- 著者
-
和田 耕治
- 出版者
- 国立保健医療科学院
- 雑誌
- 保健医療科学 (ISSN:13476459)
- 巻号頁・発行日
- vol.71, no.4, pp.305-313, 2022-10-31 (Released:2022-11-18)
- 参考文献数
- 17
新型コロナウイルスは,会話や咳の飛沫を介して感染が拡大する.そのため,感染拡大時に感染を抑えるために人々が接触する機会を減少するかが課題となった.本稿では,2020年から2022年の前半において,わが国において行われた感染拡大に対する公衆衛生対策として個人の感染予防策と社会全体として接触機会を減らす対策としての緊急事態宣言の実際と教訓をまとめることである.政府としては,対策全体の基本的な方針として基本的対処方針を示した.政府は,国民の共感が得られるようなメッセージを発出するとともに,状況の変化に対応した情報提供や呼びかけを行い,行動変容を進める情報提供が方針とされた.個人の感染対策としては, 3 つの密の回避やマスクの装着などを求めた.緊急事態宣言は,全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼす事態に発令され,外出自粛要請などが行われた.また,新型コロナウイルス発生後に緊急事態宣言の限界を補うため法律改正により,まん延防止等重点措置が新たに追加された.これらの社会全体に対する対策は,本来は早めに始めて,短期間で解除することが望ましい.しかし,市民や政治の納得感が得られるのはある程度病床が逼迫するといった問題が大きく認識されるようになってからということもあり,こうした措置が始められるタイミングは遅くなりがちであった.対策が遅れることで感染が拡大するということになり,それからの措置では感染がある程度落ち着く,または重症者がある程度減少して病床の逼迫が解除されるまでに数週間から数ヶ月単位となりえた.感染対策としての緊急事態宣言や接触機会の減少は,社会にも大きな影響を与えた.例えば,経済面では,GDPの減少,飲食宿泊業への影響が顕著であった.また婚姻数や出生数にも影響が及んだ.様々な政府による経済対策に公費が投入された.これらがどの程度効果的に機能したかについては経済側からの評価ならびに教訓のまとめが期待される.次のパンデミックや今後の新たな変異株の出現を見据え対策を継続して検討する必要がある.しかしながら,医療や公衆衛生だけで検討ができるわけではなく,多分野で,そして様々な関係者,特に意志決定者である政治やその実施をする政府の関与が不可欠である.