著者
佐々木 全 加藤 義男 SASAKI Zen KATOU Yoshio
出版者
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 (ISSN:13472216)
巻号頁・発行日
no.8, pp.263-274, 2009

筆者らは,「高機能広汎性発達障害児・者を考える会(通称,エブリの会)」を立ち上げ,高機能広汎性発達障害児者とその保護者の支援を行っている(佐々木・加藤・田代:2004).高機能広汎性発達障害とは,知的障害を有さない広汎性発達障害である.これには,「自閉性障害のうちの高機能群(高機能自閉症)」,「アスベルガー障害」,「特定不能の広汎性発達障害のうちの高機能群」が内包される. さて,エブリの会の中核的活動となっているのが,小学生を対象として開催している「エブリ教室」である.そして,エブリ教室を「卒業」した(エブリ教室の対象年齢を越えたという意味).中学生以上の年齢,すなわち青年期(思春期を含む)の彼らを対象として,筆者らは2003年3月から「エブリクラブ」を開催している(佐々木,加藤,2003). 現在,高機能広汎性発達障害を含む,いわゆる発達障害児者の青年期が注目を集めている.例えば,大学を含む,高等教育機関における支援(佐藤,徳永,2006 ; 山口,2006 ; 西村,2006 ; 日本LD学会研究委員会研究プロジェクトチーム,2008),就労(近藤,光真坊,2006 ; 清水,加賀,山本,内藤他,2006),さらには触法や矯正教育(梅下節瑠,2004 ; 松浦,岩坂,藤島,橋本他),など様々な切り口からの報告がある.青年期が注目される理由には,二つあるのではないかと推察する.一つ目に,1990年前後から学童期のいわゆる発達障害児が,青年期を迎え,当時想定していた「彼らの将来」が現在となり,現実となったことがある.例えば,筆者らの身近では,エブリ教室の第一期生であった当時の小学校4年生は,現在二十歳となった. そして,二つ目に,青年期を迎えた彼らの多くが示す不適応的な姿がある.それは,例えば,中学校や高等学校での適応上の困難さであり,就労や進学などの進路選択や,日常的な対人関係や生活習慣などに関わる困難さである.それらは,支援状況の不備不足との表裏であることは言うまでもない.その支援状況に関してはそれぞれのシーンで,理解と対応の度合いの「温度差」や「地域格差」を有しながら多様であり,整備途上であると思われる. そこで,本稿では,青年期支援の一環として位置づけられるエブリクラブの実践を報告し,その意義を検討したい.
著者
佐々木 全 名古屋 恒彦
出版者
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 = The journal of Clinical Research Center for Child Development and Educational Practices (ISSN:13472216)
巻号頁・発行日
no.14, pp.409-421, 2015-03-10

筆者らは高機能広汎性発達障害等注)のある小学生らを対象としたエブリ教室を開催している(佐々木,加藤,2011 1)).その目的は参加児にとっての休日生活の充実である.エブリ教室では,その活動内容としてタグラグビーを設定した.タグラグビーとは,ラグビーの簡易普及版である.タグラグビーは,タックルなどの接触プレーを排除した安全なスポーツであることが指摘されがちだが,実は,接触プレーを排除したことによって独自の競技特性を有すことになり(鈴木,2012 2)),そこに競技としての面白さが生まれている. また,タグラグビーは,平成20年版小学校学習指導要領解説における例示種目の一つとなり,以後その教材研究が徐々に進められている.その内容は当然ながら,小学校体育の授業における内容であり,そこでの展開方法や内容,具体的な競技にかかる知識技能,例えば,状況判断やパスなどの習得や発揮などに関する指導方法に関する実践的,実証的な研究がある(例えば,鈴木,2009 3);永友,勝田,2009 4);杉田,2010 5);木内,2012 6)).タグラグビーに関する研究において,対象者を高機能広汎性発達障害等のある児と限定し,かつ実践の場を学校の授業以外の活動とし,さらに,タグラグビーやラグビー経験のないボランティアを主たる支援者とし,共にプレーしながら支援するという実践方法という点で,エブリ教室の実践及び本研究は類を見ない.