著者
矢久保 修嗣 並木 隆雄 伊藤 美千穂 星野 卓之 奥見 裕邦 天野 陽介 津田 篤太郎 東郷 俊宏 山口 孝二郎 和辻 直
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.167-174, 2019 (Released:2019-12-20)
参考文献数
15
被引用文献数
1

国際疾病分類(ICD)は疾病,傷害及び死因の統計を国際比較するため世界保健機関(WHO)から勧告される統計分類である。この国際疾病分類第11改訂(ICD-11)のimplementation version が2018年6月18日に全世界に向けてリリースされた。これに伝統医学分類が新たに加えられた。ICD の概要を示すとともにICD-11の改訂の過程やICD-11伝統医学分類の課題をまとめる。ICD-11は2019年5月の世界保健総会で採択される。我が国がICD-11を導入し,実際の発効までには,翻訳作業や周知期間なども必要であるためまだ猶予が必要となるが,国内で漢方医学の診断用語も分類のひとつとして使用できることが期待される。このICD-11伝統医学分類を活用することにより,漢方医学を含む伝統医学の有用性などが示されることも期待され,ICD に伝統医学が加わる意義は大きいものと考えられる。
著者
伊藤 謙 伊藤 美千穂 高橋 京子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.140, no.2, pp.71-75, 2012 (Released:2012-08-10)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

補完代替医療のひとつに,香りを吸入することで精油成分のもつ薬理作用を利用し,心身の疾病予防や治療に応用するアロマテラピーがある.揮発性の高い化合物を気化状態で吸入すると,体内に吸収され,非侵襲的に生物活性を表すとされるが,天産物由来の成分探索や多様な効能に対する科学的なエビデンスの蓄積に乏しい.そこで,著者らは医療としての「アロマテラピー」の可能性を探るべく,記憶の影響を最小限にしたマウスの行動観察が可能な実験系を構築した.本評価系はオープンフィールドテストによるマウス運動量変化を観察するものであり,アロマテラピー材料の吸入による効果を簡便に検討することができる.次いで,香道に用いられる薫香生薬類の吸入効果について行動薬理学的に評価し,鎮静作用があることを報告した.さらに,得られた化合物群の構造活性相関研究に関する成果として,化合物中の二重結合の位置および官能基の有無によって鎮静作用が著しく変化することがわかり,活性発現に重要な構造を見出した.本成果は我が国古来の香道の有用性を示唆するだけでなく,経験知に基づく薫香生薬類の多くから新たな創薬シーズの発見が期待できる.
著者
松村 勝之 澤田 祐樹 伊藤 美千穂
出版者
日本食品化学学会
雑誌
日本食品化学学会誌 (ISSN:13412094)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.31-36, 2013
参考文献数
9

Cinnamon Bark is the bark of the trunk of Cinnamomum cassia Blume (Lauraceae), or such bark from which a part of the periderm has been removed, which is designated in the Japanese Pharmacopoeia Sixteenth Edition. It is used in many stomachics of Kampo formulas, and also used as a spice which flavor is unique and favoured around the world. Origin plant species of Cinnamon Bark has some relative species, and they are used for medicinal and food purposes in many countries. It is difficult to distinguish C.cassia from other species only by appearance and taste when they are in a form of powder which is one of the most common styles for use. In order to develop methods for identification of origin plant of Cinnamon Bark, we tried some procedures using DNA sequences. Fresh leaves whose origin plant species were known were used to search for suitable DNA regions to distinguish C.cassia, and rbcL region was found. A combination of PCR amplification with restriction enzyme digestion of DNAs from either fresh leaves or powder could distinguish C.cassia from others. The method we developed in this research could be one of the solutions for the difficulties of DNA extraction and PCR amplification of some crude drugs because of their viscous liquid. It worked well for the samples whose DNA was fragmented by heat and dry. So this method may support the identification of other origin plants which were difficult to be distinguished by conventional simple DNA sequencing method.
著者
伊藤 美千穂
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.64, no.12, pp.616-619, 2016-12-20 (Released:2017-06-01)
参考文献数
3

日本古来の奥ゆかしい伝統に,沈香*1などの香木を穏やかに暖めて立ち上がる芳香を“聞く”香道がある。また,西洋でアロマセラピーが提唱されるより以前に,北宋の詩人である黄庭堅により香の精神的・身体的効能を謳った漢詩「香十徳」*2が書かれており,日本でも広く知られていた経緯がある。しかし,現代の薬学分野では,主に再現性や定量性の問題からにおい自体やにおい成分の薬理効果などは研究対象になりにくいものとされ,これらについての研究は精力的には進められてこなかった。他方,においの効果に興味を持った著者らはマウスを使ったにおい成分の経鼻吸収モデルを構築し,香道で用いられる沈香の芳香成分に強い鎮静作用があることを明らかにした。さらに沈香等の薫香生薬類やハーブ類の精油等からのにおい成分の摂取がマウスの行動に与える効果を行動薬理的に解析することにより,これらのにおいの中の活性成分の詳細な検討や,薬としての応用の可能性について研究を行っている。
著者
本多 義昭 武田 美雄 木内 文之 飯田 彰 伊藤 美千穂 林 宏明 高石 善久
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

中央アジアにおけるトルコ系民族薬物に関する第3次調査研究として、現地調査として、2003年はウズベキスタンのアラル海沿岸部からブハラにかけての地域を、2004年にはイランのカスピ海沿岸部を、また2005年には中国の新疆ウイグル自治区を調査した。また、収集した薬用植物について、天然物化学的解析を行った。2003年の調査地のウズベキスタン西部は、アムダリア川流域の灌漑事業のために、アラル海周辺部の環境が悪化し、降雨量が少ないため砂漠化も進んでいる。この地域の薬草として目立つものはカンゾウで、分析用資料の収集をした。また、他の薬用植物数種類も収集した。この地域も含めて、ウズベキスタンでは、タビブと称される民間医が薬草の知識を伝えているが、その中身には、ロシア経由のヨーロッパのハーブの知識が多く見受けられた。2004年は、カスピ海に沿って東西に伸びるアルボルス山中に居住するトルクメンの調査をすることができたが、トルコとウズベキスタンの双方に共通するトルコ語系の呼称のものも認められ、更なる調査の必要性が明らかとなった。2005年はトルコ系のウイグル族が多い新疆省を調査した。省南部のホータンはウイグル医学が最もよく残っている地区であるが、この伝統医学はアラビア医学の系列に属するものであることが薬物とその呼称から明らかである。この3年間には、各地で収集した薬用植物に関する天然物化学的研究や品質評価研究についても解析を進め、これまでに13報を報告している。
著者
伊藤 美千穂
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.64, no.12, pp.616-619, 2016

<p>日本古来の奥ゆかしい伝統に,沈香<sup>*1</sup>などの香木を穏やかに暖めて立ち上がる芳香を"聞く"香道がある。また,西洋でアロマセラピーが提唱されるより以前に,北宋の詩人である黄庭堅により香の精神的・身体的効能を謳った漢詩「香十徳」<sup>*2</sup>が書かれており,日本でも広く知られていた経緯がある。しかし,現代の薬学分野では,主に再現性や定量性の問題からにおい自体やにおい成分の薬理効果などは研究対象になりにくいものとされ,これらについての研究は精力的には進められてこなかった。</p><p>他方,においの効果に興味を持った著者らはマウスを使ったにおい成分の経鼻吸収モデルを構築し,香道で用いられる沈香の芳香成分に強い鎮静作用があることを明らかにした。さらに沈香等の薫香生薬類やハーブ類の精油等からのにおい成分の摂取がマウスの行動に与える効果を行動薬理的に解析することにより,これらのにおいの中の活性成分の詳細な検討や,薬としての応用の可能性について研究を行っている。</p>
著者
伊藤 謙 伊藤 美千穂 高橋 京子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理學雜誌 = Folia pharmacologica Japonica (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.140, no.2, pp.71-75, 2012-08-01
被引用文献数
1

補完代替医療のひとつに,香りを吸入することで精油成分のもつ薬理作用を利用し,心身の疾病予防や治療に応用するアロマテラピーがある.揮発性の高い化合物を気化状態で吸入すると,体内に吸収され,非侵襲的に生物活性を表すとされるが,天産物由来の成分探索や多様な効能に対する科学的なエビデンスの蓄積に乏しい.そこで,著者らは医療としての「アロマテラピー」の可能性を探るべく,記憶の影響を最小限にしたマウスの行動観察が可能な実験系を構築した.本評価系はオープンフィールドテストによるマウス運動量変化を観察するものであり,アロマテラピー材料の吸入による効果を簡便に検討することができる.次いで,香道に用いられる薫香生薬類の吸入効果について行動薬理学的に評価し,鎮静作用があることを報告した.さらに,得られた化合物群の構造活性相関研究に関する成果として,化合物中の二重結合の位置および官能基の有無によって鎮静作用が著しく変化することがわかり,活性発現に重要な構造を見出した.本成果は我が国古来の香道の有用性を示唆するだけでなく,経験知に基づく薫香生薬類の多くから新たな創薬シーズの発見が期待できる.
著者
渡辺 高志 小山 鐵夫 岡田 稔 朴 〓宣 木内 文之 川原 信夫 水上 元 田中 伸幸 伊藤 美千穂 杉村 康司 飯田 修 渕野 裕之 PITISOPA Fred TAVIE Clemen GIDEON Solo PATTSON Tofu
出版者
高知工科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

ソロモン諸島は,豊富な熱帯雨林に恵まれ未開の地と云え,生物は種類が豊富であり,ソロモン固有種が多く生育しており4,500種を超える高等植物が確認されている.従って薬用植物の分布も多く,未研究種が大半である事から,主に新薬創出・代替生薬の発掘のため,カギカズラ属Uncaria(生薬「釣藤鈎」として利用),ゴシュユ属Tetradium (Euodia)(生薬「呉茱萸」類縁品として利用)などを中心に探索収集し,さく葉標本は2392種(SIMB 1-2392)で7020点,そして生薬標本は1440点に達した.
著者
伊藤 美千穂 本多 義昭 木内 文之 北山 隆
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、フィールドワークを軸として、ターゲットとする薬用植物についてのインテンシブな研究と、地域の民間伝承薬・薬用資源全般を対象としたエクステンシブな研究を組み合わせたプロジェクトとして計画しました。調査地域をインドシナ、特にラオス、ベトナム、タイの3国に絞り、時期を変えて繰り返し現地とラボを往復することで多様なサンプルとそれらに付帯する情報を効率よく収集することができ、特にインテンシブなターゲットとしたジンコウ、ケイヒ、シソについては多くの新たな知見を得ました。ジンコウに関しては、現地圃場での成木を使った処理実験と、実験室での培養細胞を使った化合物投与実験等の結果を組み合わせた考察から、香気成分構成要素のうち、セスキテルペン類は障害応答とよく似た仕組みで成分の生合成が誘導されるが、クロモン類はこれとは異なり、細胞死と並行して蓄積量が増加することを明らかにし、植林木を用いた沈香生産にむけての基礎的知見を得ました。ケイヒについては、ベトナム中南部に産するMN桂皮と呼ばれるものが特に他の産地のものより甘いということから含有成分と甘みに関して追究し、ケイアルデヒドが甘みに最も大きく関与する成分であることを明らかにしました。シソに関しては、インドシナ山岳地域を中心とする陸稲栽培ではエゴマ(シソと同種)を混作することが一般的に行われており、人々はそのタネを食することから葉茎の精油型には無頓着で選択圧が殆どかかっておらず、収集してみると多様な精油型が見出されました。それらの中から、精油成分生合成中間体と予測される化合物を多量に含むものを初めて発見し、育種を開始しました。ショウガ科植物については、バイオマスとしての利用を意識した有機合成反応に関する研究を重ねています。以上のように、本研究では、インドシナ特産の薬用資源植物を取り上げ、多様なアプローチで有効利用を考えるための多くの基礎的知見を得ました。