著者
和泉 薫 小林 俊一 永崎 智晴 遠藤 八十一 山野井 克己 阿部 修 小杉 健二 山田 穣 河島 克久 遠藤 徹
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.39-47, 2002-01-15 (Released:2010-02-05)
参考文献数
7

新潟県北魚沼郡入広瀬村の浅草岳において,2000年6月18日,山菜取り遭難者の遺体搬出作業中の捜索・救助隊がブロック雪崩に襲われて4名が死亡した.ブロック雪崩発生前後の映像解析や現地調査から,発生量は32m3(重量21 ton)と算定され,記録上最大規模のブロック雪崩であることがわかった.この地域の山岳地は近年にない多雪で融雪が約1ヶ月遅れ,気温が上昇した5,6月に多量の残雪が急速に融解した.この災害は,急斜面の残雪が融雪末期のいつ崩落してもおかしくない不安定な状態の時に,その直下で多人数が作業を行っていたため発生したものである.運動シミュレーションから,雪渓末端の被災地点における速度は12~35m/s,到達時間は10~33秒と計算された.雪崩に気付くのが遅れたとするとこの到達時間では逃げ切れない.また,雪ブロックの衝撃力は,直径50cmの球形で速度が12 m/sの時でも約3tonfと計算されたので,直撃を受ければ人は死傷を免れないことがわかった.また,これまでほとんど研究がされていないブロック雪崩についてその定義を明確にし,過去の災害事例を調べて発生傾向についても明らかにした.
著者
藤本 明宏 河島 克久 渡部 俊 村田 晴彦
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.83, no.5, pp.507-522, 2021 (Released:2022-02-16)
参考文献数
13

本研究では,大雪時のスタック発生メカニズムの解明を目的に,大雪による車両滞留時の路面圧雪調査および圧雪路面での停車試験,タイヤ空転試験および車両発進試験を実施した. 路面圧雪調査では,大雪による車両滞留時の圧雪路面に窪みや波打つような凹凸の発生を確認した.停車試験およびタイヤ空転試験より,タイヤの輪荷重,熱および回転は圧雪を融解や圧密させ,タイヤを圧雪に沈ませると同時に,タイヤ直下のすべり摩擦係数を低下させることが分かった.車両発進試験より,輪荷重が大きいほどスタックは発生し難いことが分かった. 上記の研究より,車両のスタックは以下のメカニズムで発生することを明らかにした.大雪時には車両の走行性が低下し,停車時間や発進回数が増える.停車時間や発進回数の増大は,圧雪路面の窪みの発生やすべり摩擦係数の低下を誘発する.これらがタイヤの空転を助長し,それが圧雪路面の窪みの拡大やすべり摩擦係数のさらなる低下を引き起こす負の循環を生じさせ,スタック車両の発生に至る.本論文では,このメカニズムを踏まえて,タイヤが圧雪窪みに嵌った状態からスタックに陥る場合とスタックを回避する場合のフローチャートを示した.
著者
鈴木 博人 河島 克久
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B1(水工学)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.I_301-I_306, 2018

<p> 本研究では,新潟県とその周辺地域における鉄道駅構内の露場で観測された年最大積雪深の資料を整理することで,1927年冬期から2018年冬期における豪雪年の年最大積雪深の分布図を作成した.これらの分布図は,この期間の年最大積雪深の観測記録が残る地点のデータを基に豪雪年として抽出された1927年,1940年,1945年,1961年,1963年,1984年の各冬期について作成した.その上で,豪雪年における年最大積雪深の分布の地域的特徴を明らかにした.さらに,雪の降り方とそれが鉄道に与えた影響や,鉄道で行われてきた雪害対策について概観する.</p>
著者
渡部 帆南 奈良間 千之 河島 克久
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2019, 2019

<b>1.はじめに</b><br> 2015年4月25日にネパールの首都カトマンズから北西に位置するゴルカ郡でM7.8の地震が,5月12日にカトマンズから北東80kmでM7.3の地震が発生した.100回ほどの余震を含めたこの一連の地震により,ヒマラヤ高山の雪氷域では雪崩,氷河崩落,雪氷土砂崩落,土砂崩落など多数の斜面崩壊が生じた.カトマンズの北に位置するランタン谷では,地震により生じた2度の雪氷土砂崩落(6.81×10<sup>6</sup>m<sup>3</sup>と0.84×10<sup>6</sup>m<sup>3</sup>)により,ランタン村は雪氷土砂堆積物に覆われ,350名を超える犠牲者がでている(Kargel et al., 2015; Fujita et al., 2016).雪氷土砂崩落のトリガーは山岳斜面上部にある懸垂氷河の崩落や冬季の大量の積雪による雪崩だと考えられている.ヒマラヤ地域に限らず,懸垂氷河の崩落のサイクルや崩落する地形場の特徴は明らかでなく,懸垂氷河の崩落を調査し,今後の防災対策に役立つデータを作成する必要がある.そこで本研究では,ランタン谷に面するランタン・リルン峰の南西壁と東壁を対象に,地震前のGoogleEarthの画像とWorldView-2の地形表層モデル(DSM)データ,地震後のヘリコプターから空撮した2015年10月,2017年4月と10月,2018年11月の空撮画像から作成したオルソ画像とDSMデータを比較し,懸垂氷河の崩落箇所とその特徴を調べた.<br><b>2.研究地域</b><br> ランタン谷は,ネパールの首都カトマンズから北に約70kmに位置し,谷底は標高3000mほどある.ランタン・リルン峰(7246m)は谷の北に位置し,その上部には懸垂氷河が多数存在する.本研究では,ランタン谷に面するランタン・リルン峰の南西壁と東壁を対象にした.<br><b>3.研究方法</b><br> 地震後の2015年10月27日にヘリから撮影された空撮画像をSFMソフトでオルソ画像とDSMを作成した.地上基準点の情報はGoogleEarthとWorldView-2 DSM(解像度8m)から取得した.また,地震前のGoogleEarthの衛星画像と地震後のヘリ空撮のオルソ画像を比較し,懸垂氷河の崩落箇所を抽出した.また,2017年4月と10月,2018年11月に取得した空撮画像から作成したオルソ画像とDSMデータを用いて,ランタン・リルン峰の懸垂氷河分布図を作成し,懸垂氷河の崩落個所やその縦断プロファイルの変化を調べた.<br><b>4.懸垂氷河の分布と崩落の特徴</b><br> ランタン・リルン峰の南西壁と東壁の懸垂氷河の分布を調べたところ,南西壁では広く面的に発達したシート状の懸垂氷河が存在する.一方,東壁では大きな氷河はなく,個々の小規模な懸垂氷河が全体に分布する.東壁の下部には,懸垂氷河の崩落により形成されたリルン氷河が存在するが,南西壁の再生氷河は小さい.この結果は,氷河崩落による涵養量の違いによるものと考えられる.<br> 地震前後のオルソ画像を比較したところ,地震によって崩落したのは,標高5500~6700m,斜度20~60°に位置する懸垂氷河であった.崩落箇所は12箇所確認され,幅50~100m,高さ20~50mの氷体が消失していた.崩落箇所は,懸垂氷河の末端部や氷河中央部の凸部の傾斜変換点で生じている.また,2015年と2018年の懸垂氷河の変化を調べたところ,崖タイプと斜面タイプの両方で崩落があり,氷河末端部の前進も確認された.複数の崩落箇所の縦断プロファイルを比較した結果,氷河の末端部が氷体底部まですべり落ちているのではなく,末端部の表面上部だけが崩落していた.懸垂氷河の多くの崩落が50°以上の斜面で生じており,崩落後の末端部の形態から,分布する懸垂氷河は寒冷氷河の可能性が示唆される.<br> また,地震によってランタン村に堆積した雪氷土砂堆積物の融解過程を調べたところ,地震後の2015年10月から2018年11月までに60%ほどの体積が消失しており,堆積物のほとんどが雪氷体で構成されていると考えられる.
著者
飯倉 茂弘 河島 克久 遠藤 徹 藤井 俊茂
出版者
日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.367-374, 2000-07-15
被引用文献数
4 1 1

鉄道を雪崩災害から守るためには, さまざまな雪崩予防工や防護工を設置するハード対策とともに, 場所によっては雪崩の発生を的確に検知し, 列車の運転を確実に抑止するソフト対策も必要である.そこで本研究では, 雪崩発生時の適切な列車の運転抑止と迅速な点検・除雪作業を支援する雪崩発生検知システムを開発した.このシステムの雪崩検知方法は, 雪崩危険斜面を有する線路の脇に検知ポール (小型振動センサ内蔵) を設置し, 雪崩発生時に雪がポールに当たることによって生じる振動をとらえて雪崩を検知するものである.この方法の特徴は, 検知原理が単純であり, その結果, 簡単かつ安価にシステムを構成できることである.本システムは, 雪崩の発生を検知する機能に加えて, 発生した雪崩の規模に応じた4段階のレベルの警報を出力する機能を有しているので, 列車の運転抑止に有用であるのみならず, 警報レベルを保線区等の監視局に伝送することによって, 現地の線路除雪作業や点検作業の必要性の有無およびそれらの作業規模等を早期に判断することができる.本システムを黒部峡谷の雪崩多発地に設置し, 一冬季間を通して稼動試験を行った結果, 発生した全ての雪崩を正常に検知でき, 実用性の高さが確認された.
著者
河島 克久 和泉 薫 卜部 厚志
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、水文気象学、水文地質学および雪氷学的観点から雪泥流の発生過程と始動メカニズムを解明することを自的として、雪泥流多発河川である南魚沼市の水無川を対象として現地調査・観測を行ったものである。その結果得られた主な研究成果は次のとおりである。1.地下構造の特徴と河床積雪の形成扇頂部において岩盤が急激に落ち込むという水無川扇状地の特徴的な地下構造が、扇央・扇端部における渇水時の地下水位面の低下と表面水流の完全伏没をもたらしている。この特徴的な地下構造が河床上に河川外とほぼ同量の積雪の堆積を可能としている。ただし、著しい暖冬少雪の場合には、河床積雪の形成が見られない。2.積雪期の降雨流出南魚沼地域では例年、厳冬期から融雪初期にかけて、河床積雪が存在する条件下で日本海低気圧の東進に伴う急激な気温上昇と短時間強雨が複数回ある。同地域の積雪は融雪等の影響で厳冬期でもざらめ化が進行しているため、低気圧によってもたらされた降雨は速やかに地中へ流出する。この降雨イベント前までに地下水位がある程度回復していれば、10〜20mm程度の短時間降雨によって雨水は扇央部において表面水を形成して流出する。3.雪泥流の始動メカニズム降雨によって形成された表面水は、積雪によって流下が妨げらるため、扇央部において積雪全体を数分〜数十分で飽和させる。飽和後は積雪表面上に水流が形成される。水飽和状態となった積雪はその強度が急激に低下するため、局所的な構造的弱听を起点として雪泥流が始動する。水無川では、雪泥流は河床積雪の形成開始地点(魚野川との合流点から約5km地点)から始動するものと考えられる。