著者
名古屋 恒彦 稲邊 宣彦 田淵 健 大嶋 美奈子 NAGOYA Tsunehiko INABE Norihiko TABUCHI Ken OHSHIMA Minako
出版者
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 (ISSN:13472216)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.161-171, 2009-03-01

近年、障害のある人たちへの就労支援施策の進展が著しい。2002年に示された「障害者基本計画」において、「雇用・就業は、障害者の自立・社会参加のための重要な柱であり、障害者が能力を最大限発揮し、働くことによって社会に貢献できるよう、その特性を踏まえた条件の整備を図る」とする方針が示され、施策の具体化が方向付けられた。2005年に成立した障害者自立支援法においても「就労移行支援」「就労継続支援」といった様々な形態での就労支援が重要な位置を占めている。 就労支援を特別支援教育で引き受ける場合の中核的な教育活動は職業教育である。職業教育に関して、名古屋らは、知的障害特別支援学校における職業教育に関する実践研究が、高等部段階のものに比べ中学部段階で低調であることを指摘している(名古屋、稲連、田村、田淵、2008)。2008年1月に公にされた中央教育審議会答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について」においても職業教育に関する記述は高等部段階に関するものである(中央教育審議会、2008)。 名古屋らは、特別支援教育における職業教育への関心が高等部段階を主とするものであることに対して、職業教育が義務教育最終段階である中学部においても重要であるとの認識に立ち、岩手大学教育学部附属特別支援学校(以下、「附属特別支援学校」)中学部における作業学習および働く活動を大きく位置づけた生活単元学習の授業研究を通じて、知的障害特別支援学校における職業教育のあり方を検討した(名古屋、稲連、田村、田淵、2008)。職業教育としてふさわしい作業活動として、現実度が高く、かつ生徒が主体的に取り組めることを重視して授業研究を行った。その結果、現実度の高い作業活動としては、学校が立地する、あるいは生徒が居住する地域での産業基盤との関係重視も十分に考慮されることが必要であることを指摘した。持続可能な材料の入手、作業ノウハウ、販路開拓などでの地域産業との連携の重要性が考えられた。地域産業との関係での材料入手については、附属特別支援学校が立地する地域でのリンゴ栽培で恒常的に生じる奔走材を再利用した製品開発が提案された。このことは環境への配慮としても有用であった(名古屋、稲達、田村、田淵、2008)。 生徒の活動の主体性については、実際の授業計画から場の設定、道具等の工夫、教師の共に活動しながらの支援と様々な場面での支援的対応にょって、実現できることが示唆された(名古屋、稲連、田村、田淵、2008)。 以上の名古屋らの研究を踏まえ、本研究では、附属特別支援学校に新たに設置された中学部作業学習「クラフト班」作業学習および同様の工程の存在する木工を中心とした生活単元学習の授業研究を通して、生徒の主体的取り組みを実現し、かっ地域産業に密着した持続可能な環境教育に資する作業学習の展開方法を明らかにすることを目的とする。とりわけ、地域産業との持続可能な関係構築の中で、現実度の高い作業展開を追究することとする。
著者
佐々木 全 名古屋 恒彦
出版者
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 = The journal of Clinical Research Center for Child Development and Educational Practices (ISSN:13472216)
巻号頁・発行日
no.14, pp.409-421, 2015-03-10

筆者らは高機能広汎性発達障害等注)のある小学生らを対象としたエブリ教室を開催している(佐々木,加藤,2011 1)).その目的は参加児にとっての休日生活の充実である.エブリ教室では,その活動内容としてタグラグビーを設定した.タグラグビーとは,ラグビーの簡易普及版である.タグラグビーは,タックルなどの接触プレーを排除した安全なスポーツであることが指摘されがちだが,実は,接触プレーを排除したことによって独自の競技特性を有すことになり(鈴木,2012 2)),そこに競技としての面白さが生まれている. また,タグラグビーは,平成20年版小学校学習指導要領解説における例示種目の一つとなり,以後その教材研究が徐々に進められている.その内容は当然ながら,小学校体育の授業における内容であり,そこでの展開方法や内容,具体的な競技にかかる知識技能,例えば,状況判断やパスなどの習得や発揮などに関する指導方法に関する実践的,実証的な研究がある(例えば,鈴木,2009 3);永友,勝田,2009 4);杉田,2010 5);木内,2012 6)).タグラグビーに関する研究において,対象者を高機能広汎性発達障害等のある児と限定し,かつ実践の場を学校の授業以外の活動とし,さらに,タグラグビーやラグビー経験のないボランティアを主たる支援者とし,共にプレーしながら支援するという実践方法という点で,エブリ教室の実践及び本研究は類を見ない.