著者
樋室 伸顕
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1095-1102, 2017-12-15

はじめに 学生時代,小児施設での臨床実習が決まったとき,親とどのように接したらよいか不安に思った経験はないだろうか.一方,小児施設で臨床をしている理学療法士は,親とのかかわり方をどのように身につけているのだろうか.卒前卒後を通して,理学療法教育として家族とのかかわりを学ぶ機会は限られている.先輩からの助言や個人の学習努力,または積み重ねた経験に基づいて臨床実践されているのが現状である. 家族が子供の発達に大きな影響を与えることは疑いの余地がない.したがって子供の発達を支える小児理学療法では,根拠を持って家族とかかわる必要がある.そこで本稿では,Family-Centered Servicesの言葉の意味や概念,定義,効果をレビューする.そして家族を中心として理学療法を実践するうえで特に重要な情報提供のありかたを,私見を交えて述べる.小児理学療法の臨床・教育において,科学的根拠を持って家族とかかわるきっかけになることが本稿の目的である.
著者
吉田 啓志 増田 裕里 近藤 駿 井戸田 弦 永井 宏達
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1275-1279, 2021-11-15

要旨 【目的】自立歩行が可能な脳卒中患者における日本語版Physical Activity Scale for the Elderly(PASE)を使用した身体活動量評価の妥当性および信頼性を検証することである.【方法】妥当性は,対象者27名に対し,入院環境と生活環境においてPASEと3軸加速度計にて評価した身体活動量の相関係数にて基準関連妥当性を評価した.信頼性は,対象者19名に対し,級内相関係数(intraclass correlation coefficients:ICC)にて検者内信頼性を評価した.【結果】妥当性は,生活環境において高い妥当性を認めた(ρ=−0.40〜−0.67).信頼性においても,高い信頼性を認めた(ICC=0.98).【結論】自立歩行が可能な脳卒中患者におけるPASEを使用した身体活動量評価は,妥当性および信頼性とも良好であり,生活環境での応用が今後期待される.
著者
山田 実
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1067, 2020-09-15

「すぐに自分の講義で使用したい」,本書を拝見したときの第一印象です.大学院で統計学の講義を担当していると,毎年,学生からは決まって同じような質問が寄せられます.つまり,研究初学者が『統計学』を学ぶ際に疑問に思う点,理解に難渋する点,興味を抱く点はほぼ固定されており,われわれ講義担当者には,それらの点についてわかりやすく解説することが求められています.しかし,専門書に記載されてある内容を咀嚼して,わかりやすくかつシンプルに伝達するということは決して容易ではありません.本書には,このような学生から寄せられる質問(Q)がほぼそのままの形で記載されており,それに対応する解説(A)が一問一答形式の平易な表現でまとめられています.月並みな表現になってしまいますが,本書にはまさに『目から鱗』の情報が満載で,「講義で活用したい」,「学生・研究初学者にぜひ読んでもらいたい」,そう思えた一冊です. 『統計学≒難しい』という印象が強く,『統計』と聞いただけで拒絶反応を起こす方も少なくないのではないでしょうか? しかし,『エビデンス』という用語が日常的に用いられるようになった現在の医療現場では,研究論文を読み・書きする必要性が生じ,どうしても『苦手な(嫌いな)統計』と向き合わざるを得ない日が訪れてしまいます.そのようなときに,手に取っていただきたいのが本書です.『統計学≒難しい』から『統計学≒やれるかも』に変換してくれる,そのような役割を果たしてくれると思います.
著者
網本 和 内田 賢 内山 靖 大城 昌平 金谷 さとみ 酒井 桂太 福井 勉 山田 英司 横田 一彦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.812-817, 2020-07-15

内山 本日は理学療法教育をめぐる現状を共有し,今後の展望について意見交換したいと思います. まず,教育関係者の共通認識として主要な行政文書を確認しておきます.2月28日付の文部科学省・厚生労働省の事務連絡として「新型コロナウイルス感染症の発生に伴う医療関係職種等の各学校,養成所及び養成施設等の対応について」が出され,在学中の学生に不利益が生じないよう,迅速かつ弾力的な対応が示されています.
著者
金谷 さとみ 津田 陽一郎 永冨 史子 松井 一人 村永 信吾
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.802-811, 2020-07-15

金谷 本邦における新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)の感染拡大は社会全体に大きな影響を及ぼしましたが,理学療法提供においてもあらためて考えさせられる機会となりました.本日は,それほど切迫した状況ではないものの,体制づくりや予防策に追われた地域の先生方にご出席いただきました.まず,ご自身の施設の概要とこれまでの経緯をお話しください. 永冨 当院は回復期リハビリテーション病棟を有する647床の急性期総合病院です.高齢症例が多いのが特徴です.岡山県は感染者数が非常に少なく抑えられていますが,通常とは異なる臨床をどのように組み立てるか,また緊急事態宣言が解除された現在はこれらの対応をどうやって緩めていくか,さまざま思案しながら業務を行っています.
著者
内田 茂博
出版者
医学書院
雑誌
理学療法ジャーナル (ISSN:09150552)
巻号頁・発行日
vol.52, no.7, pp.653, 2018-07-15

身体重心(center of gravity:COG)とは身体の質量分布の中心であり,姿勢の変化によって重心の位置は変化する.静的立位姿勢における身体重心の位置は第2仙椎の高さで骨盤の中央と解釈されているが,これはおおよその位置であり姿勢の変化によりその位置は異なってくる.生体力学では合成重心の考え方により身体重心を求めている.合成重心とは,図1に示すように身体の皮膚上に貼付したマーカーより,頭部,体幹部,上腕部,前腕部,大腿部,下腿部,足部などの各体節(セグメント)の位置情報が求められ,各体節の重心位置と質量が計算される.各体節の重心位置,質量より上半身の合成重心,下半身の合成重心が求められ,最後に身体全体の重心の位置が求められる.このように身体重心は各体節の位置によって求められた合成重心であるため,体節の位置関係が変化すれば身体重心の位置も異なってくることを理解する必要がある. 足圧中心(center of pressure:COP)とは,床反力作用点,圧力中心とも表現され,床と身体との接触面に働く力の分布の中心点である.図2に示すように足底が床面に接触した場合,矢印に示すような多くのさまざまな大きさや方向に向かった反力が足底に生じる.多数の足底に生じる床反力を合成し,1つの矢印にしたものを床反力ベクトルとよび,矢印の根本部分が床反力作用点となり足圧中心点を示している.両足で床に接している場合では,右足の床反力作用点が1点,左足の床反力作用点が1点と各々の足圧中心点を示すことができるが,左右の床反力作用点のつりあう点を合成床反力作用点として考え,足圧中心点として求めることがある.

5 0 0 0 二関節筋

著者
福井 勉
出版者
医学書院
雑誌
理学療法ジャーナル (ISSN:09150552)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.511, 2008-06-15

二関節筋とは起始と停止が2つの関節をまたぐ筋を指す.単一関節に関係する単関節筋と対比されることが多いが,多くの関節に作用する多関節筋という語の一部とも考えられる.下肢では大腿直筋,半腱様筋,半膜様筋,大腿二頭筋長頭,腓腹筋などが,上肢では上腕二頭筋長頭,上腕三頭筋長頭などがその代表である.二関節筋は2つの関節をまたいでいるため,一方の関節運動は他方の関節の影響を受ける.端座位で膝関節最終伸展を行う際に骨盤後傾が起こりやすいのは,ハムストリングスの短縮のためである.しかし,骨盤後傾は大腿直筋の起始部を停止部から遠ざける効果もある.投球動作やキック動作のように,四肢末端が強いトルクを出す際には,主動作筋の筋長を最大限にしていることが観察できる.キック動作のフォロースルーでも,骨盤後傾と体幹回旋によって,下前腸骨棘は脛骨粗面に容易に近づかない.そのためキック動作では,下肢末梢の瞬間中心は股関節よりも中枢の体幹に位置するようになる.このように,二関節筋は関節中心から遠い浅層に位置するため,レバーアーム長が長いことも大きなモーメント発揮に有利であると考えられる. 二関節筋は2つの関節の運動をつかさどるため,運動のパターン化を来す場合もある.変形性膝関節症における大腿筋膜張筋-腸脛靱帯の強い緊張,ジャンパー膝における大腿直筋の強い活動は,拮抗筋機能低下だけではなく,筋の付着部付近の単関節筋活動の機能低下とも結びついている.骨盤付着の二関節筋はすべて体幹姿勢の影響を受けるため,例えばジャンパー膝では,股関節屈曲モーメントが大きくなる骨盤後傾姿勢をとりやすく,同時に膝関節伸展モーメントを増大させてしまう.つまり,ある二関節筋が作用すれば,最小限の姿勢保持や動作が可能であるため,他の筋群の活動は必要とされない姿勢になり,負荷が一箇所に集中するようになる.したがって,ジャンパー膝の原因療法としては,股関節伸展モーメントを動作中に増大するような運動療法が考えられる.変形性膝関節症でも,股関節外転モーメントの増大は骨盤の反対側への傾斜,中殿筋筋力低下と共に生じ,二関節筋への負荷が過剰であるために生ずるとも言える.以上のように,筋炎や腱炎,肉ばなれなどは二関節筋特有と言っても過言ではなく,さらに二関節筋の過剰な運動参加は関節不安定化に移行しやすいなど,機能障害と結びつきやすい.関節疾患における単関節筋機能向上の運動療法が,肩関節や体幹に代表されるローカルマッスルへのアプローチに移行したのは機能障害との関連からであり,臨床に導入された根拠ともなっている.
著者
岩田 健太郎 北原 エリ子 高橋 哲也 長谷川 信 横田 一彦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.796-801, 2020-07-15

高橋 本日は,新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)の患者に直接対応されている最前線の先生方にお集まりいただきました.最初に自己紹介を兼ね,それぞれの現場で何が起こっているのか,これまでの経緯をお話しください. 岩田 当院ではCOVID-19患者を受け入れて以降,受け入れ初期,緊迫期,安定期という3段階で進んできました.緊迫期は院内感染と並行して健康観察に伴う職員の離脱が増え,病院全体が不安に覆われていました.それから日々情報がアップデートされ,目の前の変わりゆく変化に常に対応していかなければいけない時期でもありました.この時期は災害と同じだったと技師長とよく話しています.その後,COVID-19の実態がある程度見えてきて,現在は安定に向かいつつあります.
著者
大槻 紘子 山崎 友昭 黒崎 尚子 須賀 正伸 柴田 由理 後藤 渉
出版者
医学書院
雑誌
理学療法ジャーナル (ISSN:09150552)
巻号頁・発行日
vol.43, no.7, pp.635-640, 2009-07-15

要旨:労災事故による利き手の手関節部離断後,クルッケンベルグ法による手術を行った症例に対して,理学療法を行う機会を得た.クルッケンベルグ法とは,前腕を橈骨と尺骨の間で2つに分け,ピンセットのように物を挟めるようにする機能再建術で,特異な外観により適応が限定されていたが,機能的に優れているため,近年は片側前腕切断例でも行われている.今回,断端の開閉動作に必要な筋収縮を得ることを目的として筋電図バイオフィードバックを用いた結果,症例の希望する両手の日常生活活動(activities of daily living:以下,ADL)が自立に至った.治療開始時には医療サイドは義手を検討していたが,症例は特異な外観に抵抗がなく,当初から手術を勧めた場合にはより早期にADLの自立が可能だったとも考えられ,目標設定に関して反省点も残った.
著者
網本 和
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1017, 2017-11-15

エイリアンハンド徴候(alien hand sign:AHS)は主に脳血管疾患(前大脳動脈領域の梗塞例が多い),脳梁切断などを原因として起こる,さまざまな類縁の徴候を含む幅広い概念である.福井1)によれば,その中核症状は ① 上肢(=患肢,主に右利き者の左手)が自分の所有物でなく異質であると感じる自己所属感消失,② 患肢が自己の意思に逆らう(拮抗失行)かまたは関連しない行為をするが,抑制困難となる異常行為,③ その行為は単純な把握反応から道具の強迫使用(この場合意思に反して右手に出現),自己破壊的行為を含むもの,であると報告されている.AHSはしばしば「他人の手徴候(stranger's hand sign)」と表現されている.最初の報告の症状は脳梁腫瘍例において認められたもので,患者に自分の両手を背中に回してもらい,右手に左手を持たせて何を持っているかと質問すると「手」と答えた(すなわち感覚障害はないことがわかる).しかし誰の手かという質問には「私の手ではない」と答えたことより,上記 ① のみの記述であり1),運動要素は含まれていなかった.その後,② と ③ の要素を含めてAHSとした(広義の「他人の手徴候」Bogen, 1979)2). AHSのサブタイプとして,責任病巣が脳梁に限局する場合と前頭葉内側面損傷を伴う場合とに分け,脳梁型と前頭葉型に分類される.脳梁型では非利き手(左手)に拮抗失行が生じるとされ,例えば右手で服を着ようとすると左手が同時に脱がしてしまう現象が起こる.拮抗失行で認められる左手の運動には右手と逆の動きだけでなく,無関係な運動,右手に先行するような動き,両手を必要とするときに左手の運動が生起しない場合などが知られており,また左手の失書,触覚性呼名障害などの脳梁離断症状が伴うが,把握反射は随伴しないとされる.拮抗失行の責任病巣は脳梁膝部が重視されている.一方,前頭葉型では利き手(右手)に道具の強迫使用が起こり,例えば眼前にある櫛を(使わないように指示されているにもかかわらず)右手が意思に逆らってこれを使って髪をといてしまう症状があらわれる.右手には把握反射,本能性把握反応を伴っているが,左手には一側性観念失行などの脳梁離断症状が伴うことは少ないとされる.道具の強迫使用の責任病巣は左前頭葉内側面,補足運動野,前部帯状回および脳梁とされている3).
著者
木村 友亮 馬場 浩充 大洲 人士
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.969-975, 2020-08-15

要旨 【目的】本研究の目的は,歩行未自立の急性期脳卒中患者に対する長下肢装具(knee ankle foot orthosis:KAFO)を用いた歩行練習の有無が,急性期病院退院時の下肢の運動麻痺と回復期病院退院時の移動能力に及ぼす影響を調査することである.【方法】脳卒中患者47名を対象に,急性期病院退院時の下肢Brunnstrom Recovery Stage(BRS),回復期病院退院時の歩行項目と階段項目の機能的自立度評価法(Functional Independence Measure:FIM)点数,在院日数を後方視的に調査し,分析した.【結果】下肢BRSは,KAFO不使用群に対してKAFO使用群で,より運動麻痺の改善を認めた.また,歩行項目および階段項目のFIM点数において2群間に有意差を認めたが,在院日数に有意差は認められなかった.急性期病院退院時下肢BRSと回復期病院退院時の歩行項目および階段項目のFIM点数における相関関係は,KAFO使用群で有意な正の相関を認め,KAFO不使用群では歩行項目のFIM点数のみ正の相関を認めた.【結論】急性期脳卒中患者に対する歩行練習は,運動麻痺の回復や歩行,階段動作の獲得における長期予後に影響しており,歩行未自立者に対してKAFOを用いて可及的早期より歩行練習を行うことの有効性が高いことが示唆された.
著者
堀部 達也
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.50-55, 2020-01-15

先生各位,貴重なお手紙誠にありがとうございました.皆様からの手紙を手にとり,心躍らせながら拝読させていただきました.
著者
高野 八百子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.869-874, 2008-10-15

Q1.感染の有無と程度を知るために,カルテ情報のうちどこを読み取ればよいのでしょうか.検査方法と解釈のしかたについて教えてください A.検査が実施されているのか否か,患者がどのような状態であるのかにかかわらず,スタンダードプリコーションを実施することが重要である.
著者
新井 保久
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.963-969, 2008-11-15

Q1.リハビリテーション室内の機器は感染の橋渡しとなりうるか? A.機器による感染リスクは低いが,感染源,感染経路対策は必要である. 理学療法で用いることの多い機器・器具は,次の4群に分けることができます(図). A群:治療台や斜面台など(主に患者さんの身体が接する機器) B群:平行棒や自転車エルゴメーターなど(患者さんの手や身体の一部が接する機器) C群:砂のうや鉄アレイ,T字杖など(患者さんが持ったり身体に接する器具) D群:ホットパック機器や低周波機器など(間接的に接する機器)
著者
吉田 耕一郎 小司 久志 二木 芳人
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1061-1066, 2008-12-15

Q1.原因微生物,感染経路・感染源とは? A.リハビリテーション(以下,リハビリ)の臨床現場で感染症の原因となりやすいものには,院内感染症,および市中感染症の主要な原因微生物の多くが含まれる.なかでも重要な微生物としては,MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌),耐性緑膿菌,結核,ノロウイルス,インフルエンザウイルスなどが挙げられる.感染経路には空気(飛沫核)感染,飛沫感染,接触感染の3経路がある.空気感染では,飛沫核となった微生物が空気中を浮遊して遠くまで漂い伝染を来す.飛沫感染では,原因微生物を含んだ水分粒子が大きく,落下速度が速いため,通常1m以上には飛散しないとされる(図1).接触感染では,原因微生物が飛散することはないが,患者や患者の排泄物,衣類,医療機器,病室環境などが感染源となり,感染症を伝播する.
著者
多々良 大輔
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.325, 2020-03-15

早いもので理学療法士となって23年目となる.楽しいことばかりではないが,よい職業を選んだと心から思えるようになった.多くの恩師からの学び,同志と言える方々との出会いの影響が大きいことは言うまでもない.そのなかでもいくつかのターニングポイントがあった. 脳卒中や脳性麻痺など中枢神経疾患を有する方々への診療を行っていたリハビリテーション病院勤務から整形外科病院へ異動した当時,本欄第6回(2019年11月号)を担当した田中創氏とともにカナダの理学療法士Diane Lee氏の講習会に参加した.衝撃的であった.瞬時に機能障害を見抜く洞察力と細かい検査に基づいた治療は当時自分が模索していたかたちであり,今なお進化し続ける彼女のモデルは現在の私の診療における骨格となっている.
著者
金谷 さとみ
出版者
医学書院
雑誌
理学療法ジャーナル (ISSN:09150552)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.91-96, 2020-01-15

なぜマネジメントを学ぶか はじめに,一般的に解釈されている管理(マネジメント)についてひもといてみよう.Managementの同義語はcontrol,adjustment,operationなどで,日本語なら,取り扱い,処理,経営,差配などであろうか.そもそも曖昧な部分を多くもつ語である. マネジメントの的確な表現はその時の目的如何で変わり,都合よく使用される.一般には「一定の目的を効果的に実現するために,人的・物的諸要素を適切に結合し,その作用・運営を操作・指導する機能もしくは方法」などと定義される.「一定の目的を効果的に実現…」という部分では,目的は何かを考える必要がある.「人的・物的諸要素を適切に結合…」という部分は組織づくりのこと,「その作用・運用を操作・指導する機能もしくは方法…」は仕組みづくりのことであろう.
著者
赤羽根 良和 宿南 高則 篠田 光俊 中宿 伸哉 林 典雄
出版者
医学書院
雑誌
理学療法ジャーナル (ISSN:09150552)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.527-533, 2010-06-15

要旨:外固定後早期より体幹伸筋群の維持,強化を目的とした運動療法の実施が,脊椎圧迫骨折後の椎体の圧潰変形進行の抑止効果として有効であるか否かについて検討した.対象は骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折53例とし,外固定と運動療法を行った運動療法群26例と,外固定のみを行った非運動療法群27例に分類した.年齢,性別,骨密度慈恵医大分類,骨折形態は両群間に差はなかった.椎体の圧潰率は,受傷後3か月,6か月において運動療法群で有意に低い値であった.Th12,L1の胸腰椎移行部での椎体の圧潰率は,受傷後6か月において運動療法群で有意に低い値であった.脊椎圧迫骨折後の治療の原則は,早期診断,早期外固定により,椎体の圧潰変形の進行をできる限りくいとどめることである.体幹伸筋群の筋力低下は,その後の脊柱後彎変形を加速化させる要因となるため,外固定後早期から体幹伸筋群を維持,強化し,脊柱姿勢を維持しておくことが重要である.今回実施した体幹伸筋群の強化方法は,椎体の圧潰変形の進行を抑止する,有効な保存療法の手段と考えられた.
著者
森岡 周
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.947, 2012-10-15

まずこの本を見た瞬間,「同期生よ! 思い切ったことをしたな」と思い,いろいろな言葉が脳の中を駆け巡った.それだけインパクトのある表紙と内容であった.「列伝」と聞くと,ギタリスト? などと思ったりもし,果たして理学療法士という職業にそのような言葉が当てはまるかは明言できないが,いずれにしても,理学療法士は医療者でありながら,職人としての要素を含んでおり,それを意図した書であると思う. 本書は3章の構成であり,第1章は「衣鉢相伝」と題して,著者のこれまでの臨床研究をベースとした記述である.衣鉢相伝とは教法や奥義を伝え継承することの意であり,平たくいえば,広く先人の事業や業績を継ぐことに当たる.著者はこれまで主に大学病院に属しながら変形性膝関節症の臨床研究を実施してきたが,それから得た保存的治療戦略に関して,運動学的あるいは運動力学的分析から一つの方向性を打ち出し,その具体的な実践例を丁寧に臨床的に記述している.衣鉢相伝と題されるように,著者には今までの自分の思考をありのままに伝えるが,後輩たちがそれをよりよい方向性に改変し,場合によっては批判し新しいものを創造し提案してもらいたい意図があるのであろう.