- 著者
-
北岡 伸一
- 出版者
- 社会経済史学会
- 雑誌
- 社会経済史学 (ISSN:00380113)
- 巻号頁・発行日
- vol.80, no.1, pp.5-13, 2014-05-25 (Released:2017-06-03)
歴史の大きな流れは経済で決まるが,その政策決定の中心にいるのは人間であり,彼らはそれぞれの利害や思想を持っている。経済的に好条件がそろっていても,誤った決定の結果,戦争になることもある。経済と政治は,それぞれ独自のダイナミクスで動き,相互に影響し合う。経済史と政治史もそういう関係にある。たとえば日露戦争後の満州経営においては,軍事的利害を主眼におくべきか否かという対立があったが,後藤新平は文装的武備という概念により,この対立を克服した。より長期的には,石橋湛山や清沢洌が,満州経営に関して根源的に鋭い指摘をしていた。なお満鉄は,アメリカにとってのパナマ運河と似た面があり,比較研究の発展を期待したい。対外政策は,強硬派と柔軟派とを区別するよりも,貿易を主眼とするか,そうでないかという違いが大きい。福沢諭吉や吉田茂は,強硬外交を唱えた人物と捉えられるが,むしろ貿易を主眼としており,その強硬論を領土拡大論者と同一に捉えるべきでない。近年,経済史と政治史の協力はいささか低調であり,今後の発展を期待したい。