手がかりとして作用することはまれであった.さらに,感情一致効果が見られた.これらの結果はにおい手がかりによって喚起された感情がプルースト現象の生起に影響することを示唆している.
著者
土田 幸男 室橋 春光
出版者
The Japanese Society for Cognitive Psychology
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.67-73, 2009

本研究は自閉症スペクトラム指数(AQ)とワーキングメモリの各コンポーネントが関わる記憶容量との関係を検討した.自閉症スペクトラムとは,自閉性障害の症状は社会的・コミュニケーション障害の連続体上にあり,アスペルガー症候群は定型発達者と自閉性障害者の中間に位置するという仮説である.自閉性障害者においては音韻的ワーキングメモリには問題が見られないが,視空間的ワーキングメモリには問題が見られるという報告がある.高い自閉性障害傾向を持つ定型発達の成人のワーキングメモリ容量においても,同様の傾向が見られる可能性がある.そこで本研究では定型発達の成人において音韻的ワーキングメモリ容量,視空間ワーキングメモリ容量,そして中央実行系が関わるリーディングスパンテストにより査定される実行系ワーキングメモリ容量とAQの関係を検討した.その結果,AQ高群では低群よりも視空間ワーキングメモリ容量が小さかった.全参加者による相関係数でも,AQと視空間ワーキングメモリ容量の間には負の相関が認められた.しかし,音韻,実行系ワーキングメモリ容量とAQの間には関係が見られなかった.これらの結果は,自閉性障害者で見られる認知特性が,定型発達の成人の自閉性障害傾向でも同様に関わっていることを示唆している.
著者
中島 早苗 分部 利紘 今井 久登
出版者
The Japanese Society for Cognitive Psychology
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.105-109, 2012

本研究では匂いの同定しやすさ(同定率),快・不快(感情価),日頃嗅ぐ頻度(接触頻度)が匂いからの無意図的想起の生起要因となるかを検討した.74名の参加者にさまざまな匂いを提示して,<i>SD</i>評定を求めた.その後,評定中に自伝的記憶を意図せずに想起したかを尋ねた.その結果,接触頻度の高い匂いほど無意図的想起が生じやすかった.しかし同定率や感情価は無意図的想起の有無と関連がなかった.この結果は,匂いからの無意図的想起では言語表象を介した活性化が生じないこと,無意図的想起は手がかりの種類によって想起過程が異なることを示唆する.
著者
矢口 幸康
出版者
The Japanese Society for Cognitive Psychology
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.119-129, 2011
被引用文献数
1 1

共感覚的表現とは異なる感覚に属する語を組み合わせた表現である.共感覚的表現の理解は感覚の組み合わせによって変化することが知られているが,共感覚の言葉であるとされるオノマトペを修飾語としてもちいて検討した例はない.そこで,本研究はオノマトペを修飾語とした共感覚的表現における理解可能な感覚の組み合わせを検討した.研究1では,参加者に47語のオノマトペの感覚関連性の評定を求めた.結果,39語のオノマトペが,視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚の五感のいずれかと関連した.研究2では,195種類の共感覚的表現がどの程度理解可能であるか評定を求めた.評定の結果,原則として低次感覚から高次感覚への修飾が理解可能であることが示された.また,修飾構造内で聴覚が他の感覚から独立した.
著者
杉本 崇 高野 陽太郎
出版者
The Japanese Society for Cognitive Psychology
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.145-151, 2011
被引用文献数
1

従来アンカリング効果は数的な過程によって起こるとされていたが,近年ではアンカーによって実験参加者の持つ知識が選択的に活性化されるために起こるという意味的過程モデルが提唱されている(Mussweiler & Strack,1999a).この研究では意味的過程モデルの妥当性を検討するために,推論対象の知識が少ないときにアンカリング効果はどのように現れるかを調べた.実験参加者は徳川家康,あるいは徳川家綱の身長についてアンカーを提示された後に値を推測した.意味的過程モデルに基づけば徳川家綱という,実験参加者が非常に乏しい知識しか持ち合わせていないことが予測される人物の場合はアンカリング効果が弱くなることが予想される.しかし,本研究ではそうした結果は観察されなかった.一方,Epley & Gilovich (2006)の提案した歪み値の測定の結果,知識のないときのアンカリング効果には数的な過程が関与していることが示された.
著者
佐藤 浩一 中里 拓也
出版者
The Japanese Society for Cognitive Psychology
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.1-11, 2012
被引用文献数
2

本研究では口頭説明の場面を設定し,被説明者(聞き手)が自由に質問や確認をできるという状況のもとで,説明者は実験者から提示された幾何学図形の形状を口頭で被説明者に伝え,被説明者はその説明に基づいて図形を描いた.説明者(話し手)の説明経験(現職教員,教育実習経験済みの大学4年生,教育実習未経験の大学1年生)により説明の伝わりやすさが変わるか,正しく伝わった説明とそうでない説明にはどのような違いがあるかを検討した.その結果,多くの説明経験を有する説明者のほうが適切な説明をし,被説明者は正しく描画ができた.正しく伝わった説明ではそうでない説明に比べると,説明者による描画指示,メタ説明,状況確認が多く,被説明者による自己状況報告,「はい」が多かった.教員は大学生に比べると,メタ説明を多用した.口頭説明における説明者と被説明者の発話の機能が論じられた.
著者
野呂 幾久子 邑本 俊亮 山岡 章浩
出版者
The Japanese Society for Cognitive Psychology
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.81-93, 2012

本研究は,IC口頭説明場面における患者の理解,情緒,意思決定に,医師の説明表現のわかりやすさと態度のあたたかさがどのような影響を与えるのかを明らかにすることを目的に行った.その中で年齢との関連についても検討した.髄液検査のIC口頭説明場面について,説明表現2種類(わかりにくい/わかりやすい),態度2種類(冷たい/あたたかい)を組み合わせ,4種類のビデオを作成した.そのいずれか一つを642名の健康な協力者(若年層237名,中年層200名,高年層205名)に見せ,理解度や評価を調べた.その結果,1) 患者の情緒は医師の態度から影響を受け,態度があたたかいと評価が上昇するが,説明表現からも影響を受けており,説明表現がわかりやすいと安心感や満足度が高まった,2) 患者の理解は医師の説明表現のわかりやすさによって影響を受けるが,態度も関係しており,説明表現がわかりにくいうえに態度が冷たいと理解度が低下した,3) 意思決定に及ぼす説明表現や態度の影響は患者の年齢層によって異なり,若年層は説明表現のわかりやすさが,中高年層では態度のあたたかさがより大きな影響を与えていた,4) 年齢による差は理解や情緒にも見られ,若年層は説明表現に,中高年層は態度により大きな影響を受ける傾向が見られた,などの結果を報告した.ここから,ICにおける医師の口頭説明には,説明表現のわかりやすさと態度のあたたかさがともに重要であると考えられた.
著者
高橋 翠 遠藤 利彦
出版者
The Japanese Society for Cognitive Psychology
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.165-173, 2013

顔の魅力に対する進化心理学的アプローチは,異性の容貌において繁殖に寄与する資質の手がかりがヒトに普遍的な魅力規定因であると仮定する.しかし,男性顔において「男らしさ」が知覚される容貌は優れた資質のシグナルであるが,女性は必ずしも魅力を知覚しない.本研究では,「男らしい」容貌から知覚される脅威性もまた,そうした容貌に対する魅力評価を抑制している可能性に着目した.男性顔(無表情・直視)に対する印象評価の多変量解析的検討(研究1),および表情(無表情・笑顔)と視線(直視・逸視)の異なる条件下での魅力評定(研究2)を通じて,評定者の性にかかわらず,脅威性(および脅威表情)の知覚が「男らしい」容貌に対する魅力評価を抑制している可能性が示唆された.ただし研究2では,男女で異なる結果として,女性評定者のみで脅威性が相対的に知覚されにくい場合に「男らしさ」の優れた資質のシグナルとしての側面が魅力として知覚されるようになる可能性も示唆された.
著者
Na Chen Katsumi Watanabe Tatsu Kobayakawa Makoto Wada
出版者
The Japanese Society for Cognitive Psychology
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
pp.91, 2022 (Released:2022-04-20)

スイカは、世界で最も人気のある果物の一つです。日本では、スイカの自然な甘さを引き立てるために、塩を振って食べる人がいます。しかし、この食行動に関連する要因については、ほとんど知られていません。ここでは、スイカに塩のヘドニック反応、味の好み、および自閉傾向との関係を調べました。参加者は90名で,オンラインアンケートを実施した。その結果、スイカに塩のヘドニック反応は、苦味の好みと負の相関があり、苦味が苦手な参加者ほど、スイカに塩を美味しく食べる傾向があった。これらの結果は、塩が苦味を抑制する効果があることを示している。さらに、スイカに塩のヘドニック評価や基本味の好み評価には、自閉傾向の影響は見られなかった。このように、自閉傾向は、食行動や味の嗜好にほとんど影響しない可能性があると示している。
著者
大薗 博記 吉川 左紀子 渡部 幹
出版者
The Japanese Society for Cognitive Psychology
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.157-166, 2006

進化論的枠組みで顔の再認記憶について検討したこれまでの研究は,人は協力者として呈示された顔より非協力者として呈示された顔をより再認しやすいことを明らかにした(Mealey,Daood,& Krage,1996; Oda,1997).しかし,顔を憶えているだけではなく,その人物の協力性までも記憶されているかは明らかにされてこなかった.本研究では,まず60人の実験参加者に,未知顔の写真を1回限りの囚人のジレンマ・ゲームにおける (偽の) 選択 (協力/非協力) とともに呈示した.そして1週間後,元の写真に新奇写真を混ぜてランダムに呈示し,その顔を1週間前に見たか否かと,その人物と取引したいか否かを尋ねた.その結果,顔の再認課題では,先行研究とは一貫せず,協力者と非協力者の写真は同じ程度に再認された.一方,協力者に対して非協力者に対してよりも,より「取引したい」と答える傾向があった.興味深いことに,この傾向は憶えられていた顔に対してだけでなく,憶えられていなかった顔に対しても見られた.この結果は,潜在的記憶が協力者と非協力者を見分けるのに寄与していることを示唆している.
著者
楠瀬 悠 吉原 将大 井田 佳祐 薛 俊毅 伊集院 睦雄 日野 泰志
出版者
The Japanese Society for Cognitive Psychology
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.105-115, 2014

語彙判断課題を使ってカタカナ三文字語と四文字語間および漢字二字熟語と三字熟語間の課題成績の比較を試みた.カタカナ表記語には語長効果は観察されなかったが,漢字表記語には有意な語長効果が観察された.漢字三字熟語に対する反応時間は漢字二字熟語に対する反応時間よりも有意に長かった.この効果は,漢字表記語群間で形態隣接語数を統制しても観察された.漢字表記語は複合語であったのに対して,カタカナ表記語は単語であったことから,漢字表記語のみに観察された語長効果は,形態素数の差異を反映する効果であるものと思われる.漢字表記語の読みに,形態素への分解と統合を仮定すると語全体レベルの表象へのアクセスには,分解された複数の形態素に対する再統合が必要である.漢字三字熟語のほうが,二字熟語よりも複雑な形態素構造を持つため,この統合処理において語長効果が生じたものと思われる.本研究の結果は,語の読みの処理の性質が,その語が持つ形態素構造に強く依存することを示唆する.
著者
杉本 崇 高野 陽太郎
出版者
The Japanese Society for Cognitive Psychology
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.51-60, 2014

従来アンカリング効果は数的な過程によって起こるとされていたが,近年ではアンカーによって実験参加者の持つ知識が選択的に活性化されるために起こるという意味的過程モデルが提唱されている(Mussweiler & Strack,1999a).杉本・高野(2011)では,このモデルを検討するために参加者が非常に乏しい知識しか持ち合わせない対象について推定させたところ,意味的過程によって効果が起こりえないときは数的過程によって効果が起こるというメカニズムが示された.本研究の目的はその「カバー効果」を再検討することである.そのため,「曹操」と「コバール」を推定対象として採用した二つの実験を行った.その結果,双方の実験で「カバー効果」を再現することができた.
著者
荒川 歩 木村 昌紀
出版者
The Japanese Society for Cognitive Psychology
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.95-101, 2005
被引用文献数
1

認知スタイル (Verbalizer-Visualizer) とジェスチャー頻度の個人差の関係が分析された.大学生(35 ペア)が,事前に閲覧した映像を対面・非対面条件において互いに説明する実験に参加した.その後,彼らは,Verbalizer-Visualizer Questionnaire (VVQ)に回答した.実験参加者が説明している間のジェスチャーはビデオテープに録画され,表象的ジェスチャーとビートジェスチャーとがカウントされた.その結果,VVQ高得点者は,非対面条件に比べて,対面条件においてより多くの表象的ジェスチャーを行っていた.しかし,VVQ低得点者は,両条件において,表象的ジェスチャーの頻度に違いは認められなかった.認知スタイルや対面・非対面条件はビートジェスチャーには影響していなかった.このことから,表象的ジェスチャーの頻度に影響を与える個人内要因は,状況(対面・非対面)によって異なると考えられる.
著者
浅野 昭祐 兵藤 宗吉
出版者
The Japanese Society for Cognitive Psychology
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.95-104, 2012

Hamilton & Geraci (2006) は,画像が持つ意味的な特徴よりむしろ,画像における概念的示差性のある特徴を処理することによって,画像優位性効果 (PSE) が生起すると主張している(概念的示差性仮説). しかしながら,画像処理に利用される特徴に対して符号化課題が影響するのか否か,そして概念的示差仮説が顕在記憶におけるPSEにも適用可能なのか否かは明らかにされていなかった.そこで,筆者らは符号化課題,刺激形態,ならびに検索手がかり,検索意図を操作することによって,これらの問題に関して検討を行った.実験参加者は,画像または単語を,命名(実験1)もしくはカテゴリ分類(実験2)することにより学習した.そして,テスト課題として,意味的または概念的示差性のある検索手がかりが与えられる潜在記憶課題および顕在記憶課題に従事した.実験1の潜在記憶課題においては,概念的示差性のある検索手がかりが与えられた場合にのみPSEが生起したが,顕在記憶課題においては検索手がかりにかかわらずPSEが生起した.一方,実験2においては,いずれの条件においてもPSEは生起しなかった.本研究の結果,画像における概念的示差性情報が利用されるか否かは,符号化課題の性質とテスト時の検索意図に依存することが示唆された.
著者
秋山 学 清水 寛之
出版者
The Japanese Society for Cognitive Psychology
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.67-79, 2012
被引用文献数
3

本研究は,若齢者および高齢者における購買に関する自伝的記憶の特性を,記憶特性質問紙(MCQ)の質問項目を含む質問紙を用いて検討した.調査参加者はそれぞれの自伝的記憶のなかから購買に関するもっとも深く記憶に残っている印象的な出来事を一つ選んだ.そうした出来事の記憶特性は,主として調査参加者の年齢や保持期間の長さに関連して検討された.若齢者として大学生394名(18~27歳),高齢者として高齢者大学の学生207名(55~87歳)による質問紙データが分析された.その結果,もっとも深く印象に残っている購買の記憶は,若齢者では最近の数年以内に起きた出来事が多く想起された.高齢者は必ずしもレミニセンス・バンプ(10~30歳の頃に経験した出来事が想起されやすいという現象)を示すわけではないことが示された.さらに,ポジティブであると認識される出来事は若齢者でも高齢者でもより多く想起された.したがって,高齢者におけるポジティブ優位性効果は認められなかった.このような調査結果は,Conway (2005)による自己記憶システム理論およびCarstensen (2006)による社会情動的選択性理論との関連において解釈された.
著者
時津 裕子
出版者
The Japanese Society for Cognitive Psychology
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.75-84, 2004
被引用文献数
3

本研究の目的は考古学的熟達者に特有の注視パターンについて,人工物の分類・同定をめぐる考古学的認知技能との関係性に着目して検討することであった.初級から上級レベルまでの考古学経験者9人と3人の非経験者が実験に参加した.被験者が考古学の土器および統制刺激としての植木鉢を観察している間の眼球運動を,アイカメラ(EMR-8)によって測定した.注視箇所と眼球運動パターンについて分散分析,主成分分析を用いて定量的分析を行ったところ,上級者グループに特別な注視パターンが認められた.分析の結果,考古学的熟達者は初級者や非経験者と比較して,1) 物の輪郭部を注視する割合が高いこと,2) 視線移動距離が長く停留持続時間が短い眼球運動パターンをもつこと,が明らかになった.この結果は考古学的熟達者が,物の形態的特徴とプロポーションに注意を向けていることを示すものと解釈した.
著者
松田 憲 楠見 孝 鈴木 和将
出版者
The Japanese Society for Cognitive Psychology
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.1-12, 2004
被引用文献数
1 1

本研究では,広告の「中心情報」を商品属性,「周辺情報」を商品名の典型性とし,情報探索や商品評価動機が強い高考慮商品カテゴリー,動機が比較的弱い低考慮商品カテゴリーにおいて,それらが商品に対する安心感, 好意度,購買欲評定に与える影響を検討する.実験は,大学生30名の参加者に対し,学習フェイズ,再生課題,評定フェイズの順で行った.実験の結果,高考慮・低考慮,両カテゴリーで周辺情報と中心情報が商品評定に促進効果を与えていた.また,パス解析の結果より,いずれのカテゴリーでも,属性がすべての尺度に直接影響を与えているのに対し,商品名の典型性が直接影響を及ぼすのは安心感のみであり,好意度や購買欲への効果は安心感を経由した間接効果であることが示された.低考慮カテゴリーにおいて,商品名の典型性の高低は属性による商品評定に影響を及ぼさず,両カテゴリーで,典型性が高い方の商品名再生数が多かった.