著者
佐藤 豊三 小野 剛 田中 和明 服部 力
出版者
日本微生物資源学会
雑誌
日本微生物資源学会誌 = Microbial resources and systematics (ISSN:13424041)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.163-178, 2016-12

2011~2014年,小笠原諸島において採集した約300点の樹木等の罹病部や寄生生物から菌類を分離し,DNAバーコード塩基配列および形態により分類同定を行った結果,286菌株が124種に同定され161菌株が属まで同定された。これらのうち少なくとも37種は日本新産,20種・1亜種は小笠原新産であり,57菌種について延べ80種の新宿主が明らかとなった。新宿主には19種の小笠原諸島の固有種が含まれていた。一方,固有植物から分離された他の50菌株以上が37属に同定されたが,DNAバーコードを用いたBLAST検索などの結果では種まで特定できなかった。これらは新種の可能性も含めて分類学的所属を明らかにする必要がある。また,国内初確認13種および小笠原諸島新産菌1種は,熱帯・亜熱帯産の宿主から分離され,菌自体も熱帯・亜熱帯分布種であった。以上および既報から,小笠原諸島の菌類相には熱帯・亜熱帯要素が含まれていることが改めて認められた。
著者
富岡 啓介 森 充隆 佐藤 豊三
出版者
日本植物病理學會
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.620-623, 1999-12-25
参考文献数
9
被引用文献数
2

1999年3月,香川県の施設で栽培中のラナンキュラス(ハナキンポウゲ;Ranunculus asiaticus L.)に灰色かび病の典型的な症状を呈する病害が確認された。葉,茎および花に,初め水浸状の不整形病斑が現れ,病斑はしだいに褐変・乾燥しながら拡大・癒合し,それら器官が腐敗して株全体が早期枯死に至る。病斑上には肺∼灰褐色のビロード病の菌体が観察され,その出現は多湿条件で促進された。この菌体では典型的なBotrytis属菌の分生子柄と分生子がみられ,本菌を主にその形態的特徴からB. cinerea Person:Friesと同定した。本菌分離菌株の分生子を健全宿主に接種した結果,原病徴が再現されるとともに接種菌が再分離され,同菌の病原性が確認された。本病はすでに記録のあるラナンキュラス灰色かび病と思われた。しかし,病徴とともに病原菌の同定根拠および病原性に関する報告がない。本研究はその科学的根拠を示すものである。
著者
新崎 千江美 佐藤 豊三 白玉 敬子 大城 篤 金子 繁
出版者
九州病害虫研究会
雑誌
九州病害虫研究会報 (ISSN:03856410)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.22-24, 2013

沖縄県与那国町で露地栽培中のボタンボウフウにおいて葉の表裏,葉柄に微小な黄斑点を生じ,褐色粉状の胞子が大量に形成され黄化・葉枯に至る病害が発生した。病原菌の夏胞子は淡褐色,単細胞,広楕円形ないし倒卵形で表面に細刺があり,大きさは23~38.5×21~32.5μm であった。冬胞子は褐色2細胞で隔壁部がややくびれ,短棍棒形,長楕円形ないし雪だるま形,大きさは34~51×22~33μm であった。夏胞子の接種により病徴が再現され,夏胞子および冬胞子が形成された。本病原菌とカワラボウフウ属の植物に寄生するさび病菌との形態的比較に基づき,<i>Puccinia jogashimensis </i>と同定した。以上より本病をさび病(新称)とすることを提案する。
著者
佐藤 豊三 埋橋 志穂美 細矢 剛
出版者
首都大学東京
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.59-160, 2010-03

Approximately 1,000 taxa of fungi found and/or collected in the Bonin Islands were listed based on previous reports, collection data of dried specimens and background dataset of living cultures. Five hundred 6 (50.8%), 203 (20.4%) and 180 (18.1%) of them belong to Basidiomycota, Deuteromycota (Mitosporic Fungi) and Ascomycota, respectively. The others (total 10.7%) are mixomycetous (56 taxa), zygomycetous (24 taxa), chytridiomycetous (14 taxa), oomycetous (12 taxa) and blastocladiomycetous (1 taxon) fungi. About 100 taxa containing texts, "bonin", "munin", "ogasawara," "chichi", "haha", in their scientific and/or common names were found in the list. It indicates that at least 10% of taxa reported from the islands have type localities there and/or endemic. More taxa new to the islands will obviously turn up if various mycologists repeatedly place the full weight of their effort on collecting and identifying materials there, because those found are merely ca. 8.3% of known species of fungi in Japan.小笠原諸島で採集・発見・同定された菌類のうち文献として公表され、あるいは標本や分離菌株が公的機関に保存されている約1,000 学名(分類群)を網羅した。その主な内訳は担子菌類506 種(50.8%)、不完全菌類203 種(20.4%)、子のう菌類180 種(18.1%)で、残りの10.7%は変形菌類56 種、接合菌類24 種、ツボカビ類14 種、卵菌類12 種、コウマクノウキン類1 種である。学名や和名のローマ字表記の中に"bonin"、"munin"、 "ogasawara"、 "chichi"、 "haha"の語を含む種等が100 以上あることから、少なくとも10%の分類群が同諸島をタイプロカリティーとしており、また、その中には特産種も含まれているものと思われる。リストアップされた菌類は国内既知種の8.3%に過ぎず、今後、様々な菌学者が繰り返し同諸島の菌類を採集・同定することにより、さらに多くの種が明らかになると予想される。
著者
出川 洋介 勝山 輝男 田中 徳久 山岡 裕一 細矢 剛 佐久間 大輔 廣瀬 大 升屋 勇人 大坪 奏 城川 四郎 小林 享夫 原田 幸雄 松本 淳 勝本 謙 稲葉 重樹 佐藤 豊三 川上 新一 WALTER Gams
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

労力と時間を要すために研究が遅れてきた菌類のインベントリー調査を、博物館を介して専門研究者と市民とを繋ぐ3者連携体制を構築して実施した。多様な世代の70名以上の市民により5千点を超す標本が収蔵された10年に及ぶ事前調査を踏まえ、約50種の菌類を選定し、研究者の指導のもとに市民が正確な記載、図版を作成し菌類誌を刊行、デジタルデータを公表した。本研究事例は今後の生物相調査の推進に有効な指針を示すと期待される。
著者
衣川 勝 佐藤 豊三
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.373-383, 2003-11-25
被引用文献数
3

近年、香川県で樹齢が10年以上のキウイフルーツ樹に枝枯れが多発している。枝の大きな切断痕や日焼け部から枯れ込みが進み、側枝、亜主枝が枯れる場合が多い。病勢の著しい場合、亜主枝、主枝まで枝枯れが進み胴枯れ症状を呈し、樹全体が枯れる場合もある。罹病枝から高率に分離されたPhomopis属菌およびF. aesculiをキウイフルーツの枝に接種した結果、いずれも枝枯れ症状が再現され、接種菌が再分離された。Phomopsis属菌については、子のう世代および分生子世代の形態、培養上の諸性質、およびキウイフルーツ、ミカン、およびリンゴの果実、またモモおよびナシの枝に対する接種試験の結果から、キウイフルーツ果実軟腐病菌のうちDiaporhe属菌と同一種であった。また、F. aesculiについても、子のう世代および分生子世代の形態、培養上の諸性質、およびキウイフルーツ果実への接種試験の結果から、キウイフルーツ果実軟腐病菌B. dohideaと同一種であった。これらの結果から、キウイフルーツ果実軟腐病菌のDiaporhe sp.、およびB. dohideaにより枝枯症状が起きることが明らかとなった。