- 著者
-
三原 武司
- 出版者
- 日本社会学会
- 雑誌
- 社会学評論 (ISSN:00215414)
- 巻号頁・発行日
- vol.66, no.3, pp.364-378, 2015 (Released:2017-03-08)
- 参考文献数
- 86
本稿は, アンソニー・ギデンズの社会理論における行為の再帰的モニタリングを, 認知と文化の共進化理論ならびに最近の神経科学の成果を導入することで, 理論的に再構成することを企図している. はじめに, 現生人類以前からつづく認知と文化の歴史を, 遺伝子-文化共進化理論の学説とともに概観する. つぎに, 再帰性と社会類型の議論を確認する. 認知と文化の歴史で重視される要素は, 模倣・口承・識字である. ギデンズ社会理論では, 文字の出現前後で再帰性の類型を区別する. しかし, その移行期になにがおきたのかは十分に説明されていない. そこで文字が出現する前後の類型を, いわゆる大分水嶺理論を援用し整理したうえで, 双方に神経科学的な基礎づけをおこなった. 結果, 模倣と口承という原初的な再帰性の神経科学的メカニズムの1つとして, ミラーニューロンが浮上した. 他方, 文字の出現以降は, ニューロンのリサイクリングとよばれる識字による脳神経の再編成が, 再帰性の作動変更の神経科学的な根拠となることがわかった. 以上をギデンズ社会理論に導入した結果, 識字以後の類型である伝統的文化とモダニティの非連続性は相対化された. さいごに, 識字化の帰結について論点を確認した. 現在われわれは, 識字による脳神経の再編成と再帰性の進化がはじめて人類社会を覆いつくし, さらには選択圧をみずから再帰的に変更可能とする歴史段階を経験している.