著者
小島 恵津子 岩崎 博之
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.141-149, 2001-03-31
参考文献数
11

積乱雲が発達する前にしばしば積乱雲の「融合」が見られる.この積乱雲の融合について,関東地方を対象に気象庁東京レーダーのデータを用いて調べた.解析期間は1994年と1995年の7月1日から8月31日である.その結果,次の特徴が明らかになった. 1) 1994年に212回,1995年に220回の計432回の積乱雲の融合が認められ,海洋域と比較すると陸域では対流活動度に対する融合回数の割合(融合率)が大きかった. 2) 積乱雲の融合回数は12時から22時に多く,この時間帯に融合率も大きかった. 3) 標高0.4〜0.8kmの南東斜面では,他の領域よりも融合率が高く,特に,熱的局地循環に伴う南東風が強い日には融合率が高くなっていた.
著者
後藤 恵津子 岩崎 博之
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.107-116, 2023 (Released:2023-04-30)
参考文献数
58

本論文では,北関東の雷神社の祈願目的と夏期の雷撃密度・雨量との関係を定量的に示す.雷を恐れの対象と見なす雷除雷神社と恵みをもたらす対象と見なす雨乞雷神社の計62社に注目して,それらの分布と12年間(2009-2020年)の夏期の雷撃密度とレーダ雨量の分布とを比較した.その結果,全神社数に対する雷除雷神社の割合は雷撃密度と有意な正の相関が認められた.一方,雨乞雷神社の割合は,雷撃密度と無相関であったが,夏期雨量とは有意な負の相関が認められた.これまで定性的に説明されていた雷神社と気象要素との関係が定量的に示された. また,雨乞雷神社が期待される地域でありながら雨乞雷神社が存在しない3つの地域について,雨乞雷神社が重視されなかった理由を考察した.
著者
岩崎 博之 武田 喬男
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.71, no.6, pp.733-747, 1993-12-25
被引用文献数
7

1986年7月13日から15日にかけて観測された梅雨前線帯を移動する長寿命雲クラスターの事例解析を行った。大陸上で出現した雲クラスターは東シナ海を移動し、東経130度付近で北と南の雲群に分かれた。移動速度の遅い南の雲群の内部では、新しい積乱雲群が既存の積乱雲群の西方40-80kmに形成されていた。各積乱雲群の内部では、更に、既存の積乱雲の西方約15kmに新しい積乱雲が連続的に形成されていた。移動速度が低下した南の雲群の内部では、異なる二つのスケールで対流雲の形成が起きていた。活発な対流雲に起源する北の雲群は対流雲が消滅した後も10時間以上長続きした。東経135度付近での鉛直レーダの観測から、この雲群には融解層と複数のストリークが認められた。東経140度付近では中層から上層に対流不安定が存在し、傾圧性の強い総観規模の上昇流域に位置していた。この"対流雲"に起源する雲群は梅雨前線帯を移動するにつれて"層状雲"に変化したと考えられる。
著者
岩崎 博之 大林 裕子
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.45, no.9, pp.695-705, 1998-09-30
参考文献数
24
被引用文献数
12

関東地方に雹をもたらす積乱雲の発生・発達過程についての基礎的な知見を得ることを目的として, 群馬県に雹をもたらした積乱雲(以後, 単に積乱雲)の出現特性を降雹調査データとレーダデータを用いて調べた.その結果, 次の特徴が見い出された.(1)1989年から1996年までの46降雹日の内, レーダエコーと対応できた降雹報告が71事例(39降雹日)認められた.(2)山岳域では日射の強い14時〜16時の時間帯に降雹をもたらす積乱雲の発生頻度が高い.それに対して, 3方向を山岳域に囲まれた半盆地域では, 日射の強い14〜16時と日射が弱まった18〜19時の2つの時間帯に積乱雲が発生する傾向にあった.北関東地方に卓越する熱的局地循環が積乱雲の発生する時間帯に影響すると考えられた.(3)移動方向が急変する積乱雲が認められ, それらは等高線に沿って移動することが多い.(4)降雹後, エコーの形態がライン状に変化する5つの積乱雲が認められた.エコーの形態がライン状に変化した領域は, 半盆地域と平野部の境界に対応する群馬県と埼玉県の県境付近に限られ, その時間帯も19時〜21時に限られていた.
著者
飯島 慈裕 会田 健太郎 浅沼 順 石川 守 岩崎 博之 太田 岳史 小谷 亜由美 佐藤 友徳 篠田 雅人 杉浦 幸之助 朴 昊澤 檜山 哲哉 平沢 尚彦 金子 有紀 堀 雅裕 GOMBOLUUDEV Purevjav OYUNBAATAR Dambaravjaa IIJIMA Yoshihiro AIDA Kentaro ASANUMA Jun ISHIKAWA Mamoru IWASAKI Hiroyuki OHTA Takeshi KOTANI Ayumi SATO Tomonori SHINODA Masato SUGIURA Konosuke PARK Hotaek HIYAMA Tetsuya HIRASAWA Naohiko KANEKO Yuki HORI Masahiro
出版者
三重大学大学院生物資源学研究科
雑誌
三重大学大学院生物資源学研究科紀要
巻号頁・発行日
no.43, pp.15-25, 2017-09

宇宙航空研究開発機構によって2014年2月に打ち上げられた全球降水観測計画(GPM: Global Precipitation Measurement)の主衛星は高緯度地域の降水量が新規に得られる。このデータの検証は,今後の寒冷圏陸域の水循環・水資源研究等への利用促進に向けた観測精度の向上を図るうえで必要不可欠である。本研究プロジェクトでは,観測研究を実施してきた国内外の機関が協働して,北東ユーラシア(主としてモンゴル・東シベリア)で既設の観測システムを改良し,他の衛星データ解析と合わせて,夏季降水(降雨),冬季降水(降積雪)およびそれらの空間分布に関する地上検証を行う。また,今後の応用研究に向けて,陸面モデル・分布型河川流出モデル,メソ気象モデルを利用した,地域規模のGPM観測データの利用可能性を検討する。
著者
小島 慎也 佐藤 香枝 前田 亮太 呉 宏堯 矢田 拓也 森田 敏明 岩崎 博之
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2014年大会
巻号頁・発行日
2014-04-07

明星電気株式会社は、小型気象計POTEKA Sta.(ポテカ:Point Tenki Kansoku、以下POTEKA)を開発した。POTEKAは気温・湿度・気圧・感雨・日照を1分間隔で測定でき、従来気象計と比較して安価で、設置が容易なため稠密な設置及びデータ収集が可能である。そのPOTEKAを用いて、伊勢崎市内小中学校及び同市周辺のコンビニ(SAVE ON)に約1.5~4km間隔で計55ヶ所に設置した。本稿では、顕著な観測事例として8月11日に高崎市・前橋市で発生した突風現象の観測結果について紹介する。8月11日18時頃に高崎市から前橋市にかけて突風が発生し、住家の屋根の飛散などの被害がみられた。POTEKAの気温1分値を見ると、最大12分間で-13.9℃の気温低下がみられた。前橋地方気象台発表の突風経路に近いPOTEKAの海面補正した気圧の1分値時系列を下図に示す。気象台の10分値の気圧は徐々に増加していく傾向しか見られないが、POTEKAの1分値では、1~2hPa程度の一時的な上昇がみられた。これはダウンバースト発生時の下降流による一時的な気圧上昇であると示唆される。さらに詳しく見ると、気圧の上昇は2回発生している地点もあり、1回目はガストフロントによるもの、2回目はダウンバーストによる上昇と考えられる(詳細は「地上稠密観測POTEKAによるダウンバーストとガストフロントの識別」を参照のこと)。今回の稠密観測のようなダウンバースト・ガストフロント発生時の地上における気圧変化を、これほど細かい時間的・空間分解能で観測した事例はほとんど見られない。このような稠密観測をすることによって、突風の種類の判別や突風に対する事前の注意喚起が出来る可能性がある。謝辞:本プロジェクト始動にあたり、サンデン(株)殿、(株)セーブオン殿、伊勢崎市教育員会殿にはPOTEKA設置のご協力を頂きました。ここに御礼申し上げます。
著者
岩崎 博之 中井 専人
出版者
群馬大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

測定原理の異なる二つの雨量計で得られた10秒降水量データを用いて,発達した積乱雲群を構成する対流セルの微細構造を調べた.二つの雨量計で得られた10秒降水量の時間変化には,明瞭な1-2分周期の変動が認められ,多くの場合,その二つの位相は一致していた.この事実は,1-2分周期の変動は測器の測定誤差ではなく,実在の現象であることを意味している.つまり,一般に積乱雲の構成単位と考えられている対流セルの内部には,更に小さな複数の降水コアがおおよそ1km間隔で分布していると考えることができる.しかし,降水コアには周期性が認められるが,降水コア通過に伴い地上気象要素が変動する事実は認められなかった.
著者
加藤 内蔵進 松本 淳 岩崎 博之
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.1219-1234, 1995-12-25
参考文献数
34
被引用文献数
7

中国東部の大陸上のCb群(直径100m以上の積乱雲群)の出現状況、及びその日変化に関連した地表面温度や総観場の特徴について、1979年6〜8月のデータに基づく解析を行った。大陸上の梅雨前線帯の位置や特徴の季節遷移に準拠して、"Pre-Meiyu"(6月1〜17日、梅雨前線の華中への北上前)、"Meiyu"(6月20日〜7月22日、華中の梅雨最盛期)、"Mid-summer"(7月23日〜8月17日、華中の盛夏期)の3つの期間について調べた。主な結果は次の通りである。(1)"Meiyu"期の華中では昼夜を問わずCb群が多数出現したが、"Meiyu"期に梅雨前線帯北方に位置する華北・中国東北区(Area N1)や盛夏期の華中(Area C2)でも、12 UTC(北京標準時で20時)頃ピークとなる顕著な日変化を伴って、Cb群が多数出現した。(2)梅雨前線帯と寒帯前線帯にはさまれる"Meiyu"期の Area N1では、動きの遅い上層トラフに対応する大規模システムの雲域に組み込まれる形で、日変化するCb群が出現しやすかった。この時期にはまだ梅雨前線帯の北側にある本地域でも、梅雨前線帯が華南から華中へと北上した6月20日頃を境に、下層の比湿が増加した。この比湿の増大は湿潤対流に対する安定度の悪化をもたらし、上層トラフ接近、日中の地面加熱と組合わさって、日変化するCb群の頻出に好都合な気候学的条件を作ったものと考えられる。(3)盛夏期("Mid-summer")の華中(Area C2)では、亜熱帯高気圧に覆われ、かつマクロスケールでの領域平均の下層発散が夕方に強い傾向にも関わらず、Cb群出現頻度が夕方にピークをもつ日変化を示した。本地域で特に高い日中の地表面温度による加熱は、強い対流不安定を顕在化させるトリガーとしてのメソスケールでの上昇流を与える可能性があり、今後の検証が必要である。
著者
岩崎 博之 武田 喬男
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.161-170, 1993-03-31
被引用文献数
6

1985年から1988年の梅雨期についてメソスケール雲クラスターの出現特性の調査を行った.雲クラスターの平均寿命は14時間未満,最大直径の平均は170kmであった.最大直径の大きな雲クラスターほど,長寿命(>12時間)のものの割合が増えた.華北地方では総観規模の低気圧と低気圧との間に位置した相対的に気圧が高い期間に,また,華南地方では亜熱帯高気圧の西進に伴う気圧が高い期間に雲クラスターの出現個数が増加した.日本の南海洋上では,雲量の30日周期変動に伴う雲量の多い期間に,梅雨前線近傍で出現個数が増加した.大陸上の雲クラスターは午後から夕方にかけて出現し易く,雲量の多い華南地方に比べて雲量の少ない華北地方では午後から夕方にかけて出現する頻度が高かった.海洋上の雲クラスターは夜間から早朝に出現し易かった.寿命が12時間を超える雲クラスターは短期間(5〜10日)に集中して現れる傾向があり,その中で移動速度の遅いものは東経110〜140度の範囲の梅雨前線付近に比較的多く観測された.
著者
岩崎 博之
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.467-474, 1994-06-25
被引用文献数
2

気象衛星NOAAのsplit-windowデータから求めた可降水量分布の事例解析を行った。可降水量分布にはメソβスケールの不均一が認められた。二つのバンド状の可降水量が少ない領域に沿って地上では発散域が認められ、また、可降水量の多い領域の一つは"小規模の海陸風"が作る収束域に対応していた。
著者
岩崎 博之
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

31年間AMeDASデータと高層気象データを利用して,近年,北関東山岳域の南側で日没後の豪雨(25mm/hr)が増加し,かつ,大気中の水蒸気量も増加していることを示した.また,数値モデルの結果から,大気中の水蒸気量が増加すると,この領域での日没後の積乱雲活動が活発することが示された.近年の水蒸気量の増加が,北関東山岳域の南側での積乱雲活動の活発化に寄与している可能性が示唆された.
著者
岩崎 博之
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.711-719, 1999-06-25
被引用文献数
4

NOAA衛星のSplit-windowデータを用いて陸域の可降水量を見積もるIwasaki(1994)のアルゴリズムを30画素×30画素からなる山岳域を含んだ解析単位について応用し、マイクロ波放射計で得られた可降水量と比較した。12事例について比較した結果、回帰直線の傾きは1.0に近く、y軸切片も-1.68mmと小さく、相関係数は0.81と良好な結果を得た。このアルゴリズムを使うことで、熱的局地循環に伴う晴天域のメソスケールの可降水量分布とその時間変化を可視化できた。熱的局地循環が卓越した1995年7月28日の07時30分がら14時30分の間に、海岸付近では可降水量が5-20mm増加していた。山岳域では可降水量は0-20mm増加し、逆に、山麓では可降水量が0-15mm減少していた。