著者
拝野 貴之 相澤 好治
出版者
日本医学教育学会
雑誌
医学教育 (ISSN:03869644)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.297-300, 2005-10-25 (Released:2011-02-07)

1) 予防医学の領域は, 極めて広いので後期研修として大学, 地域保健行政・厚生労働行政, 産業医・健康診断医を中心に述べる.2) 大学の衛生学・公衆衛生学教室においては, その教室の得意とする分野 (地域保健, 産業保健, 疫学専門, 中毒学など) を調べたほうよい.3) 厚生労働省医系技官の応募資格は原則として大学卒業後5年未満.地域保健ではプライマリな知識が要求される.4) 産業衛生では, フルタイムで働く専属産業医は推定2千人である.嘱託産業医として, さまざまな事業場を回るスタイルも新しい産業医の生き方である.5) 臨床医学とは異なり, 技術的事項よりも総合的な人間性が求められる本分野では, 自己啓発と強い動機付けが必要と考えられる.
著者
佐野 友美 吉川 徹 中嶋 義文 木戸 道子 小川 真規 槇本 宏子 松本 吉郎 相澤 好治
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.115-126, 2020-05-20 (Released:2020-05-25)
参考文献数
26
被引用文献数
2

目的:医療機関における産業保健活動について,現場での事例をもとに産業保健活動の傾向や実施主体別の分類を試み,現場レベルでの今後の産業保健活動を進めていくための方向性について検討した.対象と方法:日本医師会産業保健委員会が各医療機関を対象に実施した「医療機関における産業保健活動に関するアンケート調査」調査結果を活用した.自由記載欄に記載された現在取り組んでいる産業保健活動の記述内容を対象とし,複数名の専門家により各施設の産業保健活動の分類を試みた.特に,1.個別対策事例(具体的な取り組み事例・産業保健活動の主体)2.産業保健活動の取り組み方を反映した分類の2点に基づき分類を行い,各特徴について検討した.結果:有効回答数1,920件のうち,581件の自由記載があり,1,044件の個別の産業保健活動が整理された.1.個別対策事例のうち,具体的な取り組み事例については,個別対策毎の分類では「B労務管理・過重労働対策・働き方改革(35.7%)」,「Cメンタルヘルス対策関連(21.0%)」,「A労働安全衛生管理体制強化・見直し(19.3%)」等が上位となった.また,施設毎に実施した取り組みに着目した場合,「B労務管理・過重労働対策・働き方改革関連」と「Cメンタルヘルス対策関連等」を併せて実施している施設が施設全体の13.2%に認められた.産業保健活動の主体による分類では,「a:産業保健専門職・安全衛生管理担当者(71.7%)」が最も多く,「b:現場全体(18.4%)」,「c:外部委託(2.4%)の順となった.2.産業保健活動の取り組み方を反映した分類では①包括的管理(42.0%)が最も多く,②問題別管理(23.8%),③事例管理(16.5%)の順となった.考察と結論:医療機関における産業保健活動として,過重労働対策を含む労務管理・働き方改革,メンタルヘルス対策への取り組みが多く実践されていた.特に,メンタルヘルスにおける一次予防対策と過重労働における一次予防対策を併せて実施している点,外部の産業保健機関,院内の各種委員会,産業保健専門職とが連携し産業保健活動が進められている点が認められた.厳しい労働環境にある医療機関においても,当面の課題に対処しつつ,医療従事者の健康と安全に関する課題を包括的に解決できる具体的な実践が進められつつある.また,各院内委員会や外部専門家との連携によりチームとして行う産業保健活動の進展が,益々期待される.
著者
川島 正敏 和田 耕治 久保 公平 大角 彰 吉川 徹 相澤 好治
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.155-161, 2009 (Released:2009-08-10)
参考文献数
8
被引用文献数
2 2

N95マスク(DS2マスク)の選択にあたってはフィットテストが必要である.しかし,40歳以下の女性についてはフィットする割合が低いことが指摘されており,マスクの構造上の改善の余地がある.多くのN95マスクは,ゴム紐のみで頭に固定されている.本研究では,口元の調節紐および立体接顔クッションを付属したN95マスクを40歳以下の女性が装着し,フィットする割合が向上するかを検討した.   20名を対象に,調節紐および接顔クッションを付属したN95マスクと,コントロールとしてゴム紐のみで装着するN95マスクを用いた.装着を行ったあと,マスクフィッティングテスターを用いてフィットテストを行い,漏れ率を測定した.   調節紐および接顔クッションを付属したN95マスクでは,普通呼吸において漏れ率が5.0%未満であった.しかし,ゴム紐のみで装着するN95マスクでは5人の漏れ率が5.0%以上であった.またフィットテストの過程で漏れ率が5.0%以上となったのは,調節紐および接顔クッションを付属したN95マスクでは3人であったが,ゴム紐のみで装着するN95マスクでは,11人であった.   本研究より,調節紐および接顔クッションを付属することにより,N95マスクのフィットする割合を向上できる可能性があると考えられる.
著者
森本 泰夫 喜多村 紘子 空閑 玄明 井手 玲子 明星 敏彦 東 敏昭 佐藤 敏彦 相澤 好治
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.1-10, 2009 (Released:2009-02-05)
参考文献数
52
被引用文献数
2 3

トナー粒子における新たな生体影響調査と労働衛生管理について:森本泰夫ほか.産業医科大学産業生態科学研究所―トナーの加熱印字(プリントアウト)を行う際にナノ粒子のような微細粒子やvolatile organic compounds(VOC)の発生を伴うことが社会問題になったため,トナー自体の影響だけでなく,これらの付加的化学物質の影響もふまえた生体影響調査が必要となった.しかし,どのようなナノ粒子が発生したのか不明であること,及びその測定法も確立されたものがないことより,対応に苦慮した.このような状況を鑑み,トナーの構成成分より考えられる浮遊化学物質をリストアップし,疫学的及び動物試験等の知見を収集し,これを元に労働衛生管理の対応を検討した事例を紹介する.トナーの主成分のカーボンブラック,及び表面付着物質のナノ粒子である二酸化チタンやアモルファスシリカ,VOCを想定される対象化学物質として,生体影響の文献調査を行った.これらの微細化学物質やVOCのデータを基に,有効な曝露指標の検索,環境曝露や測定法についてまとめた.その結果から,微細粒子またはVOC曝露のバイオマーカーとして高感度CRP,尿中8ヒドロキシデオキシグアノシン,心拍間変動係数が有用であること,加熱印字の際のVOC濃度は低かったこと,ナノ粒子などの微細粒子が発生したこと,微細粒子の測定法として,scanning mobility particle sizer(SMPS)による個数基準計測が多く報告されていることが認められた.これらの結果をふまえ,トナーの印字により発生する付加的化学物質に対する労働衛生管理を展開することが検討されている. (産衛誌2009; 51: 1-10)
著者
佐野 友美 吉川 徹 中嶋 義文 木戸 道子 小川 真規 槇本 宏子 松本 吉郎 相澤 好治
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.2019-010-B, (Released:2019-10-26)
被引用文献数
2

目的:医療機関における産業保健活動について,現場での事例をもとに産業保健活動の傾向や実施主体別の分類を試み,現場レベルでの今後の産業保健活動を進めていくための方向性について検討した.対象と方法:日本医師会産業保健委員会が各医療機関を対象に実施した「医療機関における産業保健活動に関するアンケート調査」調査結果を活用した.自由記載欄に記載された現在取り組んでいる産業保健活動の記述内容を対象とし,複数名の専門家により各施設の産業保健活動の分類を試みた.特に,1.個別対策事例(具体的な取り組み事例・産業保健活動の主体)2.産業保健活動の取り組み方を反映した分類の2点に基づき分類を行い,各特徴について検討した.結果:有効回答数1,920件のうち,581件の自由記載があり,1,044件の個別の産業保健活動が整理された.1.個別対策事例のうち,具体的な取り組み事例については,個別対策毎の分類では「B労務管理・過重労働対策・働き方改革(35.7%)」,「Cメンタルヘルス対策関連(21.0%)」,「A 労働安全衛生管理体制強化・見直し(19.3%)」等が上位となった.また,施設毎に実施した取り組みに着目した場合,「B労務管理・過重労働対策・働き方改革関連」と「Cメンタルヘルス対策関連等」を併せて実施している施設が施設全体の13.2%に認められた.産業保健活動の主体による分類では,「a:産業保健専門職・安全衛生管理担当者(71.7%)」が最も多く,「b:現場全体(18.4%)」,「c:外部委託(2.4%)の順となった.2.産業保健活動の取り組み方を反映した分類では①包括的管理(42.0%)が最も多く,②問題別管理(23.8%),③事例管理(16.5%)の順となった.考察と結論:医療機関における産業保健活動として,過重労働対策を含む労務管理・働き方改革,メンタルヘルス対策への取り組みが多く実践されていた.特に,メンタルヘルスにおける一次予防対策と過重労働における一次予防対策を併せて実施している点,外部の産業保健機関,院内の各種委員会,産業保健専門職とが連携し産業保健活動が進められている点が認められた.厳しい労働環境にある医療機関においても,当面の課題に対処しつつ,医療従事者の健康と安全に関する課題を包括的に解決できる具体的な実践が進められつつある.また,各院内委員会や外部専門家との連携によりチームとして行う産業保健活動の進展が,益々期待される.
著者
関 明彦 瀧川 智子 岸 玲子 坂部 貢 鳥居 新平 田中 正敏 吉村 健清 森本 兼曩 加藤 貴彦 吉良 尚平 相澤 好治
出版者
日本衛生学会
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.939-948, 2007-09-15 (Released:2008-05-16)
参考文献数
130
被引用文献数
14 22

‘Sick house syndrome’ (SHS) is a health issue that closely resembles sick building syndrome (SBS) that had occurred in European countries. The aim of this review is to clarify the characteristics of SHS by reviewing previous reports rigorously. We propose the definition of SHS as “health impairments caused by indoor air pollution, regardless of the place, causative substance, or pathogenesis”. Cases of SBS are reported to occur predominantly in offices and sometimes schools, whereas those of SHS are usually found in general dwellings. In many cases, SHS is caused by biologically and/or chemically polluted indoor air. Physical factors might affect the impairments of SHS in some cases. It is considered that symptoms of SHS develop through toxic, allergic and/or some unknown mechanisms. Psychological mechanisms might also affect the development of SHS. It is still unclear whether SBS and SHS are very close or identical clinical entities, mostly because a general agreement on a diagnostic standard for SHS has not been established. Previous research gradually clarified the etiology of SHS. Further advances in research, diagnosis, and treatment of SHS are warranted with the following measures. Firstly, a clinical diagnostic standard including both subjective and objective findings must be established. Secondly, a standard procedure for assessing indoor air contamination should be established. Lastly, as previous research indicated multiple causative factors for SHS, an interdisciplinary approach is needed to obtain the grand picture of the syndrome.
著者
増山 伸夫 高田 勗 一杉 正治 相澤 好治 高橋 英尚 前田 厚志 橋本 起一郎 中村 賢
出版者
北里大学
雑誌
北里医学 (ISSN:03855449)
巻号頁・発行日
vol.13, no.6, pp.406-416, 1983-12-31

交替制勤務の身体影響に関する報告は,現在までに多数なされてきたが,長期にわたって経過を追ったものはほとんどない。そこで,本研究では,長期間の交替制勤務の影響を観察するために,6年間隔で,交替制と常日勤の同一作業者に実施された健康診断の結果を検討した。喫煙率は,6年の経過中,常日勤務作業者群,交替制勤務作業者群の両群とも低下傾向を示したが,初年度,6年目とも,交替制勤務作業者群の喫煙率が高かった。飲酒状況では,両群間に有意の差はなかったが,6年の経過中,両群とも飲酒率の増加傾向を示した。自覚症状に関しては,動悸,息切れなどの循環器症状,食欲不振,嘔気,胸やけ,胃のもたれなどの胃腸症状,頭痛,頭重感,めまい,耳鳴り,視力低下,肩こりなどの神経系症状,倦怠感,易疲労感などの全身症状を訴える者が,初年度は交替制勤務作業者群に多い傾向があったが,6年の経過中に,交替制勤務作業者群に有訴率の低下があり,両群間に明らかな差はなくなった。血圧,尿検査,末梢血液検査,肝機能検査の臨床検査では,両群間に明らかな差はなく,経年変化も明らかではなかった。
著者
和田 耕治 森山 美緒 奈良井 理恵 田原 裕之 鹿熊 律子 佐藤 敏彦 相澤 好治
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.103-109, 2007-05
被引用文献数
5

慢性疾患は労働者の仕事の生産性に影響を与える.本調査は関東地方にある事業場の労働者を対象にして慢性疾患による仕事の生産性への影響の評価として,慢性疾患の有訴率,慢性疾患の影響として労働障害指数,欠勤による損失労働時間を測定することを目的とした.関東地方にある4つの製造業の事業場における労働者544名を対象に2006年4月から6月の定期健康診断の際にStanford Presenteeism Scaleの日本語版を配布した. 433名(回答率79.6%)から有効な回答を得た.48.9 %の労働者が,なんらかの慢性疾患が仕事の生産性に影響を与えたと回答した.最も仕事の生産性に影響を与えていた慢性疾患のうち,有訴率が高かったのは,「アレルギー」(13.3%),「腰痛・首の不調」(9.7%)であった.労働障害指数が高かった慢性疾患は,「うつ病・不安又は情緒不安定」と「偏頭痛・慢性頭痛」であった.最も影響を与えていた慢性疾患で欠勤により損失した労働時間の総計は,対象労働者の総労働時間の1.4%であった.欠勤による損失労働時間の高かった疾患は「アレルギー」,「腰痛・首の不調」,「うつ病・不安又は情緒不安定」であった.こうした結果をもとに,生産性に影響を与える疾患に対しての対策を講じることが可能となる.