著者
佐藤 篤司 和泉 薫 力石 國男 高橋 徹 林 春男 沼野 夏生
出版者
独立行政法人防災科学技術研究所
雑誌
特別研究促進費
巻号頁・発行日
2005

日本各地に甚大な被害をもたらした平成18年豪雪について、本研究では、大気大循環場と降雪特性、積雪特性の広域分布と雪崩災害、生活及び建築関連雪害、予測技術と軽減方策の四つの研究課題を設定し調査研究を実施した。大気大循環の調査からは、寒気の南下は38豪雪に次ぐ規模であり、特に12月は冬季モンスーン指標が過去50年で最大となったこと、それには熱帯域の影響も示唆されることなどの特徴が明らかになった。その結果、1月初旬に既に最深積雪に近い積雪を各地で記録した。この時点の広域での積雪分布を調査したところ、新潟県上中越から長野、群馬両県境にかけての山間部を始め、東北、中部、中国地方でも特に山間地域に多量の積雪が集中していたことがわかった。山間地での降積雪は必然的に雪崩を誘発し、数多くの乾雪表層雪崩の発生をみた。本研究では死者の出た秋田県乳頭温泉での雪崩を始め、多くの現地調査を行いその発生要因を調査した。また、広域の一斉断面観測により、早い時期からの積雪増加が高密度で硬い雪質をもたらしたことが観測され、それが生活関連雪害にも反映したことが推測された。生活関連雪害では、死者(交通事故を除く)の圧倒的多数(3/4)は雪処理中の事故によるものであった。その比率は56豪雪時(1/2)と比べて増加していること、多くは高齢者で全体の2/3をしめ、70歳代が群を抜き、高齢者が雪処理に従事せざるを得ない状況などが読み取れた。また、56豪雪と比べて家屋の倒壊による死者が多く、老朽家屋に高齢者が住んでいて被害に遭遇するという構造がうかがえた。さらに本研究では、積雪変質モデルを使った雪崩危険度予測を行い、実際の雪崩発生と比較検討するとともに雪崩の危険性によって長期間閉鎖された国道405号線に適用する試みや冬季のリスクマネジメントに関する調査等を実施し、雪氷災害の被害軽減に有効な手法についての研究も行った。
著者
西村 浩一 阿部 修 和泉 薫 納口 恭明 伊藤 陽一
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本研究は、「地震と豪雪」の複合災害の中で、「冬に地震が発生」した際の雪崩災害危険度の評価手法を開発し、被害軽減に資することを目的とした。今年度は、主に地震時の積雪の破壊強度とその挙動を調べる目的で、防災科学研究所の雪氷防災実験棟において小型振動台を用いた積雪の破壊実験を実施した。実験にはロシアのAPATIT雪崩研究所殻からChernouss博士も参加し、共同で実施された。加速度計を埋め込んだ積雪ブロックを凍着させ、一定振幅のもとで2次元の振動数を増加し、積雪がせん断破壊した時点の加速度、上載荷重、断面積から、「新雪」、「しまり雪」、「しもざらめ雪」の「高歪速度領域の積雪破壊特性」とその密度依存性が求められた。また2次元振動に伴う、法線応力の効果についても議論を行った。さらにこの破壊特性を積雪変質モデル(Snowpack)に組み込んで、対象領域の地震発生時の雪崩発生危険度予測図を作成した。一方、こうした一連の取組みに対して、トルコの公共事業省災害監理局から共同研究と技術支援の依頼があり、研究協力者2名とともに現地視察を行ったほか、地震による雪崩発生の現況および危険度評価と災害防止手法開発に関する意見交換を実施した。現在、今後の共同研究策定に向けて調整を実施中である。
著者
河島 克久 和泉 薫 卜部 厚志
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、水文気象学、水文地質学および雪氷学的観点から雪泥流の発生過程と始動メカニズムを解明することを自的として、雪泥流多発河川である南魚沼市の水無川を対象として現地調査・観測を行ったものである。その結果得られた主な研究成果は次のとおりである。1.地下構造の特徴と河床積雪の形成扇頂部において岩盤が急激に落ち込むという水無川扇状地の特徴的な地下構造が、扇央・扇端部における渇水時の地下水位面の低下と表面水流の完全伏没をもたらしている。この特徴的な地下構造が河床上に河川外とほぼ同量の積雪の堆積を可能としている。ただし、著しい暖冬少雪の場合には、河床積雪の形成が見られない。2.積雪期の降雨流出南魚沼地域では例年、厳冬期から融雪初期にかけて、河床積雪が存在する条件下で日本海低気圧の東進に伴う急激な気温上昇と短時間強雨が複数回ある。同地域の積雪は融雪等の影響で厳冬期でもざらめ化が進行しているため、低気圧によってもたらされた降雨は速やかに地中へ流出する。この降雨イベント前までに地下水位がある程度回復していれば、10〜20mm程度の短時間降雨によって雨水は扇央部において表面水を形成して流出する。3.雪泥流の始動メカニズム降雨によって形成された表面水は、積雪によって流下が妨げらるため、扇央部において積雪全体を数分〜数十分で飽和させる。飽和後は積雪表面上に水流が形成される。水飽和状態となった積雪はその強度が急激に低下するため、局所的な構造的弱听を起点として雪泥流が始動する。水無川では、雪泥流は河床積雪の形成開始地点(魚野川との合流点から約5km地点)から始動するものと考えられる。
著者
若浜 五郎 小林 俊一 成田 英器 和泉 薫 本山 秀明 山田 知充
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1987

温潤積雪の高速圧密氷化過程は、野外観測と実験室における定荷重圧縮実験によって研究した。野外観測では、温潤な平地積雪と雪渓の帯水層に長期間浸っている積雪とに着目して、その圧密状態や過程を観測した。その結果融雪開始時期から全層濡れ雪になるまでの時期に、積雪は急激に圧密されてその密度を増し、2mを超えない自然積雪では、およそ濡れ密度0.46ー0.5g/cm^3に達した後、消雪までの間この密度に保たれることが分かった。雪渓下部帯水層の水に浸った積雪は、そのすぐ上部の濡れ雪に比べると圧密速度が約3倍も大きいこと、帯水層に長期にわたって大きな上載荷重がかかっているため、最終的には乾き密度の0.75g/cm^3濡れ密度にして、0.83g/cm^3以上にまで圧密され、これが初冬の寒気により凍結し氷化することが明かとなった。定荷重圧縮実験は、水に浸った積雪について集中的に実施した。圧力は温暖氷河や雪渓の帯水層内の積雪に、実際に作用している0.1ー2kg/cm^2の範囲を用いた。実験の結果、歪速度は積雪の粒径にほとんど依存しないこと、圧力の増加と共に増加し、圧力が1kgf/cm^2を越えると急激に圧密され易くなることなどが定量的に明かとなった。歪速度の対数と密度の間には直線関係が成り立ち、かつ、直線には乾き雪の定荷重圧縮実験と同様、ある密度に達した時点で折れ曲がりが認められた。氷化密度0.83g/cm^3に達するまでに用する時間は、簡単な理論的考察から、上載荷重を与えることにより推定可能となった。実験結果をいくつかの経験式にまとめると共に、実験結果から、氷河や雪渓の帯水層における圧密氷化機構を説明出来るようになった。圧密機構のより詳細な理解のために、圧密過程を圧密に進行に伴う積雪内部構造の変化と関連付ける計画である。また相対的に実験の困難な濡れ雪の圧密特性の研究は今後に残されている。
著者
和泉 薫 小林 俊一
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

これまで日本で発生した雪泥流災害を新聞記事データーベース等から選択抽出し、それらについて現地調査を進め実態を明らかにしてきた。平成8年度に得られた知見を以下に記す。雪泥流の発生には、渓流内に雪が貯まっていることと、降雨や融雪による水量の急な増加が条件となる。渓流内の雪は、流水が少ないための自然堆積、雪崩の流下によるデブリ堆積、建物からの屋根雪落下や道路からの除排雪による人為的な堆積の三つに分けられる。このうち、雪崩のデブリが雪ダムとなって渓流を閉塞し、それが決壊して雪泥流になる場合には百mmオーダーの累計降雨量が必要であるが、渓流内の自然積雪の場合には数十mmオーダーの累計降雨量でも雪泥流化することがわかった。昭和43年2月11日滋賀県伊香郡余呉町で10棟が床下浸水となった雪泥流災害は、雪崩で川が堰止められそれが崩れて鉄砲水となったことによると気象庁要覧には記載されているが、実際は堰止めのため川水が溢れ、集落に流出したことが現地調査からわかった。富士山では最近4冬期連続してスラッシュ雪崩が発生しているが、古文書などの文献調査や近年の災害現地調査などにより、富士山で過去に発生したスラッシュ雪崩の16世紀以降の編年史がまとめられた雪泥流の対策としては、その物性の実験的研究から雪泥の流動性が含まれる水の量と関係することから、発生の初期の段階で水をできるだけすばやく抜いて流動性を低下させる方法が有効である。また、雪泥流の衝撃力の特性から、橋桁のように雪泥の凝集構造よりも小さいと考えられる構造物に対しては充分な強度を持たせることが必要なことが明らかにされた。
著者
和泉 薫 小林 俊一
出版者
新潟大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

本年度はブロック雪崩の力学的特性に関する研究として、平成13年度に設置した実験用シュート(高さ9.4m、幅0.9m、勾配32.6°)を使った雪塊の衝撃力測定実験と、雪渓上での雪塊の落下実験を行った。それぞれの実験から得られた結果は以下の通りである。1.雪塊の衝撃力測定実験・人工雪塊を用いた実験では、密度250kg/m^3では最大衝撃力値に衝突速度がほとんど反映されないが、密度450kg/m^3では最大衝撃力値が衝突速度によって変化することがわかった。・天然雪塊を用いた実験では、密度560kg/m^3の雪塊では最大衝撃力値が速度と質量に比例することがわかった。2.雪渓上における雪塊の落下実験・雪塊はある程度の落下速度となるまでは転がり運動によって落下すること、その後、落下速度の増加や、表面の起伏が大きい場所や傾斜が急激に変化する場所を通過するために回転を伴った跳躍運動に遷移することがわかった。・転がり運動による落下では斜面方向の線速度エネルギーに対する回転エネルギーの割合はおよそ20%程度か、それ以下であったのに対し、運動形態が跳躍運動に遷移することで、回転エネルギーの割合が約40%まで増加することが明らかになった。・雪塊の大きさが大きくなるにつれて、より短い落下距離で最大速度に達するという傾向や、雪塊が大きくなるほど回転エネルギーの最大値が出現するまでの時間が短くなる傾向が観測から得られた。