著者
保井 久子
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.191, 2009-03-15 (Released:2009-04-30)
参考文献数
2
被引用文献数
1 1

ヒトや動物には,外敵から身体を守るために免疫系が備わっている.多くのウイルスや病原菌の侵入口である粘膜面には効果的な「粘膜免疫」が存在し,抗原特異的分泌型IgA応答や細胞障害性T細胞(CTL)を誘導する.各粘膜は共通粘膜免疫機構(common mucosal immune system(CMIS))により関連をもち,ある粘膜組織で誘導されたIgA産生細胞やCTLは他の粘膜組織にも帰巣(ホーミング)する.とくに,分泌型IgA産生細胞は,腸管関連リンパ組織(GALT),鼻咽頭関連リンパ組織(NALT)および気管支関連リンパ組織(BALT)などの誘導組織(inductive site)で誘導され,実効組織(effector site)である腸管粘膜固有層,呼吸器粘膜固有層,乳腺,涙腺,唾液腺,泌尿生殖器にホーミングする.抗原により直接暴露された粘膜組織において最も強いホーミングがおこり,強い免疫応答がみられ,それに準じた免疫応答が隣接する粘膜組織でみられる.例外として抗原の経鼻投与では,呼吸器粘膜だけでなく,生殖器粘膜にも抗原特異的免疫応答が誘導される.腸管や鼻咽頭からの抗原は,それぞれパイエル板やNALT/BALTのM細胞に取り込まれ,マクロファージや樹状細胞などの抗原提示細胞に送られ,その後,B細胞およびT細胞に提示される.感作されたB細胞およびT細胞はホーミングを開始し,体内循環をし,各実効組織に到達する.B細胞が産生するIgAは,上皮細胞で産生される分泌片と結合して分泌型IgAとして各粘膜面に分泌される.そして,侵入したウイルス,細菌,細菌毒素,アレルゲンなどと免疫結合体を作り,これらを排除する1).多くの粘膜経由の感染症に対する最適な防御は粘膜面と全身系で免疫を誘導することである.抗原投与法と免疫応答との関係を図1に示した.従来の注射によるワクチンでは血中IgG抗体価で代表される全身系での免疫は誘導できるものの,分泌型IgAに代表される粘膜面での免疫は効果的に誘導できない.これに対して,腸管や鼻咽頭などの粘膜面をターゲットとして経口あるいは経鼻的な経粘膜に投与されたワクチン,いわゆる「粘膜ワクチン」では粘膜面での感染侵入防止と全身系免疫での防御の両方が誘導できる.現在,多くの粘膜ワクチンの開発が進められている.経口投与では,近隣の唾液,消化管,乳汁のIgAの上昇が大きい.経鼻投与では近隣の鼻,唾液,肺のIgA抗体の上昇が大きく,遠隔に存在する女性生殖器での抗原特異的分泌型IgAおよびCTLの誘導も報告されている.このことから,HIV(human immunodeficiency virus)の粘膜ワクチン開発には経鼻投与経路も考えられている.現在,国際的に認可されている粘膜ワクチンを表1に示した2).コレラやロタウイルスなどの胃腸感染症では投与方法として経口投与が選択される.一方,呼吸器感染症であるインフルエンザでは経鼻投与が選択されていることがわかる.しかし,現在日本で承認されているのは経口ポリオワクチンのみである.種々の感染症に合わせたワクチンの投与経路の選択は重要である.経口ワクチンは従来の注射によるワクチンや他の経粘膜投与法に比較して,投与の際に特別な医療器具を必要としないため,最も簡便かつ安全な投与方法といえる.しかし,経口的に投与された抗原は,大半が胃,腸などで消化作用を受けた後,パイエル板などの粘膜免疫誘導組織に到達するため,効果的な抗原特異的免疫応答を誘導するためには多量の抗原を必要とする.このため,ワクチンの抗原の安定性と粘膜免疫誘導組織へのワクチン抗原の効率の良い送達を得ることが経口ワクチンの開発において重要な鍵となる.一方,経鼻ワクチンは,NALTにより効率の良い抗原処理が行われ,酵素による分解が少ないため,少量の抗原で効果が得られるなどの利点を有している.今後,経鼻ワクチンについての研究を重ね安全性などを確認する必要があろう.
著者
保井 久子
出版者
日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.191-192, 2009-03-15
被引用文献数
1

ヒトや動物には,外敵から身体を守るために免疫系が備わっている.多くのウイルスや病原菌の侵入口である粘膜面には効果的な「粘膜免疫」が存在し,抗原特異的分泌型IgA応答や細胞障害性T細胞(CTL)を誘導する.各粘膜は共通粘膜免疫機構(common mucosal immune system(CMIS))により関連をもち,ある粘膜組織で誘導されたIgA産生細胞やCTLは他の粘膜組織にも帰巣(ホーミング)する.とくに,分泌型IgA産生細胞は,腸管関連リンパ組織(GALT),鼻咽頭関連リンパ組織(NALT)および気管支関連リンパ組織(BALT)などの誘導組織(inductive site)で誘導され,実効組織(effector site)である腸管粘膜固有層,呼吸器粘膜固有層,乳腺,涙腺,唾液腺,泌尿生殖器にホーミングする.抗原により直接暴露された粘膜組織において最も強いホーミングがおこり,強い免疫応答がみられ,それに準じた免疫応答が隣接する粘膜組織でみられる.例外として抗原の経鼻投与では,呼吸器粘膜だけでなく,生殖器粘膜にも抗原特異的免疫応答が誘導される.<BR>腸管や鼻咽頭からの抗原は,それぞれパイエル板やNALT/BALTのM細胞に取り込まれ,マクロファージや樹状細胞などの抗原提示細胞に送られ,その後,B細胞およびT細胞に提示される.感作されたB細胞およびT細胞はホーミングを開始し,体内循環をし,各実効組織に到達する.B細胞が産生するIgAは,上皮細胞で産生される分泌片と結合して分泌型IgAとして各粘膜面に分泌される.そして,侵入したウイルス,細菌,細菌毒素,アレルゲンなどと免疫結合体を作り,これらを排除する<SUP>1)</SUP>.<BR>多くの粘膜経由の感染症に対する最適な防御は粘膜面と全身系で免疫を誘導することである.抗原投与法と免疫応答との関係を図1に示した.従来の注射によるワクチンでは血中IgG抗体価で代表される全身系での免疫は誘導できるものの,分泌型IgAに代表される粘膜面での免疫は効果的に誘導できない.これに対して,腸管や鼻咽頭などの粘膜面をターゲットとして経口あるいは経鼻的な経粘膜に投与されたワクチン,いわゆる「粘膜ワクチン」では粘膜面での感染侵入防止と全身系免疫での防御の両方が誘導できる.現在,多くの粘膜ワクチンの開発が進められている.経口投与では,近隣の唾液,消化管,乳汁のIgAの上昇が大きい.経鼻投与では近隣の鼻,唾液,肺のIgA抗体の上昇が大きく,遠隔に存在する女性生殖器での抗原特異的分泌型IgAおよびCTLの誘導も報告されている.このことから,HIV(human immunodeficiency virus)の粘膜ワクチン開発には経鼻投与経路も考えられている.<BR>現在,国際的に認可されている粘膜ワクチンを表1に示した<SUP>2)</SUP>.コレラやロタウイルスなどの胃腸感染症では投与方法として経口投与が選択される.一方,呼吸器感染症であるインフルエンザでは経鼻投与が選択されていることがわかる.しかし,現在日本で承認されているのは経口ポリオワクチンのみである.<BR>種々の感染症に合わせたワクチンの投与経路の選択は重要である.経口ワクチンは従来の注射によるワクチンや他の経粘膜投与法に比較して,投与の際に特別な医療器具を必要としないため,最も簡便かつ安全な投与方法といえる.しかし,経口的に投与された抗原は,大半が胃,腸などで消化作用を受けた後,パイエル板などの粘膜免疫誘導組織に到達するため,効果的な抗原特異的免疫応答を誘導するためには多量の抗原を必要とする.このため,ワクチンの抗原の安定性と粘膜免疫誘導組織へのワクチン抗原の効率の良い送達を得ることが経口ワクチンの開発において重要な鍵となる.一方,経鼻ワクチンは,NALTにより効率の良い抗原処理が行われ,酵素による分解が少ないため,少量の抗原で効果が得られるなどの利点を有している.今後,経鼻ワクチンについての研究を重ね安全性などを確認する必要があろう.
著者
増田 健幸 中田 雅也 岡田 早苗 保井 久子
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 = Journal of Japan Society for Lactic Acid Bacteria (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.42-49, 2010-03-15
参考文献数
20
被引用文献数
1 3

すんき漬から分離された乳酸菌の中にIgE産生を抑制する菌株が多数存在した。その中の1菌株(<i>Pediococcus pentosaceus</i> Sn26株(Sn26))は、経口投与により血中の卵白アルブミン(OVA)特異的IgEを減少させ、 OVAで誘導されるアレルギー性下痢症を有意に抑制した。このメカニズムを解析するために誘導組織である腸管パイエル板細胞及び実効組織である腸管粘膜固有層リンパ細胞の免疫応答性を調べた。その結果、Sn26の経口投与は、パイエル板細胞の1型ヘルパーT細胞(Th1)型サイトカイン産生能を上昇させ、Th1/ 2型ヘルパーT細胞(Th2)バランスを改善させ、総IgE産生能を減少させた。さらに、腸管粘膜固有層リンパ細胞のTh2型サイトカイン産生能を減少させ、OVA特異的IgE産生能を低下させた。以上のことから、経口投与されたSn26は、パイエル板に取り込まれた後、Th1/Th2バランスの改善を介して腸管粘膜でのIgE産生を抑制し、下痢発症を抑制することが推測された。
著者
野口 茜 武田 俊之 渡辺 剛 保井 久子
出版者
信州大学農学部
巻号頁・発行日
vol.44, no.1-2, pp.1-8, 2008 (Released:2010-05-07)

毎年冬季に流行するインフルエンザ感染症は、主にA型インフルエンザウイルス(Flu)により発症する。A型Fluは、複数の亜型に分類されることやゲノム変異が頻繁に起こることから、その予防にワクチン接種は完全とは言えず、また抗Flu薬も問題が多い。一方、紅茶や緑茶等の茶フラボノイドは、高いFlu感染阻害作用を有することが注目されている。そこで、我々はアントシアニンなどのフラボノイドを多量に含む果実であるカシスに注目し、その抗Flu作用を検討した。その結果、カシスエキスはFluに対して高い赤血球凝集阻害作用を示し、Flu感染モデルマウスを用いた試験において、発症率を減少させ、生存率を高めた。これらのことから、カシスエキスはA型Fluの予防に有効であると考えられた。また、活性成分の探索のため、カシスエキスを合成吸着樹脂にて分画し、赤血球凝集阻害作用を調べた。その結果、アントシアニン以外の物質が含まれる画分に、強い吸着阻害作用を有する化合物の存在が示唆された。
著者
吉田 茂利 大畑 映利子 増田 健幸 岡田 早苗 宮崎 洋二 山下 哲郎 保井 久子
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.214-220, 2010-11-10 (Released:2014-09-12)
参考文献数
16
被引用文献数
5

徳島県の伝統的な乳酸発酵茶である阿波晩茶から分離された熱処理Lactobacillus plantarum FG4-4 株(FG4-4)の抗アレルギー作用及びそのメカニズム解析を行った。アトピー性皮膚炎モデルマウスであるNC/Nga マウスを0.05% FG4-4 添加餌群(0.05% 群)、0.5%FG4-4 添加餌群(0.5% 群)と、FG4-4 無添加餌群(cont 群)の3 群に分けた。餌投与開始15 日後に塩化ピクリル(PiCl)を用いて初回免疫を、その4 日後より、週1 回の塗布により連続免疫を行った。経時的に皮膚症状のスコアと耳介部の肥厚及び血中総IgE 量を測定した。その結果、血清中総IgE 量、皮膚スコア及び耳介部の肥厚は0.05% 群及び0.5% 群で有意に抑制された。また、89 日目に解剖し、脾臓及びパイエル板細胞培養を行い、その上清中のサイトカイン及びIgE 抗体量をELISA 法にて測定した。その結果、FG4-4 投与群(0.05% 群及び0.5% 群)の脾臓及びパイエル板細胞においてIgE 産生能は有意に抑制され、Th1 型サイトカイン(IL-12 及びIFN-γ)産生能は有意に増加した。さらにパイエル板細胞においてTh2 型サイトカイン(IL-4)産生能の有意な減少が認められた。また、FG4-4 投与両群の脾臓及びパイエル板細胞においてIL-10 産生能の有意な増加、IL-17 産生能の有意な抑制が確認された。これらの結果から、FG4-4 の経口摂取はTh1/Th2 バランスを改善し、IgE 産生を抑制することによって抗アレルギー作用を有することが示唆された。さらに、FG4-4は制御性T 細胞の亢進及びTh17 細胞の抑制を誘導し、アトピー性皮膚炎を軽減する事も示唆された。
著者
出口 ヨリ子 長田 邦子 内田 和美 木村 広子 芳川 雅樹 工藤 辰幸 保井 久子 綿貫 雅章
出版者
Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.72, no.8, pp.923-931, 1998-08-01
参考文献数
25
被引用文献数
40 62

グアバ(<i>Psidium guajava</i> L.)は日本や亜熱帯地方で民間的に糖尿病や下痢止めに用いられている.グアバ葉の熱水抽出物(GvEx)の抗糖尿病効果を調べるために,動物やヒトへの投与実験を行った.これに先がけて,<i>in vitro</i>においてマルターゼ,シュクラーゼ, α-アミラーゼの糖類分解酵素活性の阻害作用を調べた.GvExはこれらの酵素活性を胆害したが,その中でα-アミラーゼの阻害が他の二つの酵素阻害より強いことが示された.正常マウスへのマルトース,シュクロース,可溶性デンプンの負荷試験では, GvEx投与により血糖値の低下が認められた.また,糖尿病性腎症を含む糖尿病の病態を示す糖尿病モデルマウス(C57BL/KsJ, db/db)へGvExを7週間経口投与を行った結果, GvEx非投与の対照群に比べて, GvEx投与群ではHbA<sub>1c</sub>%と腎臓メサンジウム基質の肥厚を示す糸球体数の有意な低下が認められた.<br> グアバ葉からグアバ茶を調製し,ヒトへの飲用試験を行い食後血糖値への影響を調べた.年齢40歳以上, BMI 22.0以上の対象者ではグアバ茶飲用により食後の血糖値の低下が認められた.これらの結果からGvExは糖の消化を抑制することにより,食後血糖値の上昇を低下させ,結果的に糖尿病の進展を遅らせることが予想された.
著者
岩淵 紀介 蛭田 直幸 清水 金忠 八重島 智子 岩附 慧二 保井 久子
出版者
日本酪農科学会
雑誌
ミルクサイエンス (ISSN:13430289)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.129-133, 2009 (Released:2014-03-15)
参考文献数
13

Bifidobacterium longum BB536の鼻腔内投与によるマウスの気道の粘膜免疫とインフルエンザウイルス感染に対する影響を調べた。マウスにリン酸緩衝生理食塩水(コントロール群)または BB536加熱死菌体(BB536投与群)を 3 日間鼻腔内に投与した後に,インフルエンザウイルス(PR8 株)を鼻腔内に接種した。3 日後にリン酸緩衝生理食塩水で下気道に押し流し,累積発症率および生存率を14日間観察した。BB536投与群では,累積発症率と生存率の有意な改善が認められた。また,3 日間のリン酸緩衝生理食塩水または BB536菌体の鼻腔内投与の後に,肺縦隔リンパ節と鼻関連リンパ組織から細胞を調製した。調製した細胞をコンカナバリン A 存在下で 3 日間培養し,培養上清中のサイトカインを測定した。BB536投与群で肺縦隔リンパ節からの IL-12p40産生と鼻関連リンパ組織からの IFN-γ 産生が増加した。これらの結果から,BB536の鼻腔内投与は肺縦隔リンパ節や鼻関連リンパ組織の細胞性免疫を賦活し,インフルエンザ感染を防御したと考えられた。
著者
野口 茜 武田 俊之 渡辺 剛 保井 久子
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.1-8, 2008-03

毎年冬季に流行するインフルエンザ感染症は,主にA型インフルエンザウイルス(Flu)により発症する。A型Fluは,複数の亜型に分類されることやゲノム変異が頻繁に起こることから,その予防にワクチン接種は完全とは言えず,また抗Flu薬も問題が多い。一方,紅茶や緑茶等の茶フラボノイドは,高いFlu感染阻害作用を有することが注目されている。そこで,我々はアントシアニンなどのフラボノイドを多量に含む果実であるカシスに注目し,その抗Flu作用を検討した。その結果,カシスエキスはFluに対して高い赤血球凝集阻害作用を示し,Flu感染モデルマウスを用いた試験において,発症率を減少させ,生存率を高めた。これらのことから,カシスエキスはA型Fluの予防に有効であると考えられた。また,活性成分の探索のため,カシスエキスを合成吸着樹脂にて分画し,赤血球凝集阻害作用を調べた。その結果,アントシアニン以外の物質が含まれる画分に,強い吸着阻害作用を有する化合物の存在が示唆された。