- 著者
-
伊藤 未帆
- 出版者
- 日本教育社会学会
- 雑誌
- 教育社会学研究 (ISSN:03873145)
- 巻号頁・発行日
- vol.108, pp.67-86, 2021-07-07 (Released:2023-04-08)
- 参考文献数
- 34
本稿は,筆者の専門分野である地域研究の立場から,日本の教育社会学が直面する「専門」と「対象」のあいだの相克(異質性のディレンマ)への解決に向けて,これまでの視点をいったんずらしてみることの必要性を説いた。地域研究とは,西洋近代社会が作り出した伝統的な「専門」の枠組みでは対応できないような「異質」な事象に遭遇したとき,その「専門」の舞台設定や理論をどのように修正すればその事例を取り込むことができるかを提案しうる学問分野,すなわち「想定外」を「想定内」へと位置づけるための方法を模索するためのアリーナである。こうした視点から,教育社会学という「専門」に対し,ベトナムの事例から見えてくる具体的な「想定外」の例として,今日のベトナム大卒労働者の学校から職業への移行の過程で,①すでに廃止された「制度的連結」が雇用慣行の中で実践され続けていること,②同時に,家族・親族ネットワークに代表される社会(個人)ネットワークが労働者の能力を示すシグナルとして活用されている可能性があること,という二点を指摘した。