著者
吉村 治正
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.65-83, 2020 (Released:2021-07-16)
参考文献数
36
被引用文献数
3

本稿では,ウェブ調査の示す結果の偏りが,インターネットが使えない人が排除される過少網羅のもたらすバイアス・低い回答率のもたらすバイアス・調査対象者の自己選択によるバイアスのいずれに帰されるかを,2 つの実験的ウェブ調査を通じて検証した.第1 の実験は,同じ標本抽出台帳(選挙人名簿)から抽出された対象者を郵送回答とウェブ回答に無作為に振り分け,回答者の構成ならびに回答内容を比較したもので,網羅誤差と非回答誤差の影響を測定することを目的とした.第2 の実験は,異なる標本抽出台帳(1 つは住民基本台帳,もう1 つは調査業者のもつ登録モニター)から抽出した対象者にまったく同じ内容のウェブ調査を行い,ウェブ調査のモニター登録という自己選択のもたらす影響を測定することを目的とした.その結果,過少網羅および低回答率は1 次集計結果の偏りにはほとんど影響を与えないこと,対照的にモニター登録という自己選択のもたらす影響は無視しえない深刻なものであることが明らかとなった.
著者
吉村 治正 正司 哲朗 渋谷 泰秀 渡部 諭 小久保 温 佐々木 てる 増田 真也
出版者
奈良大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

内閣府世論調査では、実際の生活実感と乖離する調査結果が現れることが少なくない。本課題では、これが調査実施過程の技術的な不足による非標本誤差の大きさによると考え、実験的な社会調査の実施を通じて、その影響を測定した。主たる知見は①人口構成の変化以上のペースで回答者が高齢者にシフトしている、②難易度が高い質問が多く最小限化行動が生じている、③複数回答方式を多用したために順序効果が顕著に表れている、④「わからない」を抑制することで中間回答が過大に表れている、といった点で集計結果に偏りを生んでいる可能性が高いことが指摘された。
著者
小久保温 澁谷泰秀 吉村治正 渡部諭
雑誌
第76回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2014, no.1, pp.415-417, 2014-03-11

従来行なわれてきた訪問や郵送による質問紙の社会調査は、近年困難になりつつあり、今後はWeb調査に移行する必要がある。Web調査は、サンプリング、カバレッジ誤差などが問題とされてきた。われわれは調査法としてDillmanのTDMを応用し、WebアンケートシステムとしてPC、携帯電話、スマートフォン、タブレットなどの幅広いマルチデバイスに対応したシステムを開発することで、これらの課題に対応しようと試みた。更にシステムでは回答過程を詳しく記録している。そして、2013年の初頭におよそ1000人を無作為抽出して郵送とWebによるハイブリッド社会調査を実施した。本講演では、その解析結果について論じる。
著者
吉村 治正 正司 哲朗 渋谷 泰秀 渡部 諭 小久保 温
出版者
奈良大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

一般的に、モニター登録型のWeb調査では排他的・保守的でネガティブな回答傾向が現れやすいといわれている。この偏りを検証すべく、本課題ではモニター登録型のWeb調査に加え、住基台帳からの無作為標本抽出にもとづく独自のWeb調査を実施した。二つの調査の結果の比較から、一般的なモニター登録型Web調査の偏りは、非回答誤差・測定誤差および職業的回答者の存在のいずれを主たる原因とするとも見なし得ず、したがって網羅誤差に帰属されるべきことが明らかとなった。
著者
渡部 諭 澁谷 泰秀 吉村 治正
出版者
秋田県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は、社会情動的選択性から予想される要因を含めて、高齢者のネットワーク形成に影響を与える要因の分析である。未来展望・QOL・自己効力・関係の満足度・関係に要する時間・関係の類似性・持続期間・サポートのバランス・サポートの種類・紐帯の強度等に関する調査を高齢者275名に対して行いREGM分析を行った結果、関係の持続時間と関係の満足度が大きな要因であることが明らかになった。
著者
吉村 治正
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 = Memoirs of Nara University (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.47, pp.183-195, 2019-02

本稿では、シカゴ社会学の学説史研究の一事例としてエモリー・ボガーダス(Emory Bogardus)をとりあげ、彼の展開した社会調査方法論を検討した。シカゴ社会学というとエスノグラフィーに衆目が集まる。そのため、社会的距離尺度を提唱し戦後の計量的社会分析の確立に大きく貢献したボガーダスは、シカゴ学派の中ではマージナルな存在とみなされている。だが、彼の1920年代から30年代の研究記録を検討することで、この態度測定法は、ライフヒストリー法による社会調査の困難さの克服を求めた試行錯誤の産物であったことが明らかになった。
著者
吉村 治正
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.44, pp.143-154, 2016-03

調査対象者の選択的意思による協力拒否は社会調査にとってきわめて深刻な問題であるにも関わらず、本邦の社会学者の間では未だこれを規範的に評価することが横行している。本稿では、非回答の発生とそれが及ぼす調査結果への影響について、旧来的な理解(抵抗の連続尺度モデル)と、社会科学に立脚し非回答を調査対象者の合理的思考の結果とみなす諸理論(機会費用理論・社会的交換理論・社会的孤立理論・パーソナリティ理論・天秤理論)とを対比させ、その特徴を概略的に論じた。
著者
吉村 治正 澁谷 泰秀 渡部 論
出版者
奈良大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

職歴に関する社会調査を従来の訪問面接法ではなく、郵送法およびインターネット法で実施することは可能か、これを実施した場合にどのような技術的な問題が生じるかを、実験的社会調査を通じて検証した。その結果は、回収率・項目欠損率・回答者の偏りという三点で見る限り十分評価し得る値が示されており、職歴のような複雑な構造を持つデータであっても、自記式による調査は可能であると結論づけられる。ただし、職歴を自記式で調査する場合には、調査項目のレイアウトや選択肢の与え方など、調査票の構成を入念に行い、回答者が答えやすくなるような工夫を施すことが必要となることが明らかになった。