著者
冨岡 公子 山田 全啓 宇野 健司 荒木 勇雄 廣畑 弘 永井 仁美 吉田 英樹 髙山 佳洋 今井 雅尚 濱田 昌範 松本 政信
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.473-482, 2022-06-15 (Released:2022-06-15)
参考文献数
13

目的 近畿圏内の各保健所が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第1波,第2波にどのように対応したかについて調査することを目的としたアンケート調査のデータを分析し,今後のパンデミック発生時の資料として提示する。方法 近畿圏内の63保健所を対象とし,近畿保健所長会が作成した「新型コロナウイルス感染症対策調査票」を2020年9~10月にメールで送付・回収した。COVID-19に関連した業務・医療資源・相談,業務継続計画における最繁忙期の業務見直し状況,COVID-19対応部署における増員数,感染症対策の課題とグッドプラクティス等を質問した。保健所管内人口(以下,人口規模)を3分位によって3区分し,COVID-19関連業務などと人口規模との関連を検討した。結果 57保健所から回答を得た(回答率90.5%)。COVID-19関連業務に関して,受診調整,検体搬送,患者搬送は,9割以上の保健所が担っていた。最も少なかった訪問検体採取においても77.2%であった。いずれのCOVID-19関連業務においても,保健所の人口規模とは関係なく役割を担っていた。業務継続計画における最繁忙期の業務見直し状況に関して,医療法に基づく立入検査とがん患者サロン・難病患者会は,5割以上の保健所が中止し,保健所の人口規模とは関係なく業務を中止していた。保健所や市町村が主催する研修会や会議,健康づくり事業,市町村職員の人材育成,学生実習受入は全体で2割程度が中止していたが,保健所主催の研修会や会議,地域医療構想調整会議,市町村職員の人材育成に関しては,保健所の人口規模が大きくなるほど中止した保健所が多くなる傾向がみられた。結核患者に関する事業や感染症発生動向調査事業を中止した保健所はなかった。結論 COVID-19パンデミックによって,保健所ではCOVID-19関連業務を担うことになり,半数以上の保健所が医療法に基づく立入検査や患者会を中止し,人口規模が大きい保健所では健康増進に関する市町村保健師等への教育や研修を中止する傾向があったが,コロナ禍においても,結核などのその他感染症対策は中止できなかった。感染症対策の課題において,多くの保健所が人員不足や大きな業務負担を指摘していた。COVID-19に関わる保健所業務の軽減および応援支援体制の整備を図るとともに,保健所の体制を強化・整備する必要がある。
著者
冨岡 公子 熊谷 信二
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.195-203, 2005 (Released:2006-01-05)
参考文献数
75
被引用文献数
11 11

欧米では,抗がん剤を取り扱う医療従事者の職業性曝露に関する危険性について,1970年後半から警告的内容の報告がなされ,1980年代から1990年にかけて安全な抗がん剤の取扱いに関するガイドラインが制定されている.ガイドラインによって,個人保護具や作業環境が改善されてきている.また,職業性抗がん剤曝露の健康影響に関する調査・研究も盛んに行われている.日本においては,1991年に,日本病院薬剤師会がガイドラインを制定し,それ以降,抗がん剤の安全な取扱いに対する認識が看護師を中心に関心が持たれるようになったが,医療現場はあまり変化してきていない.産業衛生の分野に限ってみると,抗がん剤の安全な取扱いに対する記事や研究は,ほとんど見あたらない.抗がん剤を取り扱う医療従事者の職業性曝露に関する危険性についてはいまだに不明な点が多い.しかし,医療従事者における抗がん剤曝露の低減は,産業衛生上の重要な課題である.日本においては,抗がん剤の取扱いに適切な保護具や作業環境を普及させ,抗がん剤の安全な取扱いに関して検討する必要がある.また,欧米同様に,国家レベルの実効性や強制力が付与された抗がん剤の安全な取扱い指針が策定されることが望まれる.
著者
熊谷 信二 田井中 秀嗣 宮島 啓子 宮野 直子 小坂 淳子 田淵 武夫 赤阪 進 小坂 博 吉田 仁 冨岡 公子 織田 肇
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.131-138, 2005 (Released:2006-01-05)
参考文献数
32
被引用文献数
18 10

高齢者介護施設の介護労働者における腰部負担を評価するために,30秒スナップリーディング法を用いて,6名の介護労働者の作業内容および作業姿勢を調査した.また,傾斜角モニターを用いて,上体傾斜角の調査も行った.作業内容については,「入浴・洗面関連」が勤務時間の22.5%,「食事関連」が21.1%を占めていた.「排泄介助」「移動・移乗介助」および「シーツ交換」はそれぞれ9.3%,8.7%および8.3%であった.介助作業を合計すると43.7%であった.作業姿勢については,「立位」が勤務時間の36.1%,「前傾」が29.5%を占めていた.腰部負担のある3姿勢(「前傾」「しゃがみ」「膝つき」)を合計すると39.0%を占めていた.上体傾斜角が20度以上の時間帯は45.7%に及んでいた.「入浴関連」「シーツ交換」および「排泄介助」における腰部負担姿勢はそれぞれ68.3%,58.2%および49.6%を占めており,これらの作業は腰部への負担がかなり大きいものと考えられた.
著者
冨岡 公子 北原 照代 峠田 和史 辻村 裕次 西山 勝夫
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.45-54, 2004-03-20
被引用文献数
1

本実験の目的は,手話通訳者における音声言語に誘発された頸肩腕部の筋緊張の有無を確認することである.解析対象者は,インフォームドコンセントを得た「人の話を聞いていると頸・肩・腕が痛くなる」症状を訴えていた職業的手話通訳者8名(ケース群)と手話末学習者8名(コントロール群)である.コントロール群は,性・年齢・喫煙習慣を調整した.安静座位の間,左右の僧帽筋上部と上腕二頭筋から表面筋電図を記録した.この間,全被験者は,日本語の講演を聴くこと,および日本語が全く含まれていない音楽を聴くことの,2つの課題を与えられた.各課題終了直後に,自覚症状を尋ね質問した.表面筋電図の解析方法は,各課題ごとに,100 ms ごとの実効値を算出した.独自の判定基準として3.8μVの閾値を1秒以上超えている部分を筋緊張と判定し,筋緊張を確かめた.その結果,講演を聴いている時に上腕二頭筋や僧帽筋に筋緊張が認められたのは,ケース群では8名中5名,コントロール群では8名中1名であった.僧帽筋の筋緊張が講演を聴いている時に認められ,かつ音楽を聴いている時には認められなかった事例は,ケース群には3名,コントロール群ではみられなかった.これらの結果におけるケース・コントロール群問の差は有意ではなかった.手話通訳者で講演を聴いた際に認められた筋緊張は日本語の音声言語により引き起こされた可能性がある.筋緊張は,手話通訳によって形成された反応なのか,病的反応なのか,今後さらに検討する必要がある.手話通訳者にとっては,日本語の音声言語を聴くことが筋負担となる可能性があり,日本語の音声言語のない環境下で休憩することが筋肉を休息させるために必要と考えられる.(産衛誌2004; 46: 45-54)
著者
冨岡 公子 名取 雄司 熊谷 信二 車谷 典男
出版者
奈良県立医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

アスベスト曝露による長期健康影響を検討する目的で、某造船所でアスベスト曝露を伴う作業に従事していた元労働者を対象とした歴史的コホート研究を1996年に実施した(Ind Health 1999,37,9-17)。今回、その後の追跡調査を行なった。その結果、今回の追跡調査でも、先行研究同様に、アスベスト曝露に関連している肺癌および呼吸器系疾患の有意な過剰死亡リスクを再確認した。しかし、中皮腫の新たな発生はなく、喉頭癌については発生がなかった。今後、さらに追跡を続け、本コホートの最終的な死亡リスク評価を試みる予定である。
著者
冨岡 公子 熊谷 信二 小坂 博 吉田 仁 田淵 武夫 小坂 淳子 新井 康友
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.49-55, 2006-03-20
被引用文献数
9

特別養護老人ホームにおける介護機器導入の現状に関する調査報告-大阪府内の新設施設の訪問調査から-:冨岡公子ほか.大阪府立公衆衛生研究所生活衛生課-要介護者そして介護労働者の数は,年々増加している.2000年4月から,介護保険法が施行された.介護機器については,介護保険法が施行されてから,社会的に注目されるようになったが,介護機器の導入状況については把握されていない.そこで,介護施設における介護機器の現状を把握するために,現場調査と聞き取り調査を行った.対象は,2002年4月以降に開設された大阪府内の特別養護老人ホーム10施設である.調査対象施設は,平均入所者数79人,平均介護度3.52,平均介護職員数28.3人であった.介護機器に関しては,すべての施設で何らかの入浴装置が導入されていた.入浴装置の種類は,順送式が9施設,バスチェア型が8施設であった.バスチェア型は,機械浴槽に入るタイプが6施設,一般浴槽に入るタイプが6施設であった.その一方で,すべての施設において,「移乗は人の手で行うもの」という方針であり,リフト,移乗器,回転盤の移乗用介護機器は導入されていなかった.排泄介助については,オムツ交換では作業場となる,ベッドの高さ調節が実践出来ていなかった.日本の標準型車椅子はアームレストが固定式であり,トイレ介助では,車椅子と便座間の移乗の障壁となっていた.すべての施設で,介護の基本は人の手で行うもの,という方針であり,特に,移乗に関するリスク認識が弱かった.介護負担軽減のための介護機器導入という話はほとんど聞かれなかった.これらより,介護負担軽減や介護労働者の健康を守るという視点にたった,介護に対する意識改革が必要と考えられる.