著者
村田 純一 武藤 正樹 池田 俊也
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.81-89, 2015-02-20 (Released:2015-03-30)
参考文献数
20
被引用文献数
1

2013年7月に厚生労働省より認知症の BPSD に対応する向精神薬使用ガイドラインが発出された.ガイドライン発出にあたり実際の処方データを用いて認知症患者の向精神薬の処方実態について Anatomical Therapeutic Chemical (ATC) 分類を用いて調査した.向精神薬の ATC 第 3 階層ごとでの患者数の割合は N05C 催眠薬と鎮静剤が 9,920名(19.7%) と最も多く使われていた.また,risperidone の処方割合は 5.6% と英国での調査と比較しても少ない.BPSD ガイドラインでは抗不安薬は原則使用すべきでないとされているが実際には etizolam が 6.2% に処方されており,少なからず使用されていた.また,同一月で向精神薬を 2 剤以上併用している患者は 8,852名(19.5%) であり,同一月での複数薬剤の併用状況の組合せ上位は risperidone,tiapride が 209名(2.4%) と最も高かった.抗精神病薬の一部が糖尿病患者への処方が禁忌とされているにもかかわらず,実際には 39名に処方がされていた.診療科数が 2つ以上になる場合に抗精神病薬の禁忌処方・慎重投与となる割合について有意の差 (p<0.01) をもって多くなり,受診する診療科が増えると禁忌処方や慎重投与となる割合が増加するということがわかった.この状況を予防するためにも認知症患者に対する服薬管理の機能として2014年の診療報酬改定で導入された主治医機能の役割が必要であることが示唆された.
著者
加藤 隆 池田 俊也 武藤 正樹
出版者
一般社団法人 日本医療・病院管理学会
雑誌
日本医療・病院管理学会誌 (ISSN:1882594X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.285-294, 2013 (Released:2013-12-25)
参考文献数
24
被引用文献数
1

本研究は薬剤師による疑義照会を行なわない場合に起こると想定される治療や入院期間に対する影響を推定し,その医療費を推計することで,薬剤師による疑義照会の医療の質への貢献度ならびに経済的影響を評価することを目的とした。 東京都内の1病院にて調査を行い,12週間の調査期間中に薬剤師が行った疑義照会148例を対象とした。疑義照会が行なわれなかったと仮定した場合の治療や入院期間の影響を推定する際にデルファイ法を用いることで評価の精度を高め,医療費の算定に出来高ベースの金額を用いて医療資源削減額を評価した。 その結果,入院期間への影響は入院日数の延長,再入院日数を合わせて43症例,190日であった。また,疑義照会による医療費の回避額は推定75万円∼190万円となった。医療費を用いて疑義照会による貢献度を定量化することができた結果,薬剤師は医療の質ならびに経済面に貢献していることが確認された。
著者
甲斐 健太郎 池田 俊也 武藤 正樹
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.75-86, 2013-02-20 (Released:2013-04-10)
参考文献数
70
被引用文献数
3 4

海外において,アセトアミノフェンは鎮痛剤の標準薬として広く活用されている.例えば,WHO はアセトアミノフェンをエッセンシャルドラッグとし,各国の様々なガイドラインも鎮痛の薬物療法の第一選択薬としている.この理由の一つとして,アセトアミノフェンの有効性と安全性が挙げられる.特に安全性について,アセトアミノフェンは同じ非オピオイド性鎮痛剤である非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)に対し,消化器系障害,腎障害,出血傾向,心血管障害等の副作用リスクが低いとされている.一方,本邦においては,現在 NSAIDs の使用が一般的であり,アセトアミノフェンの鎮痛目的利用は少ない状況にある.これは,これまでアセトアミノフェンの承認用量が諸外国に比し少なく,鎮痛効果を得づらかったことが主要な原因の一つと考えられる.しかしながら,2011 年 1 月にアセトアミノフェンの承認用量が海外同様の水準に拡大され,アセトアミノフェンによる鎮痛効果を得ることが以前より容易になった.今後は日本でもアセトアミノフェンの鎮痛目的利用が増える可能性がある.わが国で汎用されている NSAIDs においては,特に消化器系障害に対し,その予防のため,防御因子増強剤,H2ブロッカー,プロトンポンプインヒビター(PPI)等の消化性潰瘍用剤が併用されることも多い.一方,アセトアミノフェンはそのような副作用リスクが低いため,消化性潰瘍用剤も必要ない.アセトアミノフェンの鎮痛目的利用が拡大すれば,鎮痛における薬剤費の低減効果も期待できる. (薬剤疫学 2012; 17(2): 75-86)
著者
池田 俊也
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.11-17, 2018-05-31 (Released:2018-07-09)
参考文献数
12

ワクチンの導入にあたってはその有効性と安全性の評価が重要であることは言うまでもないが,定期接種化のように公的な財源を用いて広く導入を行う際にはその費用対効果についても合わせて考慮する必要がある.本稿では,まず諸外国における費用効果分析のワクチン政策への利用状況として,米国 ACIP と英国 JCVI の状況を紹介する.次に,わが国の厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会や厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会における取り組み状況について概説する.さらに,研究手法の標準化の必要性を述べるとともに,筆者らがこのほど作成した予防接種の費用対効果の評価に関する研究ガイドラインの概要を述べる.本ガイドラインはすでに中医協で利用されている費用対効果評価の分析ガイドラインを参考に,割引率の値など可能な範囲で統一を図りつつ,生産性損失や herd effect などワクチンに特有の課題を加味することにより策定した.本ガイドラインに準拠して統一的な手法により経済評価が実施することにより,各ワクチンの定期接種化の是非や優先順位,接種対象,接種方法などに関して,財政影響や社会的見地からの価値を踏まえたうえでの科学的議論を行うことが可能となる.
著者
伊藤 かおる 池田 俊也 武藤 正樹
出版者
The Health Care Science Institute
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.417-429, 2016

本研究では経口抗不整脈薬の先発医薬品とジェネリック医薬品を比較した臨床試験を網羅的に把握し,その内容のレビューと研究デザインをもとにエビデンスレベルについて評価した。文献は,Pubmedと医学中央雑誌を検索し,Vaughan Williamsの抗不整脈薬の分類表に表記されている薬剤を対象とした。また,ジェネリック医薬品に対する著者の記載内容から肯定的文献と否定的文献に分けて評価を行った。さらに収集した文献のエビデンスレベルを評価した。結果,20文献が今回の調査対象となった。内訳は肯定的文献が14文献,否定的文献が6文献だった。肯定的文献にはβブロッカーを含む循環器領域の治療薬を対象にしたエビデンスレベルⅠに評価される研究があるなど,臨床効果や安全性を評価した文献のエビデンスレベルが有意に高いことが明らかになった。否定的文献は,数症例を対象にした症例報告や記述研究による報告が多く,研究方法や患者の詳細な情報について記述がないものもあったことから,ジェネリック医薬品に対して否定的な文献の方が肯定的な文献よりもエビデンスレベルが低いと判断された。
著者
長谷川 フジ子 狭間 研至 池田 俊也
出版者
日本社会薬学会
雑誌
社会薬学 (ISSN:09110585)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.80-87, 2014-12-10 (Released:2015-09-04)
参考文献数
14
被引用文献数
3

A number of pharmaceutical colleges have adopted a training program for the vital signs in their 6 year-education curriculum. However, few hospitals or pharmacies carry out vital signs monitoring or physical assessment at present, and graduate pharmacists cannot utilize the techniques that they are skilled in fully. In this study, in order to clarify the situation for implementing vital sign monitoring by pharmacist and what is necessary for pharmacy education, we carried out a web survey for two months, from October 4th to December 3rd, 2012, targeting 1026 pharmacists who attended the vital signs training program hosted by The Japanese Association of Home Care Pharmacies. The Survey item were; (1) basic information of a respondent; (2) situation of homecare conducted by pharmacists; (3) seminar attendance status; (4) vital signs monitoring status after the seminar; (5) hope for future pharmacy education. From the result of the survey, it became clear that over 40% of pharmacists had a chance to perform vital sign monitoring, leading to proper use of medicines. In total, 183 responses to the questions concerning future pharmacy education were obtained from 135 pharmacists and were classified into 11 categories. A request for “a purpose and the significance” was the most common. In the education of pharmacy schools, it is thought that having lectures from on-site pharmacists with an abundance of experience in cases will be effective.
著者
D Husereau M Drummond S Petrou C Carswell D Moher D Greenberg F Augustovski Ah Briggs J Mauskopf E Loder[著] 白岩 健 福田 敬 五十嵐 中 池田 俊也[翻訳]
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.641-666, 2013-12

背景:医療技術の経済評価では,報告様式(reporting)に関する課題がある.経済評価では,研究結果の精査を可能にするために,重要な情報を伝えなければならない.しかし,公表される報告は増加しているにもかかわらず,既存の報告様式ガイドラインは広く用いられていないのが現状である.そのため,既存のガイドラインを統合・更新し,使いやすい方法で,その活用を促進する必要がある.著者や編集者,査読者によるガイドラインの使用を促進し,報告様式を改善するための一つの手法がチェックリストである.目的:本タスクフォースの目的は,医療経済評価の報告様式を最適化するための推奨(recommendation)を提供することである.The Consolidated Health Economic Evaluation Reporting Standards (CHEERS)声明は既存の医療経済評価ガイドラインを現時点における一つの有用な報告様式ガイダンスに統合・更新する試みである.The CHEERS Elaboration and Explanation Report of the ISPOR Health Economic Evaluation Publication Guidelines Good Reporting Practicesタスクフォース(以下CHEERSタスクフォース)はCHEERS声明の使用を促進するため,それぞれの推奨に対する具体例や解説を提供する.CHEERS声明の主な対象は,経済評価を報告する研究者,出版のための評価を行う編集者や査読者である.方法:新たな報告様式ガイダンスの必要性は医学編集者を対象とした調査によって確認された.過去に出版された経済評価の報告様式に関するチェックリストやガイダンスは,システマティックレビューやタスクフォースメンバーの調査によって同定した.これらの作業から,候補となる項目のリストを作成した.アカデミア,臨床家,産業界,政府,編集者の代表からなるデルファイ変法パネルを2ラウンド行うことによって,報告様式に不可欠な項目の最小セットを作成した.結果:候補となる44項目の中から24項目とそれにともなう推奨が作成された.そのうち一部は単一の研究に基づく経済評価を,一部はモデルに基づく経済評価を対象としている.最終的に推奨は,6個の主要なカテゴリーに分割された.1)タイトル(title)と要約(abstract),2)序論(introduction),3)方法(methods),4)結果(results),5)考察(discussion),6)その他(others)である.推奨はCHEERS声明における24項目からなるチェックリストに含まれている.タスクフォースの報告ではそれぞれの推奨に関する解説と具体例を作成した.ISPOR CHEERS声明はValue in Health誌あるいはCHEERSタスクフォースのウェブページ(http://www.ispor.org/TaskForces/EconomicPubGuidelines.asp)から利用可能である.結論:CHEERS声明とタスクフォースによる報告様式に関するガイダンスは,一貫性があり透明性の高い報告様式と,究極的にはよりよい医療上の決定につながるだろう.本ガイドラインの普及や理解を促進するために,医療経済あるいは医学雑誌10誌でCHEERS声明を同時に出版している.そのほかの雑誌や団体にもCHEERS声明を広く伝えることを勧める.著者らのチームはチェックリストをレビューし,5年以内に更新することを計画している.
著者
池田 俊也 山田 ゆかり 池上 直己
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.27-38, 2000-12-15 (Released:2012-11-27)
参考文献数
31
被引用文献数
3 2

抗痴呆薬ドネペジルの経済的価値を評緬するため,マルコフモデルを用いて,軽度・中等度アルツハイマー型痴呆患者に対するドネペジル治療の費用-効果分析を実施した。分析の立場は支払い者の立場とし,費用は診療報酬点数および介護保険における在宅の給付限度額を参考に推計した。薬剤の有効性データは国内臨床第III相試験の成績を基にしたが,わが国における自然予後のデータは入手できなかったため米国の疫学データを用いた。薬剤の有効性,自然予後ならびに各病態における平均QOLスコアを組み合わせて質調整生存年(QALY)を算出し, 効果指標とした。2年間を時間地平とした分析では,軽度・中等度アルッハイマー型痴呆患者に対するドネペジルの投与により,既存治療に比べて患者の健康結果が向上するとともに,医療・介護費用が節減されることが明らかとなった。但し,ドネペジルの長期的効果やわが国におけるアルッハイマー型痴呆患者の予後に関するデータが不充分であることから,今後,これらのデータが蓄積された際には本分析結果の再評価を行うことが望ましいと考えられる。
著者
荒西 利彦 池田 俊也
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.91-99, 2015-02-20 (Released:2015-03-30)
参考文献数
18
被引用文献数
1

医療経済評価の結果はパラメータの不確実性の影響を大きく受けることから,感度分析による医療経済評価の頑健性の分析が重要となる.複数のパラメータの不確実性を同時に評価するため,それらのパラメータが従う同時分布に基づき評価を行うことを確率的感度分析 (PSA; Probabilistic Sensitivity Analysis) と呼び,今日では各国のガイドラインで使用が推奨されている.本稿では,PSA の手法としてモンテカルロシミュレーションとブートストラップ法を紹介し,また PSA の結果の解釈について説明を行い,各国ガイドラインにおける PSA に関する記述をまとめた.その後 PSA の本邦での利用状況を,邦文にて論文が出版された研究のレビューにより示した.各国ガイドラインでの PSA の扱いは,2008年までに出版されたガイドラインにおいては感度分析を行うことは推奨されていたものの,方法については任意であった.2011年以降に出版されたフランス,米国AMCP,イギリスのガイドラインでは,いずれも PSA を推奨している.日本においては 2013年に発行された医療経済評価研究における分析手法に関するガイドラインで PSA について「可能であれば確率的感度分析もあわせておこなうこと」,とされている.邦文での医療経済評価研究のレビューを行った結果,質調整生存年に基づく医療経済評価を行った 49件のうちで PSA を行った研究は 6件(12.2%) にとどまることから,PSA が国内で広く使われているとは言いがたい.一方で PSA でない感度分析を行った研究は 35件(71.4%) あることから,感度分析自体は多くの研究で用いられている.よって PSA が感度分析のよりよい方法論として受け入れられるようになれば,利用は促進されると考えら れる.このためには PSA を行うためのガイドラインなどの作成が望ましい.
著者
後藤 浩志 武藤 正樹 池田 俊也 百瀬 泰行
出版者
一般社団法人 日本老年薬学会
雑誌
日本老年薬学会雑誌 (ISSN:24334065)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.7-15, 2022-06-30 (Released:2022-07-22)
参考文献数
16

Objective: This study aimed to clarify the actual prescription status of patients covered through the “Screening Tool for Older Person’s Appropriate Prescriptions for Japanese” (STOPP-J).Methods: Patients aged ≥ 75 years who received oral medications for chronic diseases were classified into two groups: multidrug and non-multidrug groups. The number of drugs according to the drug class and the number of STOPP-J drugs prescribed were examined.Results: This study included 8,192 patients. The average number of medications was 4.1, and its percentage in the multidrug group was 26.4%. The multidrug group presented a higher number of physicians and percentage of STOPP-J prescriptions than the other group. The highest percentage of prescribed multidrug use included antithrombotics (82.5%), digitalis (76.2%), and diuretics (73.2%).Conclusion: The multidrug group presented a higher percentage of STOPP-J prescriptions than the non-multidrug group.
著者
森次 幸男 和田 耕治 池田 俊也
出版者
一般社団法人 日本医薬品情報学会
雑誌
医薬品情報学 (ISSN:13451464)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.166-177, 2022-02-28 (Released:2022-05-27)
参考文献数
14

Objective: The purpose of this study was to assess the opinions of healthcare professional regarding the contributions of the Medical Affairs department. Furthermore, we aimed to identify factors influencing and reasons for the contributions in the new coronavirus disease 2019 (COVID-19) pandemic situation.Design/Methods: A web-based survey was conducted among healthcare professionals (Key Opinion Leader/Key Thought Leader, KOL/KTL) who had multiple contacts with the Medical Affairs department, Japan.Results: The responses of 141 KOL/KTLs in Japan were collected; 77.3% of the respondents indicated that the contributions of the Medical Affairs department exceeded their expectations (achieved the expected level of contribution). The most common responses were “the identification of unmet medical needs” and “the dissemination of medical and scientific information, providing advanced medical and scientific information;” other responses included “promoting sales of the company's drugs.” The requests from KOL/KTLs regarding quality were “knowledge about biological and clinical statistics” and “proposal and quick response ability from the perspective of medical staff and patients,” but these responses were partially different between physicians and pharmacists. COVID-19 has resulted in substantial changes, for example, “face-to-face” interactions have significantly decreased from 91.5 to 50.4% and “Online” interactions have significantly increased from 20.6 to 70.9%. However, the effects of the declaration of emergency state could not be identified. The KOL/KTLs requested to make the meeting times more appropriate, conduct in-depth two-way discussions, provide latest information, and discuss about professional manners and behaviors.Conclusion: In summary, regardless of the changes in the types of activities caused by COVID-19, the Medical Affairs department has made substantial contributions to healthcare professionals, who highly appreciated them. Furthermore, depending on responses of individuals whose expectations could not be met, areas of improvements have been suggested.
著者
楠山 敏行 池田 俊也 中川 秀樹 沢田 亜弓 木村 晋太
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.333-338, 2017 (Released:2017-10-20)
参考文献数
20
被引用文献数
1

音声障害を訴える歌唱者のなかで急性上気道炎症状を伴わない慢性上咽頭炎(以下上咽頭炎)が原因と思われる症例に対して1%塩化亜鉛による上咽頭処置(Bスポット療法)を行い,その治療効果を検討した.過去1年7ヵ月間にBスポット療法前後に内視鏡検査,音声検査,Voice Handicap Index-10(VHI-10)およびSinging Voice Handicap Index-10(SVHI-10)による評価が可能であった歌唱者53例を対象とした.内視鏡所見,VHI-10,SVHI-10,および最長発声持続時間における有意な改善を認めた.SVHI-10減少幅が5以上の症例は41例で78%の改善率であった.以上より上咽頭炎は音声障害の原因疾患の一つと考えられ,Bスポット療法は上咽頭炎による音声障害に対し有効であることが示唆された.また,その病態は自律神経系に関連する喉頭潤滑障害と上咽頭の共鳴障害であると考察した.
著者
池田 俊也
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル = Japanese journal of neurosurgery (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.75-80, 2003-02-20

米国の医療保険制度は,高齢者・一部の障害者を対象としたメディケア,低所得者を対象としたメディケイド,その他の国民を対象とした民間保険に分けられる.民間保険には,出来高払いを基本とした従来型保険と,保険料を安く抑えたマネジドケア型保険とに分けられる.本稿では,わが国でも最近関心が高まっている,メディケアに導入された診断群別包括支払い方式 (DRG/PPS) および民間保険のなかで主流となっているマネジドケアについて概説した.わが国における医療保険制度改革をよりよいものとするためには,米国をはじめとする諸外国の医療保険制度の動向に関心を払い,その経験から学ぶことが重要と考えられる.
著者
伊藤 かおる 池田 俊也
出版者
国際医療福祉大学学会
雑誌
国際医療福祉大学学会誌 = Journal of the International University of Health and Welfare (ISSN:21863652)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.101-109, 2016-03-31

日米欧の主要な診療ガイドラインにおける推奨降圧薬とその決定過程において,医療経済的視点がどの程度反映されているかを検討した.その結果,欧州高血圧学会/ 欧州心臓病学会(ESH/ESC)2013 はすべての降圧薬が対象にされており,患者の臨床的・社会的背景に応じて個別に薬物治療を行うよう記載されていた.日本高血圧学会(JSH)2014,米国合同委員会(JNC8),英国保健医療研究所/ 英国高血圧学会(NICE/BHS)2011 は4 種類が推奨されていた.推奨降圧薬の決定根拠として,JNC8,ESH/ESC2013 は医療経済学的視点による記述はほとんどなく,臨床的エビデンスを基に推奨降圧薬の決定をしていた.JSH2014 は医療経済評価を行った文献は紹介されていたが,推奨薬の決定根拠には反映されていなかった.NICE/BHS2011 では評価指標として費用効果分析を実施し,その結果から具体的で明確な薬物治療の方針を提示していた.高血圧治療の標準化と効率化を図るために,わが国においても医療経済評価の結果を反映した診療ガイドラインの必要性があると考えられた.
著者
松田 晋哉 藤森 研司 伏見 清秀 石川 ベンジャミン 光一 池田 俊也
出版者
日本ヘルスサポート学会
雑誌
日本ヘルスサポート学会年報 (ISSN:21882924)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.1-10, 2018 (Released:2018-02-22)
参考文献数
10
被引用文献数
1

National Database( NDB)を用いて算出した標準化レセプト比SCR の在宅医療分をデータとして、在宅医療の推進に関連する要因の検討を行った。その結果、在宅医療(居宅)に関連する要因として、往診(.313)、訪問看護指示(.218)、緊急往診(.219)、在宅療養中患者_ 緊急入院受入(.049)、療養病棟入院基本料(-.078)、訪問薬剤指導の実施(.004)が在宅医療(居宅)のSCR に有意に関連していることが示された。この結果は、在宅医療(居宅)を進めるためには、訪問看護や訪問薬剤指導といった在宅のチーム医療提供体制に加えて、緊急往診や在宅療養中患者_ 緊急入院受入といった後方病院の役割が重要であることを示している。
著者
朴 珍相 池田 俊也 南 商尭 武藤 正樹
出版者
一般社団法人 日本医療・病院管理学会
雑誌
日本医療・病院管理学会誌 (ISSN:1882594X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.181-188, 2016

<p>我が国では2014年度診療報酬改定で一入院包括支払い方式(PPS)である短期滞在手術等基本料3が水晶体再建術等に導入され,入退院支援の強化や病棟機能再編の必要性が再認識されている。また,韓国においても同疾患に対して同様のPPSが施行されている。しかし,PPSについて臨床現場でどのように意識されているかに関する調査は両国ともほとんどない。そこで,水晶体再建術の治療・ケアに関わる日本78名,韓国84名の医療者に対し,現行PPSにおける診療の効率性とケアに関する意識調査を実施した。<br>その結果,両国とも現行のPPSに対し,医療の質の低下を懸念する意識を持っていることが明らかになった。また,日本の医療者はPhysician Feeについて出来高払いで評価を求める意識が高かった。PPSにおける医療経済的な側面と医療技術的側面の両方を評価する診療報酬体系の確立及び客観的な質の評価システム構築は,両国が同様に抱えている課題であることが示唆された。</p>
著者
西村 周三 土屋 有紀 久繁 哲徳 池上 直己 池田 俊也
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.109-123, 1998-05-20 (Released:2012-11-27)
参考文献数
8
被引用文献数
64 56

EuroQolは,包括的一元HRQOL尺度の健康指標である。翻訳プロトコルに従って日本語版を開発し, このほど公式版として認定を受けた。EuroQol質問票には, 完全版と臨床版の2種類がある。臨床版は, 回答者自身の健康状態を2つの方法で調査するものであり, まず「5項目法」として5項目により健康状態を特定したうえで, 次に「視覚評価法」として温度計に似た線分を使って健康状態の評価を行う。さらに完全版には, 臨床版の内容に加えて, 5項目法で記述された一連の仮想的な健康状態について, 視覚評価法で評価を求める部分がある。EuroQolは,薬剤経済学研究や一般市民の健康調査といった幅広い分野で国際的に利用されている。われわれ日本語版EuroQol開発委員会は, EuroQol Groupの定めた厳格なプロトコルに従って日本語版の開発を行った。今回の公式版の完成を機に, 薬剤の臨床試験やヘルスサービス研究等において, わが国においても今後幅広く利用されていくものと考えられる。